腹膜転移の胃がん、狙い撃ち 「攻撃役」新物質合成
2017年6月29日 (木)配信朝日新聞
胃から腹膜に転移したがんの治療に効果的な物質を開発したと量子科学技術研究開発機構が発表した。医療用の放射性同位体(アイソトープ)を使って開発し、マウスで効果を確かめた。5~10年かけて薬として実用化を目指す。29日付の日本癌学会誌電子版に論文が掲載された。
胃がんが腹膜に散らばるように転移した場合、効果的な治療法がほとんどなく、平均的な生存期間は短い。量研機構の研究チームが開発したのは、アルファ線を出す放射性同位体「アスタチン211」と、胃がん細胞の表面にある特殊なたんぱく質にくっつく抗体「トラスツズマブ(ハーセプチン)」を組み合わせた物質。攻撃役のアスタチン211を、トラスツズマブによってがん細胞に結合させる仕組みだ。
アルファ線はエネルギーは強いが、物質を通り抜ける力が弱く、標的のがん細胞周辺だけへの効果が期待できるという。開発した物質をマウスに注射すると、がんは小さくなったか消失した。肝臓や腎臓に悪影響は確認されなかった。半減期は約7時間で、注射1回で効果が数日続いた。
長谷川純崇チームリーダーは「5~10年後を見据え開発を進めたい」と話した。(杉本崇)