Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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弓道競技者を悩ます「もたれ」の病態機序の解明

2023年08月05日 | 運動異常症
弓道では古くから「早気,もたれ,びく,ゆすり」と呼ばれる上達に支障をきたす4種類の厄介な状態があります.「早気」は意図したタイミングより早く矢を放つこと,「もたれ」は意図したタイミングで矢を放つことができないこと,「びく」は矢を放ちかけること,「ゆすり」は弓を引いている途中に前腕や上腕がふるえることを指します.素人ながら弓道部の顧問になり,多くの部員がこの問題で悩んでいることを知りました.また昔から弓道競技者の間ではこれらはメンタルの弱さの問題として扱われてきたことも知りました.

しかしプレッシャーがあまりかからない練習でも改善しないこと, 練習では同じ動作を反復することから,一部は書痙や音楽家に見られる動作特異性局所ジストニア(TSFD)ではないかとアドバイスをし,当時の弓道部員と最初の研究を行いました(臨床神経2021; 61:522-529に報告).大学生を対象としたアンケートで65名中41名(63.1%)に4種類のいずれかの経験があり,「早気」が最も多く(85.3%),危険因子は経験年数が長いことでした.「もたれ」のみ単独で出現し,その特徴からもTSFDの関与が疑われました.

弓道部6年生の小木曽太知君と鈴木彩輝君が研究を引き継ぎ,全40大学の弓道部に声をかけ,「もたれ」3名,「早気」3名,正常3名に協力を依頼し,「もたれ」が症候学的および電気生理学的にTSFDとして矛盾しないことを示しました.一方,「早気」はこれとは異なる病態で,むしろ心理的要因が大きいと考えました.病態に合わせて克服を目指す必要があることを示したことになります.

今回「臨床神経」誌に掲載された2つの論文は,専攻医や学生が初めて研究に取り組んだもので,完成した論文を手にしたときは彼らはもちろんですが,私も我が事のように嬉しかったです.これから沢山の研究をすると思います.自信を持って,世の中の困っている人の役に立つような研究をしてほしいと思いました.

小木曽太知, 大野陽哉, 鈴木彩輝, 下畑享良.弓道における異常な運動「もたれ」は動作特異性局所ジストニアの特徴を有している.臨床神経63: 532-535, 2023



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第17回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(MDSJ 2023)ビデオセッション症例解説

2023年07月22日 | 運動異常症
標題の学会(大会長.東京大学.戸田達史先生)が7月20日から3日にかけて行われました.私は「免疫性疾患と不随意運動アップデート ―新規抗体と治療可能性―」という教育講演をさせていただきました.以下のようなスライドを使用しました(下記からDL可能です).



スライドへのリンク

そして私のMDSJの一番の楽しみは,学会員が経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,その不随意運動や診断・治療について議論するビデオセッションです.今年の11症例の一覧をご紹介します.久しぶりに対面で開催されましたが,非常に楽しく,勉強となるdiscussionになりました.

症例1.ふらつきが強く歩行困難となった高齢男性
82歳.主訴は歩行困難.既往歴に部分てんかん(フェニトインで治療).急性発症のめまい,後方に倒れる転倒.ろれつ緩慢.認知機能低下.左優位の筋強剛,注視方向性眼振.体幹と下肢に強い運動失調.姿勢保持障害.手を動かすと足が動くsynkinesis(共同連合).頭部MRIで異常なし.

診断:フェニトイン中毒(血中濃度46.7μg/mL)

症例2.書字の際に力が入ってしまうという症状で初発した40歳代女性
母が50歳代で脊髄小脳変性症と診断されている.9年前から書字の際に力が入るようになる.6年前から歩行時のふらつき.神経学的には書字の際のジストニア.上肢に目立つ運動失調を認める.頭部MRIでは小脳萎縮を認める.

診断: SCA14 (PRKCG遺伝子変異)(全エキソーム解析)


症例3.可逆性の片側性パーキンニズムを呈した30歳代男性
36歳男性.5ヶ月前から右上肢に振戦を認める.発達遅滞があり.家族歴や内服歴なし.眼球運動は衝動性.右側に強い運動緩慢と安静時振戦(3-5Hz).

診断:蝶形骨洞の髄膜腫

症例4. 顕著な左上肢の不随運動で発症した49歳男性例
突然発症の疲労,左上肢の振戦.両手のしびれ.当初,脳卒中が疑われた.左側優位の振戦は運動時および姿勢時に認められた(Holmes振戦).腱反射亢進.歩行の不安定性.CD4細胞↓.頭部MRIで歯状核,中小脳脚,視床に異常信号.JCV陽性.

診断:進行性多巣性白質脳症(PML)

症例5.亜急性の失調性歩行で発症した68歳男性
一ヶ月の経過で歩行が不能になった.糖尿病あり.上下肢・体幹の運動失調.構音障害.注視方向性の眼振.sIL2R,CEAの上昇を認めた.頭部MRIで小脳萎縮は目立たない.肺に腺がん,またシェーグレン症候群も認めた.抗神経抗体はグリアジンIgAが弱陽性以外すべて陰性.免疫療法を行ったが無効.

