Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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Movement disorders grand round@MDS international congress

2015年06月17日 | パーキンソン病
19th international congress of Parkinson’s disease and movement disorder @ San Diegoに参加している.びっくりするようなgrand round(症例検討会)が行われた.Stanley Fahn,Joseph Jankovic,Andrew Lees,Eduardo Tolosa先生といった運動障害疾患の領域の,まさに第一人者の先生方の問診・診察を見ることができたのだ!それも大勢の聴衆が見守る中,実際の患者さんが壇上に現れ,リアルタイムで問診・診察・診断の過程を見せるというものであった.日本ではこのような試みは思いもつかないが,多くの神経内科医に非常に良い経験になったと思う.エキスパートの先生方の和やかな問診が印象的で,また患者さん,ご家族の医学に貢献したいという気持ちも伝わってくるようだった.以下,議論された5疾患についてまとめる.

症例1:過去に何度ももの脳手術を行っているという28歳男性.L-DOPAが有効.診断はなにか?なぜ手術を受けたのか?

→中脳のVirchow Robin腔が多房性に拡張したものが占拠性病変となり,パーキンソニズムをきたした症例.血管周囲のVirchow Robin腔の拡大は経験するが,多房性となることは稀.調べてみたところGiant tumefactive perivascular spacesと呼ばれる病態で.以下のような画像を呈する.
tumefactive perivascular spaces

症例2:有痛性振戦,頸部筋力低下,不眠を主訴とする18歳女性.発作性ジスキネジア,良性舞踏病,ジストニア,脳性麻痺,ミトコンドリア病などがこれまで鑑別に上がっていたが,診断がつかなかった.画像異常なし,筋生検異常なし.診断はなにか?

→ADCY5(adenylate cyclase 5) 遺伝子変異による,familial dyskinesia with facial myokymia (FDFM)であった.常染色体優性遺伝の疾患で,早期発症,舞踏病様,ないしジストニア様のジスキネジア,眼や口部周囲のミオキミアを呈する.ポスターでは,良性遺伝性舞踏病(BHC)でTTF-1遺伝子陰性の症例のなかに含まれているという報告があった.以下,抄録

症例3: 46歳から片側のジストニア・パーキンソニズムが出現した66歳男性.当初L-DOPAが有効,画像上異常なし.L-DOPAの開始後5年後からジスキネジアとmotor fluctuationが出現し,7年前から増悪した.娘はDOPA-responsive dystonia,祖母は80歳代でパーキンソン病である.診断はなにか?

→GTP cyclohydrolase 1(GCH1)遺伝子保因者(pThr94Lys)であった.GCH1はチロシン水酸化酵素の補酵素で,テトラヒドロビオプテリン(BH4)の合成酵素の一つとして見つかった.GCH1遺伝子変異は中枢のドーパミン生合成低下をともなうジストニア,いわゆるdopa-responsive dystonia (DRD, DYT5 あるいは瀬川病)の原因である.ここで大事なのは,その遺伝子変異の保因者は,早発型パーキンソン病に類似するparkinsonismを呈しうるということである.近年の研究でGCH1はPDのlow risk susceptibility locusであることも分かっている.以下,参照

症例4:脳性麻痺と診断されていた43歳女性.強い眠気とジストニアを呈した.ずっと診断がつかなかった.髄液5HIAA,HVAは著明に低下.7,8 dihydroneopterin triphosphateが増加.L-dopa投与で症状が劇的に改善した.診断はなにか?

→脳性麻痺と誤診されることの多いSepiapterin reductase欠損症.この酵素はBH4の合成酵素である.L-DOPA投与で劇的な治療効果が期待できるため見逃さずに髄液検査,遺伝子検査で診断することが重要である.以下,論文へのリンク

症例5:バランス障害,姿勢時・運動時振戦を呈する73歳男性.進行性の小脳性運動失調(ただしspeechはほぼ正常).診断はなにか?

→Fragile X-associated tremor/ataxia syndromeである.FMR1遺伝子のCGG繰り返し配列が延長している.正常では50以下だが,FXTASでは50以上,脆弱X症候群では200以上に延長する.本例は99リピートで,頭部MRIでMCP(中小脳脚)サイン陽性,白質高信号を呈していた.


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第8回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス@京都

2014年10月04日 | パーキンソン病
「第8回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス」が10月2日から4日にかけて行われました.教育的な講演から最新のトピックスまであり,1日参加するだけでも幅広く勉強できる学会です.ビデオセッションも充実しています.美味しいディナーとワインをいただきながら,各自経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,不随意運動や診断・治療について議論するのは何とも贅沢です.エキスパートの先生方の意見を聞き,見るべきポイントが分かります(ただ,本家MDSのVideo Challengeもそうですが,最近,判明した新しい遺伝性疾患についての知識をupdateしておかないと診断を当てるのは難しいです.要勉強).来年は東京での開催ですので,ぜひ若手の先生はふるってご参加ください.
さて今年のイブニングビデオセッションの16症例一覧を記載しておきます.

1.水頭症に対するVPシャント後に以下の所見を呈した62歳男性.
輻輳眼振,上方視制限,見当識障害,発語障害.パーキンソニズム.画像はslit ventricle(脳室がスリット状に細くなっている所見).

診断:中脳水道狭窄症と,over shunt 後に生じたParinaud徴候

2.左上肢のゆっくりとした回内回外運動が持続する81歳女性.
3年の経過.左手指の運動障害にて発症.L-DOPA内服後,上記の異常運動が出現.左筋強剛と左肘の軽度の拘縮(hemiparkinsonism).右手指にはミオクローヌス.

診断:舞踏病アテトーシスを呈したCBS?

3.両上肢,腹部の電撃的な不随意運動を合併したMiller-Fisher症候群の35歳女性.
先行感染の1週後,失調歩行,手指しびれ,下肢脱力,構音障害,眼球運動障害(外転制限)と複視,腱反射消失を認め,さらに両上肢,腹部の電撃的な不随意運動を合併.GQ1b,GT1a,GD1b抗体陽性.

診断:脊髄性ミオクローヌスを合併したMiller-Fisher症候群+α(Stiff-person症候群の合併?新しいサブタイプ?)

4.動作時の下肢不随意運動を呈した33歳男性.
学童期発症.サッカーボールを蹴ろうとすると,足がガタガタして転んでしまう(動作時ミオクローヌス).お皿を運んでも投げてしまう.構音障害.Cherry red spotあり.レベチラセタムにてかなり改善.

診断:CTSA(カテプシンA)遺伝子変異を伴うガラクトシアリドーシス

5.上肢の振戦が主徴とした26歳女性.
書字困難,小歩症,顔のこわばり,軽度の筋強剛.T1強調画像で基底核および中脳が高信号.

診断:Wilson病

6.精神発達遅滞,てんかんを呈した2症例(9歳,25歳)

いずれも精神発達遅滞,てんかんを呈し,レット症候群様の手の常同運動,痙性,失調,パーキンソニズムを合併.頭部MRIでは,異常な脳内鉄蓄積.特徴的な中脳の異常信号(図のC;Am J Neuroradiol. 33:407-414,2012)

診断:β-propeller protein-associated neurodegeneration (BPAN).別名Static Encephalopathy of childhood with Neurodegeneration in Adulthood (SENDA).オートファジー遺伝子WDR45遺伝子変異,X連鎖優性(男性致死)



7.嚥下障害,歩行障害を呈した26歳女性.
いとこ婚を認める.ジストニアに伴う嚥下障害,歩行障害に対し,アーテン8mgおよびL-DOPAが有効.

