愛蔵版おはなしのろうそく11/東京子ども図書館/2020年
アナンシにたのまれ、クワとナタをもってヤムいもをほりにいったトラどん。
トラどんは、ほってほって、ほりつづけましたが、深く掘るほどヤムは地面深くもぐりこんでいきました。夕方の四時になって、仕事をやめる時間になっても、ただのひとつもほれていませんでした。トラどんは、腹がたって 腹がたって、とうとう我慢できなくなり、いきなりナタで顔を出しているヤムを、かたっぱしからぶった切りました。
畑に背を向けてうちへ帰りかけると、うしろからそうぞうしい音が追いかけてくるのです。ぶったきりにしたヤムいもが、”ティッキ・ピッキ・ブン・ブン ティッキ・ピッキ・ブン・ブン、ブッフッ!”という音を出し、一本足のヤム、二本足のヤム、三本足のヤム、四本足のヤムがせいぞろいして、おいかけてきました。
こわくなって逃げ出したトラどんは、イヌの家にとびこんで、かくしてくれるよう叫ぶと、イヌは、「ああ、いいとも、トラどん、わしのうしろにかくれてろ。そしてひとこともしゃべるんじゃないぞ」といいました。ところが、ヤムたちが、”ティッキ・ピッキ・ブン・ブン ティッキ・ピッキ・ブン・ブン、ブッフッ!”とやってくると、イヌがしらんといっても、こわくなったトラどんは、「いわんでくれよ、イヌの兄貴、ヤムの奴らには、おれのことをいわんでくれ!」と叫んでしまいます。イヌはすっかり腹をたて、走り去っていきました。
また逃げ出したトラは、アヒルねえさんにかくしてくれるようおねがいします。アヒルねえさんは、「ああ、いいとも、トラどん。わたしのうしろにまわってなさい。でも、口をきくんじゃないよ。」といいました。ところが、ヤムたちが、”ティッキ・ピッキ・ブン・ブン ティッキ・ピッキ・ブン・ブン、ブッフッ!”とやってくると、アヒルねえさんがしらんといっても、こわくなったトラどんは、「いわんでくれ、アヒルねえさん、ヤムの奴らには、おれのことをいわんでくれ」と叫んでしまいます。アヒルねえさんはすっかり腹をたて、ヤムの前にトラをのこして、いってしまいました。
またまた逃げ出したトラどんは、川のむこうにいるヤギどんに、かくしてくれるよういいます。ここでも、声を出さないようにいわれますが、ヤムたちがやってくると、ヤギどんがなにもいわないうちに、うしろからトラどんがさけびました。「いわんでくれ、ヤギどん、たのむ、いわんでくれ」と叫んでしまいます。
しかし、ヤムたちが、川の橋をわたろうとすると、ヤギどんは、頭を低くかまえて、やってくるヤムたちをかたっぱしから角でつきとばしました。ヤギどんとトラどんは、こなごなになったヤムをひとつのこらずひろいあげて、トラどんの家でおいしく料理して、腹いっぱいたべました。けれども、アナンシは、ごちそうにさそいませんでした。
あれからあと、トラは、今でも足を踏みならし追いかけてくる足音を思い出し、ビクッとすることがあります。
リズムがあって、読むより聞く方が楽しそうな話。語りのテキストを選ぶ場合、読んでみてあまり魅かれなくとも、聞く側にたって選ぶことが必要なのかも。