Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新しいパーキンソン病治療薬の情報

2012年06月17日 | パーキンソン病
今後,期待されているパーキンソン病治療薬(新薬)について勉強する機会があったので,ここで簡潔にまとめてみたい.

1.2012年に発売予定のパーキンソン病治療薬

1)アポカイン®皮下注30mg
アポモルヒネ塩酸塩水和物(商品名アポカイン®皮下注30mg)は,本年5月29日に薬価収載された薬剤.1993年に英国で承認されて以降,世界20カ国以上で臨床使用されている.非麦角系ドパミンアゴニストで,患者自身が専用の注入器を用いて自己注射する日本初のパーキンソン病治療用注射剤.オフ症状(薬剤の効果の持続時間が短くなり,パーキンソン症状が出現すること)を,注射後20分ほどで速やかに改善することから,オフ症状を一時的に改善するという「レスキュー薬」としての使い方が期待されている.ただし,注射後120分で効果が消失する(短時間作用型製剤である).内服薬剤をいろいろ調整してもオフ症状のコントロールが困難となり,脳深部刺激療法の検討が必要といった時期において選択肢となる薬剤である.海外のWEBサイトで様子を見ることができる.

2)レキップ®CR錠
非麦角系ドパミンアゴニスト徐放剤としては,すでにプラミペキソール徐放剤(ミラペックス®LA錠剤)が2011年4月に国内で上市されているが,ロピニロール徐放剤も海外ではすでに販売され,日本でも本年度中の承認,販売されるものと期待されている.1日1回の服用で安定した血中濃度推移を示すことが確認されており,服用回数を減らせることで患者の利便性が向上し,内服忘れも防ぐことができる.

2.最近の治験の状況

1)L-dopa製剤
① L-dopa徐放剤(IPX066)
L-dopa徐放剤はこれまでL-dopa剤より長く作用するため,オフ症状の軽減,短縮につながる可能性がある.2012年4月に行われた第64回米国神経学会年次総会にて,第Ⅲ相臨床試験(ASCEND-PD)の結果が報告された.オフ症状を呈する進行期パーキンソン病患者110名に対し,carbidopa・L-dopa合剤およびエンタカポン併用(日本未発売のスタレボ®)との比較が行われたが,IPX066は有意に日中のオフ時間を短縮することが確認された(23.98% vs. 32.48%, p<0.0001).

<font color="blue">②Duodopa(ABT-SLV187)
DuodopaはL-dopa/carbidopa合剤を4:1の割合で含む腸ゲル剤で,十二指腸内へ,経胃・空腸内に吸入ポンプを用いて直接持続投与する.やはり第64回米国神経学会年次総会にて報告があり,オフ症状を呈する進行期パーキンソン病患者において,同じ成分の即放性錠剤と比較し,オフ時間を短縮することが示された(4.04時間vs. 2.14時間;p=0.0015).日本でも2011年に第Ⅱ相臨床試験が開始された.胃瘻造設による留置アクセスチューブの挿入を必要とするため進行期のパーキンソン病患者向けの治療である.

2)rotigotine貼付剤
1日1回使用する唯一の非麦角系ドパミンアゴニストの経皮吸収型製剤である.24時間一定の血中濃度を維持し安定した効果が期待できる.手術で内服ができない,もしくは嚥下障害や消化器症状のため内服ができない場合などで重宝するものと期待される.

3)アデノシン2a(A2a)受容体拮抗薬
大脳基底核に局在するA2a受容体に対する拮抗薬は,基底核神経ループの異常を制御して運動症状改善をもたらすと言われている.国内で臨床開発されている薬剤として,イストラデフィリン(KW-6002)とプレラデナント(SCH 420814)がある.前者は2012年で国内でも治験が終了,現在,承認申請中.後者は第Ⅱ相臨床試験が進行中.オフ時間が延長した患者への新たな選択肢として期待されている.

4)モノアミン酸化酵素(MAOB)阻害剤
サフィナミドはドパミン分解酵素であるモノアミン酸化酵素の酵素活性を阻害することでドパミン神経系の活性を高めるとともに,グルタミン酸放出阻害やドパミン再取り込み阻害作用を介して,パーキンソン病症状に効果を発揮するとされている.L-dopaあるいはドパミンアゴニストによる治療で運動症状の変動が認められる患者を対象に上乗せ効果を期待する薬剤である.

5)抗ジスキネジア薬
ジスキネジア(抗パーキンソン病薬の服用に伴って起きる不随意運動)に対する治療薬の開発も進められている.代謝型グルタミン酸5型受容体の拮抗薬AFQ056やアドレナリンα2受容体拮抗薬フィパメゾールの開発が進められている.

3.まとめ

基本的に上記の薬剤は運動合併症(オフ症状やジスキネジア)の改善を目的とするか,これまでの薬剤に上乗せして補助的に使用するものである.今後,症状の進行を抑える根本的な治療薬,運動合併症の出現を可能な限り遅らせる治療薬,そして非運動症状(便秘や頻尿などの自律神経の症状,不眠などの睡眠障害,うつ症状などの精神症状,認知機能障害)に対する治療薬の開発が望まれる.

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パーキンソン病友の会新潟県支部 定期総会(薬の飲み方と効果的なリハビリ)

2012年05月21日 | パーキンソン病
パーキンソン病友の会新潟県支部の定期総会に参加しました.例年,個別医療相談や病気に関する講演を担当させてもらっていますが,今年は若年性パーキンソン病の患者さんおふたりとのトークショーでした.初めての試みでどんなことになるのかしらと少し心配でしたが,まさに杞憂で,とても楽しい時間を過ごしました.話題になったのは大きく分けて3点で,抗パーキンソン病薬の飲み方,主治医とのつきあいかた,良いリハビリ方法の3つでした.とても参考になったのでご紹介したいと思います.

