国の方針転換に戸惑い 医療機関の確保が課題 インフル・コロナ同時流行
冬のインフルエンザと新型コロナウイルス感染症の同時流行に備え、受診の際の手続きが大きく変わる。これまで保健所が中心だった役割を、かかりつけ医など地域の医療機関が担い、患者の相談対応や診療・検査を行う。国は10月中に体制を整えるよう都道府県に要請したが、急な方針転換に戸惑いの声も上がる。協力してくれる医療機関の確保など課題は多い。
「通常の診療をしている医療現場はすぐに対応できない。短期間で体制をつくるのは難しい」(関西地方の医師会関係者)
厚生労働省が都道府県に通知を出したのは9月4日。現在は保健所などに設置された「帰国者・接触者相談センター」が患者からの相談を受け、専門機関につないでいるが、新たに地域の医療機関を「診療・検査医療機関(仮称)」に指定するよう求める内容だった。
発熱などの症状がある人は、まず近くの診療所やかかりつけ医に電話をかけ、そこが都道府県の指定を受けていなければ、別の医療機関を紹介してもらう。現在の相談センターも「受診・相談センター(仮称)」に衣替えして存続するが、厚労省は「なるべく地域の医療機関で相談を受けてもらう」との立場だ。
インフルは毎年、国内で1千万人が感染するとされる。厚労省幹部は「この冬、(新型コロナと)同時流行したら、今のやり方では対応できない。できるなら全ての医療機関に発熱患者を診ていただく必要がある」と本音を明かす。
だが医療機関では新型コロナの院内感染を防ぐため、患者の動線を分けるなどさまざまな対応を迫られる。インフルと症状が似ていて患者を判別しにくく、感染と隣り合わせの不安も根強い。宮城県医師会の佐藤和宏(さとう・かずひろ)会長は「コロナを心配して今年の冬はインフルの検査をしないという開業医もいる。院内でクラスターが発生すれば、閉鎖に追い込まれかねない」と話す。
通知から10月末まで2カ月しかなく、各都道府県は医療機関の確保に追われる。宮城や石川はPCR検査などを行っている医療機関をベースに指定機関を増やしたい考えだが、「手を挙げてくれるところが想定を下回ったら、医療資源を集約した検査センターのようなものをつくることも考えないといけない」(兵庫県の担当者)との声も。
国際医療福祉大の和田耕治(わだ・こうじ)教授(公衆衛生学)は「いつまでも保健所が窓口となるわけにはいかない。通常の医療体制に戻すため地域でよく話し合ってほしい」と強調した上で、「医療現場に丸投げという印象を持つ人もいるだろう。自治体は丁寧に対話しないといけない」と指摘した。