Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

脊髄小脳変性症8型(SCA8)のはずが多系統萎縮症(MSA)だった !?

2005年03月16日 | 脊髄小脳変性症
SCA8は1999年,ミネソタ大のRanumらのグループが報告したSCDで,13q21におけるCTG repeatの異常伸長より発症すると言われる(このグループはZNF9遺伝子におけるCCTG repeat伸長により発症するMyotonic dystrophy type 2; MD2も報告している).この論文によると,正常アレルは16~91 repeat(16~37 repeatで99%を占める),伸長アレルは107以上.常染色体優性遺伝形式をとり(ただし原著8家系のうちADは5家系,ARは2家系,1家系は孤発とバラバラ),発症年齢は18~65歳(平均39歳),歩行障害や球麻痺症状が初発症状になる.進行が遅いのが特徴とされるが,重症例では40~50歳代で歩行困難になる.疾患重症度とrepeat数は相関するという.本邦でも複数の報告例がある.
ただ当初よりこの疾患の存在については反論が相次いでいた.①健常者にもCTG repeat伸長を認めること(遺伝子変異と表現型がsegregateしない),②遺伝形式が不明瞭であること,③精神疾患の中にCTG repeat伸長を示す者がいて,この遺伝子変異のみでは必ずしもSCDを引き起こさない,などである.
今回,さらにSCA8の存在に疑問を投げかける症例が報告された.米国在住の56歳男性で,53歳時に構音障害と小脳失調にて発症した.またインポテンツなど自律神経障害も認めた.進行性の経過であったが,商業ベースの遺伝子診断(おそらくAthena社)の結果,SCA8遺伝子が145/28と伸長しており,SCA8と診断した.この患者は発症4年目に自殺,剖検の結果はMSAにcompatibleであった.著者らは遺伝子変異と小脳失調の関連が明らかになるまで,SCA8遺伝子診断は利用すべきではないと述べている(結構,怒っている感じがする).
最近,RanumのグループはSCA8の遺伝形式については”complex inheritance with extremes of incomplete penetrance”と述べ,CTG伸長を認めながら発症しないケースについては浸透率を増加させる環境因子や遺伝的因子の存在を想定し,実際にハプロタイプ解析の結果を報告している(Am J Hum Genet 75; 3-16, 2004).かなり混沌としてきたが,少なくともSCA8の確定診断は伸長ではなく,慎重に行うべきであろう.
余談だがRanum女史にラボに来ないかと誘われたことがある.MD2がScienceに掲載された時期のことだが,そんなこともあってSCA8とMD2の話題には関心がとてもある.

Ann Neurol 57; 462-463, 2005
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« シャルコー・マリー・トゥー... | TOP | Senataxin変異は眼球運動失行... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 脊髄小脳変性症