1.抗パーキンソン病薬の飲み方
興味深かったのは,内服のタイミングと食べ物の影響についてでした.内服のタイミングは「空腹時に内服すると早く吸収され早く効く一方,効果が切れるのは早い.逆に,食後に内服するとゆっくり吸収されて効き始めには時間がかかるが,効果は長くつづく」傾向があることはよく知られています.でも場合によってはその中間の食事中に内服するという方法もあること(なるほど,両方の中間になるということかな).

また薬との組み合わせで注意する食べ物として例に上がったのは,アボガドとバナナ.知らなかったので調べてみると,アボガドに含まれるビタミンB6(ピリドキシン)はL-DOPAの分解を促すそうで,たくさん食べ過ぎると効果が落ちることもあるようです(アボガドの食べ過ぎに注意).またL-DOPAは酸に溶けて吸収されるので,グレープフルーツやレモン,みかんなど柑橘類とかジュースと一緒に取るのは吸収を促しますが(季節,季節の柑橘類を探すのは楽しいとのこと),バナナやバナナジュースは相互作用のためL-DOPAの血中濃度を下げてしまい,症状を悪くしかねないようです.

2.主治医とのつきあいかた
診察室に入るのは一人が良いか家族と一緒が良いか,診察室で言いたいことをすべて言えずに残念に思うことがあるがどうしたら良いか,いうご質問がありました.前者については病気のことをご家族にも理解していただくことはとても大切なことなので,毎回でなくてもよいので一緒に入っていただくことが良いのでは,後者については主治医に伝えたいことを日頃メモに取っていただいて,それを持参することが良いのではとお伝えしました.その他,主治医とゆっくり話をするには診察予約の最後の順番にしていただくと良いとか,主治医にオフの症状を見ていただくことも時に大切であるというお話もありました.

3.リハビリテーションについて
ノルディックウォーキングとカラオケが良いという話になりました.ウィキペディアによるとノルディックウォーキングは2本のポール(ストック)を使って歩行運動を補助して,運動効果をより増強するフィットネスエクササイズの一種で,もとはクロスカントリーの選手が,夏の間の体力維持・強化トレーニングとして,ストックと靴で積雪のない山野を歩き回ったのがはじまりだそうです.背筋が伸びるし,オフの際にも歩きやすくなるなどの効用があるようです.リハビリ用のポールがあり,ポールの長さの調節が必要であること,肘が90°の角度になるようにすること,着地は踵からつくことなど実演もありました.またカラオケはパーキンソン病の症状のsmall voice(小声)にはとても有効だそうです.とくにAKBやラップなど(!)少し早口の歌も効果が高いとのこと.元気も出そうですしね.

トークショーの後に,腰痛とむずむず脚症候群についての講演とブレインバンクのご案内,そして個別医療相談をさせていただきました.和やかで終始笑顔が絶えない楽しい午後となりました.

最後にとても役に立つ本とホームページをご紹介します.

オン・オフのある暮らし―パーキンソン病をしなやかに生きる
今日のゲストのおひとかたを含む,若年性パーキンソン病の3人の素敵な女性たちがご自分の経験をもとに情報をまとめた本です.病気とのつきあいかた,暮らしの工夫,衣服の工夫,食べ物,書く話す,お出かけ・趣味,運動,薬,介護など情報満載で患者さん,家族,医療関係者にもオススメです.

明るく生きるパーキンソン病患者のホームページ
患者さん,家族の情報スペース.充実しています.

ノルディックウォーキング(happyさんのブログです)
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パーキンソン病のバランス障害のリハビリ法として太極拳が有効!

2012年02月12日 | パーキンソン病
パーキンソン病におけるリハビリとして,すくみ足が強くて歩けない人でもエアロバイク(自転車こぎ)は難なくできるといった,ときとして驚くべき方法が報告されるが,今回,それと同じぐらい驚いた報告がNEJM誌に掲載された.4大運動症状のうち,有効なリハビリ方法がまったくなかった姿勢反射障害(バランス障害)に対し,太極拳が有効という報告である.

「太極」とは,中国の哲学書『易経』の言葉で,陰と陽の対立とか,矛盾,混沌といったものを統一し,中道に生きることが大切であるという教えである(例えばときどき見かける☯マークは,陰と陽の魚が太極(円)のなかに存在するという大極図である).この東洋哲学の重要概念である太極思想を取り入れた拳法が太極拳である.緩やかで流れるような,ゆったりとした套路という動きは,正しい姿勢・バランスや重心の運用法を身につけるのに役立つ.

つぎに姿勢反射障害について.ひとは倒れそうになると,姿勢を反射的に直して倒れないようにする反応が備わっている.しかし,パーキンソン病患者さんでは,この反応が障害されている.日常生活で問題になるのは,洗濯物など高いものを取ろうとして手を伸ばした時,椅子から立ち上がるとき,逆に座るとき,ドアを引いて開けるとき,タンスの引き出しを開けるときなど,重心が後方へ移動し後方へ転倒してしまう(このような動作を行うときは注意したり,症状の程度によっては避けるよう生活指導することが大切).障害が高度になると,立位時や歩行時にも転倒が生じる.診察方法としてはpull testがある.前述したように,姿勢反射障害に対する有効なリハビリプログラムの報告はこれまでなかった.しかし,少数例の検討で,太極拳は有効であるという報告がなされていた.

今回,米国オレゴンにおいて,太極拳がパーキンソン病患者さんの姿勢反射障害に対して有効か調べたランダム化比較試験が報告された.対象は195名のYahrステージ1~4度のパーキンソン病患者さんで,①太極拳群,②レジスタンス・トレーニング群,③ストレッチ群の3群のいずれかに割りつけた.レジスタンス・トレーニング群は,体幹と足の筋トレを行う群で,おもりを徐々に増やしながら姿勢や歩行の訓練を行う.ストレッチ群は軽めの運動を行うコントロール群的な役割を果たす.60分間のトレーニングを週2回,24週間にわたって行う.主要評価項目はdynamic posturography を用いたlimits-of-stability testにおける①8方向への最大重心移動と②運動の正確さの改善度である.そして副次的評価項目として,歩行や筋力,パーキンソン病統一スケール(UPDRS)の運動スコア,転倒回数などを調べている.

