今後,期待されているパーキンソン病治療薬(新薬)について勉強する機会があったので,ここで簡潔にまとめてみたい.
1.2012年に発売予定のパーキンソン病治療薬
1)アポカイン®皮下注30mg
アポモルヒネ塩酸塩水和物(商品名アポカイン®皮下注30mg)は,本年5月29日に薬価収載された薬剤.1993年に英国で承認されて以降,世界20カ国以上で臨床使用されている.非麦角系ドパミンアゴニストで,患者自身が専用の注入器を用いて自己注射する日本初のパーキンソン病治療用注射剤.オフ症状(薬剤の効果の持続時間が短くなり,パーキンソン症状が出現すること)を,注射後20分ほどで速やかに改善することから,オフ症状を一時的に改善するという「レスキュー薬」としての使い方が期待されている.ただし,注射後120分で効果が消失する(短時間作用型製剤である).内服薬剤をいろいろ調整してもオフ症状のコントロールが困難となり,脳深部刺激療法の検討が必要といった時期において選択肢となる薬剤である.海外のWEBサイトで様子を見ることができる.
2)レキップ®CR錠
非麦角系ドパミンアゴニスト徐放剤としては,すでにプラミペキソール徐放剤(ミラペックス®LA錠剤)が2011年4月に国内で上市されているが,ロピニロール徐放剤も海外ではすでに販売され,日本でも本年度中の承認,販売されるものと期待されている.1日1回の服用で安定した血中濃度推移を示すことが確認されており,服用回数を減らせることで患者の利便性が向上し,内服忘れも防ぐことができる.
2.最近の治験の状況
1)L-dopa製剤
① L-dopa徐放剤(IPX066)
L-dopa徐放剤はこれまでL-dopa剤より長く作用するため,オフ症状の軽減,短縮につながる可能性がある.2012年4月に行われた第64回米国神経学会年次総会にて,第Ⅲ相臨床試験(ASCEND-PD)の結果が報告された.オフ症状を呈する進行期パーキンソン病患者110名に対し,carbidopa・L-dopa合剤およびエンタカポン併用(日本未発売のスタレボ®)との比較が行われたが,IPX066は有意に日中のオフ時間を短縮することが確認された(23.98% vs. 32.48%, p<0.0001).
<font color="blue">②Duodopa(ABT-SLV187)
DuodopaはL-dopa/carbidopa合剤を4:1の割合で含む腸ゲル剤で,十二指腸内へ,経胃・空腸内に吸入ポンプを用いて直接持続投与する.やはり第64回米国神経学会年次総会にて報告があり,オフ症状を呈する進行期パーキンソン病患者において,同じ成分の即放性錠剤と比較し,オフ時間を短縮することが示された(4.04時間vs. 2.14時間;p=0.0015).日本でも2011年に第Ⅱ相臨床試験が開始された.胃瘻造設による留置アクセスチューブの挿入を必要とするため進行期のパーキンソン病患者向けの治療である.
2)rotigotine貼付剤
1日1回使用する唯一の非麦角系ドパミンアゴニストの経皮吸収型製剤である.24時間一定の血中濃度を維持し安定した効果が期待できる.手術で内服ができない,もしくは嚥下障害や消化器症状のため内服ができない場合などで重宝するものと期待される.
3)アデノシン2a(A2a)受容体拮抗薬
大脳基底核に局在するA2a受容体に対する拮抗薬は,基底核神経ループの異常を制御して運動症状改善をもたらすと言われている.国内で臨床開発されている薬剤として,イストラデフィリン(KW-6002)とプレラデナント(SCH 420814)がある.前者は2012年で国内でも治験が終了,現在,承認申請中.後者は第Ⅱ相臨床試験が進行中.オフ時間が延長した患者への新たな選択肢として期待されている.
4)モノアミン酸化酵素(MAOB)阻害剤
サフィナミドはドパミン分解酵素であるモノアミン酸化酵素の酵素活性を阻害することでドパミン神経系の活性を高めるとともに,グルタミン酸放出阻害やドパミン再取り込み阻害作用を介して,パーキンソン病症状に効果を発揮するとされている.L-dopaあるいはドパミンアゴニストによる治療で運動症状の変動が認められる患者を対象に上乗せ効果を期待する薬剤である.
5)抗ジスキネジア薬
ジスキネジア(抗パーキンソン病薬の服用に伴って起きる不随意運動)に対する治療薬の開発も進められている.代謝型グルタミン酸5型受容体の拮抗薬AFQ056やアドレナリンα2受容体拮抗薬フィパメゾールの開発が進められている.
3.まとめ
基本的に上記の薬剤は運動合併症(オフ症状やジスキネジア)の改善を目的とするか,これまでの薬剤に上乗せして補助的に使用するものである.今後,症状の進行を抑える根本的な治療薬,運動合併症の出現を可能な限り遅らせる治療薬,そして非運動症状(便秘や頻尿などの自律神経の症状,不眠などの睡眠障害,うつ症状などの精神症状,認知機能障害)に対する治療薬の開発が望まれる.
