<恐怖の駐車場>
尾道を散策してから、ホテルのチェックインまでのまとまった時間をつぶすため
に近くの湯坂温泉に向かった。
たいしたことはない温泉にゆっくりとつかって、大広間があったので、座布団を
ならべて横になった。車のなかで窮屈な格好での仮眠しかしていないので、腰と
背中が喜んでいるのがわかる。
ぱちん、ばちっ、と囲碁を打つ石音を聞いているうちに、すぐに眠りにおちた。
素泊まりで格安の名前だけは立派なホテルは、三原の駅前にあった。
なんとか国際ホテルとか、なんとかグランドホテルとか言うところに、大体ろく
なところはないのだ。
駐車場の表示があったので、曲がると立体駐車場の入り口があった。
「はい、前へ進んでください」
かなり狭い入り口で、高さも低い。わたしの車は普通乗用車ではないので、あん
がい広めでしかも車高は高めなので不安になる。
「この車の高さで、だいじょうぶでしょうか?」
入り口にいる係りの女性に声をかける。
「上の垂れ下がっているゴムに触れなければだいじょうぶです。あ、だいじょう
ぶ、そうですね」
だいじょうぶ、そう、ってなによ。気になるなあ。
函型のスペースにゆっくりはいっていく。はいる瞬間にタイヤが低い突起物に
乗り上げ、思わず首をすくめてしまう。とりあえず天井はぎりぎりセーフであっ
た。
「はい、もう少し前へ進んで。あっと、ゆっくりに。はい!ストップ!」
まえにある突起物にタイヤが当たり、函状にスペースぎちぎちになんとか収まっ
た。
あれれ、ドアがあくスペースがない。げぇー、なんだなんだ、降りられないじゃ
ないか。
「右に、ボタンがありますので押してくださいね」
恐ろしい捨て台詞に振り返ると、いまはいってきたところに上から扉がおりて
きて閉じ込められてしまった。
なんとなく息苦しくなってきて慌ててボタンを押すと、がたがたと上昇を始め
た。
実はわたしは高所恐怖症だけではなく、閉所恐怖症もあるのである。
(うへぇ・・・こんなの最初から知ってれば、他のホテルにしたのに・・・・)
やがて、上昇がとまり前方の扉が、ガァーッとあがったので、とっとと屋上に
抜け出した。
駐車券を機械から受取って、適当な場所に車をとめた。
雑居ビルの駐車場は屋上部分の半分ほどで、残りのスペースの上部の階がホテル
となっていた。屋上にも駐車場の係員のいる小屋があったのですこしほっとする。
「明日の朝は四時ごろにチェックアウトしたいのですが・・・」
一階のフロントにおりてチェックインの用紙に記入が済むと、わたしは言った。
明日は九州のせめて熊本県くらいまでは進みたい。
「では、宿泊料金を先払いでお願いします。お部屋のキーは、ご出発の際にお部屋
に置いておいていただければ結構ですので。あと、駐車券をいただけますか、機械
処理をしますので」
「あのぉ、朝の四時ですと駐車場の係りのひとは・・・いるのでしょうか」
「はい、いませんので、ご自分でエレベータの操作をしていただくことになりま
す。あと、ホテルの館内のエレベータ二台のうち一台は駐車場の階にとまりません
のでご注意ください。もし何度やっても同じエレベータがきてしまうときには、
そのエレベータに乗ってフロントのボタンを押したら素早くおりて、動きはじめた
ら再度ボタンを押して駐車場に止まるエレベータを呼んでください」
「・・・・・・」
「よろしいでしょうか」
要するに、明日の未明にひとりで頑張れ、ということね。いいよ、わかったよ。
もう。
「あのような駐車場、生まれて初めてなんでびっくりしました」
「そうですね。もう、どこにもないと思いますよ」
そんなに古いんかい! メインテナンスはだいじょうぶかい。閉じ込められた
ことはないんかい。よくあります、なんて返事聞きたくないから、訊かないけど。
エレベータから部屋までの廊下は、電気代をけちっているのか真っ暗である。
夜は点灯してくれるのだろうか。とりあえず、部屋に荷物を置いて近所を散策す
る。
東京、横浜でみかけるようなチェーン店の飲み屋ばかりであるので、ホテルの
和食レストランにはいり、鯛の薄づくりで日本酒を飲むことにした。
明日の未明のころのことを考えると、憂鬱になってくる。
まあ、なるようにしかならない。なんとかなるさ。呑むほどに、開き直ってく
る。
そうだ、三原のラーメンを食べにいこう。昼もラーメンだったが、いいや、かま
わない。
尾道ラーメンを調べたときに、三原のラーメンのことも出ていたのを思い出す。
そうそう駅のそばに店があるはずだ。それと、來々軒とかたしか書いてあったな。
(あった、ここだ)
入り口にある券売機で、食券を買うシステムだった。アルコールはビールしか
ないので、ラーメンだけにしておこう。
ふぅむ。あっさりした飽きのこない味のラーメンである。
地元で人気があるのも頷ける。
明日は早いので部屋で呑みなおして、早めに眠ることにしよう。
尾道を散策してから、ホテルのチェックインまでのまとまった時間をつぶすため