診断:SRP遺伝子変異.Sepiapterin reductase欠損症(ビオプテリン合成に関わる酵素).脳性麻痺と誤診されることが多いが,L-dopa投与で劇的な治療効果があるため見逃してはならない(Ann Neurol. 2012;71:520-530)

8.翼状肩甲とパーキンソニズムを呈した51歳女性.
父類症.43歳から体幹筋の筋力低下,翼状肩甲,パーキンソニズム(筋強剛,仮面様顔貌).乏しい病識.筋生検でrimmed vacuoleあり.MRI上,大脳皮質萎縮.

診断:Valosin Containing Protein (VCP) 遺伝子変異を認めるInclusion Body Myopathy associated with Paget's Disease of Bone +/- Frontotemporal Dementia(IBMPFD).ミオパチー,前頭側頭型認知症,運動ニューロン病,パーキンソニズムを呈する.

9.頭頸部,振戦を呈した44歳女性.
MRI上,中脳,両側視床,脳梁後部,小脳に異常信号.

診断;Wilson病(5もそうであったが,振戦を主徴とし,画像も教科書的でないWilson病が存在することを認識すべきということか)

10.右下肢の規則正しいゆっくりとした不随意運動を呈した43歳男性.
上記不随意運動による歩行障害,言葉の出にくさ,全身けいれんを呈した.こども2人も転換.C-reflex陽性.抗GluR2抗体陽性.MRI頭頂葉異常信号.

診断:皮質性反射性ミオクローヌスを呈した(自己免疫性?)髄膜脳炎.

11.2歩行時に足がもつれる9歳女性.
生後3ヶ月からてんかん,幼児期から足のもつれ(運動誘発性ジストニア),IQ61,腱反射亢進,足クローヌス,髄液糖低下,ブドウ糖にて歩行障害は改善.

診断:グルコーストランスポーター1欠損症症候群(Glut1 deficiency syndrome).常染色体優性遺伝.90%にSLC2A1(GLUT1)遺伝子のヘテロ接合性変異(大多数がde novo変異).トランスポーター欠損のため,グルコースが中枢神経系に取り込まれないことにより生じる代謝性脳症.慢性低血糖状態が持続することによるてんかん,神経・精神的退行が進行する.通常,乳児期に診断されるが,この例のような軽症例では診断が遅れる.

12.転倒で顔面強打後,動けなくなった48歳男性.
転倒で顔面強打後,動けなくなった.垂直方向眼球運動制限,顔面と四肢の脱力,腱反射低下.しばらく体が動かなかったが,完全回復した.再発エピソードあり.

診断;glycine receptor α1 subunit (GLRA1)遺伝子変異を伴うhereditary hyperekplexia(遺伝性驚愕反応,びっくり病)

13.アテトーゼ様不随意運動を呈した糖尿病患者63歳男性.
もともと化膿性脊椎炎後遺症で寝たきり.顔面・上肢の発作性の短時間(2-3分の)アテトーゼ(ジストニア?),意識障害を伴う.

診断;原因不明(てんかん,低血糖,頸動脈狭窄に伴う血流低下などの可能性)


14.どもるようなしゃべりと記銘力低下をきたした37歳女性.
35歳にどもるような発語(口部ジストニア)にて発症.MMSE 17点.強制泣き・笑い,非典型パーキンソニズム,左錐体路徴候.MRI上,大脳白質病変,脳梁菲薄化.CT上,石灰化病変多発.

診断;colony stimulating factor 1 receptor (CSF1R)遺伝子変異を伴うHereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroids(HDLS)

15.小脳失調で発症し,多彩な不随意運動を呈した女性.
肺炎,めまい,耳鳴,四肢・体幹の失調,saccadic eye movement,食後に出てくるオピストトーヌス(後弓反張)を伴う激しい不随意運動(ミオクローヌス).

診断;myoclonic cerebellar ataxiaと言えるが原因未定.後弓反張はfunctional movement disorderか?

16.げっぷが止まらない46歳男子.
当初,自動車運転中に限ったゲップ.だんだん増えて一日中になった.クロナゼパム,芍薬甘草湯無効.首を触ったり,仰臥位になると消失した.

診断;前頸部から胸部に限局した,局所性ジストニアによるゲップ(常同性,感覚トリック).ボツリヌス毒素により治療し軽快した.

私個人は,オープニングセミナーにて,「パーキンソン病における外科手術への対応」について講演をさせていただきました.とても勉強になりました.以下,Slideをアップします.

パーキンソン病における外科手術への対応(SlideShare)


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MDS2014 Video Challenge@ Stockholm

2014年06月13日 | パーキンソン病
Movement Disorder Societyが主催する国際学会に参加した.学会で一番盛り上がるのが,世界各国の学会員が症例ビデオを持ち寄り,運動障害のエキスパート5人が,その特徴や診断を議論するVideo Challengeだ.最も興味深い演題が表彰されるため,各国プライドを掛けてこのイベントに臨む.珍しくて役に立つ症候のビデオが見られるだけでなく,エキスパートがどのように診断に迫るのかを学ぶことができる.ワインや軽食が振舞われたあとの午後8時から開始され,終了は10時を過ぎていた(でもStockholmなので外はまだ明るい).毎年のことながら,ホスト役のAnthony Lang,Kapil Sethi両先生の司会は軽妙で,本当に楽しい.さてどんなビデオが提示されたが,14例をご紹介したい.ぜひキーワードを頼りに診断を考えていただきたい(ちなみに本オリンピックのシンボルはMovement disorderの学会らしく,写真のようになっている).

【問題編】
Case 1(スウェーデン)
全身のジストニアが目立つ成人女性.顔面にもdystonic movement.軽度尿中銅排泄増加.頭部MRI正常.末梢神経障害もあり.・・・・・加えてAFP上昇

Case 2(イギリス)
40歳男性,子供の頃からつま先で歩く.全身性ジストニア,無動に加え,眼球運動失行,側彎,下肢クローヌスを認める.頭部MRIでは小脳萎縮あり.

Case 3(カナダ)
65歳女性,59歳で両手の姿勢時・動作時の震えにて発症.無動は軽度.体幹失調もあるがこれも軽度.子供精神発達遅延.頭部MRIでは小脳の軽度の萎縮.

Case 4(ドイツ)
32歳.小児期成長遅延.易感染性があり,髄膜炎,中耳炎,扁桃炎を繰り返す.さらに出血もたびたび見られる.神経学的にはパーキンソン症状,四肢失調,Babinski徴候,PTR陰性.頭部MRI正常.検査所見で好中球減少,出血傾向,網膜・虹彩の色素異常あり,透けて見える.

Case 5(米国)
兄妹例(18, 19歳).振戦,筋強剛,歩行障害を呈する.L-DOPAは有効だが,短期間(2年)でwearing off,ジスキネジアが出現.ジスキネジアは極めて高度で激しくL-DOPA中止.下肢感覚障害(深部覚).頭部MRIは軽度の小脳萎縮.PARK関連遺伝子で異常なし.一人死亡し,剖検では黒質に神経メラニン皆無.青斑核は保たれていた.後索にも変性所見あり.

Case 6(タイ)
60歳女性.亜急性の経過で,歩行障害が出現.右に寄ってしまう.左手の開閉困難.さらに失行,記銘力低下を認める.

Case 7(カナダ)
79歳.進行性の右手足の拙劣さ,hemi-choreaを認める.性格変化,知能低下,saccadic EOM.検査上,血小板減少あり.

Case 8(タイ)
18歳.13歳時,シデナム舞踏病を疑われペニシリンにて治療,症状は改善.18歳,再度,手指の不随意運動が出現したが,自然に改善した.頭部MRIでは分水嶺に異常所見(Ivy sign).側副血行路が目立つ.

Case 9(中国)
28歳,耳が一瞬ビクッとする不随意運動!?