診断:シェーグレン症候群?グルテン失調症?(未確定)

症例6.ある治療により低緊張・無動症状が改善した運動異常症の6歳男児例
成長発育遅延を認めた.2歳で立てなくなった.日内変動,睡眠効果もあった.3歳3ヶ月で低緊張・運動緩慢,仮面様願望を認めた.腱反射亢進しクローヌスを認めるがバビンスキー徴候陰性.頭部MRI異常なし.脳脊髄液のHVA↓HVA/5-HIAA↓↓6歳で開始したl-dopaが著効.

診断:チロシン・ヒドロキシラーゼ欠損症

症例7.ふらつきを主訴とし,手指の不随意運動とsplit handを認めた70歳代女性
母親に類症を認めた.5年前から階段が降りにくくなった.3年前からRBDを認めた.2年前から歩行障害が顕著になった.Split handの手指萎縮を認めた.上肢の姿勢時のこまかいふるえを認めた(ポリミニミオクローヌスないし線維束性収縮).神経伝導検査で運動・感覚ニューロパチー.表面筋電図はミオクローヌス・パターン.小脳・橋の軽度の萎縮.

診断:MJD/SCA3

症例8.頸部と上肢のふるえで発症した20歳代女性 
1年前から頸部と右上肢のふるえが出現.一年前から不安障害.IQは70.右上肢の姿勢時振戦.頸部の細かい振戦はdystonic tremor.歩行もジストニア様.頭部MRI正常.DATスキャン低下.

診断:DYT28(KMT 2B遺伝子変異)

症例9.パーキンソンにズムに原因不明の呼吸不全を合併した一例
7年前から歩行障害.4年前パーキンソン病と診断され,当初l-dopa有効.2年前からいびき.1年前から幻覚,呼吸不全,CO2ナルコーシス.前傾姿勢,球麻痺,水平方向性の眼球運動制.バビンスキー徴候陽性.パーキンソニズム.吸気性喘鳴.%VC 48%.

診断:IgLON5抗抗体関連疾患

症例10.右肩が勝手に動いてしまう73歳女性
3年前から歩行障害.ベーチェット病の既往.右肩を連続して複数回持ち上げるような不随意運動.認知機能低下.腱反射亢進.LGI1,CASPR2抗体陰性.SPECTでCAPPARサイン.タップテストで歩行改善.

診断:iNPHに伴うバリズム・舞踏運動ないし機能性運動障害

症例11  左上肢の挙上を呈した50代女性の一例(当科経験例)
3年前からふらつきと構音障害.2年前から無意識に左上肢を頭上に伸ばし,手首を曲げる動作を繰り返すようになった.発症当初は1時間に数回であったが,徐々に増加し,当院入院時には15回/分となった.小脳性運動失調,パーキンソニズム.起立性低血圧.頭部MRIで両側のputaminal rim sign.機能性運動障害は考えにくく,手の挙上はarm levitationと考えられ,それに対応する対側頭頂~側頭葉の血流低下がある(ただし頭の上まで届くarm levitationは報告なし).MDS MSA診断基準のClinically Probable MSAを満たすが・・・MSAとは考えにくいとの意見が複数あり.OPCA-CBDのようなタウオパチーではないかという意見もあった.

診断:arm levitationを認めたclinically Probable MSA


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アルツハイマー病治療薬レカネマブはどんな薬か理解しよう! ―患者・家族のための分かりやすい説明図―

2023年07月10日 | 運動異常症
FDAでのフル承認を受け,日本でもレカネマブの使用がより現実味を帯びてきました.図はAlberto J Espay教授(シンシナチ大学)がTwitter(@AlbertoEspay)で発信されたレカネマブ治療に関する説明です.一般の方々に必ずしもその効果と副作用について伝わっていないように思われますのでこの図を用いて解説したいと思います.



レカネマブの効果を示したClarity AD試験の対象は,PETまたは脳脊髄液検査でアミロイドが検出された50〜90歳の早期アルツハイマー病患者で,レカネマブ群898人,偽薬群897人です(①).2週間ごとにレカネマブを静脈内投与します.主要評価項目は,CDR-SB(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes,範囲0〜18点で高いほど障害が強い)の18カ月間における開始前からの変化です.通常,18点中1点以上の変化がある場合,改善ないし悪化と定義されます(②).



さてレカネマブのCDR-SBに対する効果は,開始前のスコアは両群とも約3.2点で,18ヵ月間でレカネマブ群1.21点,偽薬群1.66点で「ともに悪化」しました.またその差は0.45点,つまりレカネマブは0.45/1.66(27.1%)悪化を抑制したということになります(P<0.001)(③).つまりごく早期の患者において,18ヶ月で悪化はするものの,18点中0.45点という抑制があることをどう解釈するかが求められるわけです.



