福井のむかし話/福井のむかし話研究会編/日本標準/1977年
この昔話には、話し手の方のお名前がのっていますが、いかにも自由自在に話されている「浦島太郎」です。
浦島太郎という人が、おっかさんと大阪の住吉のお宮の祭りにでかけたときのこと。混雑でおっかさんとはぐれて海辺に来るとカメが子どもたちにいじめられているのに遭遇し、銭をもっていなかったので、着物とひきかえに、カメを助けました。
カメは、いちど海の中へ入っていったが、すぐに大きなミノガメになってうきあがり、礼をしたいという。礼なんかいいという浦島太郎がいいますが、しばらくしてまたでてきて、もういちど礼をしたいという。三度同じことを繰り返し、四度目には、美しい女の人になってやってきた。カメは、「今助けてもらったお礼に、竜宮に連れて行ってあげますから、背中におぶさってください」という。それでとうとう女の人の背中にのると、いつのまにか寝てしまった。竜宮であったのは乙姫さん。乙姫は、百年に一ぺん、住吉にお参りにいくが、だいじゃの姿のままではお参りできないので、カメになってお参りしようとして子どもたちにつかまってしまったという。
いろいろごちそうになり、六日目にかえろうとすると、乙姫さんは、「竜宮の一日は、しゃばの百年にあたるのや。今頃帰っても、だれもいないから、帰らんとき」ってとめたが、太郎は、まさかとおもって、「それでも、うら、かえる」といった。
お土産にもらったのは、竜宮の玉を、すこしだけ削ったもの。玉を全部あげると竜宮が真っ暗になるからと、削ったものを箱に入れたが、箱を開けるとすぐ蒸発してしまうという。乙姫さんは、さらに、なんでもほしいものがあったら 手を三つたたくと、箱の穴から出てくるといいました。
太郎は、急いで国へ帰りますが、だれも知らないといいます。お寺にいって帳面をしらべてみたら、八百年前に死んだことになっているという。村の人に、「おれは、八百年前にいなくなった浦島太郎や。」というが、みんなは、幽霊が出たと大騒ぎ。竜宮の話をしてもだれも信用しない。それではと、太郎は竜宮でもらった箱に手を三つたたき、お金や着物を出し、それをみんなにくれてやった。
ところがこんどは、そのことが役人の耳に入りキリスタン・バテレンにちがいないと調べにきた。その役人に「おれはキリスタンでもバテレンでもないわ。竜宮にいってきたのや。おまえにも、着物や金をくれてやるわい。」と、手を三つたたき、着物や金をだすが、役人は「これこそ、キリスタン・バテレンや。箱の中をあらためい。」ちゅうて、無理やり箱をあけてしまった。すると、中から煙がたってでてきて、それからあとは、いくら手をたたいても、なにもでんようになったという。
めったり、はいのくす。
カメを助ける、竜宮で乙姫さんとあう、おみやげの箱からけむりがでてくるあたりは、ちゃんと「浦島太郎」を踏まえていますが、竜宮の一日は百年だとか、キリスタン・バテレンがでてくるなど、ちょっと思いがけない話となっています。