Case 10(オランダ)
7歳.ミオクローヌス,小脳失調,反射消失を呈する.

Case 11(国名?)
6歳,小脳失調,知能低下.歩行障害は変動し,運動により増悪する.

Case 12(オランダ)
18歳,左への痙性斜頸.起立で症状出現.

Case 13(イタリア)
29歳.発作性の激しい不随意運動.意識消失を伴うことあり.

Case 14(国名?)
5歳,斜頸.

【解答編】
Case 1;ataxia telangiectasia
ATM遺伝子変異あり診断確定.軽症例では全身性ジストニアを呈しうるのだそうだ.

Case 2;HABC syndrome
hypomyelination with atrophy of the basal ganglia and cerebellum のこと.hypomyelinating leukodystrophy-6 (HLD6)とも呼ばれる.2013年報告された疾患で,乳幼児期に発症,運動発達遅延,歩行障害,ジストニア,舞踏病アテトーゼ,筋強剛oculogyric crises,失調などを呈する.原因遺伝子はTUBB4A geneで,同じ遺伝子はDYT4 dystoniaを起こす.

Case 3;FXTAS in woman
Fragile X associated tremor/ataxia syndrome(FXTAS)の原因遺伝子であるFMR1遺伝子CGGリピートがpremutation expansion である女性保因者であってもFXTASを発症しうることが報告されている.

Case 4; Cediak-Higashi症候群
常染色体劣性遺伝.原因遺伝子はLysosomal trafficking regulator gene(Rab27A遺伝子).小児発症例は血液異常が主体だが,成人発症は神経症状が主体となる.易感染性,皮膚・眼症状(メラニン細胞異常による皮膚,毛髪,網膜,虹彩などの色素異常),多彩な神経症状, 血小板機能異常による出血傾向を認める.

Case 5;POLG 遺伝子変異に伴う若年性パーキンソニズム
POLG(mtDNA polymerase gamma)遺伝子は進行性外眼筋麻痺をはじめ,さまざまな表現型を呈しうるが,若年性パーキンソニズムも来しうる.L-DOPA有効,かつ深部覚障害がヒント.

Case 6;Malignant dural AV fistula
極めて高度な硬膜動静脈量.塞栓術後に症状は顕著に改善した.

Case 7;原発性抗リン脂質抗体症候群

Case 8; シデナム舞踏病様のエピソードを繰り返したモヤモヤ病
ivy sign はleptomeningeal high signal intensity on FLAIR imagesのこと.もやもや病の脳軟膜がFLAIRでびまん性に高信号を呈する.脳虚血に対する代償性の軟膜の血管,うっ血による軟膜の肥厚を反映していると言われている.

Case 9;耳の舞踏運動を呈したハンチントン病

Case 10; North sea progressive myoclonus epilepsy
進行性ミオクローヌスてんかんの一つ.常染色体劣性遺伝.小児期発症し,ミオクローヌスてんかんの出現前に小脳失調を呈する.GOSR2(Golgi SNAP receptor complex member 2)遺伝子変異.

Case 11;GLUT1欠損症
ケトジェニックな食事(糖質制限食)で治療し,症状は軽減した.

Case 12;compulsive respiratory stereotypies

Case 13;良性インスリノーマに伴う低血糖発作

Case 14;Sandifer症候群
裂孔ヘルニアと斜頸を呈する症候群.


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パーキンソン病・運動障害疾患コングレス@東京

2013年10月13日 | パーキンソン病
「第7回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス」が10月10日から12日にかけて行われました.教育的な講演から最新のトピックスまで幅広く勉強できる学会で,ビデオセッションも充実しています.とくに美味しいディナーとお酒をいただきながら,各自が経験した症例のビデオを持ち寄り,不随意運動や診断・治療について議論するビデオセッションはとても楽しいです.エキスパートの先生方の意見を聞き,このように考えればよいのかと見るポイントが分かってきます.来年は京都での開催ですので,ぜひ若手の先生はご参加をご検討ください.さて以下に今年のイブニングビデオセッションの症例一覧と,レクチャーのうち印象に残ったことを記載しておきます.

【MDSイブニングビデオセッション】
1. 高齢者にみられた造影剤(オムニパーク)投与後の全身のミオクローヌス様不随意運動
→ Transient myoclonic state with asterixis (TMA)
2. 脳梗塞後の手首を回内・回外を繰り返す不随意運動
→ Supplementary motor area (SMA) seizure
3. 運動機能が良い時期の嚥下障害,誤嚥による窒息,肝脾腫
→ Nieman-Pick disease type C(慢性神経型)
4. ジストニアと両側線条体壊死
→ Mitochondrial ND6遺伝子(LHONの原因遺伝子)変異 視神経障害を伴わないジストニアタイプ
5. 高齢発症の姿勢時・動作時の震え
→ IgMパラプロテイン血症に伴うニューロパチーとCMT2N合併例
6. 肩をすくめるようなジストニアがアキネトンで短時間に改善
→ ハロペリドール静注による急性ジストニア
7. 髄膜炎脳炎にともなう拮抗失行
→ 再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis: RP)の中枢神経病変
8. 顔面・頸部のhyperkinetic movement
→ 門脈-静脈シャントによる肝性脳症.不随意運動はnegative myoclonusだけではなく,このタイプもある.
9. タオルを投げるという動作の開始が困難
→ Corticobasal syndrome(CBS)に伴う一種の失行
10. Flutter-like oscillation + 起立時の震え(起立性振戦より周波数は小さい)
→ 肺がんに伴うparaneoplastic syndrpome
11. 足関節を含む両下肢の痛みを伴うゆっくりとした不随意運動
→ Painful legs and moving legs.つま先だけに限局しないタイプがある.moving toesではなく,moving legsと言われるタイプがある.
12. Painful legs and moving toes様の不随意運動
→ 偽アテトーシスであり,MCTDに伴う後索病変に伴うもの
13. 立位時の両下肢の振戦(5 HZ)
→ 老化に伴う下肢の筋力低下
14. 倒立(逆立ち)が可能なパーキンソニズム
→ Pure akinesiaで,手には症状がでにくく,昔から逆立ちが得意な人ではできることもある
15. 釘を打とうとするものの,途中で振り落とした手が止まり,釘が打てなくなった大工の棟梁
→ Efferent apraxia → CBS
16. 首下がり+パーキンソニズム
→ エルデカルシトール(活性化ビタミンD)内服後発症した薬剤性,ないし電解質性
17. 舌,手,首における1-2 Hzのphasic なジストニア(両親いとこ婚)
→ 心因性?遺伝疾患(原因不明)?


【メモ】
ドパミン脱神経が進むと血中濃度に合わせて線条体ドパミン濃度が変動する理由は,セロトニン神経細胞がレボドパをドパミンに変換するようになるためである.セロトニン神経細胞もAADC, VMATを持っていてレボドパをドパミンに変換できるが,とり込み機能を持つD2受容体とDATがないため,濃度のコントロールができない.このため血中濃度に合わせて,線条体のドパミン濃度も変動し,これがpeal dose akinesiaを引き起こす

抗VGKC抗体脳炎は,faciobrachial dystonic seizureを呈する時期がある.これが意識障害や転換に先行するのでこれを見逃さず,この時期に治療を開始する.数秒のジストニアと不規則なミオクローヌス様振戦,口部自動症が出現し,ステレオタイプな所見である.立毛痙攣(自律神経)や,易怒性・性格変化も出現する.1日の頻度が10-50回と多く,持続時間が短く2-3秒で終わる.抗てんかん薬は効きにくくステロイド治療を要する.ちなみに自己抗原はVGKCではなく実際はLGI1蛋白(分泌型蛋白で神経伝達に関与)である(Morvan症候群ではCaspr2).