に近くの湯坂温泉に向かった。
たいしたことはない温泉にゆっくりとつかって、大広間があったので、座布団を
ならべて横になった。車のなかで窮屈な格好での仮眠しかしていないので、腰と
背中が喜んでいるのがわかる。
ぱちん、ばちっ、と囲碁を打つ石音を聞いているうちに、すぐに眠りにおちた。
素泊まりで格安の名前だけは立派なホテルは、三原の駅前にあった。
なんとか国際ホテルとか、なんとかグランドホテルとか言うところに、大体ろく
なところはないのだ。
駐車場の表示があったので、曲がると立体駐車場の入り口があった。
「はい、前へ進んでください」
かなり狭い入り口で、高さも低い。わたしの車は普通乗用車ではないので、あん
がい広めでしかも車高は高めなので不安になる。
「この車の高さで、だいじょうぶでしょうか?」
入り口にいる係りの女性に声をかける。
「上の垂れ下がっているゴムに触れなければだいじょうぶです。あ、だいじょう
ぶ、そうですね」
だいじょうぶ、そう、ってなによ。気になるなあ。
函型のスペースにゆっくりはいっていく。はいる瞬間にタイヤが低い突起物に
乗り上げ、思わず首をすくめてしまう。とりあえず天井はぎりぎりセーフであっ
た。
「はい、もう少し前へ進んで。あっと、ゆっくりに。はい!ストップ!」
まえにある突起物にタイヤが当たり、函状にスペースぎちぎちになんとか収まっ
た。
あれれ、ドアがあくスペースがない。げぇー、なんだなんだ、降りられないじゃ
ないか。
「右に、ボタンがありますので押してくださいね」
恐ろしい捨て台詞に振り返ると、いまはいってきたところに上から扉がおりて
きて閉じ込められてしまった。
なんとなく息苦しくなってきて慌ててボタンを押すと、がたがたと上昇を始め
た。
実はわたしは高所恐怖症だけではなく、閉所恐怖症もあるのである。
(うへぇ・・・こんなの最初から知ってれば、他のホテルにしたのに・・・・)
やがて、上昇がとまり前方の扉が、ガァーッとあがったので、とっとと屋上に
抜け出した。
駐車券を機械から受取って、適当な場所に車をとめた。
雑居ビルの駐車場は屋上部分の半分ほどで、残りのスペースの上部の階がホテル
となっていた。屋上にも駐車場の係員のいる小屋があったのですこしほっとする。
「明日の朝は四時ごろにチェックアウトしたいのですが・・・」
一階のフロントにおりてチェックインの用紙に記入が済むと、わたしは言った。
明日は九州のせめて熊本県くらいまでは進みたい。
「では、宿泊料金を先払いでお願いします。お部屋のキーは、ご出発の際にお部屋
に置いておいていただければ結構ですので。あと、駐車券をいただけますか、機械
処理をしますので」
「あのぉ、朝の四時ですと駐車場の係りのひとは・・・いるのでしょうか」
「はい、いませんので、ご自分でエレベータの操作をしていただくことになりま
す。あと、ホテルの館内のエレベータ二台のうち一台は駐車場の階にとまりません
のでご注意ください。もし何度やっても同じエレベータがきてしまうときには、
そのエレベータに乗ってフロントのボタンを押したら素早くおりて、動きはじめた
ら再度ボタンを押して駐車場に止まるエレベータを呼んでください」
「・・・・・・」
「よろしいでしょうか」
要するに、明日の未明にひとりで頑張れ、ということね。いいよ、わかったよ。
もう。
「あのような駐車場、生まれて初めてなんでびっくりしました」
「そうですね。もう、どこにもないと思いますよ」
そんなに古いんかい! メインテナンスはだいじょうぶかい。閉じ込められた
ことはないんかい。よくあります、なんて返事聞きたくないから、訊かないけど。
エレベータから部屋までの廊下は、電気代をけちっているのか真っ暗である。
夜は点灯してくれるのだろうか。とりあえず、部屋に荷物を置いて近所を散策す
る。
東京、横浜でみかけるようなチェーン店の飲み屋ばかりであるので、ホテルの
和食レストランにはいり、鯛の薄づくりで日本酒を飲むことにした。
明日の未明のころのことを考えると、憂鬱になってくる。
まあ、なるようにしかならない。なんとかなるさ。呑むほどに、開き直ってく
る。
そうだ、三原のラーメンを食べにいこう。昼もラーメンだったが、いいや、かま
わない。
尾道ラーメンを調べたときに、三原のラーメンのことも出ていたのを思い出す。
そうそう駅のそばに店があるはずだ。それと、來々軒とかたしか書いてあったな。
(あった、ここだ)
入り口にある券売機で、食券を買うシステムだった。アルコールはビールしか
ないので、ラーメンだけにしておこう。
ふぅむ。あっさりした飽きのこない味のラーメンである。
地元で人気があるのも頷ける。
明日は早いので部屋で呑みなおして、早めに眠ることにしよう。
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