また「27%進行を抑制する」ばかり強調されますが,この表現は誤解を招くとも言われています.重要なのは変化でなく,実際の点数であり,その効果を実感できるかどうかです.つまり開始前の3.2点と,18ヵ月後の点数(レカネマブ群4.41点と偽薬群4.86点.その差0.45点)を比較することになります.現実の世界では偽薬群と比べて18ヶ月間で0.45/4.86(9.3%)の違いしかなく(④),患者・家族がその効果を実感することはまずないだろうと言われています.年間約350万円という価格ですので,どのような人に使用すべきかという議論があります.私は共同通信社からの依頼で,今年1月に「指標」欄に意見を執筆しました.私の考えは治療効果に応じて薬の価格が変動する「償還払い方式を導入すべき」というものですが,じつは18ヶ月間で18点中0.45点の差と軽微であるため厳密な効果判定は難しいのかもしれません.



さらに治療による効果や有害事象の程度を評価する必要があります.その指標となる治療必要数(NNT)は,ある治療を行った場合,1人に効果が現れるまでに何人に治療する必要があるのかを表します.しかしレカネマブでは認知機能が改善することはないのでNNTを計算することはできません(⑤).一方,有害事象は害必要数(NHH)を計算します.有害事象45%,アミロイド関連画像異常(ARIA)が26%で,計算すると3,すなわち3人に投与すると1人に害が及ぶということになります.よって⑥に100人治療した時の結果の内訳を示しますが,改善(緑)なし,悪化(オレンジ)2/3,有害(紫)1/3となります. レカネマブの特徴が一目瞭然の図です.



ちなみにレカネマブ群対偽薬群で,死亡0.7%対0.8%(6例対7例),重大合併症14.0%対11.3%,ARIA-E(アミロイド関連画像異常-浮腫/浸出)12.6%対1.7%,ARIA-H(同-出血性変化)17.3%対9.0%,症候性ARIA-H 0.7%対0.2%でした.ARIA-Eは開始3ヶ月以内に生じたものの,いずれも軽症ないし無症候で治験の中断には至りませんでした.ただしARIA-EはApoE ε4ホモでは高率でした(ARIA-E 32.6%対3.8%).J Prev Alzheimers Dis誌に発表されたレカネマブの適正使用ガイドラインでは,安全性確保のためにAPOE遺伝子検査を推奨しています.

最後(⑦)に「レカネマブ用量依存性脳萎縮」が書かれています.18ヶ月間で偽薬群17500 mm3の萎縮が生じますが,レカネマブ群ではより高度の22000 mm3という脳萎縮が生じます.この差は4500 mm3ですので,偽薬群より4500/17500=26%(ティースプーン1杯程度の体積)萎縮が高度です.なぜ萎縮が促進されるのか,この萎縮がどういう意義を持つのかはまだ不明です.



そのほかにも知っておくべき重要な事項があります.
◆脳アミロイドアンギオパチー(脳血管にアミロイドβが沈着する疾患)を合併する場合,レカネマブで脳出血を合併しやすく,これまで3症例の死亡例の報告(2例目3例目)があること.よって脳アミロイドアンギオパチーをきちんと除外する必要があるが,その診断は必ずしも容易ではないこと.
◆死亡例の中に,レカネマブ使用中に脳梗塞を発症し,その際に血栓溶解療法を行ったところ大出血→死亡した症例が含まれていること.
◆ARIAの長期的な影響は不明であること
◆APOE遺伝子検査は推奨されるが,遺伝子診断の体制づくりと,診断後の適切な説明・カウンセリングは容易ではないこと

以上を参考にしてレカネマブへの理解を深めていただければと思います.

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抗IgLON5抗体関連疾患(Anti-IgLON5 disease)の総説をpublishしました!

2023年07月08日 | 運動異常症
当科の大学院生,大野陽哉先生らは標題の総説をClin Exp Neuroimmunol. 誌に発表しました.抗IgLON5抗体関連疾患は,細胞接着分子IgLON5を標的とする自己免疫性脳炎です.病型は,(i)睡眠障害,(ii)球麻痺症候群,(iii)運動異常症,(iv)認知機能障害,(v)神経筋症状(stiff-person症候群に類似)に分類されます(図1).



睡眠障害では,睡眠時随伴症(パラソムニア)や睡眠呼吸障害(喉頭喘鳴や声帯開大不全,睡眠時無呼吸,中枢性低換気)を認めます.運動異常症では,コレア,ジストニア,筋強剛,振戦,ミオクローヌス,ミオリズミアなどがみられます.認知機能障害には,遂行機能障害,注意障害,言語・視覚記憶障害などがあります.舌や筋の線維束性収縮,四肢の筋力低下・筋萎縮も認めます.一部の患者は,進行性核上性麻痺や多系統萎縮症,筋萎縮性側索硬化症,大脳皮質基底核症候群などの神経変性疾患に似た症状を呈することがあります.PSGでは,未分化なNREM睡眠と構造化不良のN2が特徴的です.頭部MRIおよび脳脊髄液検査では,一般的に正常または非特異的な所見が見られます.HLA-DRB1*10:01-DQB1*05:01がこの疾患と強く関連しています.自己抗体はcell-based assayにて検出します(図2.当科にて測定可能です).


(A-D)患者血清と(E-H)陰性対照血清を用いたIgLON5抗体のcell-based assay.青:核,緑:GFAP-IgLON5,赤:IgLON5に結合する抗体,最後:マージ画像.