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)は,常染色体優性遺伝(表現促進現象がみられることあり)を呈する成人初発てんかんで,日本人に多い.多くは全身性強直間代発作だが,手の振戦,ミオクローヌスを混じる(myoclonus様に見えるcortical tremor).進行は極めて遅い.光過敏性あり.Giant SEPを認め,大脳皮質の興奮性がある.珍しい病気ではなく,一般のてんかん患者に混じって見逃されている.

DBSの長期経過例の症状で問題になるのは,発語(小声,聞き取りにくい),歩行,姿勢反射といった体軸症状である.とくに手術時の高齢,手術までの罹病期間が短い症例は,体軸症状が出現しやすい.更に長期化すると認知機能が低下する.治療抵抗性の体軸症状が出ているような進行期にDBSを行っても,患者さんの満足度は低い.STN-DBSでは言語流暢性が悪くなる人がいる.

ジストニアに対するDBSは,拘縮・変形が出てからでは遅い(効果に限度が出てしまう).Meige症候群では,ボトックスが効かない症例でDBSの適応になる.同様に遅発性ジストニアでもボトックスが効かない症例では適応になるが,自殺の原因となるため,うつを背景疾患と認める症例では精神科治療をやめさせてはいけない.

脳血管性パーキンソニズムは,パーキンソニズムの原因として,パーキンソン病に次いで2番めに多い.下半身優位の症状が主体で,寡動,固縮,小刻み,すり足を両側性に呈する.振戦が少なく,幻覚がない.錐体路症状,仮性球麻痺,尿失禁,認知症を伴う.MIBGは保たれている.ドーパには約半数が反応するが効果は乏しい.基底核,深部白質,橋の病変は,寡動,固縮,歩行障害,姿勢不安定性に関与すると考えられる.中脳出血後遺症でもパーキンソン病に似た症状を呈する症例も存在する.

脳血管性PSPとは,核上性垂直性眼球運動障害,姿勢反射を呈する多発梗塞症例を指す.前頭葉,視床,基底核を含む多発病変により生じる.タウ病変なし.中脳,視床下核に血管性病変なし.核上性垂直性眼球運動障害の責任病変は不明.

MR parkinsonism index;MRPI(Radiology 2008; 246, 214-21)は,パーキンソン症候群をMRIにより鑑別のための簡便な方法で,計算式は以下のとおり.
pons area/midbrain area × middle cerebellar peduncle width/superior cerebellar peduncle width
しかしPSP-Pなどの亜型やCBSも加わってくると必ずしも診断に有用とはいえない.

DLBでは幻視(人物,小動物,虫が多い),錯視(変形視,動揺視,パレイドリア),誤認妄想(自宅が自宅でないなど)がよく観察される.パレイドリアとは,古壁のしみが動物に見えたりするように,対象が実際とは違って知覚されることで,幻視の代理マーカーになる.パレイドリア課題を作成したところADよりDLBで有意に多い結果となった.

2007年にMDS-UPDRSができた.1987年に完成したUPDRSは評価基準が曖昧だったり,非運動症状が項目に含まれていないためMDS-UPDRSが作成された.よって軽い症状を評価し分けるようにし,曖昧な評価項目もなくすことを目指した.設問は42から50に増加され,多面的な振戦の評価,患者・介護者による評価,ジスキネジアによる機能的影響が追加された.すべて5段階評価になった.評価時間は30分程度.パート1:非運動症状,パート2:日常生活機能,パート3:運動症状,パート4:運動合併症である.

123I-FP-CIT(イオフルパン)DaTSCANは,製造承認が降りた段階.効能・効果は「パーキンソン症候群,レビー小体型認知症」となった.客観的に基底核,中脳等のドパミン終末の変化(シナプスでの再吸収)を画像化する.ドパミントランスポータートレーサーで,コカインにとても近い構造.パーキンソン病では尾状核を残し左右差を持って減弱する.

Camptocormiaは股関節で曲がるタイプと胸腰椎レベルで曲がるタイプ(上腹部型)がある.後者は上腹部に水平の皮膚陥凹が見られる!リドカイン筋注による効果の検討の結果,外腹斜筋が関与している.リドカイン1% 5 ml 5日間連続両側外腹斜筋投与+リハビリは有効.Antecollisでは斜角筋に異常放電が見られ,やはりリドカインが有効.これらの症状は早期発見が大切(早期なら自分で鏡を見るなどして矯正できるかもしれない).数週間で急速に進行する症例は,気がついたら早く主治医に連絡するよう指導する.リハビリ,カラー使用を考慮する.

不随意運動と鑑別になる痙攣性てんかんは,①全般てんかんのミオクロニー発作,②部分てんかんの単純部分発作である.逆にミオクローヌスにはてんかん性と非てんかん性がある.
てんかん性ミオクローヌスには皮質反射性,網様体反射性等があり,筋放電は表面筋電図で通常50msec(長くて100msec),これに対し非てんかん性は50-200, 300mscと長い点で鑑別可能.またてんかん性ミオクローヌスの筋活動は常に同期性で,関連する脳波異常がある.

Limb-shaking TIAsは,坐位や立位をとると出現する.抗てんかん薬は効かない.虚血によるcortical epilepsyらしい.


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MDS2013 Annual Video Challenge@ Sydney

2013年07月02日 | パーキンソン病
Movement Disorder Societyが主催する国際学会に初めて参加した.学会の企画のなかで一番盛り上がるのが,世界各国の学会員が症例ビデオを持ち寄り,運動障害のエキスパート5人が,その特徴や診断を議論するVideo Challengeだ.最も興味深い演題が後日表彰されるため,各国プライドを掛けてこのイベントに臨むそうだ.珍しくて役に立つ症候のビデオが見られるだけでなく,エキスパートがどのように診断に迫るのかを学ぶことができる.6月19日の夜,ワインや軽食が振舞われたあとの午後8時から開始され,終了は10時を過ぎていた,しかしホスト役のAnthony Lang,Kapil Sethi両先生の司会は軽妙で,また症例も分からないものばかりで,あっという間に時間が過ぎた.さてどんなビデオが提示されたが,12例をご紹介したい.言葉による説明では分かりにくいと思うが,ぜひキーワードを頼りに診断を考えていただきたい(結構,マニアックですが・・・).

【問題編】
Case 1(英国)
18歳男性.眼球が上下や左右,寄り目などに固定される.2~3日に1回発作的に起こり,数分から数時間続く(Episodic Oculogyric crisis).発作時に口に手を入れるような緊張や異常な姿勢を伴う.てんかん?ジストニア?髄液5-HIAAが低下.脳波異常なし.

Case 2(カナダ)
46歳男性,ジストニアによる開眼困難,アパシー,構音障害,applause sign陽性,失調歩行,頸部ジストニア,視運動性眼振消失,MRIにて両側基底核のT2低信号(パンダ様),皮膚生検にて診断.

Case 3(アイルランド)
41歳,流暢性の低下が見られるする原発性進行性失語(FTD的),小声,小字症,認知機能低下,MRI上の白質の中等度の信号変化.

Case 4(ドイツ)
25歳女性,3年の経過で動作誘発性の失調歩行,腱反射消失,MRIでは歯状核,錐体路,後索に異常信号,MRSにて乳酸ピーク,アセタゾラミド有効.

Case 5(インド)
23歳男性,13歳視力低下,14歳全身痙攣,23歳不眠,記憶障害,視神経萎縮・網膜症,手をよく洗う強迫性障害,ミオクローヌス,舞踏運動,パーキンソニズム(akinetic rigid syndrome),MRIでは大脳萎縮と白質変化.