さて結果であるが,主要評価項目に関して,最大重心移動は,太極拳群はレジスタンス群より5.55 percentage points(95%信頼区間1.12~9.97),ストレッチ群より11.98 percentage points(95%信頼区間7.21~16.74)良好であった.運動の正確さも,太極拳群はレジスタンス群より10.45 percentage points(95%信頼区間3.89~17.00),ストレッチ群より11.38 percentage points(95%信頼区間5.50~17.27)良好であった.さらに副次的評価項目も,太極拳群はすべての項目においてストレッチ群より良好で,レジスタンス群と比較しても歩幅や身体機能が優れていた.転倒については,太極拳群はストレッチ群より有意に少なくなった.太極拳の効果は介入修了後3ヶ月間持続した.重篤な合併症は認めなかった.問題点としては詳しいメカニズムについては不明ではあること,研究デザインに無治療対照群がないこと,介入方法のマスク化ができないこと,パーキンソン病がオンの状態においてのみ評価が行われたことがあげられる.

以上,太極拳は軽症から中等症のパーキンソン病患者さんのバランス障害や転倒を軽減すること,身体機能を改善することが分かった.太極拳は調べてみるとパーキンソン病のリハビリ目的に国内でも行われているようだ.これから導入を試みるべき方法のようだ.

注意点:太極拳リハビリには安全には注意が必要です.まず安全(転倒防止)のために椅子に座って行うばきです.ただしパーキンソン病患者さんでは椅子に座っていても身体が傾いて,そのまま椅子から転落するということもあるため,必ず肘掛けのある椅子に座って行うなど転倒防止には十分注意をする必要があります(饗場郁子先生,ご助言ありがとうございました).

Tai Chi and Postural Stability in Patients with Parkinson's Disease
N Engl J Med 2012; 366:511-519

You Tube動画(本論文とは異なるSan Diegoの取り組みの紹介)
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本邦パーキンソン病におけるcamptocormiaの頻度

2012年01月02日 | パーキンソン病
Camptocormia(腰曲がり)は,パーキンソニズム(パーキンソン病や多系統萎縮症)において少なからず報告されている.詳細は過去の記事も参照していただきたいが,腰曲がりの角度は,通常のパーキンソン病症例で認められるものより大きく,歩行などのADLへの影響も目立つ.治療法の確立が望まれる神経症状である.

今回,本邦のパーキンソン病症例におけるcamptocormiaの合併頻度,および臨床的特徴を検討した多施設共同研究が報告されたので紹介したい.これまでパーキンソン病の多数例を対象とした疫学調査は乏しく(*),貴重な報告である.

*海外の報告で,3%~12.7%との報告はあるそうだが,報告によりばらつきがあるのはcamptocormiaの定義の差も影響していると考えられる.

方法としては,慶応パーキンソン病データベース(Keio PD database)に,2009年から2010年にかけて登録されたパーキンソン病患者を対象とした.camptocormiaの定義は,立位や歩行時における胸腰椎の前屈が45°以上で,臥位になると消失するものとした.性別,発症年齢,罹病期間,重症度,内服量(すべての抗パーキンソン剤のL-DOPA換算量,L-DOPA量,ドパミン作動薬量),内服期間,非運動症状の数,運動合併症,自律神経症状,REM睡眠行動障害,認知症等の有無である.

さて結果であるが,対象は531名(男性255名,女性276名)で,発症年齢は64.8±10.2歳,罹病期間は7.0±5.5年であった.問題のcamptocormiaは22名(4.1%)で認められた.前屈の角度は80°まで認められ,camptocormiaを認める症例の平均は58.3±15.2°であった.Camptocormiaはパーキンソン病の発症後,6.2±5.2年で出現していた.4例では脊椎の手術の既往あり.1例でのみL-DOPA内服が有効で,残りの症例は内服治療が無効であった.

次にcamptocormiaの合併を認める症例と認めない症例に関して,上述の評価項目を比較した.この結果,有意差を認めたのは,年齢(76歳vs 71歳),罹病期間(8.4年vs 6.9年)運動症状が重症であることで(UPDRS-IIIスコア 17.4 vs 11.3),かつ抗パーキンソン剤内服総量(561.0 mg vs 415.0 mg)とL-DOPA内服量(454.5 mg vs 328.2 mg)も多かった.また自律神経症状のなかで重症の便秘と尿失禁の頻度も有意に高かった.

さらにcamptocormiaの重症度による臨床像の比較も行なった.つまり角度が45~60°の群(11名)とそれより高度な群(11名)を比較している.高度群では運動症状(Yahr分類,UPDRS-IIIスコア)がより重症であったが,その他については有意差を認めなかった.つまりcamptocormiaの重症度は年齢や罹病期間,内服量とは無関係である可能性が示唆された.

以上より,camptocormiaは頻度の高い神経症候ではないこと,また臨床的特徴として,重症の運動症状と多いL-DOPA内服量が認められた.この2点については想像に難くはないが,自律神経症状の合併頻度が高いことが明らかになった点は興味深く,治療やケアを考える上で重要である.治療については抗パーキンソン剤の効果は乏しく,camptocormiaの機序としてドパミン系以外機序の関与が示唆された.

