五分間で語れるお話/もっときかせて!短いお話48編/マーガレット・リード・マクドナルド・著 佐藤涼子・訳/編書房/2009年
チャーリーは、なかなか抜け目のない若者、弟のパッドはやさしく人のよい若者でしたが口がきけませんでした。
兄弟の近くに三人の娘がすんでいましたが、娘たちは池で泳ぐのが大好きでした。ある日チャーリーがやぶに隠れて三人をのぞいていて、この娘たちが、森の奥にある洞穴に父親がお金を隠していると話しているのを耳にしました。
チャーリーはすぐさまパッドをさそって森の奥にいき、洞穴を見つけると、あちこちを掘って、掘りまくり、しっかり包まれた鍋を見つけました。中には金貨がいっぱい。チャーリーは、おそらくスペインの金貨で、家に持って帰ろうと、いいますが、パッドは、金貨を指で触ってみて古い金貨ではないことがわかりました。パッドは、この金貨はだれかのものに違いないから、持ち帰ってはいけないと思いました。しかしチャーリーは、金貨が欲しくてたまりません。そこで、チャーリーは重い鍋をもちあげ、パッドを殴ろうとしました。
そのとき甲高い声がして、チャーリーがあたりを見回すと、小さなしわくちゃのおじいさんが、座ってパイプをふかしていました。おじいさんは、「わしはこのあたり一帯の王じゃ。この洞穴にすんでおるんじゃ」といい、「女の子たちが泳いでいるのを、こっそりのぞいているようなやつは、わしは嫌いじゃ。金貨を盗んで、兄弟の頭を鍋でぶん殴ろうとするやつは、特に嫌いじゃ」といいました。チャーリーが、「お前なんか怖いもんか。おまえが王だなんて信じるもんか。ちびのヒキガエルみたいなくせに!」というと、チャーリーは、だんだんとヒキガエルの色にかわっていきました。
小さなしわくちゃの王さまがパッドをみて、「なにか、いいたいことはあるかな?」というと、パッドは、口をききました。そして話しはじめました。とてもなめらかに。
小さな王さまは、金貨を埋め戻すようにいい、誰かにこのことをはなしたら、二度と話をとめることができなくなるぞといいのこし、姿を消しました。パッドがついに口をきけるようになったので、家のみんなは、ひどく驚き、そのためチャーリーのことはすっかり忘れられてしまいました。
何年もたち、パッドは結婚し、子どもや孫に恵まれ、とても幸せな人生を送りましたが、死の間際、この話をすると、だれも年寄りの世迷いごとだろうとおもいました。けれど、パッドが死んだそのとたん、家の上手にある丘を流れている川が、ゴボゴボと大きな音をたてはじめたのです。旅人はこの川を”しゃべる川”とよびます。流れの音が、大きな声で話しているように聞こえるからです。けれど土地の人々は、”パッドの川”とよんでいます。そして、パッドは川に姿を変えて、いつまでもおしゃべりをしているのだと思っているのです。
由来話ですが、展開からは想像できない結末。チャーリーが、誰からも気にされない存在というのも、悲しい。