広島のむかし話/広島県小学校図書館協議会編/日本標準/1974年
”がんぎ”は、海辺に石が段になっているところ。
おきくというむすめが、海でなくなった大二郎という若い漁師をまちつづける話。
荒れた海で行方不明になった大二郎を心配して、おきくは、毎日のように岩の上に立って海を見ていました。しばらくして大二郎の死体が浜辺に流れ着きました。泣き叫ぶおきくをみて、浜の人々はおきくをなぐさめました。
やがて丘の上に大二郎のお墓がぽつんとたてられました。おきくは毎日お墓に線香をたててやり、海辺の岩の上に立って、ぼんやりと海を眺めていました。
ある日のこと、おきくの姿が村から見えなくなりました。浜の人々はあたりをさがしまわりましたが、おきくの姿はみあたりませんでした。それから七日ほどして、おきくの死体が海辺に流れてきました。おきくは、岩の上から身を投げて、大二郎のあとをおったのです。
それから、夜、風のふく日には「大二郎さーん。大二郎さーん」とよぶおきくの声が岩の上からきこえるといううわさがしきりにたちました。また、風の強い夜、がんぎをのぼるぬれた草履の足音がバタバタとするのです。また船も、どうしたことか、前にすすまぬようになるそうです。それからこの浜辺には、若い男の死体が流れつくようになりました。
それから、この岩のことを、だれいうともなく、「おきくがんぎ」というようになりました。
ふたりが、どうしてひかれあったかはでてきません。めずらしい悲恋物語です。