Mov Disord 26; 2567-2571, 2011




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本当にパーキンソン病においてレストレスレッグス症候群の合併は多いのか ―どうもNoらしい―

2011年12月13日 | パーキンソン病
パーキンソン病(PD)とレストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群;RLS)は,臨床症候はまったく異なる疾患であるが,ドパミン系を刺激する薬剤が有効であるという共通点がある.近年の研究の結果,「特発性RLSを罹患することは,将来,PDを発症する危険因子ではない」と考えられている.一方,「PDでは健常者と比較し,RLSの有病率が高い」という報告が世界各国より相次いだ.PD患者におけるRLSの有病率を紹介すると,アジアでは3~16%,ヨーロッパでは11~24%,米国では約20%と報告されている.しかし,この理由については議論があり,単純にPDでは症状としてRLSを合併しうるという可能性と,L-DOPAやドパミンアゴニストを内服した結果,augmentation(決まった日本語訳はないが,薬剤を内服しているうちにむずむず症状が増強してくる現象)が生じ,潜在的なRLS患者が症状を呈するようになる可能性の2つが指摘されている.いずれが正しいのか明らかにするためには,抗パーキンソン病薬の影響の除外が不可欠であり,抗パーキンソン病薬内服開始前の症例を対象として,RLSの頻度を検討することが有用と考えられる.しかし既報の研究はいずれも進行期の症例を対象としたため,すでに抗パーキンソン病薬を内服している症例を対象とした報告であった.今回,紹介するノルウェーからの論文は,抗パーキンソン病薬内服前の患者と,年齢・性別をマッチさせた対照群におけるRLSの有病率の頻度と,その影響因子を検討したもので,上記問題に重要な示唆を与えるものである.

方法は,抗パーキンソン病薬未服用のPD症例200名と,173名の対象群に対して,むずむず症状に関する問診・診察,血液検査を行った.対象は全例白色人種であった.RLSの診断はIRLSSGの診断基準(urge to move legs, worse at rest, worse at night, motor reliefの4項目のすべてを満たす)に従った.またurge to move legs(下肢の不快感により,下肢を動かしたいという衝動を呈する状態)を認めるものの,診断基準を満たさない場合をleg motor restlessness(LMR)と定義し,これについても検討した(この点がこの論文のミソである).

さて結果であるが,PD群では対象群と比較し,LMRの頻度が有意に高かった(81名,40.5% 対 31名,17.9%;p < 0.001).次にRLSの診断基準を満たした症例については,PD群で対照群と比較し多かったが(31名,15.5% 対 16名,9.2%),有意差は認めなかった(p = 0.07).RLSの診断基準を満たした症例からRLS mimics症例(RLSに似た症状を呈しうる他の疾患が原因である症例のこと;例えば,抗うつ薬・抗精神病薬内服,フェリチン低値,ポリニューロパチー,神経根症,関節炎など)を除外すると,RLSはPD群で21名(12.5%),対照群で12名(6.9%)となり,やはり有意差を認めなかった(p = 0.08).このことから2つの疾患は偶然合併したという結論になる.またLMRについてはPD群で26名,対照群で10 名という結果になった.RLSに関しては,PD罹患は相対危険度は1.76(95% 信頼区間;0.90-3.43, p = 0.089)で有意差なし,しかしLMRについては2.84(95% 信頼区間;1.43-5.61, p = 0.001)で有意差が見られた.PD症例で,RLSないしLMRを認める群と認めない群を比較すると,睡眠障害やうつは有意に多かったが,血液検査や運動症状,認知機能に関しては差を認めなかった.以上より,薬剤非内服の発症初期PD症例は対照群と比較し,RLSの危険率には有意な増加は見られないが(!),LMRについては危険度がほぼ3倍増加することが分かった.


ではなぜRLSには差がないにもかかわらず,LMRでは差が生じたのか?つまり,この乖離は,RLSとLMRは同一のものではないということを示唆する(同一であれば,RLSも増えるはず).つまり可能性として,LMRの原因はRLSとは限らず,PDに伴う下肢の異常感覚やアカシジアが含まれているのではないかということになる.PDに伴う異常感覚(paresthesiaやdysesthesia)はoff時に起こり,内服によるon時に軽快する特徴がある.すなわち,筋トーヌス亢進や痛みに対するドパミン作動性の制御が病態に関与している可能性が指摘されている.事実,進行期PDにおけるRLS有病率を研究したオーストリアからの報告では,RLSを認める症例の61%では,urge to move legsと異常感覚はoffに生じていた.すなわち,wearing offを認める症例のurge to move legsや異常感覚は,offで動けないことによりRLS症状が増悪する可能性(worse at rest)と,RLSとは無関係のPDに伴う異常感覚がoff時に増悪した可能性の両者があるわけである.両者の鑑別は難しいが,RLSでは特徴的な行動(動きまわるなど)を示すため,ビデオモニタリングが鑑別に有用である可能性はある.

Increased risk of leg motor restlessness but not RLS in early Parkinson disease. Neurology 77; 1941-1946, 2011

http://www.neurology.org/content/77/22/1941.abstract


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パーキンソン病における「痛み」についてのアンケート調査

2011年10月22日 | パーキンソン病
上記タイトルのアンケート調査をまとめた冊子を著者のおひとりからお送りいただいた.非常に示唆に富む内容で,パーキンソン病(PD)患者さんの診療に有益な情報と思われるのでご紹介したい.なおWEB上でもダウンロードが可能なので,関心のある方はぜひご一読頂きたい.

まずこの研究が行われた背景は,PD患者同士の会話で,痛みが強いので主治医に相談したものの,「PDには痛みがない」と言われ,訴えに耳を傾けてもらえないようなことが少なからずある,つまりPDにおける「痛み」が症状として理解されていないのではないかということが話題になったそうだ.一人の患者さんの言葉がアンケートの末尾に記載されているので引用したい.「なぜ医師は『痛みはないはずだ』というのだろうか.こんなにも大勢の人が痛みを訴えているのにどうして認めてくれないのだろう」

アンケートについてまとめてみる.方法はPD友の会におけるアンケート用紙の手渡しとインターネット・ホームページ上の配信で,回収率は68%.回答総数は27都道府県にわたる502人(男性211人,女性291人).発症後10年未満の患者さんが53.6%であった.痛みの部位は全身を14の部位に分けて記載してもらった.

