脳卒中後に認められる運動失調は,一般に小脳が損傷されたために生じます.しかし小脳が直接損傷を受けていない場合でも,四肢の運動失調が生じることがあります.フィンランドからそのメカニズムを検討した興味深い研究が,最新号のNeurology誌に報告されました.
まず四肢の運動失調を呈し,画像上,病変部位が同定された脳卒中患者を39名(うち35名は急性期から運動失調を呈した)集積しました.驚いたことに患者の54%が,小脳や小脳脚以外の部位に病変を認めました(図1).つまり,四肢の運動失調は小脳以外の脳の部位でも少なからず生じうることが示されました.
つぎに「なぜ小脳外病変が運動失調を引き起こすのか?」という問題を解決するために,VLSM(Voxel-Based Lesion-Symptom Mapping)とLNM(Lesion Network Mapping)という解析を行いました.VLSMは特定の脳部位と症状の直接的な関連を調べる方法で,LNMは脳全体のネットワーク(コネクトーム)を考慮して,病変がどのようにして症状を引き起こすかを調べる方法です.この結果,VLSMでは特定の病変部位と四肢失調には関連を見いだせませんでしたが,LNMでは病変はさまざまな部位に散在していても,四肢運動失調のネットワークハブ(歯状核や中位核:interposed nucleiなどから構成される)に関連した領域であることが分かりました(図2).つまりこのネットワークの調整に重要な役割を果たしている領域が障害を受けると運動失調を来すということになります.
図3は,上述した「四肢運動失調のネットワークハブ」とそれに関連する領域の模式図です.赤い円で示されているのが「ネットワークハブ」で,この領域は四肢の正確な動きの調整に重要な役割を果たします.そしてここに入力する経路が2つあります.1つは脊髄小脳路を通じて身体からの感覚情報を受け取り,下小脳脚から入力するもの,もう1つは大脳の運動皮質から橋核を介して,中小脳脚から入力するものです.一方,小脳からの出力は,上小脳脚を通して中脳で交差し,視床腹外側核→一次運動皮質,運動前野,補足運動野に送られます.これらのネットワークのどこかに病変があった場合も四肢の運動失調が生じるというわけです.
以上より,小脳のネットワークハブと密接に結びついたネットワークが損傷されることで,たとえ病変が大脳などの小脳以外の部位にあっても,運動失調が出現する可能性が示されました.結論として運動失調は単一の部位ではなく,複数の領域が絡み合ったネットワークの障害として生じると言えます.
Liesmäki O, et al. Localization and Network Connectivity of Lesions Causing Limb Ataxia in Patients With Stroke. Neurology. 2024 Sep 24;103(6):e209803.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000209803)
まず四肢の運動失調を呈し,画像上,病変部位が同定された脳卒中患者を39名(うち35名は急性期から運動失調を呈した)集積しました.驚いたことに患者の54%が,小脳や小脳脚以外の部位に病変を認めました(図1).つまり,四肢の運動失調は小脳以外の脳の部位でも少なからず生じうることが示されました.
つぎに「なぜ小脳外病変が運動失調を引き起こすのか?」という問題を解決するために,VLSM(Voxel-Based Lesion-Symptom Mapping)とLNM(Lesion Network Mapping)という解析を行いました.VLSMは特定の脳部位と症状の直接的な関連を調べる方法で,LNMは脳全体のネットワーク(コネクトーム)を考慮して,病変がどのようにして症状を引き起こすかを調べる方法です.この結果,VLSMでは特定の病変部位と四肢失調には関連を見いだせませんでしたが,LNMでは病変はさまざまな部位に散在していても,四肢運動失調のネットワークハブ(歯状核や中位核:interposed nucleiなどから構成される)に関連した領域であることが分かりました(図2).つまりこのネットワークの調整に重要な役割を果たしている領域が障害を受けると運動失調を来すということになります.
図3は,上述した「四肢運動失調のネットワークハブ」とそれに関連する領域の模式図です.赤い円で示されているのが「ネットワークハブ」で,この領域は四肢の正確な動きの調整に重要な役割を果たします.そしてここに入力する経路が2つあります.1つは脊髄小脳路を通じて身体からの感覚情報を受け取り,下小脳脚から入力するもの,もう1つは大脳の運動皮質から橋核を介して,中小脳脚から入力するものです.一方,小脳からの出力は,上小脳脚を通して中脳で交差し,視床腹外側核→一次運動皮質,運動前野,補足運動野に送られます.これらのネットワークのどこかに病変があった場合も四肢の運動失調が生じるというわけです.
以上より,小脳のネットワークハブと密接に結びついたネットワークが損傷されることで,たとえ病変が大脳などの小脳以外の部位にあっても,運動失調が出現する可能性が示されました.結論として運動失調は単一の部位ではなく,複数の領域が絡み合ったネットワークの障害として生じると言えます.
Liesmäki O, et al. Localization and Network Connectivity of Lesions Causing Limb Ataxia in Patients With Stroke. Neurology. 2024 Sep 24;103(6):e209803.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000209803)