病理学的には,視床下部,脳幹被蓋および上位頚髄に,リン酸化3/ 4リピート・タウの神経細胞沈着,神経細胞消失,グリオーシスが観察されます.ステロイド,IVIG,血漿交換療法,リツキシマブなどの免疫療法に反応する患者もいます.免疫療法への良好な反応を示唆する因子としては,早期治療の開始,脳脊髄液の炎症所見,IgLON5抗体サブクラスがIgG4に比べてIgG1優位であることなどが挙げられます.早期治療が有効な理由は,病初期には抗体誘発性の神経炎症が優勢であるものの,二次的なタウ病理が起こり,不可逆的な変化をもたらすためと考えられます.以上,睡眠障害を併発する非典型的な運動異常症を有する患者では,抗IgLON5抗体関連疾患を鑑別に挙げる必要があります.
Ono Y, Kimura A, Shimohata T. Pathogenesis, clinical features and treatment of anti-IgLON5 disease. Clin Exp Neuroimmunol. doi.org/10.1111/cen3.12759

★ 自己免疫性脳炎を研究する大学院生を募集中です.取り組むべきテーマがたくさんあります.関心のある先生は見学にお越しください.メッセージ等でご連絡ください.

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機能性運動障害はinconsistencyとincongruenceの2本柱で症候学的に診断する

2023年04月26日 | 運動異常症
米国神経学会年次総会(AAN2023)にてAlberto J Espay教授(シンシナティ大学)の機能性運動異常症(FMD)の講義を拝聴しました.昨年,Lancet誌に発表された短報の詳しい解説で,YouTubeで下記動画も公開されています.

Looking of inconsistency and incongruence

提示症例は4ヶ月前に突然発症した,頭部と右腕の間欠的な不随意運動を呈した67歳女性です.前医の画像検査や脳波は正常でした.そして「心因性」と言われた後,納得がいかずEspay教授の専門外来を受診しました.

広頸筋の間欠的収縮と頭部の回転運動を伴う発作性頸部後屈でした.この運動異常には振幅と周波数の変動が見られ,また複雑な指タッピングを行うと一時的に抑制されたり,指タッピングの周波数と同期したりしました.歩行時には縦横の歩幅が変動し,失立失歩も認め,さらに頭部の動きも変化しました.またプルテストに対する反応が過剰でした.下図はさまざまなタスク時の頸部運動の変化を示しています.



重要なことはFMDの診断は除外診断により行うのではなく,症候学的に,2つの観点から,積極的に行うことです.つまり①運動異常の振幅,分布,重症度にinconsistencyを認めること(一貫性がないこと),そして②上述の指タッピングにより徴候が変化したり歩行時に失調が出現したりするといったincongruenceを認めること(一致・適合しないこと.解剖学的に説明できないこと)を示すことで診断ができます.つまりこの2つを示せば,心理的ストレスや疾病利得などの精神的問題や画像検査などの検査は不要で,症候学的に確定診断できることになります.

この患者さんには,自分が認知していない不適切な思考がFMD発症の素因となるという説明を聞いて,納得・安心し,認知行動療法士とともに治療・リハビリに励むことを切望しました.2ヶ月後,このFMDは消失しました.適切に診断し,その結果を伝えることが,その後の認知行動療法,理学療法,作業療法が成功する鍵となります.
Hess CW, Espay AJ, Okun MS. Inconsistency and incongruence: the two diagnostic pillars of functional movement disorder. Lancet. 2022 Jul 23;400(10348):328.

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片側顔面攣縮と眼瞼攣縮,機能性神経障害の鑑別3 -機能性眼瞼攣縮-

2023年04月05日 | 運動異常症
最後は機能性と器質性の眼瞼痙攣の鑑別です.機能性眼瞼痙攣は実はまれではなく,単一施設の症例集積研究でで20%を占めていたという報告があります.機能性を疑うヒントとして異常な視覚症状を訴えたり,突然発症して初めから長時間の眼瞼攣縮を呈するといったことが挙げられます(器質性の場合,徐々に長時間の眼瞼攣縮に移行します).図上のように強い閉眼を来たし,眉毛は下がり,Babinski 2 signは認めません.また何かに集中させたり夢中にさせたりすると(distraction),完全に消失します(図下).



他の鑑別点としては,器質性の場合,感覚トリックを認めることがありますが,機能性では存在しないか,触れたりすることで症状が悪化します.また機能性ではMRAで椎骨脳底動脈の蛇行を認めません.またボツリヌス毒素注射を行うと,器質性では効くまで時間がかかかります.もし注射して即座に改善した場合には「これは機能性かも!」と診断を見直す必要があります.
Gazulla J, et al. Parkinsonism Relat Disord. 2015;21(3):325-6.
Frucht L, et al. Front Neurol. 2021 Feb 4;11:605262.