さて結果であるが「痛みあり」と回答した人はなんと389/502=77.5%!(男性72.5%,女性81.1%).部位は腰部が圧倒的に多く,63.2%の患者さんは腰痛を訴えていた.ついで腕,背中,肩が同数であった.痛みの箇所も複数みられることが多く,70歳代で痛みのあった人(112人)では平均3.2箇所,40歳代(32人)でも平均4.8箇所と多かった.

痛みがひどくなる状況は,薬が切れた時が最も多く64人,ついで同じ姿勢でいるときや立っている時が45人,朝起きた時が28人,からだの曲がり・姿勢異常13人,寝不足・疲れのあるとき13人,常に痛いが11人であった.ジスキネジアは3人であった.

痛みのあるときの対処法は,シップ58人,マッサージ56人,動かない・横になる・じっと耐える・コルセットが55人,ストレッチ・リハビリ・カイロプラクティス・指圧が44人,温める・ホカロン・カイロ・風呂が23人,痛み止め20人,パーキンソン病治療薬14人であった.

著者らは考察として,痛みの頻度は4人に3人と多く,PDの症状としてもっと注目すべきであること,非運動症状の中でも主要症状と考えて良いこと,病歴の短い患者さん・若い患者さんでもみられる症状であること,腰痛は加齢で生じる腰部の合併症にPDに伴う姿勢異常が関与して生じている可能性があることを考察している.

最後に個人的に気がついたことを述べたい.まず痛みの出現する時間は,痛みの原因や治療を考える上で大きなヒントになると思われる.
「薬が切れた時」の痛み → パーキンソン病自体に伴う痛み → オフ時間を減らす抗パーキンソン病薬の調節を行う.
「朝起きた時」の痛み → 朝のオフ症状に伴う痛み → 早朝のL-DOPA内服,もしくは眠前長時間作用するドパミンアゴニストの内服.
「同じ姿勢でいるときや立っている時に痛み」が起こる機序は何であるのかよく分からなかった.「からだの曲がり・姿勢異常」については,一部,抗パーキンソン病薬の増量で軽減する患者さんも経験的にはいらっしゃるので検討しても良いかもしれない.「寝不足・疲れ」はパーキンソン症状自体も増悪させるので生活指導や不眠に対する治療を行う必要がある.

痛みの対処法としてさまざまな工夫が行われていることが分かる.どうすれば痛みを軽減できるのかヒントが含まれているように思う.マッサージ,コルセット,ストレッチ,温める,といったことは痛みで困っている患者さんにお薦めしてもよさそうである.

いずれにしても「痛み」は,患者さんのQOLやADLに運動症状と同等,場合によってはそれ以上の影響を及ぼすことをよく理解する必要がある.


パーキンソン病における「痛み」についてのアンケート調査
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MDSJ 2011@東京

2011年10月09日 | パーキンソン病
毎年楽しみにしているMDSJ(パーキンソン病・運動障害疾患コングレス)に参加した.例年,この学会のことはブログに書いているが,朝から夜までみっちり勉強をさせていただける(イブニングビデオセッションのある2日目は21時半までかかった).今年は仲間とともに取り組んでいる「多系統萎縮症の治療と予後」について講演させていただく機会もいただけたし,充実した3日間であった.印象に残ったことをまとめてみたい.


パーキンソン病の発症機序は「多因子遺伝+環境要因」.GWAS(genome-wide association study)の結果,多くの疾患感受性遺伝子が見つかったが,そのオッズ比は環境要因(農薬,井戸水など)と同等.むしろ環境要因のほうが大きい.メカニズムの理解も進んで,農薬の代表であるロテノンはαシヌクレインS129残基のリン酸化を促進することも報告された.環境要因と遺伝要因は別個に作用するのではなく,密接に関連している可能性もある.

グルコセレブロシダーゼ遺伝子(ゴーシェ病の原因遺伝子)がパーキンソン病の疾患感受性遺伝子となる機序として,細胞内のαシヌクレイン蓄積作用が有力視されている.

常染色体劣性遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子産物PINK1は同じく原因遺伝子産物のParkinの上流に存在し,mitophagy(ミトコンドリアのオートファジーのこと)に関与する.障害を受けたミトコンドリアにPINK1が結合し,parkinを呼び集め,例えば基質としてmitofusin1,2をユビキチン化し,プロテアソーム分解をもたらす.つまり2つの遺伝子の変異はmitophagy不全の結果,ダメージを受けたミトコンドリアの蓄積をもたらすことがわかった(ただし患者剖検脳病理で異常ミトコンドリアの蓄積像が認められておらず,まだウラはとれていない).

パーキンソン病におけるdrug-induced dyskinesiaについて.Peak dose dyskinesia,diphasic dyskinesia,off time dystoniaの3つがある.Peak dose dyskinesiaは頸部・上肢に多いのに対し,diphasic dyskinesiaは下肢に多い.Peak dose dyskinesiaは舞踏運動を呈するのに対し,diphasic dyskinesiaはdystonia, balismus様である.Diphasic dyskinesiaに対するエビデンスのある治療はまだない.理論的にはなるべくL-DOPA濃度を一定に保つことがよさそうだが,実際にはL-DOPA内服回数を増やしたほうが良い人(濃度の一定化を目指す)と,逆に減らしたほうが良い人がいる(dyskinesiaの起こりうる頻度の減少を目指す).Off time dystoniaは早朝に多く,治療としては眠前のアゴニスト,早朝のl-dopa.

