現代アジア児童文学選5/アジアの笑いばなし/ユネスコ・アジア文化センター・編 松岡享子・監訳/東京書籍/1987年
ある心優しい男が、ふと、井戸の中を見ると、水にお月さまがうつっているのが見えました。
お月さまが、井戸の中におっこちて、気の毒に思った男が、大急ぎで長い綱の先に手かぎをゆわえつけたものをもってきて、お月さまを すくいだそうと、力任せに ひっぱりました。
綱がきれ、男がどしんとあおむけにひっくりかえって頭を打ち、気を失ってしまいました。
しばらくして、気がついてみると、男がいちばんはじめに目にしたのは、お月さまでした。今は、空たかくしずかにかがやいています。
男は、うめき声をあげながらも、まんぞくそうにいいました。
「おら、背骨おっちまったけど、ありがたいことに、お月さんは、ちゃんとたすかったよ」
いま、井戸は見かけません。井戸がどういうものか説明が必要な時代です。