長野のむかし話/長野県国語教育学会編/日本標準/1976年
むかし永平寺山のふもとにおかしなこぞうがおったと。ねんががらねんじゅう、まっぱだかで、ふんどしいっちょうだけ。しごとはちっともせずにぶらぶらしとった。
あんころもちがすきで、はらがへりゃ、「おっかあ あんころもち」とせがんでいたと。おっかあも、かわいい子どものことだから、毎日作ってくれたと。そのおっかも、年とって死んでしまったが、それでもこぞうは、「あんころもちくいてえな、あんころもちくいてえなあ。」と、村の中を歩いていたと。おっかあが死んでかわいそうにおもった村の衆は、はじめは、それくえ、それくえやと、くれとったが、そんなにやれんと、しぜんにやめてしまったと。
それでも、「あんころもちくいてえな、あんころもちくいてえなあ。」とまわりあるいて、永平寺山のてっぺんへのぼり、松の木の下で休んでいただ。そのうちうとうとしていると、夢の中におっかあがあらわれ、「おっかあ」と叫んだ。「おっ、わりゃか。まだわりゃ あんころもちくいてえっていってるだけえ。いいか、もう二個だけあんころもちをやるが、それきりだぞ。いまおっかあは天にいる。ふんどしを天に向かって投げろや、その中へえれてやるで。」というと、おっかあは消えた。
夢見ていたかなと、こぞうが、ふんどしをはずし、くるっとまるめ、天に向かって力いっぺえなげただ。するとふんどしがたれさがってきて、木の枝に、ごそっとひっかった。中には重箱があった。いそいであけると、こってりあんこがついたもちがぎっしりつまっていた。
ある日、三度の飯よりあんころもちが好きな殿さまが村の見回りにきた。「あんころもちくいてえな、あんころもちくいてえなあ。」というこぞうの声を聞いた殿さまは、家来に命じてあんころもちを探させた。けれども、その日は、どこの家でも作っていなかった。それでも、殿さまは、あんころもちをもってまいれとけらいに命じた。これを知ったこぞうは、おっかさんが二回といったことを思い出し、「あんころもちをさしあげます。」というと、ふんどしいっちょうのこぞうをみて、殿さまも家来も、へんなもんがきた、「ぶれいもの、さちされ」とどなった。
しかし、こぞうはへいきで、ふんどしを天に向かってほおった。殿さまも家来も、あんまりのことに、口をぽかんとあけて天をみあげていたと。そのうちするすると ふんどしが おちてきた。ふんどしの中から重箱がでてきて、殿さまがたべてみると、これまでたべたことのないうめえあんころもち。よろこんだ殿さまは、こぞうにたんまりほうびをつかわせた。
こぞうは、そのほうびで、しあわせにくらしたと。これで、おしめえ。