すくみ足は狭い所では増強するので,患者指導の一つとして,台所などの狭い場所では,床においてある物をできるだけ片付けて歩きやすくすると行った工夫をしてもらうと有益.

今後,パーキンソン病においても軽度認知症:mild cognitive impairment(MCI)の研究が進む.つまりPD-MCIという概念が導入される.診断基準もMovement disorder society(MDS)から近く公表される予定とのこと.

新規アルツハイマー病治療薬メマンチンはPDD/DLBでも有効という報告がある.

ドネペジルにはパーキンソン病の転倒を有意に減少させるという報告がある.ただし疑陽性の可能性もあり今後の検証が必要(単に注意障害の改善があったのかもしれない).

現在,多くの薬剤の治験が進行中であり,このことはぜひ患者さんにGood newsとして伝えて欲しい.例えばL-DOPA徐放剤,アポモルフィン皮下注・吸入薬,ロチゴチン貼付剤,プレラデナント,抗ジスキネジ薬AFQ056, Fipamezoleなど.一方,disease modifying drug(症状の進行を抑える薬剤)は現状では開発されておらず,今後に期待したい.

CBDとPSPいずれも多様な表現型をとる.CBDに特徴的と思われる一側上肢の高度の筋強剛・ジストニアによる高度の拘縮でさえ,CBDに特徴的な臨床所見とは言えない.

Menkes病と同じ原因病因遺伝子ATP7Aの変異で,残存活性がMenkes病よりも保たれているOccipital horn disease(OHD)という疾患がある.結合織に異常が見られ,後頭骨の下向きに角のような骨性の結合織が生えてくる.その他,失調や関節変形,膀胱憩室などを呈してくる.

Wilson病の治療薬で,Dペニシラミンの問題点は「治療開始初期に症状の増悪」である.一過性でなくそのまま改善しないこともある.このため近年は銅吸収抑制作用のある亜鉛を治療に用いる方が良いと考えられている.

PKAN(Pantothenate kinase-associated neurodegeneration;かつての Hallervorden-Spatz syndrome)は,その原因遺伝子産物PANK2が全身にあるにも関わらず,鉄代謝異常が障害を及ぼすのは神経組織のみ.その機序は今も不明.

新しい常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症SCA36の日本からの報告.原因遺伝子NOP56の非翻訳領域の6塩基GGCCTGリピート伸長により発症.失調は比較的軽いが,下位運動ニューロン徴候(舌,四肢近位筋)を呈する点が特徴.舌の萎縮・線維束性収縮は必発とのこと.

パーキンソン病やDLBに認める幻視は,ひと,とくに子供の姿であることが多い.面白い事に,東北地方の「座敷わらし伝説」は,これらの疾患におけるこの症状を示していると言う先生もいるそうだ.

パーキンソン病のバイオマーカーとして研究が進められた髄液中αシヌクレイン濃度が,報告によってバラバラであったのは,髄液サンプルにおける血液のコンタミネーションが大きな要因であることが判明している(αシヌクレインは赤血球中に多量に含まれる).またELISA測定系に用いた抗体が報告により異なっていたことも関係したかもしれない.これらの問題を排除しきちんと測定すると,αシヌクレインはPDにおいて減少する.しかし髄液αシヌクレインでPDとMSAの鑑別はできない.髄液αシヌクレインのオリゴマーは逆に増加する.早期診断マーカーになる可能性がある.

PDの嗅覚障害はL-DOPAで改善しない.MSAと比較しても高度である.嗅球でチロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性細胞が増えている.しかしTH陽性細胞はαシヌクレイン陽性になっていない.

DLBのうつには,「激越,焦燥,興奮タイプ」と,「アパシー,アンヘドニアタイプ」の2つがある.SPECTでは全例で後頭葉の血流低下があるわけではないので注意が必要.

DLBの精神症状として,有形幻視,実態意識性(姿は見えないが視野の外に気配を感じる),Capgras症状(親しい人が瓜二つの偽物に入れ替わっている),単純性人物誤認(別な人と間違える),幻の同居人(二階に知らない人が住んでいる),実際にはいない身内が家にいる,重複記憶錯誤(本来一つのものが複数存在する),物体誤認(錯視;物を人に間違える.もしくは逆に人を物に間違える)といったものがある.これらをクラスター解析で大別すると「幻覚」「誤認」「妄想」という3つの範疇にわけられる.

DLBの認知障害はアルツハイマー病と比べると病識があり,繰り返し説明すると理解が可能.例えば幻視についての訴えが頻回な場合は,「見えていても声(幻聴)が聞こえなければ悪さはしないので大丈夫」と繰り返すと,納得されて訴えが減ってくる.本人や介護者が幻視を触ってみると消えることも多い.

DLBの誤認に対してはドネペジルは必ずしも効かない.誤認を起こしやすいものがあれば生活の場から取り除く(例えば絨毯の模様を単純なものにしたら訴えが減るなど).
誤認は幻覚ではない,しかし病的な記憶の障害があり,感情が絡んでいるので叱らないようにする(叱ると増悪する).人物誤認は介護者にとっても心理的負担が大きい.

特発性REM睡眠行動障害(iRBD)について.圧倒的に男性に多い.10~20年でPDになることが半数以上で認められる(MSAになることは少ない).中脳・橋被蓋の萎縮を認める症例がある(35%).テンソル画像でも異常が見られる.頭頂後頭葉の血流低下が見られ, DLBの前段階と言える所見.血流低下は経過に従い,進展・拡大していく.

パーキンソン病・運動障害疾患コングレスのビデオセッションは延々21時半まで続いた.不随意運動のプロの先生方がビデオの所見をどう表現し,どう解釈するか興味津々(必ずしも一致せず,不随意運動の見方の難しさを改めて実感する).NMDAR抗体陽性脳炎の2歳児例や,ataxia telangiectasiaの激しい小脳失調とミオクローヌス,頭頂葉病変由来の失調症(parietal ataxia),顎の脱臼後に出現した舌ミオキミアなど勉強になりました.当科の若手のホープ三浦先生の発表(ビタミンB1欠乏にて生じたpainful legs and moving toes)も実に堂々と見事だった(14の演題のなかから来年の世界MDSビデオオリンピックに出す演題を3つ決めるとのこと).

