北インドの昔語り/坂田貞二・編訳/平河出版社/1981年
ひどく貧しいバラモンが、妻に尻を叩かれ、王さまのところへ行ってお布施をもらうおうとしました。妻の言うには、途中で見たことをうまくまとめて王さまに話せばいいというものでした。
途中の道端に水たまりがあって、水牛が水たまりにごしごし体をこすりつけ、からだについた水をあちこち跳ね飛ばしていました。まわりに水をかければ涼しくなるからです。お城につくと、バラモンが、「ごしごしやって水をはねかえすは、なにが狙いかよくわかる。」と王さまに話すと、王さまは、その文句を書きとめ、金貨二枚をバラモンに、あげました。
さて、王さまには七人の王妃がいましたが、なかの一人は、床屋とただならぬなかになっていました。この王妃は、床屋に、「髪の手入れをするとき、かみそりで王さまの首を掻き切ってしまうよう」そそのかしました。
つぎの日、髪と髭の手入れをする時間になり、床屋が剃刀をよくきれるように、水をかけてごしごしと砥石にかけはじめました。それを待つ間、王さまはそばの手控えをごらんになっていました。そこにバラモンのいった文句が書いてあったので、王さまは声を出してお読みになりました。
「ごしごしやって水をはねかえすは、なにが狙いかよくわかる。」
それを聞くと、床屋は、王さまが、なにもかも知っているのだと思い、「王さまの首を剃刀で掻き切れば、王妃様たちも国もみんな私のものになる」という王妃のたくらみを白状しました。
王さまは、「命が助かったのはあのバラモンのおかげだ。あの文句を聞かなかったら、命も国もなくなっていた」と、もういちどバラモンを招いてもっと礼をすることにしました。