デジタル庁「最大の挑戦」 抵抗勢力突破へ世論が鍵 「表層深層」菅内閣本格始動
菅内閣が本格始動した。デジタル庁創設をはじめとする行政機構改革が「最大の挑戦」(官邸筋)になる。歴代最長の安倍政権でも実現できなかった分野だけに、壁は高い。自民党内の基盤の弱さが指摘される無派閥の菅義偉首相が、族議員や役所側の「抵抗勢力」を突破できるか。世論の支持が鍵を握りそうだ。
▽大混乱
「さらにスピードを上げていけ」。首相は17日、自民党内きってのIT通である平井卓也デジタル改革担当相と官邸で面会し、デジタル庁新設の作業加速化を指示した。
菅内閣の一丁目一番地は「縦割り行政の打破」だ。複数の省庁に所掌がまたがるデジタル分野の改革は、格好の標的といえる。政府高官によると、内閣官房や総務省、経済産業省内にある関連部局を統合する形で、デジタル庁を設置する案を構想している。
首相はマイナンバー制度の多機能化にも力を入れる。来年3月からは健康保険証と一体化。運転免許証との連結も進める方針で、カードの利用拡大につなげる狙いだ。小此木八郎国家公安委員長は記者会見で、運転免許証のデジタル化推進を表明した上で「首相から強い指示があった」と強調した。
首相が前のめりになる背景には、一律10万円の特別定額給付金での「大失態」(政府関係者)がある。政府は迅速な給付を図るため、マイナンバーカードの所有者を対象としたオンライン申請を打ち出した。だがカード普及率は2割に満たず、効果は限定的。国民も自治体も扱い慣れない仕組みが持ち込まれ、現場は大混乱した。
▽旧態依然
デジタル化推進は、安倍政権下でも積年の課題だった。2014年の経済財政運営の指針「骨太方針」には、電子政府の実現に向けた関係閣僚会議の設置を明記。今年の骨太方針でも集中改革を打ち出した。
平井氏は会見で「旧態依然とした役所には、(民間から)若い能力がある人が来たいと思わない」と人材確保の難しさに言及した。
デジタル庁を巡る関係省庁の受け止めは微妙だ。経産省の中堅幹部は「関連部署をごっそり切り離されるかもしれず、組織としては複雑だ」と警戒。行政機関の情報システムや通信分野を所管する総務省には、デジタル庁の肥大化を懸念する声もある。国民の中には、マイナンバー制度を基に個人情報の管理が進むのではないかとの不安もくすぶる。
▽力業
省庁だけではなく、党内からの抵抗も予想される。官邸幹部は「権限と予算を引きはがす話だから、関係省の族議員は黙ってはいないだろう」と語る。「1強」と称された安倍政権よりも、支持基盤の弱い菅政権の方が「党の反発が大きなうねりになりやすい」(政府関係者)と見る向きもある。
首相は新型コロナウイルス対応を強化するため、厚生労働省の組織改革にも意欲を示す。「官邸対族議員」の戦線が幅広く拡大する可能性もある。
官邸側が推進力として期待するのは、世論の後押しだ。共同通信社が16、17日に実施した全国緊急電話世論調査では、内閣支持率は66・4%を記録した。発足直後の「ご祝儀相場」であるのは否めないが、高支持率を維持すれば「抵抗勢力を押し切る力」(官邸筋)になるのは間違いない。
政権幹部は「首相はいざとなれば、自ら前面に立って力業を繰り出す覚悟だ」と宣戦布告した。