Case 6(スペイン)
家族性の認知症+パーキンソニズム(akinetic rigid syndrome).後者はL-dopa抵抗性.
CTでは小脳+大脳萎縮,軽度の白質の低吸収域,MRI拡散強調画像でprion病様高信号

Case 7(オランダ)
27歳男性,本態性振戦(ミオクローヌス的),ジストニア,軽度の自閉症,気管支喘息,失調,遺伝子診断でFXTASは否定.

Case 8(日本)
52歳女性,9歳,頸部不随意運動,12歳右手→全身へ波及,47歳失調,激しい運動時の振戦,家族歴なし.進行性ミオクローヌス+失調を主徴とする.

Case 9(国名?)
32歳男性,家族内類症あり.13歳,進行性の筋緊張亢進,痙性のため膝折りできない,嚥下障害.

Case 10(ブラジル)
59歳女性,急性発症の他人の手徴候.

Case 11(英国)
45歳男性,奇形症候群(副甲状腺・胸腺無形成症,特有の顔貌),病初期はL-dopa有効のパーキンソニズム(左手の無動・振戦).

Case 12(国名?)
性染色体劣性遺伝,急性溶血性貧血,痙攣,認知機能低下.


【解答編】
Case 1;AADC(芳香族アミノ酸脱炭酸酵素)欠損症
常染色体劣性遺伝の先天性代謝異常,Oculogyric crisisと呼ばれる異常眼球運動を発作性に呈する点が特徴的.

Case 2;神経セロイド・リポフスチン症(NCL)
知能・運動の退行,てんかん,視力障害を主徴とする.遺伝子異常により10のサブタイプに分類されているが,乳児型,後期乳児型,若年型が主要な臨床病型であるが,成人例もありジストニアを呈する.病理学的には,自家蛍光を有するリポフスチン顆粒のリソソーム内への蓄積と神経細胞の変性を特徴とする.

Case 3;神経軸索ジストロフィーを伴う遺伝性白質脳症(HDLS)
Colony stimulating factor 1 receptor(CSF1R)遺伝子変異による,最近,注目されている白質ジストロフィー.

Case 4;Leukoencephalopathy of brainstem and spinal cord involvement and elevated lactate (LBSL; DARS2 mutation)
LBSLは稀な常染色体劣性遺伝疾患で,原因遺伝子はmitochondrial aspartyl-tRNA synthetase(原因遺伝子DARS2は2007年に同定).進行性痙性失調症を呈し,MRIでは複数のlong tractの異常信号を伴う白質病変が特徴的.

Case 5;亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis; SSPE)
麻疹に感染してから数年の無症状の期間を経て,神経症状が出現・進行するミオクローヌス,舞踏運動,アテトーゼ,失調,痙攣.,髄液麻疹ウイルスIgG陽性.

Case 6;Gerstmann-Sträussler-Scheinker病(Y218Nミスセンス変異)
GSSの特殊な病型で,アルツハイマー病やFTDの診断基準を満たしうる認知症を主訴とし,かつパーキンソニズムを呈する病型.

Case 7;Klinefelter症候群
X染色体過剰の47, XXYの染色体構成をもつ,不随意運動(ミオクローヌス,ジストニア)を合併しうる.

Case 8;Mutations in SCA6 and MRE11 (Ataxia telangiectasia-like syndrome)
Ataxia telangiectasiaは常染色体劣性遺伝,責任遺伝子はATMでDNA損傷修復反応に関与する.二本鎖DNA切断はMre11/Rad50/NBS1(MRN複合体)によって感知され,ATMを損傷の場に誘導する.このMre11に遺伝子変異を原因とする疾患はataxia-telangiectasia-like disorder (ATLDと呼ばれる.本例ではさらにSCA6の遺伝子変異も合併し(double mutation),失調症状に関与したものと考えられる.

Case 9;Spastic ataxia-1(SPAX1 mutation)
常染色体優性遺伝形式の痙性と失調を主訴とする.

Case 10;クモ膜下出血

Case 11;22q11.2欠損症候群
遺伝子異常に起因する奇形症候群の一つ.かつてCATCH22(Cardiac defects,Abnormal facies,Thymic hypoplasia,Cleft palate,Hypocalcemia)という名称で知られていた.有名なDiGeorge症候群(副甲状腺・胸腺無形成症)は本症候群の一部.知的障害以外に,パーキンソン病の危険因子となることが近年,報告された.

Case 12;ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症
伴性劣性遺伝,乳児期から溶血性貧血,認知機能低下,痙攣,脳卒中を来す。血液異常に乏しく,筋痙攣,繰り返すミオグロビン尿のみをみる筋型もある.

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iPS細胞による細胞療法の現状

2013年04月15日 | パーキンソン病
日本内科学会総会のiPS細胞に関するシンポジウムを拝聴した.5人の演者による聴き応えのあるシンポジウムであったが,とくにパーキンソン病と,近々,臨床試験が始まる予定の加齢黄斑変性症の講演をとくに楽しみにして参加したので要旨をまとめてみたい.

A.パーキンソン病移植治療

胎児由来の細胞(ES cell)を用いた移植治療は歴史があり,すでに有効であることが分かっている.しかし問題点として①ひとりの治療に複数の個体(胎児)が必要であるという倫理的問題と,②治療後,ジスキネジアが起こりうるという問題があった.後者は移植細胞の純度が影響している可能性が考えられている.

問題点の①を解決できるiPS細胞利用の方向に研究が進んでいる.iPS細胞の利点としては,①培養により無限に増やせること,②必要な細胞(ドパミン神経細胞)だけを増やせること,③拒絶反応を心配しないで済む自家移植が可能であることがあげられる.安全な細胞を作る技術が日進月歩で開発されている.

これまでパーキンソン病モデルとして,カニクイザルのMPTPモデルにiPS細胞由来のドパミン神経細胞を投与し研究を行なってきた.治療1年後でも有効性は持続,組織的に移植細胞は生着し,iPS細胞に伴う腫瘍形成はなし.さらにPETを用いて,移植細胞の機能の有無を確認したり,腫瘍化した細胞を画像化したりできるようになった.

iPS細胞治療の課題としては,①合成基質によるドパミン神経誘導(通常,iPS細胞の培養にはマウスフィーダー細胞を使用するがこれを使用しないようにする),②ドパミン神経細胞の純化(未分化な細胞が残ると奇形腫が形成されるため),③霊長類を用いた評価系,の3つが挙げられる.しかし,これらは技術的にはほぼクリアしている.

治療の対象は孤発性パーキンソン病である.家族性パーキンソン病は別の病態と考えているため,現在は対象外である.今後,1~2年かけて有効性,安全性を検証する,そして平成27年をめどに臨床研究を開始したい.

B.加齢黄斑変性症

iPS細胞の臨床応用が最も早いと考えられている疾患である滲出型加齢黄斑変性症に対する現状の報告.まずこの疾患で障害される黄斑は,網膜の中で解像度が最も高い部分であり,視細胞の密度が高い.その視細胞をメンテナンスする細胞が網膜色素上皮で,いわば視細胞の元気を回復する作用をもつ.

滲出型加齢黄斑変性症では,網膜色素上皮が加齢で劣化し,その結果,新生血管が形成され,血漿成分が滲出し視力が低下する.数年前から抗VEGF(血管内皮細胞増殖因子)薬で初めて治療ができるようになった.しかしこの治療は1回10数万円かかり,かつ数カ月ごとに繰り返す必要がある.薬剤は海外製で,医療費はみな海外の製薬会社に行ってしまう.以上の理由で,iPS細胞から作った網膜色素上皮を移植する根本的療法を行いたいと考えた.