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Head titubationの新たな鑑別診断 ―検索すべき2つの抗体―

2023年03月06日 | 運動異常症
朝のカンファレンスで,首が揺れる不随意運動であるhead titubationに関するレクチャーをしました.head titubationは小脳やその求心路・遠心路の障害により生じる体軸の筋トーヌス低下に伴う小脳流出振戦(cerebellar outflow tremor)で,5Hz未満の低周波数の振戦です.小脳形成異常(Joubert症候群,Dandy-Walker症候群)や小脳前葉に障害をきたす疾患で認め,小脳梗塞や脊髄小脳変性症等でも生じます.自身の経験では秋田で経験したSCA15家系(ITPR1遺伝子変異)は顕著なhead titubationを認めました(Hara K. et al. Neurology. 2004;62:648-51).

さて本題ですが,head titubationの原因として,今後,自己免疫性小脳失調症を考える必要があります.まず測定すべき抗神経抗体はmGluR1(metabotropic glutamate receptor type 1)抗体です.当科で測定可能です.NHO兵庫中央病院脳神経内科坂下建人先生らと報告した症例は,顕著な頸部から体幹のtitubationと体幹失調を呈しましたが,IVIgが著効しました(Sakashita K, et al. Case Rep Neurol 2022;14:494–500).当科では5年間以上経過してもIVIgが速やかな効果を示す症例を報告しています(Yoshikura N. et al. J Neuroimmunol. 2018;319:63-67).つまり治療可能な疾患ですが,抗体のアッセイ系が本邦では確立されていなかったため,未診断例が存在した可能性があります.診断のヒントは亜急性の経過や小脳外徴候(認知障害,行動変化,味覚障害,けいれん発作など)を認める点です.

もうひとつ測定すべき抗体は,グルタミン酸カイニン酸受容体サブユニット2(GluK2)抗体です.2021年に初めてDalmau先生らによって8例が報告された小脳性運動失調+辺縁系脳炎を呈する疾患です.最近のAnn Neurol誌に報告された27歳中国人女性で,1.5年前から頭痛,失調歩行,その後,激しい頭痛と痙攣発作,軽度の認知機能低下を呈しました.18F-DPA-714 PETにて小脳・橋におけるミクログリア活性化が示されています.ミコフェノール酸モフェチルによる免疫療法で症状は改善しました(Ann Neurol. 2023;93:635-636;オープンアクセス論文).こちらも治療可能ですので見逃さないことが重要です.当科の木村暁夫先生がcell-based assayを立ち上げ,こちらも測定可能です.



★head titubationを呈する症例がいらっしゃいましたらご相談いただければと思います.お問い合わせは以下よりお願いします.
岐阜大学脳神経内科神経免疫班研究


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機能性ジストニアの診察 ―3つのポイント―

2023年02月17日 | 運動異常症
ジストニアとはおもに持続的筋収縮により生じる肢位の異常を指します.器質性と機能性(心因性)の両方の原因で生じます.カンファレンスで,機能性ジストニアを診るポイントを解説しました.

【まず病歴は重要】
軽い外傷や手術後の発症,発症前の心理的ストレス,突然の発症,思春期・成人期の発症,急激な進行と激しい症状の変動,寛解した時期があること,激しい痛みを伴うこと(頸部は除く)は参考になります.見られていないときに改善すること,偽薬や暗示等に顕著な反応があること,そして感覚トリックがないことも挙げられます.そのほか,自傷行為の既往,うつ病・不安障害などの精神疾患,過去の虐待,疾病利得の存在も確認します.

【診察:固定ジストニアか?】
器質性ジストニアはその程度や肢位がある程度,変動します.この変動がなく,ずっと同じ肢位のままであるのが固定ジストニア(fixed dystonia)です.この場合,機能性ジストニアの可能性が高くなります.ただし機能性ジストニア以外にも,固定ジストニアは大脳皮質基底核症候群,Stiff-limb syndrome,外傷後の複合性局所疼痛症候群(CRPS)等でも認められるため,これらの除外は必要です.しかし多くの場合は容易に除外できます.

【診察:典型的パターンか?】
機能性ジストニアでは典型的パターンが存在しますので確認します(図).Aは手指のジストニアですが,物をつまむためのⅠ,Ⅱ指の機能(pinch)は保たれる傾向があります.Bは痙性斜頸ですが,注目すべきは肩で,頸部ジストニアと同側の肩は挙上し,対側の肩は低下します.Cは足部の機能性ジストニアの典型パターンです.Dは顔面ジストニアですが,口唇と顎が偏位し,同側の広頸筋の緊張を認めます.



【診察:distractionとattentionでどうなるか?】
診察できわめて重要なポイントは注意を逸らす(distraction)と改善し,注意を向ける(attention)と悪化することを証明することです.そのためのコツですが,例えば上肢にジストニアを認める場合,問診も診察も上肢については最後にし,なるべくその他の部位から行い,上肢への注意を逸します.その間の上肢のジストニアの状況をよく観察します.最後に上肢の問診や診察に移り,注目が行くことで,ジストニアが徐々に悪化することを確認します.

【診察:その他の徴候】
最後にジストニア以外の機能性運動障害・麻痺・感覚障害等の存在も参考になります.

