ウィズコロナ時代に高まるOTC薬の役割と可能性 日本OTC医薬品協会:佐藤誠一会長に聞く
2020年9月11日 (金)配信薬局新聞
今回の新型コロナウイルス感染拡大・政府による緊急事態宣言は、インバウンドの激減や外出自粛に伴うヘルスケア関連ニーズの機会損失など、OTC薬市場にも直接的な影響を及ぼしている。ただ、一方では感染対策意識の高まりに伴った健康リテラシー向上、健康維持・増進に向けた行動変容が進展したことでは、そこで大きな役割を果たすOTC薬の位置づけが再評価される展開が期待される局面ともなってきた。新しい生活様式を支えるOTC薬の可能性とは――。先ごろコロナ禍も踏まえた事業計画を打ち出した日本OTC医薬品協会・佐藤誠一会長に、時限制度の最終年を控えて正念場を迎えるセルフメディケーション税制の見直し、OTC薬の範囲拡大に向けた基礎調査に踏み出すことをトピックスとする協会の活動方針と、次世代のOTC薬の役割に対する認識をたずねた。
――今回の新型コロナ感染症流行・緊急事態宣言によるOTC薬市場への影響は
うがい薬や消毒薬などの感染対策製品、外出自粛やテレワークの増加によるメンタルケアなどの一部の薬効では大きく伸びている。また、医療機関への受診が難しくなったためか、かぜ関連製品を事前に買い置きしておこうという動きも一時的にあったようだ。
全体的には、緊急事態宣言に伴う外出自粛のためか、来店するお客様が少なくなったこと、インバウンド需要の減少により、店頭での販売は減少したものの徐々に回復しつつある。
――コロナ禍では日頃の衛生や免疫向上・健康維持増進など、感染予防意識が高まった。生活者意識の変化に伴うセルフメディケーション推進効果、セルフケア産業の可能性についての考えを
感染対策製品の売上が伸びたことは、感染予防意識が高まった結果だと思う。また、安易に病院や診療所を受診できない状況から、自分の病気や健康を自分で考えるという意識が高まったのではないか。
このような意識の変化が続けば、国民の健康リテラシーが向上し、セルフケアやセルフメディケーションへの関心が高まって行動変容を起こすことになるのではないだろうか。これにOTC医薬品の範囲拡大が伴えば、産業育成につながっていくと思う。
――先ごろ発表された日本OTC医薬品協会の2020年度事業計画について、主要なテーマ別に解説を
●セルフメディケーション税制の継続・恒久化と改良に向けた抱負
制度の継続に関しては、当協会の総力を挙げて、できる限り多くの関係者に説明して理解を得たいと考えている。まずは制度の継続を実現し、最終的には恒久化につなげていく。そのためには、より多くの方にこの制度を利用していただく必要がある。
令和3年度の税制改正要望では、「対象医薬品を現行のスイッチOTC薬からすべてのOTC薬に拡大する」、手続きの簡素化のため「明細書への医薬品名の記入を医療費控除と同様に不要とする」、「購入費から差し引く下限額を現行の1万2000円から0円に引き下げ、所得控除の上限額を現行の8万8000円から10万円に引き上げる」を厚生労働大臣宛に要望した。
令和元年分のセルフメディケーション税制利用者数は前年比15%増の3万人だったが、まだまだ十分とは言えない。すべてのOTC医薬品へ対象を拡大することで活用しやすい制度になる。控除の下限額を引き下げることで還付金額が増え、インセンティブとして機能することが期待される。
●OTC医薬品の範囲拡大を目指すロードマップ作成の意図と今後の展望
後発品の推進策を参考にしたロードマップを行政に提案する。後発品では先発品に対する販売数量について数値目標が経時的に示され、それを達成するためにさまざまなアクションがとられた。OTC薬に関しても、これと同様、医療用医薬品に対する数値目標を設定し、目標を達成するためのアクションプランを提案したいと考えている。数値目標設定のために必要な基礎的調査も実施している。
●国民の行動変容およびセルフメディケーション振興、健康リテラシー向上に対する施策
健康リテラシーの向上は行動変容につながる。国民の健康リテラシー向上はセルフメディケーションだけではなく、国の医療や全世代型社会保障にも良い結果をもたらすと考える。
セルフメディケーションの振興には行政の力が必要。残念ながら厚生労働省をはじめ、行政機関にセルフメディケーション振興を担当する部署や担当者が存在しない。しかし、7月17日に閣議決定された規制改革実施計画で、令和2年度措置として厚労省に「セルフメディケーションの促進策を検討するため、部局横断的な体制構築を検討する」ことが明記された。どのような体制になるかは、今後の検討に委ねることになるが、当協会も体制構築のために協力していきたい。
健康リテラシーの関連では、学校保健へのセルフメディケーション教育の導入や、セルフメディケーションの理念、健康リテラシーの向上を法制化することも要望していきたいと考えている。
――ウィズコロナ~アフターコロナ時代を見据えた次世代のOTC薬の役割に関する見解を
感染の蔓延がいつまで続くのか、先が見通せない状況にある。「医療機関の外来患者が月を追うごとに減少している」、「コロナ患者を受け入れている病院の医療が逼迫するとともに、経営が悪化している」等の報道に接するところ。オンライン診療も活用されていると思うが、感染を恐れて受診を控えている患者さんも少なくないと聞いており、持病の悪化も心配される。
社会全体に「自分でできる対処は自分でする」「病気にならない、または悪化させない」など、セルフケア・セルフメディケーションの機運が高まることが予想される。そういったニーズに対応するため、検査薬も含めてOTC薬で対応できる範囲の拡大が求められる。医師と薬剤師等が協力して、医師の診療を補佐できるような新たな発想のOTC薬も含めて、ニューノーマルの社会におけるOTC薬のプレゼンスを確立していきたいと考えている。
――薬局・DgS/薬剤師・登録販売者へのメッセージ
感染拡大が続くなかで、毎日店頭で多くのお客様、患者様に対応されている皆様に心から感謝している次第。ちょっとした健康の不安を気軽に相談できる、薬局・ドラッグストアに対する国民の期待は、今後もますます高くなると思う。
私どもメーカーといたしても、より良いOTC薬、新たなOTC薬の提供に努めていく。そのためにも、スイッチOTCを中心とした製品の適正使用のための情報提供を、引き続きよろしくお願いできればと思う。