アメリカのむかし話/渡辺茂男:編・訳/偕成社文庫/1977年
アメリカ チェロキー族の昔話です。インディアンの昔話には、どことなく悲しい結末がまっているものが多い気がしています。
山へ狩りにいった男が、黒クマを見つけ矢を射ると、矢は黒クマに命中しますが、クマはからだにささった何本もの矢を抜きながら、男に、一緒に暮らさないかと話しかけます。クマは魔法の力をもっていて、人間の心を見通し、話すこともできる力を持っていました。
殺されてしまうかもしれないと考えた男でしたが、クマについていくと、何十頭ものクマが会議をしている場所につきました。ざわめきがおきますが、王さまの白クマの一言で、ざわめきはおさまります。会議では、山に食べ物が少なくなったことがはなされていました。
食べ物をさがしにいったクマが、下の谷の森にクリやドングリがひざのたかさほどに地面にたまっていると報告すると、クマたちの踊りがはじまります。
男は黒クマの家で、冬の間暮らしました。やがて冬がおわると、男のからだには、黒い毛がいっぱいはえ、クマの動作をするようになっていきました。ほら穴からでていくときは、外の空気をくんくんとかいで、外にきけんな動物がいないかたしかめてから、外にでるようになりました。
ある日、クマが「長い冬がおわると、下の谷間の人間たちが、わたしをころし、かわをはいでしまう。わたしが死んだら、地面に流れた、わたしの血を、木の葉でおおってくれ。それから山をおりる途中で、いちど後ろをふりかえってみるがよい。」と言いました。
すべてが黒クマのいうとおりになり、村人たちがクマの肉や皮をかつぎます。男はクマにいわれたように地面に流れたクマの血を木の葉でおおい、山道をおりるとちゅうで、うしろをふりかえります。すると、木の葉をかきわけて、地面からわきでたように、黒クマが立ちあがり、しずかに森の中へはいっていきました。
村人は、男が、前のとし、村から消えてしまった男だと知り、からだじゅうにはえた、真っ黒な、長い毛をみて、おどろきました。
クマ男は、村人たちに、七日七晩 人間に見られないで、何も食べずにいられれば、クマのたましいが、わたしのからだからぬけて、もういちど、普通の人間にもどることができると話し、村はずれの空き家ですごすことになりました。
しかしクマ男のおくさんが、男が生きていることを知り、空き家にやってきては、どんなに寂しかったことかと泣き続けると、クマ男はかわいそうになり、五日目に戸をあけてしまいます。するとクマ男のからだが、どんどんよわり、病気で死んでしまいました。
黒クマがなぜ、男をほら穴へ連れていったのか疑問が残りました。