Schmerler DA, Espay AJ. Handbook of Clinical Neurology. 139, 235-245, 2016

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機能性神経障害の診療に必要なdouble vision(複視) 

2023年01月17日 | 運動異常症
Brain誌のEssay Competition 2022を受賞したエッセイ「double vision」を読みました.ドイツの脳神経内科医が書いたものです.救急室に搬送された20代前半の女性がベッドの上で激しく痙攣している場面から始まります.実習中の医学生は,その姿にエクソシストの悪魔祓いの儀式を連想します.医療者のひとりがおもむろに彼女の手を取り,彼女の頭上高く持ち上げ,顔をめがけてそのまま落下させました.その手は彼女の顔を避けて落下しました.緊迫した場面は,彼女ひとりを除いて突然終了しました.真のてんかん発作ではないと判断されたわけです.痙攣しつづける彼女は強く眼を閉じていました.

発作中の閉眼は「心因性非てんかん発作(psychogenic non-epileptic seizures; PNES)」の特徴的所見です.てんかん発作とよく似るものの,心理的な要因により生じます.救急搬送された痙攣患者の約10%とも言われています.この疾患のメカニズムは十分に解明されていません.しかしPNESには特徴があって,上述の発作中の閉眼のほか,頻回の発作,長い発作時間,強直相→間代相といったパターンがなく動揺すること,骨盤を突き上げるような動きが見られることなどが教科書に記載されています.

著者はPNESのような機能性神経疾患を診療するときに,医師は病気を理解すると同時に,病気をかかえた人を診るという,2つの視点,すなわち複視を習得する必要があると言っています.つまり「発作中に閉眼している患者はPNESである」というだけではなく,ぎゅっと目をつぶることが,普遍的な苦悩の表現であるという直感的な理解が必要だと強調しています.診断の感度を上げることを優先して,人としての感性を鈍らせてはいけないということです.患者に対する共感的なアプローチにもとづいて医師が発する言葉や態度は患者の癒やしになります.「手は患者に差し伸べるためにあり,患者の頭上に落とすためにあるのではない」と最後に述べていてハッとさせられます.素晴らしいエッセイですので,ぜひ原文をお読みいただければと思います.

ちなみに下図の素敵なイラストが挿絵になっていました.画像生成AIを用いて,エゴン・シーレ風に著者が作成したものだそうです.エゴン・シーレ(1890-1918)は28歳で夭折したオーストリアの画家です.ジストニアを思わせる捻れたモデルの絵が多くあります.サルペトリエール病院からのヒステリーなどの患者にも影響を受けたそうで(Brain Nerve 73;1341-5, 2021),そのために挿絵に選ばれたのかなと思いました.

Popkirov S. Brain 146;2–3:2023
東京都美術館 エゴン・シーレ展




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新しい時代の運動異常症の診療@MDS Video Challenge 2022

2022年10月24日 | 運動異常症
パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(MDS)の目玉企画は,世界各国の学会員が経験した症例の動画を持ち寄り,症候や診断を議論するVideo Challengeです.16症例の提示があり,オンデマンドでの参加でしたが,2時間30分の楽しいカンファレンスでした.恥ずかしながら16症例中,私が診断を即答できたものは2症例だけでした!ただ解答を見るとその理由がわかると思います.いずれにしても診断にたどり着くための新しいアプローチを学ぶことがこの企画の目的だと思います.それは『適切に評価した症候からkey word searchで疾患を絞りつつ,孤発例であっても遺伝性疾患の可能性,変性疾患様であっても自己免疫疾患の可能性を残しつつ,エクソーム解析・全ゲノム解析とcell-based assayを用いて,治療可能な常染色体潜性遺伝性疾患と自己免疫疾患を見逃さずに診断する』というものです.出発点は症候を適切に評価できる臨床力(phenomenology)を磨くことです.近道はたくさんの運動異常症の動画を見ることに尽きます.そして日本の課題は,これから紹介するオーストラリア,中国,マレーシア,イタリアの症例で出てきたようなエクソーム解析・全ゲノム解析や,商業ベースで測定できない自己抗体をどうするかだと思います.

◆Case 1 – USA
【症例】11ヶ月の男児.睡眠中に舌を噛むことを主訴に受診.生後9ヶ月から舌からの出血を認めた.夜間,舌を噛む頻度は増え,20分おきに目を覚ますようになった.また両親は舌の先端が噛み切れて欠損していることに気づいた.食欲低下,体重減少,発語減少,易怒性を認めた.神経診察では睡眠中の下顎の細かい振戦様運動.脳波,頭部MRI異常なし.常染色体顕性遺伝の家族歴.
【解答】Hereditary geniospasm with associated recurrent nocturnal tongue biting (RNTB). Geniospasmのgenioはオトガイの意味で,chin trembling とも呼ばれる.Geniospasmの9%でRNTBが報告されている.生後9-18ヶ月で生じ,発育とともに減少する.機序不明.治療としてクロナゼパム内服やボツリヌス注射が行われ,舌咬傷,体重,発語は改善した.

