カンボジアの民話世界/高橋宏明・編訳/めこん/2003年初版
村の白いカラスが、森の黒いカラスに、食べ物をどうして探しているか尋ねると、森のカラスは、「いろいろなやりかたで食べ物を探しているか、他人の物は盗むことはしない。」と、こたえました。もっと簡単に見つけることができるという村のカラス。
村のカラスは、食べ物を盗む方法を教えようとしますが、森のカラスは、「ほしがるのは自由だが。もしつかまったらひどい目にあう」と乗り気ではありません。しかし一回だけやってみようという村のカラスについて、人のいる村の方へとんでいきました。
村のカラスは、荷車をとめて飯をたいている男を見つけました。男はおいしそうな魚を串にさして焼いていました。男の頭には一本のクロマー(*)が巻きつけられていました。村のカラスは、男のクロマーをくわえてとるから、男がおってきたら森のカラスが素早く焼き魚をくわるようにいいました。この目論見はうまくいきました。男が村のカラスをおいかけているうちに、森のカラスが焼き魚をくわえ、木にとまり、やがて、やってきた村のカラスと、幸せそうに魚をたべました。男はとてもくやしがりましたが、もはやどうすることもできませんでした。
その日から、森のカラスも、村のカラスのようにして食べ物をさがすことができるようになったのです。
昔から、人間とカラスのたたかいはあって、カラスの知恵を侮るなかれという教訓かも。
*クロマーは、綿あるいは絹でおられた長方形の万能布