顔面の不随意運動について.眼瞼痙攣の誘発には,軽瞬テスト(軽いまなたき),強瞬テスト(力を入れた瞬き),速瞬テスト(速い瞬き)での開眼しにくさの確認が有用.

眼瞼痙攣では,眼瞼弛緩症(まぶたの皮膚が伸びている)の有無は重要.病歴が長い症例や高齢者で目の皮膚が伸びていと眼瞼痙攣を直しても自覚的改善が不十分となる.

開眼(瞼)失行では,スパスムがはっきりしなくてもボトックスの聞く人が少なからずいるのでボトックス治療を行う.

閉瞼失行という稀な病態もあり,パーキンソニズムや脳梗塞に伴い生じる.開眼できないため前頭筋を使う.

反側顔面攣縮(神経学会の正式用語)は,顔面神経障害で一側に生じる.眼瞼攣縮はジストニアであり,両側に生じる.

ベル現象は,閉眼の時,眼球が上方にのみ行くとは限らない.

ボトックス注射の合併症の眼瞼出血は,臥位注射を行なって皮下出血をしたらすぐに起こして圧迫すれば止まる.臥位のままにしておくと広がりやすい.

Eyelid myokimiaは他覚的には僅かな動きだが,自覚的には訴え大きい.

舌ジストニアとジスキネジアの鑑別は,定型性やタスク特異性があるのはジストニアと考える.

心因性不随意運動の診断は除外診断ではなく,陽性診断に基づいて行うべき.心因性不随意運動は障害が大きく,慢性化すると障害強く予後不良.しかし治療は精神療法や抗うつ薬を用いるが一筋縄ではいかない. 精神科医との連携必要.治療効果の判定は今後,RCTが必要になる.

心因性不随意運動に関連して,これまで「精神ぬきの神経学」と「肉体ぬきの精神学」が進められてきたが,そろそろ両者のすり合わせが必要だと思われる.

心因性不随運動における舞踏運動は稀(ただしハンチントン舞踏病の家族などでは起こりうる).

心因性ジストニアは長く心因性疾患と誤診されてきたが,事実,神経疾患との鑑別は困難.固定ジストニア(fixed dystonia)は心因性であることが多い(二次性のもので,CBDでは起こりうる).心因性振戦は最も多いタイプで突然出現する.

遅発性ジスキネジア,ジストニアについて.ジスキネジアは四肢や頭部の舞踏病様運動.D2遮断作用が強い薬剤でジスキネジアを生じやすい(リスペリドン,ハロペリドール).逆に受容体に結合してもすぐ離れるものは起こしにくい.5HT2A受容体遮断作用を併せ持つものも起こしいくい(クエチアピン,クロザピン).

ジストニアの内服治療の理論的背景
可塑性の改善・・・・アーテン,L-DOPA
GABA機能障害・・・・セルシン,バクロフェン
症状を取るだけ・・・・ボトックス
精神の安定・・・・SSRI

恒例のCONTROVERSYはディベートである.本年は以下の4つのテーマに対して行われた.
1.孤発性PDは単一の疾患である
2.DLBは大脳に始まり病変は下降する
3.L-dopaはドパミン不足の症状に対していつまでも有効である
4.PANDASは独立した疾患群である
自分の考えによらずに,組織委員会に指定された側(Yes No)に立って意見を述べる.結論が出るわけではないがなかなか楽しい議論が聴ける.

来年は京都です.たくさんの不随意運動を見ることができる非常に勉強になる学会です.ぜひ参加を検討してみてください.

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若年性パーキンソニズムにおける妊娠・出産の経験

2011年06月19日 | パーキンソン病
パーキンソン病は通常,中年以降に発症し,高齢ほど発症率・有病率が増加する疾患である.40歳以下で発症した場合を「若年性パーキンソニズム」と呼ぶが,20歳代に発症することは稀である.よってパーキンソン病における妊娠・出産は少ない.

一方,現在,判明している若年性パーキンソニズムの最も頻度の高い原因は,Parkinという蛋白質をコードするparkin遺伝子の突然変異によって生じる(PARK2というタイプ分類される).通常のパーキンソン病と似て,筋強剛,寡動,安静時振戦を呈するが,下肢にジストニアを認めたり,levodopa治療によりジスキネジアが生じやすいという特徴がある.常染色体劣性遺伝形式で,20歳未満で発症する若年性パーキンソニズムにおいて,parkin遺伝子の突然変異は約80%と高頻度に認められる.よってパーキンソン病患者さんが妊娠・出産するとすれば,PARK2である可能性が高いことになる.しかしながら,調べた範囲では遺伝子解析にてPARK2と診断された患者さんにおける妊娠・出産の報告はない.よって,妊娠・出産時の治療をどのように行えば,母子ともに安全であるか十分に分かっていない現状である.

今回,われわれはPARK2遺伝子変異を有する常染色体劣性遺伝性パーキンソン病患者さん(ARJP/PARK2)の妊娠・出産を経験した.患者さんは20歳代後半の女性で,双胎妊娠であった(二重絨毛膜・二重羊膜双胎妊娠).妊娠前,不思議なことにパーキンソン症状は排卵と月経のあいだに増悪を認め,さらに妊娠後にも増悪がみられた.