1.2012年に発売予定のパーキンソン病治療薬
1)アポカイン®皮下注30mg
アポモルヒネ塩酸塩水和物(商品名アポカイン®皮下注30mg)は,本年5月29日に薬価収載された薬剤.1993年に英国で承認されて以降,世界20カ国以上で臨床使用されている.非麦角系ドパミンアゴニストで,患者自身が専用の注入器を用いて自己注射する日本初のパーキンソン病治療用注射剤.オフ症状(薬剤の効果の持続時間が短くなり,パーキンソン症状が出現すること)を,注射後20分ほどで速やかに改善することから,オフ症状を一時的に改善するという「レスキュー薬」としての使い方が期待されている.ただし,注射後120分で効果が消失する(短時間作用型製剤である).内服薬剤をいろいろ調整してもオフ症状のコントロールが困難となり,脳深部刺激療法の検討が必要といった時期において選択肢となる薬剤である.海外のWEBサイトで様子を見ることができる.
2)レキップ®CR錠
非麦角系ドパミンアゴニスト徐放剤としては,すでにプラミペキソール徐放剤(ミラペックス®LA錠剤)が2011年4月に国内で上市されているが,ロピニロール徐放剤も海外ではすでに販売され,日本でも本年度中の承認,販売されるものと期待されている.1日1回の服用で安定した血中濃度推移を示すことが確認されており,服用回数を減らせることで患者の利便性が向上し,内服忘れも防ぐことができる.
2.最近の治験の状況
1)L-dopa製剤
① L-dopa徐放剤(IPX066)
L-dopa徐放剤はこれまでL-dopa剤より長く作用するため,オフ症状の軽減,短縮につながる可能性がある.2012年4月に行われた第64回米国神経学会年次総会にて,第Ⅲ相臨床試験(ASCEND-PD)の結果が報告された.オフ症状を呈する進行期パーキンソン病患者110名に対し,carbidopa・L-dopa合剤およびエンタカポン併用(日本未発売のスタレボ®)との比較が行われたが,IPX066は有意に日中のオフ時間を短縮することが確認された(23.98% vs. 32.48%, p<0.0001).
<font color="blue">②Duodopa(ABT-SLV187)
DuodopaはL-dopa/carbidopa合剤を4:1の割合で含む腸ゲル剤で,十二指腸内へ,経胃・空腸内に吸入ポンプを用いて直接持続投与する.やはり第64回米国神経学会年次総会にて報告があり,オフ症状を呈する進行期パーキンソン病患者において,同じ成分の即放性錠剤と比較し,オフ時間を短縮することが示された(4.04時間vs. 2.14時間;p=0.0015).日本でも2011年に第Ⅱ相臨床試験が開始された.胃瘻造設による留置アクセスチューブの挿入を必要とするため進行期のパーキンソン病患者向けの治療である.
2)rotigotine貼付剤
1日1回使用する唯一の非麦角系ドパミンアゴニストの経皮吸収型製剤である.24時間一定の血中濃度を維持し安定した効果が期待できる.手術で内服ができない,もしくは嚥下障害や消化器症状のため内服ができない場合などで重宝するものと期待される.
3)アデノシン2a(A2a)受容体拮抗薬
大脳基底核に局在するA2a受容体に対する拮抗薬は,基底核神経ループの異常を制御して運動症状改善をもたらすと言われている.国内で臨床開発されている薬剤として,イストラデフィリン(KW-6002)とプレラデナント(SCH 420814)がある.前者は2012年で国内でも治験が終了,現在,承認申請中.後者は第Ⅱ相臨床試験が進行中.オフ時間が延長した患者への新たな選択肢として期待されている.
4)モノアミン酸化酵素(MAOB)阻害剤
サフィナミドはドパミン分解酵素であるモノアミン酸化酵素の酵素活性を阻害することでドパミン神経系の活性を高めるとともに,グルタミン酸放出阻害やドパミン再取り込み阻害作用を介して,パーキンソン病症状に効果を発揮するとされている.L-dopaあるいはドパミンアゴニストによる治療で運動症状の変動が認められる患者を対象に上乗せ効果を期待する薬剤である.
5)抗ジスキネジア薬
ジスキネジア(抗パーキンソン病薬の服用に伴って起きる不随意運動)に対する治療薬の開発も進められている.代謝型グルタミン酸5型受容体の拮抗薬AFQ056やアドレナリンα2受容体拮抗薬フィパメゾールの開発が進められている.
3.まとめ
基本的に上記の薬剤は運動合併症(オフ症状やジスキネジア)の改善を目的とするか,これまでの薬剤に上乗せして補助的に使用するものである.今後,症状の進行を抑える根本的な治療薬,運動合併症の出現を可能な限り遅らせる治療薬,そして非運動症状(便秘や頻尿などの自律神経の症状,不眠などの睡眠障害,うつ症状などの精神症状,認知機能障害)に対する治療薬の開発が望まれる.