<平山温泉>
未明の時間。
ホテルの屋上駐車場から車を出し、駐車券を機械に通してエレベーターの前に
進むと、ヤツはアホな獲物を待ちかねたように大口を開けて待っていた。一瞬怯ん
だが、後戻りはできないし、乗り込むのを助けてくれる人もいない。
幅をすこしでも減らすためにドアミラーをたたんで、そろそろと乗り込む。
前後いっぱいにぎちぎちに停めると、間違ってもこのホテルには二度と泊まら
ないぞ、と固く誓いながら一階のボタンをエイっと押した。
というわけで、広島県の三原を早朝に出発。山越えして一番近いインターから
山陽道に乗り九州を目指した。
熊本県にはいってインターを降り、平山温泉に向かう。
なんでも平山温泉は、地元九州では第二の黒川温泉といわれているそうで、たい
そう気にはなっていたのだ。開湯は1300年前といわれるから、歴史は古い温泉で
ある。
山鹿の街を抜けて、それほどの距離を走らないうちに平山温泉にはいった。
道に沿ってはいるが、道からはすこし離れたところに旅館が点在している。
古びた神社の脇の道を奥に進むと、風情のある古民家風の宿があった。
駐車場に車を停め、タオルを持ってフロントに向かう。
日帰りやっているかどうかわからぬが、なに訊いてみればわかることだ。駄目な
らパンフレットでももらって、どこか他の宿を教えてもらえばいいのだ。
入り口もなかなか気に入った。安ければいずれ泊まってみたい。
「ここは、日帰りで温泉はいれますか」
「はい、どうぞ。おはいりになれます」
打てば響くような、この色よい返事。旅人にはなによりありがたい。
もうお湯が溜まったかしらと呟きながら、仲居さんが男性用の露天風呂に案内し
てくれる。
一緒に更衣室にはいり靴を脱ぎかけていると、仲居さんが露天風呂をみにいっ
て、
「あら、やっぱり、露天はもう三十分くらいかかりますねえ。洞窟風呂でもよろし
いですか」
「もちろん、けっこうですとも」
「それでは、その先に入り口がありますので、ごゆっくりお使いください」
ここか。
脱衣籠に乱雑に脱ぎ散らし、扉をあける。
短い階段をおりると細い通路になっていて、右手が洞窟風呂、奥がさきほどの
露天風呂に通じているようである。
洞窟のほの暗い通路で頭をぶつけないように進むと、硫黄泉のいい香りが立ち
昇る温泉があった。
たっぷりの掛け湯をして、湯に身体を沈めていく。すべすべとする肌あたりが
良さは、アルカリが強いからだ。全身を伸ばして、ぐったあーと湯に身をまかせて
力を抜く。
源泉かけ流しである。泉質はすこぶるいい。効能はリウマチや神経痛、それと
皮膚に対する効能がある。
洞窟風呂の奥のほうで流れ落ちる湯音がしている。
やはり、いい温泉、本物の温泉にはいると身体がみるみると活きかえる。日常の
あれやこれや、旅の行程のしんどさも、なにもかも忘れさせてくれる。
ただ、この瞬間、温泉を心底から楽しんでいる自分がいるのである。
途中で、露天風呂をみにいったがやはりまだまだ時間がかかりそうなのであきら
めた。
この宿は山鹿温泉にある国指定重要文化財「八千代座」を手掛けた棟梁が門や塀を
造ったそうだ。
客室は八室しかないが、それが逆にわたしなどには魅力である。
帰りの道ではかなりの数の福岡ナンバーの車とすれ違った。共同浴場の平山温泉
センターの駐車場をみるといっぱいで、平山温泉の人気のほどが伺えた。
→「恐怖の駐車場」の記事はこちら
未明の時間。
ホテルの屋上駐車場から車を出し、駐車券を機械に通してエレベーターの前に
進むと、ヤツはアホな獲物を待ちかねたように大口を開けて待っていた。一瞬怯ん
だが、後戻りはできないし、乗り込むのを助けてくれる人もいない。
幅をすこしでも減らすためにドアミラーをたたんで、そろそろと乗り込む。
前後いっぱいにぎちぎちに停めると、間違ってもこのホテルには二度と泊まら
ないぞ、と固く誓いながら一階のボタンをエイっと押した。
というわけで、広島県の三原を早朝に出発。山越えして一番近いインターから
山陽道に乗り九州を目指した。
熊本県にはいってインターを降り、平山温泉に向かう。
なんでも平山温泉は、地元九州では第二の黒川温泉といわれているそうで、たい
そう気にはなっていたのだ。開湯は1300年前といわれるから、歴史は古い温泉で
ある。
山鹿の街を抜けて、それほどの距離を走らないうちに平山温泉にはいった。
道に沿ってはいるが、道からはすこし離れたところに旅館が点在している。
古びた神社の脇の道を奥に進むと、風情のある古民家風の宿があった。
駐車場に車を停め、タオルを持ってフロントに向かう。
日帰りやっているかどうかわからぬが、なに訊いてみればわかることだ。駄目な
らパンフレットでももらって、どこか他の宿を教えてもらえばいいのだ。
入り口もなかなか気に入った。安ければいずれ泊まってみたい。
「ここは、日帰りで温泉はいれますか」
「はい、どうぞ。おはいりになれます」
打てば響くような、この色よい返事。旅人にはなによりありがたい。
もうお湯が溜まったかしらと呟きながら、仲居さんが男性用の露天風呂に案内し
てくれる。
一緒に更衣室にはいり靴を脱ぎかけていると、仲居さんが露天風呂をみにいっ
て、
「あら、やっぱり、露天はもう三十分くらいかかりますねえ。洞窟風呂でもよろし
いですか」
「もちろん、けっこうですとも」
「それでは、その先に入り口がありますので、ごゆっくりお使いください」
ここか。
脱衣籠に乱雑に脱ぎ散らし、扉をあける。
短い階段をおりると細い通路になっていて、右手が洞窟風呂、奥がさきほどの
露天風呂に通じているようである。
洞窟のほの暗い通路で頭をぶつけないように進むと、硫黄泉のいい香りが立ち
昇る温泉があった。
たっぷりの掛け湯をして、湯に身体を沈めていく。すべすべとする肌あたりが
良さは、アルカリが強いからだ。全身を伸ばして、ぐったあーと湯に身をまかせて
力を抜く。
源泉かけ流しである。泉質はすこぶるいい。効能はリウマチや神経痛、それと
皮膚に対する効能がある。
洞窟風呂の奥のほうで流れ落ちる湯音がしている。
やはり、いい温泉、本物の温泉にはいると身体がみるみると活きかえる。日常の
あれやこれや、旅の行程のしんどさも、なにもかも忘れさせてくれる。
ただ、この瞬間、温泉を心底から楽しんでいる自分がいるのである。
途中で、露天風呂をみにいったがやはりまだまだ時間がかかりそうなのであきら
めた。
この宿は山鹿温泉にある国指定重要文化財「八千代座」を手掛けた棟梁が門や塀を
造ったそうだ。
客室は八室しかないが、それが逆にわたしなどには魅力である。
帰りの道ではかなりの数の福岡ナンバーの車とすれ違った。共同浴場の平山温泉
センターの駐車場をみるといっぱいで、平山温泉の人気のほどが伺えた。
→「恐怖の駐車場」の記事はこちら
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