借金とりをだます/日本の民話11 民衆の笑い話/瀬川拓男 松谷みよ子:編集・再話/角川書店/1973年
1 貧乏長屋の夫婦に借金とりがやってくる頃、あとはかかによろしくと亭主は用意した棺桶にもぐります。かかが線香に火をつけ、チンチン鐘をたたいていると、まもなく高利貸しがやってきます。
「亭主が急病で亡くなりやした。貧乏の上に、おおぜいの子どもを抱えて葬式もだせぬ始末です。申しわけごわしねえが、借金を払うこともできやせん。許して下され。」というかかに、さすがの高利貸しも神妙になって線香代と、香典の金を紙につつみます。
「借金も返せんでおるのに、この上、香典をもろうこたあなりません」とかかがこたえると、棺の中の亭主は、せっかくの香典をみすみすふいにはできないと、棺桶の蓋を上げて手をふります。
それをみた高利貸しは「ゆ、ゆれいだ!」と、頭を抱えて逃げて行ってしまいます。
2 借金で首のまわらない若い衆が高利貸しに一泡吹かせてやろうと、血も涙もない酒屋の大旦那のところへ駆け込みます。
「浜の方で大げんかがあって、仲間の連中が大けがをした.早いこと傷口をあらわねばなんね。すまんが焼酎一升ばかりかしてけろ」
「ひごろの借金も返さんでいたばちじゃ。焼酎など、だれが貸してやるもんか」という、大旦那に「けががもとで死んじまえば、勘定もふいになってしまう」と、うまいこといって焼酎を借りた若い衆。酒盛りをして、酔いが回れば気も太くなっって、若い衆がうっかり酒屋の前にくると、大旦那は「いったいどこをけがしたんじゃ」と頭から湯気を吹き上げる剣幕で怒鳴ります。
すると一人が「そりゃ大旦那、みんなすねに傷をもっとるだでは。ほれ、借金が返せんためによう」とわらいながらこたえます。
大旦那が「また一杯食わせやがったな」と、目を白黒させると、若い衆の追い打ち。「一杯は食わねえ、一杯のんだんでば」。
大晦日、借金取りの話も多くありますが、大晦日はなんとか無事切り抜けても、借金がなくなるわけではありません。借金しないことが一番です。しかし一日過ごすことができれば、当分は借金とりにおいまくられることがなくなるというのは、じつにおおらかです。