・石を裁く(ベトナムの昔話/加茂徳治・深見久美子・編訳/文芸社/2003年初版)
貧しい夫婦が、やっとのことで三日分の工賃を前借し、大晦日に正月の品々を買いにでかけました。買い物は妻が行きましたが、とちゅう、小さな川をわたるとき、ぬるぬるした石に足を滑らし、たったいま市場でかってきたばかりのコメ、肉、線香などの品々が川にのみこまれてしまいました。あまりの出来事に、彼女は、ぺたんとすわりこみ大声で泣いていました。
県内を見回っている県知事が、泣き崩れていた彼女を見ると、駕篭をとめさせて、そのわけをたずねました。わけを聞いた知事は、「犯人は、川の中の石に違いない。たとえ、石でろうと法をまげることは許されない。やつをとらえて弁償させるべきである。それっ! 犯人を役所に引き立てい!」と命令します。命令を受けた供のものはとまどいましたが、川から石を掘りおこし、縄でぐるぐる巻きにして、役所に運びました。
知事が石を裁判にかけるという噂は、たちまち広がり、好奇心にかられた人が、役所の門前に集まってきました。知事は、門前に大きな桶を備えさせ、白銅三十文をいれたものに裁判の傍聴を許すと掲示しました。役所の中から、ビシッ、ビシッと石を打ちすえる音が門の外まで聞こえてくると、人びとは樽に三十文を投げ入れると、先を争って門の中にかけこみました。大きな樽には、たちまちお金がいっぱいあふれました。
はじめから知事が見込んだものでした。「被告に原告への損害賠償を命じる。だが思うに,被告 川石には、判決を履行する能力がない。ここにあつまった傍聴者は、多少とも原告に同情して集まったものと思う。本官は、桶の金全部を原告への賠償にあてることに決定する。」
知事の機知にとんだ裁きで、彼女はお金をいただき、たいへんよい正月を迎えることができました。
・石の裁判(象のふろおけ/世界むかし話11東南アジア/光吉夏弥・訳/ほるぷ出版/1979年
ミャンマーに同じようなのがあります。昔話の中では、裁判の結果は明快です。
男の子がポケットのお金が盗まれたら大変と、石の下にかくします。それをみていた悪い男が、そっととりだしてしまいます。男の子はおいおい、泣きだします。大勢の人が寄ってきて、男の子を慰めますが、お金はでてきません。
わけを聞いた村長が、裁判長になって、石を裁判にかけることにします。
「この子のお金をぬすんだそうだな」「そちは、ゆうべなにをした?どこかへいきはしなかったか?」と、いっても、もちろん石はなにもいいません。まわりの人はおかしくなって下を向いたり、顔に手をやったりしはじめます。
かまわず、裁判長は裁判をつづけ、法廷をばかにした罪で、むち30をもうしつけ、かかりの者は石のムチでピチピチたたきはじめます。おもわず、みんなは笑い出してしまいます。
すると、裁判長は「石にくだした判決に対して、笑いだすとは何事だ!裁判を侮辱した罪で、めいめいに罰金一チャットをもうしつける」と、きっぱりいいます。
みんなはあっけにとられたものの、笑ったのは確かなので、一人一人が一チャット払います。すると裁判長が、「この村でうえた損害の償いだ」と、そのお金を男の子にわたしました。
あまり大きな罰金ではなかったのでしょう。でも集まれば大金です。村人も名裁判に納得し、にこにこしながら帰っていきます。