◆Case 2 –Australia(銀メダル受賞)🥈
【症例】16歳男性.血族婚なし.両親無症状.14歳から転倒,服のボタンがとめにくい,学業成績低下,球技や水泳困難.祖父DLB.神経学的に眼球運動失行(注視の際にhead thrustを伴う),運動緩慢,構音障害,上下肢軽度の筋強剛,書字困難,軽度の失調歩行.脳脊髄液正常.頭部MRIでは尾状核>被殻のT2高信号・萎縮.全エクソーム解析異常なし.
【解答】若年性ハンチントン病(74リピート).若年性(21歳未満)はHDの5%未満.若年発症齢は舞踏運動よりもジストニア,筋強剛,小脳性運動失調,認知機能障害,精神症状を呈する.眼球運動はサッケード開始の障害を認め,緩徐,hypometriaで,固視や眼球運動制限を認める(本例も2年後に眼球運動障害,球麻痺,痙性が出現した).画像では尾状核,被殻に加え,小脳,淡蒼球に異常を呈しうる.

◆Case 3 - Australia
【症例】姉妹例.小児期より低トーヌス,運動発達遅延,軽度認知機能障害,上肢振戦,構音障害,下肢痙性.青年期より車いす,振戦の増悪(開口したままの頸部振戦;No-no type,上肢の振戦),全身性ジストニア,小脳性運動失調,アナルトリー,嚥下障害.頭部MRIでは髄鞘の低形成,顕著な萎縮.
【解答】H-ABC症候群(Hypomyelination with atrophy of the basal ganglia and cerebellum).2002年に提唱された,基底核と小脳の進行性萎縮と著明な髄鞘化不全を呈する稀な白質脳症.本例はTUBB4A遺伝子変異(Ala314Thr)を認めた.TUBB4A遺伝子関連疾患としてはH-ABC症候群,髄鞘化不全,ジストニア単独が知られている.髄鞘化不全を呈する白質脳症にはPelizaeus-Merzbacher病,18q-症候群等がある.

◆Case 4 – 中国
【症例】58歳男性.46歳からの失調歩行,構音・嚥下障害,下肢の筋強剛.54歳;車椅子,自律神経障害(OH,勃起障害,尿閉).56歳;疲労,アパシー,体重減少.57歳;下肢の進行性クランプ.家族歴なし.既往歴:46歳鼻咽頭腫瘍,57歳繰り返す尿路感染症による敗血症.小脳性運動失調+自律神経障害+錐体路徴候.認知機能正常.頭部MRIで小脳萎縮(左に強い),hot cross bun sign.FDG-PETで左小脳半球低代謝.
【解答】オリーブ橋小脳(OPC)型X連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD).疲労,アパシー,体重減少,敗血症からアジソン病を,神経症候の合併からX-ALDを疑った.極長鎖脂肪酸の増加と全ゲノム解析からABCD遺伝子変異(Gly512Ser)を認めた.OPC型X-ALDはX-ALDの1-2%程度.MSA-Cの新しい鑑別診断として,RFC1遺伝子関連スペクトラム障害,Homer-3抗体関連疾患に加えOPC型X-ALDも認識する.

◆Case 5 – India(銅メダル)🥉
【症例】16歳女性.14歳から背中を後屈させるような歩行(ジストニア;リンボーダンス様),姿勢保持障害と後方への転倒.以後,書字障害,発語障害も出現.右運動緩慢,腱反射亢進.頭部MRI(SWI)にて淡蒼球における鉄の沈着.
【解答】Childhood striatonigral degeneration(VAC14遺伝子Val66Met, Ala582Ser).常染色体潜性遺伝.VAC14遺伝子関連神経変性症は,小児・若年発症ジストニア-パーキンソニズム,全身性ジストニアなどを呈し,進行性で,発熱性疾患で増悪する.頭部MRIではT2で線条体の高信号,SWIで淡蒼球,黒質の異常を認める.L-DOPAや抗コリン薬がある程度有効.若年のジストニア-パーキンソニズムで,特徴的な歩行とSWIでの異常を認めたらVAC14遺伝子変異を確認する.

◆Case 6 – Malaysia
【症例】21歳女性.11歳時に全般てんかん.15歳時に顕著な高血圧(PRESも経験.2次性高血圧の原因検索で腎障害を認める以外異常なし),軽度の認知機能障害.12-13歳からの肩,頸部,両上下肢,体幹のミオクローヌス(皮質性ミオクローヌス?),軽度の歩行障害.同胞にもミオクローヌスあり.脳波で間欠的なdiffuse generalized spikesを認める.血漿アミノ酸分析:プロリン1274 micro-m/L(88-290).
【解答】高プロリン血症1型(HP1).全エクソーム解析でPRODH遺伝子変異(Leu441Proホモ接合).HP1は常染色体潜性遺伝形式のプロリン代謝異常症で,HP1はproline dehydrogenase欠損により生じる.腎障害,難治てんかん,精神発育不全,統合失調症に加え,hyperkinetic movement disorderも呈する.プロリン制限食による食事療法を行う.