自家iPS細胞由来網膜色素上皮シートの品質規格と安全性の評価を徹底的に行なっている.品質は遺伝子発現パターンから見ているが,由来が異なるiPS細胞から作った場合も同一のパターンとなっている.安全性は,造腫瘍性試験を徹底的に行って確認している.網膜色素上皮は腫瘍を作りにくい.そもそも目では腫瘍はできにくく,万が一,腫瘍化してもOCT(光干渉断層計)で確認ができる.万が一の時はレーザーで焼灼できるので,何重にも安全弁があり,臨床応用をしやすい.

臨床試験は従来の治療でも効果がなかった6名を予定している.臨床試験は,網膜色素上皮シートを作るのに最低10ケ月かかる.主要評価項目は安全性の確認!である.有効性の評価は副次的評価項目となる.これは多くの研究者はiPS細胞による細胞治療は危険性があると考えているため,これを覆すことに大きな意義があると考えている.移植手術は手技的に現在の眼科医の10分の1ができるレベルのものである.また今後は自家移植より,iPS細胞バンクによるストック細胞を用いた他家移植が主流になるものと思われる.

再生医療には法律の整備が必要だが,日本は世界をリードしている.米国,欧州の良い制度を取り込み世界で最高のシステムができつつある.

しかしiPS細胞治療の効果はいきなり出るものではないことを強調したい.失明の人をロービションにするぐらいの効果である.再生医療は夢の治療ではない.期待し過ぎは困る.現在,効果は乏しく,費用が大きくかかる状況である.しかし,ライト兄弟の飛行機が,現在ではジェット機に発展したようにiPS細胞医療も大きく変わる可能性がある.効果が大きくなり,費用も下がると思う.これからの10-20年,効果が乏しく,かつ費用がかかる当面の時期をいかに支えていくかが大切である.

C. 印象
パーキンソン病におけるiPS細胞を用いた細胞治療の臨床試験の開始は案外早いのだと驚いた.成功を期待したいが,L-dopaなど抗パーキンソン剤を用いた内服治療と良い面,悪い面でどのように異なるのか,とくに抗パーキンソン剤で問題となる副作用は細胞療法ではどうなるのかという議論が必要と感じた.移植後長期的に発がんゼロという条件がどれだけクリアされているのかも重要と感じた.

また加齢黄斑変性症の講演での「再生医療は夢の治療ではない.期待し過ぎは困る」という発言はやはり印象的であった.再生医療に対する人々の期待はきわめて大きいが,iPS細胞療法の現状で期待される効果と問題点を正しく理解し,かつ見守っていく必要があると感じた.

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パーキンソン病にかかりやすくなる要因

2013年01月06日 | パーキンソン病
パーキンソン病は65歳以上に限ると,約1%の有病率と言われる頻度の高い疾患である.原因は不明であるが,発症の危険因子,逆に発症しにくくなる因子が報告されている.具体的には,過去10年でパーキンソン病発症の危険因子に関するメタ解析が小規模のものながら報告され,喫煙,コーヒー,殺虫剤への暴露,消炎鎮痛剤(NSAIDs)等が注目されるに至った.しかしながら大規模で包括的な危険因子の検討は行われていなかった.今回,大規模なsystematic review,メタ解析が英国から報告されたので紹介したい.

まず方法であるが,検討に含める論文の基準としては,①少なくともひとつの危険因子か,パーキンソン病と診断される前の非運動症状について検討していること,②パーキンソン病発症の相対危険度ないしオッズ比を求めた研究であること,③データは問診や通常の検査で容易に得られる項目であることの3点とした.論文の検索はMEDLINEとPubMedを用い,MeSHにより以下の検索式で論文をピックアップした.

Constipation OR Sleep Disorders OR Olfaction Disorders OR Smoking OR Color Vision OR Coffee OR Erectile Dysfunction OR Depression OR Anxiety OR Mood Disorders OR Hydroxymethylglutaryl-CoA Reductase Inhibitors OR Anti-Inflammatory Agents, Non-Steroidal OR Solvents OR Pesticides OR Body Mass Index OR Family OR Risk OR Risk Factors AND Parkinson Disease

3856の論文が検索され,上記の基準を満たし,除外基準(多いため省略)を満たさない202の論文に対しsystematic reviewを,173の論文に対してメタ解析を行った.

さて結果であるが,とくに強い危険因子(オッズ比を2倍以上)は以下のものであった.


パーキンソン病の家族歴あり・・・・・オッズ比4.45,95%信頼区間3.39–5.83
パーキンソン病が一親等以内に存在・・・・・オッズ比3.23,95%信頼区間2.65–3.93
振戦の家族歴あり・・・・・オッズ比2.74,95%信頼区間2.10–3.57
便秘・・・・・オッズ比2.34,95%信頼区間1.55–3.53
喫煙歴・・・・・オッズ比0.44,95%信頼区間0.39–0.50

ほかにオッズ比2倍に満たないものの,危険度を有意に高めるものとして,不安・うつの既往,殺虫剤暴露,頭部外傷既往,田舎に住むこと,βブロッカーの使用,農業,井戸水を飲むことが挙げられた.逆に危険度を有意に低下させるものとしては,コーヒー,高血圧,消炎鎮痛剤(NSAIDs),Ca拮抗薬,アルコールが挙げられた.
影響がない因子としては,糖尿病,がん,経口避妊薬,外科的閉経,ホルモン補充療法,スタチン,アセトアミノフェン,アスピリン,茶,全身麻酔の既往,胃潰瘍が挙げられた.

以上より,もっとも大きな影響をもたらすものは,パーキンソン病や振戦の家族歴,非運動症状の便秘,そして喫煙歴がないことという結果になった.本研究は初めての大規模・包括的な検討であるが,著者らは英文で書かれた論文に限定して検討したことを問題点として挙げているとおり,上記の結果が即,日本人にも当てはまるかは分からない.

話はそれるが,最後にsystematic reviewとメタ解析の違いを記載したい.論文のreviewにはおおまかに3つの段階がある.
(1) Narrative Review・・・いわゆるその領域の権威ある先生のご意見.都合の良い論文のみ取り上げられ,バイアスがかかる可能性も否定できない.
(2) Systematic Review・・・文献検索方法の記載があり,すべての論文を網羅したもの.
(3) メタ解析・・・統計的手法を用いて,データを量的に統合したもの.

つまり図のような関係になる. 

Meta-analysis of early nonmotor features and risk factors for Parkinson disease(オープンアクセス論文)
Ann Neurol 72, 893–901, 2012
 

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MDSJ2012@京都

2012年10月14日 | パーキンソン病
Movement Disorder Society of Japan(MDSJ)が主催する第6回パーキンソン病・運動障害疾患コングレスに参加しました.例年,ブログでも紹介していますが,朝から夜遅くまでみっちりしごかれる学会です.でも「ビデオセッション」などとても楽しいですし,パーキンソン病をはじめとするmovement disorderの臨床は「奥が深い」と毎年思い知らされます.とても印象に残った事柄を以下に記載したいと思います.

過去のブログ記事
MDSJ 2011@東京

MDSJ 2010@京都

MDSJ 2009@東京


(パーキンソン病:医療)
治療効果に対する医師の感触と患者さんの満足度は必ずしも一致しない.

QOLに基づくPDの重症度スケールとして,重み付けがなされたQSSPD(Quantified Severity Scale for Parkinson Disease)が日本で作られた.UPDRSはプロフィール提示,スクリーニング的であるのに対し,QSSPDは症状集中的な尺度である.

パーキンソン病患者のニーズは医療だけとは限らない.地域における生活を総合的・包括的に支援する必要がある.

「治す医療」から「支える医療」というパラダイムシフトが進行中である.難病医療に従事する神経内科医はまさに「支える医療」を担う役目がある.


