二平方メートルの世界で/前田海音・文 はたこうしろう・絵/小学館/2021年
札幌に暮らす小学3年生の海音ちゃん。脳神経の病気のために、3歳の時から年に何回か入院する。長期入院になることはほとんどないので、同室のかんじゃさんと、はなしたりすることも少ない。
入院中は、縦約2m、幅約1mのベッドで、寝る、食べる、遊ぶ、勉強など、だいたいのことは、この空間ですごす。
原因不明の病気、よくなることを期待しながら、先生がたの顔を見たら、だいたい検査結果が予想つくようになった。
発作があるかぎり修学旅行にもいけないし、自分がみんなといる場所とはちがうところにいるのだと思わされて、あきらめるってこういうことなのかと、静かな気持ちになる。
「もういや!」「一日でいいから、薬を飲まなくてもいい日をください!」。たくさんの言葉をわたしは、飲み込む。ほんとうの気持ちを言ってしまったら、家族が傷つくし、もうがんばれなくなる気がして、口をとざす。
検査を待っていた日、ふと頭の向きを逆にして寝てみようと思いつき、体の向きを変えたとき、ベッドにまたがるオーバーテーブルのうらが見えて、そこにたくさん書かれた寄せ書きが、目にとびこんできました。(看護師さんたちは、オーバーテーブル裏側のメッセージに気がついていて、あとから入院する子たちのために、少しでも力になるようメッセージを残しておいたのでしょう。)
たくさんの見知らぬ同士が、同じベッドのテーブルをつかったメッセージを書いているのを見て、病気のことでは泣かないって決めてたけれど、なみだが出た。病気がある子どもが、将来にゆめをもつことや、自分にできることを見つけることは、とてもむずかしい。でも・・。
作者の前田海音さんが、北九州市が主催する「第11回子どもノンフィクション文学賞」で大賞を受賞した小学校三年生のときの作文がもとになっています。これを読んだ編集部が本にしたいとお願いし、実現したとありました。
「病気の子どものかすかな声を、文字にできるぐらいには、わたしは元気で自由だ」「明日のことがだれにもわからないのは、病気があってもなくても同じだと思う。生きていることのすばらしさは気づきにくいということも、わたしは知っている」
「わたしらしく生きていく。オーバーテーブルにではなく、心に言葉をきざみこむ。それがだれかに 届くかもしれないから」。どこまでも前向きにとらえようとする海音さんの思いが伝わってきて、感動しました。これほど感動したのは、ひさしぶりでした。
明日がどうなるかわからない難病の大変さを思えば、ふだんの小さな悩みなど比較になりません。
こんな素敵な絵本を出版できるのは、編集者冥利でしょう。