治療としては,妊娠前はwearing offが強く,levodopa/carbidopa (450mg/day),エンタカポン(400mg/day),セレギリン (7.5mg/day),ロピニロール (1.5mg/day)による治療を行っていたが,妊娠後の器官形成期においては,levodopa/carbidopaを除く抗パーキンソン剤を減量・中止した.当然,これに伴いパーキンソン症状は増悪し,ADLも低下したが,この期間は入院しケアを行うことで対処した.器官形成期後は十分量の抗パーキンソン剤を使用し,治療を行った.幸い,元気な双子の男児が誕生し,2歳までの経過観察で精神・運動発達は良好である.授乳については母乳を介した抗パーキンソン剤が児に与える影響についてエビデンスが乏しく,人工乳を用いた.

今回の経験で,以下のことを学んだ.
1) ARJP/PARK2のパーキンソン症状は,性ホルモンにより影響を受ける可能性があること.エストロゲンは基底核におけるドパミン神経伝達に影響を及ぼすことが知られており,このことが影響したのかもしれない.一方で,妊娠に伴う薬物代謝の変動が関与した可能性もある.
2)児の奇形を防ぐためには計画妊娠を勧めたほうが望ましい.抗パーキンソン剤の児への影響は十分な情報がなく,比較的安全なlevodopa/carbidopaのみにより治療を行うことが望ましい.これに伴う症状の増悪に対しては,入院してのケアを行うなど,十分な身体的・精神的サポートを行う必要がある.
3)器官形成期以後,すなわち妊娠の継続,出産,育児においては,十分量の抗パーキンソン剤を使用し,対処していただく必要がある.

以上のように,ご本人と十分にコミュニケーションをとりながら,時期に応じた細やかな治療を行うことがとても大切であるものと考えられた.

Successful twin pregnancy in a patient with parkin-associated autosomal recessive juvenile parkinsonism
BMC Neurology 2011, 11:72

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L-DOPAの作用にアゴニストが与える影響 ―相加?相乗効果?―

2011年06月04日 | パーキンソン病
パーキンソン病の治療において,L-DOPAとドパミンアゴニストが主となる治療薬であるが,案外,二つの薬剤の相互作用は知られていない.すなわち,運動に対する効果は単純に2つの薬効の和でよいのか?それとも相乗効果が期待できるのか?逆にジスキネジアについては併用で相乗的に悪化するのか?そんな疑問に答える論文を病棟の抄読会で,若手の先生に教えてもらったので紹介したい.

米国オレゴン大学の研究である.特発性パーキンソン病患者さんで,wearing off現象とジスキネジアの合併を認める13名を対象としている.プラミペキソール(ビ・シフロール1mg,1日3回)内服群と偽薬群に分け,4週間内服後,L-DOPAを0.5および1.0 mg/kg/hで2時間点滴し,その効果を確認した.内服ではなく,L-DOPAを静脈注射しているのは,内服による吸収の影響を除去するためである.

主要評価項目はfinger-tappingの速度曲線(回/min)のAUC(area under the curve)を用いた(つまり,面積を用いてfinger-tappingの運動量を示し,無動の指標とした).副次評価項目として,薬効の持続時間,ONになるまでの時間,歩行速度,ジスキネジアのAUC.評価が終われば2群をクロスオーバーして再評価を行なっている.無作為化・二重盲検・偽薬対照・交差(交互)試験である.

結果として, L-DOPAとアゴニストの併用は単純に加算する以上に運動機能の改善をもたらし,L-DOPAに伴うジスキネジアも高度となった.なるほど,アゴニストを内服している場合,L-DOPAの効果は良くも悪くも強く出るということか.アゴニスト使用中にL-DOPAをアドオンする場合,運動改善効果とジスキネジア増悪作用がともに強く出る可能性を考え,うまくバランスを取るかたちに用量を決める必要がある.

Arch Neurol 67; 27-32, 2010 
Comments (2)
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脳深部刺激療法(DBS)を受けた患者に関するアンケート調査報告書

2011年05月01日 | パーキンソン病
全国パーキンソン病友の会(http://www.jpda-net.org/index.php)から標題の調査報告書をお送りいただいた.資料によるとDBSは,2010年までに施術数は7000件に及び,手術可能な施設数も32ヶ所とのことで,2000年の保険適応後飛躍的に増加している.現時点において,手術を受けた患者さん側から見た手術に対する問題点と満足度を明らかにすることは意義のあることである.本資料は,実際にDBSを受けた患者さんが術後どのように考えているかを知るとても貴重な資料といえる.

方法;アンケートにより行われ,有効回答数は232通.
(友の会会員を対象とし,かつ7000件と比較すると例数も少ないため,バイアスの存在は考慮する必要がある)

対象;重症度はYahr分類で3度以上が85%超.平均年齢66歳,ピークは66~70歳と予想以上に高い年齢であった.手術までの期間は発症10年以上が50%以上.

手術;視床下核が82%.手術を決意した要因で最多は「医師の勧め」(56%)であった.

効果;「振戦」は比較的長期にわたり改善される.「筋強剛,無動,すくみ,日内変動,不随意運動」については,5年以内はかなり改善が維持される.「易転倒,流涎,小声,書字困難,物忘れ」は効果乏しく,術後も進行する傾向が見られる.

術後の経過観察;神経内科医60%,脳外科医40%で,予想外に脳外科医が継続して診療をしている.患者会は,DBSを施行する病院を集約し,熟練した脳外科医による手術と,術後の神経内科医とのより良い協力関係を期待している.

満足度;とても満足16%,だいたい満足46%,やや不満29%,不満9%.
不満足の中身は「歩行は良くなったが物忘れが出てきた」など,症状は改善したものの他の症状が出現した,などが多い.

個人的には,①DBSを受けるかの決断には医師の影響が大きいことから,神経内科医はDBSの適応についてより熟知する必要があること,②高い満足度を得るためには,改善しうる症状としにくい症状をよく理解していただく必要があること,③術後管理法について神経内科医も理解し,より積極的に関与すべきであること,を感じた.
Comments (2)
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