(パーキンソン病:治療)
ECドパールとメネシットは脱炭酸酵素阻害剤の量の違いから同一患者でジスキネジアへの影響が異なることがある(メネシットで強かったpeak-dose dyskinesiaがECドパールへの変更で軽減しうる)

L-dopaの吸収は個人差がかなり大きい.よって「メネシット300mg」のような画一的な処方量ではなく,患者の状況により使用量を増減すべき.

L-dopaによる治療は,血中濃度を予測しながら行うことがコツ.ただし血中と脳内のL-dopa濃度には30分のずれがある(脳内が遅れる).血中濃度のピークが脳内濃度のピークではなく,症状が良くなったときをピークと考える.

胃酸度とL-dopa最高血中濃度(Cmax)の相関はほとんどなく,よく言われるレモン水の効果も本当にあるのか必ずしも分からない.むしろ酸度を上げるより水溶液にすれば十分かもしれない.

Delayed-onに対する効果発現を早めるためであっても,食前のL-dopa内服はできる限り避けるべき(ジスキネジア増強,オフ時間の短縮をもたらしうるため).食後に200 mg内服してもらうという選択肢のほうが良い.

「L-dopaテスト」は,内服前,内服後15分,30分,1時間,2時間,3時間,4時間の計7回,採血を行う.L-dopa濃度だけでなく症状の変化を比較しながら解釈することが大切.

健常者では夜間,睡眠中に脳内ドパミン濃度は下がって,起床前頃から上昇してくる.

抗パーキンソン病薬の持続刺激に関する間違えやすいことば3つ.
 CDS; continuous dopaminergic stimulation
 CDD; continuous drug delivery
 DDS; drug delivery system(Dopamine dysregulation syndromeではない)

ドパストン注の持続点滴は経口摂取が困難な場合に使用される.持続点滴は同時にCDSを実現しうる治療となるが,容易に保険適応での用量の上限(最大150mg)を超えてしまう.しかし添付文書にあるこの用量上限が決められた根拠については製薬会社に聞いても実はわからない状況になっている.

アポモルフィンは10~20分で効き,持続時間は1時間.副作用として,眠気,嘔吐,好酸球増多,薬疹(紅斑)もある.アゴニストをこれまで内服していない患者さんの場合,嘔吐に対し予防的にドンペリドンを使用する.持続皮下注射は海外で行われているが,日本では保険適応はなく,あくまでもレスキュー薬として使用する.

パーキンソン病の振戦に対する1st line治療はL-dopa,アゴニスト.若年・認知症がなければ次にトリヘキシフェニジル.2nd lineとしてはセレギリン,ゾニサミド,アマンタジン.また最後に手術だが,報告は近年多い.カフェインや音楽や映像によるリラックスも有用かもしれない.

脚橋被蓋核(PPN)には生存に必要な機能(歩行,姿勢制御,筋緊張,発語,嚥下)が集中している.この部位におけるDBSはこれらの機能回復をもたらす可能性がある.しかしPPNは幅がわずか2 mmの三日月型形状で,そこに1.2mmのリードを入れるためPPN破壊の効果を見ているのか,刺激の効果を見ているのか実は分からない!?


(認知症とパーキンソニズム)
重度の嗅覚障害(OSIT-J検査で4点以下)は有用な予後予測因子となる.

びまん性レビー小体病(DLB)患者は50万人存在する(パーキンソン病の10倍).つまりレビー小体病の多くは認知症を合併し,運動障害のみのパーキンソン病はレビー小体病のなかでは少数派と言える. DLBの20-50%で運動障害は欠落する.

パーキンソン病患者の8割は最終的に認知症を合併する.治療としてはコリンエステラーゼ阻害剤として,ドネペジルやリバスチグミンが使用される.しかし副作用としてパーキンソニズム悪化(嚥下,振戦など)はありうる.

DLB,PDDに対するアリセプトは運動機能(振戦や嚥下など)が悪化しうる.

若い年代で発症したアルツハイマー病において進行期になると,L-dopa不応性のパーキンソニズムが出現しうる.するととたんにADLが低下し,転倒なども生じる.こうなると予後不良で,介護も難しい.

FTLDに合併するパーキンソニズムは,疾患自体に伴うものか,精神症状に対して使用した薬剤によるものか鑑別を要する.

FTLD-TDPの経過として,病初期に言葉の意味の分からない意味記憶障害,精神科の対応を要するFTD(脱抑制など)を呈し,その後,非対称性のCBS的な運動障害(錐体外路症状,錐体路障害)が出現し,さらに半側無視が見られるようになる.

FTDでは突然死が多い.

FTDP-17はMAPT遺伝子変異とPGRN遺伝子変異があるが,ともに稀な病気.前者は100を超える家系から44変異は報告され,後者も100を超える家系から69変異が報告されている.PGRN変異は日本では1例のみ報告されているが,実は報告されていないだけで多少存在するらしい.

Perry症候群は体重減少,中枢性呼吸不全,うつ,パーキンソニズムをきたす,予後不良の稀な遺伝性疾患である.


(パーキンソン病:基礎)
パーキンソン病においてドパミン作動性ニューロンが選択的に変性する機序として,ペーシング(発火)頻度が大きいこと,エネルギー需要の大きいことが考えられる.

アストロサイトはドパミン作動性ニューロンに対し,グルタチオンやメタロチオネインを介して保護的に作用している.治療標的物質として転写因子Nrf2が重要.酸化ストレスへの曝露後,Keap1の結合がはずれて核移行し,抗酸化物質の転写を開始する.Nrf2誘導剤も複数同定されている(クルクミン,スルフォラフォンなど).

レビー病理は細胞間を伝播するというpropagation theoryがあるが,α-synucleinの細胞への取り込みはダイナミン依存性エンドサイトーシスによるものである.ダイナミン阻害剤としてSSRIがあり,とくにセルトラリン(ジェイゾロフト)は作用が強く,実際にin vitroの実験ではα-synucleinの細胞間伝播を阻害する.実験の培地における濃度は通常臨床にて使用する薬剤量(100mg)で実現できる.


(その他の疾患.ビデオセッションなど)
小脳の学習機能を評価する方法として,知覚と運動に乖離があるようなものに慣れるという方法があり,その1つとしてプリズム順応(プリズム眼鏡でずれた視野に慣れていく課題)が有用かもしれない.

近年,immune-mediated movement disorderという分野が確立した.

抗NMDA受容体抗体陽性脳炎における顔面を中心とする激しい不随意運動は,あえて分類すればジスキネジアといえる.ただし通常,ジスキネジアは睡眠で消えるが,このジスキネジアは消えない.治療としては1st line(ステロイド,IVIg,血漿交換)を行い,1週間たっても効かなければ2ng lineに切り替える(リツキシマブ,エンドキサンパルス).しかしリツキシマブは一般の病院では使いにくい.

グリシン受容体(GyR)関連疾患としてPERM;progressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonusがある.脳神経麻痺,rigospasticity.腱反射亢進が認められる. Stiff-person症候群を思わせるような筋痙攣(頸部の後方への反り返り,喉頭痙攣)も見られる.

Broca野病変による失行という新しい概念がある.

ジストニア・ミオクローヌス症候群(DYT11;εサルコグリカン遺伝子変異)の頸部,体幹,上肢に認めるミオクローヌスに対する治療としてGPi DBSは有効.

MSA患者に眼球上転発作(Oculogyric crisis)を認めることがあるが,アーテンで改善した.

アルコール多飲患者の下肢の脊髄性分節性ミオクローヌスでは,ペラグラ脳症を鑑別に加えニコチン酸を測定する.