◆Case 7 – Thailand(金メダル)🥇
【症例】58歳男性.2ヶ月の経過で急速進行性の小刻み歩行,すくみ足,突進現象.上肢運動緩慢.振戦やRBD,嗅覚障害,認知機能障害なし.既往歴として脳転移(1箇所)を伴う膀胱がん(Atezolizumabにて治療中).頭部MRIにて両側基底核から皮質下白質にかけて辺縁不明瞭なT2高信号病変(造影効果なし).
【解答】免疫チェックポイント阻害剤(ICI)による亜急性進行性パーキンソニズムを伴う線状体脳炎.Atezolizumabの中止,ステロイドパルス療法,L-DOPA開始により徐々に改善した.AtezolizumabはPDL1を標的とするICI.日本ではテセントリクの商品名で使用されている. ICIの神経合併症(脳炎,無菌性髄膜炎,MG,感覚運動ニューロパチー,下垂体炎など)は2~12.6%.脳炎では限局性脳炎(辺縁系脳炎ないし辺縁系以外の脳炎)と髄膜脳炎症候群が知られる.初回ないし2回めの治療で生じやすい.Atezolizumabによる脳炎は5例とまれで,運動異常症は初の報告.

◆Case 8 – USA
【症例】36歳女性.全身性ジストニアを呈した.小児期に奇形症候群の一つ,Russel Silver症候群と診断されていた(子宮内発育遅延,身体左右非対称,低身長,性腺発育不全,逆三角形の顔貌).小児期に頸部の右ないし前方への屈曲,10代で右手足の不随意運動(ミオクローヌス,下肢ジストニア)が出現し,進行性に増悪.
【解答】KMT2B遺伝子変異(Glu1403Gly).下肢から始まる全身性ジストニア(頭頸部,喉頭を含む)を呈する.しばしば精神発達遅延,低身長,microcephalyを伴う.Russel Silver症候群と診断されてきた症例の中に含まれている可能性がある.

◆Case 9 – Switzerland
【症例】30歳男性.気晴らしで使用する麻薬歴(レクリエーショナルドラッグ)あり.1ヶ月前から行動変容,尿意切迫,2週前から右上肢の舞踏運動~バリズム.さらに複視,左片麻痺,アパシー,意識障害.頭部MRI脳幹や尾状核の異常信号(造影効果あり).脳生検:マクロファージ浸潤を伴う脱髄が特徴的(CD3リンパ球を少量伴う).
【解答】レバミゾール(levamisole)による白質脳症.レバミゾールは線虫駆虫薬の1種だが,ストリートドラッグのコカインには,コストを減らしたり薬物を使いやすくする目的で添加されている.ヒトでも過去に化学療法補助薬として認可されたことがあるが,血管炎などの重篤な副作用で取り下げになった.多発炎症性白質脳症もきたし,MSやADEMと誤診される.

【Phenomenology】
◆Case 1 – Switzerland
【症例】58歳女性.体重減少,夜間のいびきと日中過眠,うつ,舌のリズミカルで緩徐な不随意運動,舌の機能障害はなし.
【解答】IgLON5抗体関連疾患に伴う舌のミオリズミア

◆Case 2 – 英国
【症例】58歳女性.急性発症した舌と咽頭の痛み.舌のジストニアと運動障害,流涎,構音・嚥下障害.
【解答】右舌基底部の扁平上皮癌.舌の運動異常症が,錐体外路障害によるものとは限らないという教訓的な症例.

◆Case 3 -?
【症例】6歳女児.2ヶ月半前から認知機能障害と周期性に口を開くような動き(ミオクローヌス)を呈した.脳波では周期性同期性高振幅徐波結合を認める. 
【解答】亜急性硬化性全脳炎(SSPE)Jabbour Ⅳ期.日本では患者数は150人程度,年間の新規発症者数は5~10例と非常にまれだが,認識しておくべき疾患.Jabbour stageは4期に分かれ,Ⅳ期が最重症.

◆Case 4 –?
【症例】15歳男性.遺伝性感覚自律神経ニューロパチー.COVID-19罹患に伴いautonomic crisisをきたし,食道損傷を生じた.食道ステント,メロペネムを含む抗生剤にて治療.その後,顔面のミオクローヌスが出現.
【解答】カルバペネム系抗生剤によるミオクローヌス.抗生剤の中止後2日目には完全に消失した.

◆Case 5 –Netherland
【症例】39歳女性.16歳発症,26歳から車椅子.35歳oscillopsia(動揺視).ジストニアによる頸部後屈,構音障害,上肢のspastic ataxia,振戦,舞踏運動,下肢の高度の痙性対麻痺,振動覚障害.眼球運動ではmacro-saccadic oscillationsを認める.
【解答】macro-saccadic oscillationsを伴う常染色体潜性遺伝複合型痙性対麻痺(VPS13D遺伝子変異)

◆Case 6 – Italy
【症例】50歳男性.両親は血族婚.34歳全般発作.その後,認知機能低下.歩行障害(パーキンソニズム,トーヌス低下による膝折れ),全介助.頭部MRIでは尾状核萎縮.
【解答】VPS13A遺伝子変異の新規ホモ接合.全エクソーム解析.舞踏運動を伴わずにパーキンソニズムを主徴とした有棘赤血球舞踏病.病理学的には黒質は保たれていることが報告されている.

◆Case 7 – France
【症例】70歳男性.67歳から30分から1時間来る返す間欠的な激しい上下肢の不随意運動(一見すると機能性運動異常症のように奇妙).空腹時に生じる.発汗や混迷を伴う.
【解答】インスリノーマ.




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