Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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マイハンマー 2024(No 28-35) ―この1年の成果―

2024年08月27日 | 医学と医療
医学部4年生に対する神経診察の実習が開始となり,診察用のハンマー(打腱器)について説明しました.私はハンマーを集める趣味があります.2年前にブログで紹介したときの写真を見ると19本,昨年は8本ほど増えて27本,この1年では7本増えていました(図1).面白いものがあるので解説します.



28.Taylor型(柄がリング状).現在,もっとも世界で使用されているタイプで,米国の小児神経内科医John Madison Taylor(Philadelphia)が 1888年に開発したものです.三角のゴムの素材や色,重さが異なるものは複数持っていますが,柄の部分はいずれもほぼ同じでした.しかしこのハンマーは柄の部分がリング状に穴が空いています.輸入品.

29. Rabiner型.Rabiner型は円盤型打腱器の1つ.Babinski(1857-1932)が考案した柄がニッケルで覆った鉄製のBabinski型を,Rabiner(1892-1986)が改良し,柄を円盤に対して垂直だけでなく,水平方向に付け替えられるようにしたものです.さらにこのハンマーは柄を伸縮できるようにしてあります.日本神経学会卒前・初期研修教育小委員会が医学生・研修医のために作成した学会公認ハンマー.近日,日本神経学会学会員1万人到達記念のプレミアムハンマー(金色のロゴ)の作成中です.

30.Queen Squareカナダ型.Babinski型に似ていますが,柄がプラスチック製です.右下の写真のNo. 21は竹製で,Queen Square型と呼ばれます(英国Queen SquareのNational Hospital for Nervous Diseasesの看護師であったMiss Wintleが1920年代に考案したと言われています).その竹の部分をプラスチックにしたものが通称Queen Squareカナダ型です(田代邦雄.Clin Neurosci 2004; 8: 892-6).輸入品.

注:過去にブログに記載したNo. 11-13(図2)は以前まとめてBabinski型と書いてしまいましたが,正確には11. Babinski型,12. Queen Square型,13. Rabiner型であることが分かりました.



31.Queen Squareカナダ型.国際医療福祉大学の竹内英之教授が教えてくださった名大〜横浜市大一門愛用の夏目製作所製ハンマー.柄がプラスチック(ナイロン)製で適度にしなるため,ヘッドに加速度がついて速い叩打ができ,反射が出やすく,しかも反射にムラが少ないと言われています.自分も試しましたが,慣れが必要なようで正確に腱を叩けず練習中です.

32. Déjerine型.Déjerine型はJoseph Jules Déjerineによるフランスモデルで,ヘッドが円筒型である点が特徴です(No. 9, 10, 20).海外から取り寄せましたが,柄が木製?(竹製?)で,かつ年季を感じさせる中古品で驚きました.どこで作られたのか,誰が使っていたのか,とても気になります.

33. Skoda型.No. 32とともにこの1年で1番の収穫.神経学の父Charcot(1825-1893)の有名な1887年の火曜講義のリトグラフのなかに書かれている打腱器であることが高橋昭先生らが紹介しており,古典的なハンマーとして知られていました(図3).チェコの医師Josef Skoda (1805-1881)が開発したハンマーで,Charcotは膝蓋腱反射を誘発するのに最適なハンマーと考えたそうです.のちに改良されBuck型(No. 22)ができたそうです.



34.大貫型.日本の歴史的打腱器の1つ.軽すぎて腱反射は出しにくいです.ただ大貫先生がどなたか,調べても分かりませんでした.日本の歴史的打腱器としては,No. 23の吉村型は吉村喜作先生,ほかに上述の田代先生の論文によると入澤型,三浦型,勝沼型が知られています.名称の由来が書かれていませんでしたが,おそらく順に入澤達吉先生,三浦謹之助先生,勝沼精藏先生なのではないかと考えています.

だんだん新しいハンマーの収集の難易度が高くなってきました.まだ持っていないタイプのハンマーとしてWintrich型,Vernon型,Krauss型があるのですが,いずれも歴史的価値のあるものなので入手は難しいかなと思います.日本の歴史的打腱器の収集などコツコツやっていきたいと思います.

あとおやっと思ったのは,上述の勝沼型の勝沼精藏先生は名古屋帝大内科教授で,川原汎先生の流れをくむのだと思いますが,どこで勝沼型からQueen Squareカナダ型にスイッチしたのかなということです.私が学んだ新潟大学はTaylor型が一般的で,円盤型を使っている先生はほとんどいなかったように思います.ハンマーに関わる各教室の歴史なども伺ってみたいと思いました.


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