ねえねえ、きょうのおはなしは・・/大塚勇三:再話・訳/福音館書店/2024年
大塚氏が朝鮮半島の話として紹介しています。分断されていますが、もともと同一民族。こんご一つになることはあるのでしょうか。
村のだれよりも貧乏なお百姓が、いく道で、猟をしながら町へ行こうと、弓と十本の矢を作って町をめざしました。野ウサギなどをとったりしてすすんでいくと、いつの間にか六日たちました。矢は二本しか残っていませんでした。
お百姓は、町までの道はまだ遠いというのに、矢が二本しかなくて、どうなるか心配になりました。木の下でひとやすみしながら、考えていると、ハトのなきさけぶ声がしました。上を見上げると、一羽の青いハトが、巣のまわりをバタバタと、とびまわっていました。一ぴきの大きな蛇が、木の幹をはいあがって、巣の中の小バトをのみこもうとしていました。お百姓がはねおきて、弓に矢をつがえ、キリキリとひきしぼり、ねらいをさだめて矢を放つと、矢はヘビの目にささり、木の下方ドサリと落ちて、死んでしまいました。青いハトは、うれしそうにお百姓の頭の上をぐるぐるとびまわりました。
夜になってどこか洞穴でもないかとさがしていて、あかりをみつけ、そこへいってみると大きなお寺の前にでました。お寺で、藁の上によこになって寝ていると、へんな夢を見ました。ぱっと目をさますと大きなヘビがからだにまきついてしめころそうとしていました。
ヘビは、ひるま殺したヘビの夫でした。お百姓が助けてくれるようたのみこむとヘビがいいました。「おれも、まえには人間だった。魔法使いにヘビにされた。でも、もしもちょうど真夜中に、この寺の塔にある、大きなかねを鳴らしたら、魔法はすぐにとける。だから、おまえがきょうの真夜中に、かねを鳴らしてくれたら、お前を許してやろう。だが、ならしそこなってみろ。すぐこの世とおさらばだぞ」
ヘビの言うことにしたがうことにしたお百姓が、塔のかねをならそうとしますが、その塔はおそろしく高くて、とてものぼりようもありません。はしごひとつないので外側からのぼることもできません。しかもあのヘビが、じっとにらんでいます。おもいついて、一本だけ残った矢をはなって、かねを鳴らそうとしました。矢はビューンと音をてて、とんでいきましたが音はしませんでした。あたりが真っ暗で、よくねらえなかったのです。ヘビがお百姓を殺そうととびつこうとしたとき、ふいに、塔の上から、やっと聞こえるくらいに、かすかなかねの音がひびいてきました。このかねの音を聞くと、ヘビは、たちまちひとりの人にかわってしまいました。
これで助かったということが、なかなかのみこめないくらいでしたが、それでもお百姓は、藁の上で、ぐっすりねこんでしまいました。やっと目をさまし、お寺を出発し、塔のそばまでくると、青いハトが一羽、地面におちて、死んでいました。p百姓は、自分の命をすくってくれたのがだれかをさとりました。青いハトが、じぶんのやわらかなむねをぶつけて、あのかねの音をひびかせてくれたのです。
動物報恩譚は世界共通です。