大人と子どものための世界のむかし話20/カナダのむかし話/高村博正ほか編訳/偕成社/1991年
北アメリカの昔話は、先住民の話と移住者の話がまじりあっているようですが、これはイヌイットのむかし話。
寒い夜、死にかけていた女の人が、寒い夜空の氷の上に、ひとりすてておかれ、オオカミにのみこまれてしまいました。女の人は、しばらくオオカミのからだのなかにいましたが、やがてふんになって、またさむい外にほうりだされました。
そのふんがキツネに食べられ、しばらくすると、またふんになって外へだされました。そこへクマが腰をおろし、身づくろいするうちにクマのからだの中へ。クマのふんとなって氷の上にだされると、アザラシにのみこまれ、セイウチのおなかの中に入って、セイウチ夫婦の子どもになりました。
月日がたって、女の人はトナカイに食べられ、トナカイの子どもへ。トナカイがイヌイットの弓矢でころされ、食用の肉にされました。イヌイットが、トナカイの肉を食べると、その肉を食べた母親が身重になり、赤ん坊を生みました。赤ん坊になった女は、いままでどこへいってたか、どんな世界を見てきたか、みんなに身の上話を聞いてほしくてたまりませんでした。ところが、ひらいた口からは、「オギャー」という声しか出てきません。しかたがないので、しゃべれるようになるまでまって、こうして話ができるようになりましたとさ。