足趾に限局し,ムニュムニュ動く不随意運動で目で見ると改善する場合,偽アテトーゼの可能性も考える.

膝蓋腱反射を施行するため,一度,腱を叩いたあと複数回,連続して反応が動く現象はspasmodic reflex myoclonusを見ている可能性があり(テタニーに認める).

小脳型PMLはMRIにてクレセント型の特徴的な異常信号を呈する.失調に加え,2Hzのyes-yes head tremorを呈した症例の提示あり.

クローン病患者における極めてゆっくりとした構音障害(戦場のカメラマン型!?)の原因としてセレン欠乏症を認めた.SPECTでは後頭葉における血流低下が見られる.セレン欠乏症では,視野障害,構音障害,皮質性感覚障害,小脳失調を呈する.

バリスムでは四肢のrotationが生じているかを確認する.

本態性振戦の小脳起源説を支持する様々な報告がある


私自身は,パーキンソン病におけるleg motor restlessnessという睡眠障害の新しい誘因についてポスター発表を行いました.有意義な議論ができました.来年は東京での開催です.とても勉強になる学会ですのでぜひご参加をご検討ください.


第6回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス

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明るく生きるパーキンソン病患者のホームページ "APPLE" のご紹介

2012年06月19日 | パーキンソン病
以前,若年性パーキンソニズム患者さんにおける妊娠・出産について,私どもの経験(症例報告)をご紹介する記事を本ブログに掲載しました.

若年性パーキンソニズムにおける妊娠・出産の経験

この記事をご覧になられた皮膚科医で「明るく生きるパーキンソン病患者のホームページ(APPLE)」の運営に関わっておられる岡田芳子先生から情報をいただきました.ご本人の了解を得て,ご紹介します.

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若年患者の妊娠出産についてAPPLE内で取り上げていますので、ご参考になればと思いご紹介致します。

妊娠・出産

また「女性とパーキンソン病」としてEPDA(ヨーロッパパーキンソン病協会)の記事の訳を掲載しています。

女性とパーキンソン病

妊娠出産についてはそのほかにも掲示板で何回も話題になっています。

また生理周期とパーキンソン病の症状の変動については若年患者はほとんどが知っていることです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

とても参考になりました.APPLEはパーキンソン病患者さんの情報サイトで,岡田先生を含む若年性パーキンソン病患者さんがお作りになられたサイトです.
情報が少なかった時期には外国ページの翻訳許可をもらい記事を作成したそうで,それらの記事はいまも有効に活用されているそうです.
APPLEは情報の宝庫といえるページですので,ぜひ御覧ください.


明るく生きるパーキンソン病患者のホームページ(APPLE)

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新しいパーキンソン病治療薬の情報

2012年06月17日 | パーキンソン病
今後,期待されているパーキンソン病治療薬(新薬)について勉強する機会があったので,ここで簡潔にまとめてみたい.

1.2012年に発売予定のパーキンソン病治療薬

1)アポカイン®皮下注30mg
アポモルヒネ塩酸塩水和物(商品名アポカイン®皮下注30mg)は,本年5月29日に薬価収載された薬剤.1993年に英国で承認されて以降,世界20カ国以上で臨床使用されている.非麦角系ドパミンアゴニストで,患者自身が専用の注入器を用いて自己注射する日本初のパーキンソン病治療用注射剤.オフ症状(薬剤の効果の持続時間が短くなり,パーキンソン症状が出現すること)を,注射後20分ほどで速やかに改善することから,オフ症状を一時的に改善するという「レスキュー薬」としての使い方が期待されている.ただし,注射後120分で効果が消失する(短時間作用型製剤である).内服薬剤をいろいろ調整してもオフ症状のコントロールが困難となり,脳深部刺激療法の検討が必要といった時期において選択肢となる薬剤である.海外のWEBサイトで様子を見ることができる.

2)レキップ®CR錠
非麦角系ドパミンアゴニスト徐放剤としては,すでにプラミペキソール徐放剤(ミラペックス®LA錠剤)が2011年4月に国内で上市されているが,ロピニロール徐放剤も海外ではすでに販売され,日本でも本年度中の承認,販売されるものと期待されている.1日1回の服用で安定した血中濃度推移を示すことが確認されており,服用回数を減らせることで患者の利便性が向上し,内服忘れも防ぐことができる.

2.最近の治験の状況

1)L-dopa製剤
① L-dopa徐放剤(IPX066)
L-dopa徐放剤はこれまでL-dopa剤より長く作用するため,オフ症状の軽減,短縮につながる可能性がある.2012年4月に行われた第64回米国神経学会年次総会にて,第Ⅲ相臨床試験(ASCEND-PD)の結果が報告された.オフ症状を呈する進行期パーキンソン病患者110名に対し,carbidopa・L-dopa合剤およびエンタカポン併用(日本未発売のスタレボ®)との比較が行われたが,IPX066は有意に日中のオフ時間を短縮することが確認された(23.98% vs. 32.48%, p<0.0001).

<font color="blue">②Duodopa(ABT-SLV187)
DuodopaはL-dopa/carbidopa合剤を4:1の割合で含む腸ゲル剤で,十二指腸内へ,経胃・空腸内に吸入ポンプを用いて直接持続投与する.やはり第64回米国神経学会年次総会にて報告があり,オフ症状を呈する進行期パーキンソン病患者において,同じ成分の即放性錠剤と比較し,オフ時間を短縮することが示された(4.04時間vs. 2.14時間;p=0.0015).日本でも2011年に第Ⅱ相臨床試験が開始された.胃瘻造設による留置アクセスチューブの挿入を必要とするため進行期のパーキンソン病患者向けの治療である.

2)rotigotine貼付剤
1日1回使用する唯一の非麦角系ドパミンアゴニストの経皮吸収型製剤である.24時間一定の血中濃度を維持し安定した効果が期待できる.手術で内服ができない,もしくは嚥下障害や消化器症状のため内服ができない場合などで重宝するものと期待される.

3)アデノシン2a(A2a)受容体拮抗薬
大脳基底核に局在するA2a受容体に対する拮抗薬は,基底核神経ループの異常を制御して運動症状改善をもたらすと言われている.国内で臨床開発されている薬剤として,イストラデフィリン(KW-6002)とプレラデナント(SCH 420814)がある.前者は2012年で国内でも治験が終了,現在,承認申請中.後者は第Ⅱ相臨床試験が進行中.オフ時間が延長した患者への新たな選択肢として期待されている.

4)モノアミン酸化酵素(MAOB)阻害剤
サフィナミドはドパミン分解酵素であるモノアミン酸化酵素の酵素活性を阻害することでドパミン神経系の活性を高めるとともに,グルタミン酸放出阻害やドパミン再取り込み阻害作用を介して,パーキンソン病症状に効果を発揮するとされている.L-dopaあるいはドパミンアゴニストによる治療で運動症状の変動が認められる患者を対象に上乗せ効果を期待する薬剤である.

5)抗ジスキネジア薬
ジスキネジア(抗パーキンソン病薬の服用に伴って起きる不随意運動)に対する治療薬の開発も進められている.代謝型グルタミン酸5型受容体の拮抗薬AFQ056やアドレナリンα2受容体拮抗薬フィパメゾールの開発が進められている.

3.まとめ

基本的に上記の薬剤は運動合併症(オフ症状やジスキネジア)の改善を目的とするか,これまでの薬剤に上乗せして補助的に使用するものである.今後,症状の進行を抑える根本的な治療薬,運動合併症の出現を可能な限り遅らせる治療薬,そして非運動症状(便秘や頻尿などの自律神経の症状,不眠などの睡眠障害,うつ症状などの精神症状,認知機能障害)に対する治療薬の開発が望まれる.

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