■ 日本の報道よりBloombergの記事が素直に共感出来る ■
事故当時の福島第一原発の所長として、暴走する原子炉を相手に奮闘し、
さらに混乱する指揮系統を半ば無視して、適切な現場判断で日本を救った
吉田昌郎元所長がお亡くなりになられました。
彼の訃報を各社が報道していますが、どれもピンときません。
人となりを褒めたり、指導力を褒めたりしていますが、
彼こそが日本を救ったという記事は国内報道機関では見受けられません。
そんな中、Bloombergeが良い記事を載せているので全文引用します。
「吉田昌郎・元東電原発所長が死去、食道がん-日本を救った男」
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MPPQRU6S972C01.html
<全文引用>
7月10日(ブルームバーグ):東京電力 は、福島第一原子力発電所の事故発生時に陣頭指揮を執った吉田昌郎元所長が9日午前、食道がんのため都内の病院で死去したと発表した。58歳だった。遺族の希望により葬儀や告別式は近親者のみで行われる。詳細は未定だが、東電は後日、お別れ会を予定している。
吉田氏は2011年3月11日以降、病気を抱えたままで事故収束に向けて第一線に立ち続けた。休日に帰京する際は通院していたが、同年12月1日付で現場を離れがんの治療に専念していた。東電は吉田氏の病名公表時に、同氏の3月11日以降の被ばく線量が70ミリシーベルトと許容範囲内だったことから、病気は事故とは無関係との判断を示していた。
吉田氏は現場の最高責任者として首相官邸や本社との対立を恐れずに指揮を執り続けた。東電本社が「首相の了解が得られていない」として海水注入の中止を命じたのに対し、吉田氏はこの指示を無視して注水を継続し被害の拡大を防いだ。
昨年7月に約2日間にわたり吉田氏にインタビューをし、事故当時の現場での対応について、ノンフィクション作品「死の淵を見た男-吉田昌郎と福島第一原発の五00日」を書いた門田隆将氏は、ブルームバーグの取材に対し「吉田氏は日本を救った男だ」と指摘。「日本を救うという使命を果たした後に余生を楽しむことなく亡くなってしまったことは非常に残念」と語った。「非常に求心力のある男で、当時の部下数人にも話を聞いたが、みんな吉田さんとなら一緒に死んでも良いと当時考えていたほどだ」と振り返った。
人が住めない東京
事故当時原子力安全委員会の委員長だった斑目春樹氏は門田氏に吉田氏が対応していなければ、日本は北海道、人の住めない東北・関東、そして西日本に3分割されるような事態に陥っていたと話したという。命令を無視して注水を続けたりリーダーシップを発揮したりした吉田氏がいなければ、「今、東京は人が住めないような場所になっていた」と門田氏は述べた。
吉田氏は、11年12月の所長退任時に出した文書で「震災以来一緒に仕事をしてきた皆さんとこのような形で別れることは断腸の思いですし、ご迷惑をおかけすることになり心よりおわびいたします」と謝罪。「私も治療に専念し一日も早くまた皆さんと一緒に働けるよう頑張ります」と決意を示していた。
東電の広瀬直己社長は9日、「吉田元所長のご冥福をお祈り申し上げるとともに、ご遺族の皆さまに心からお悔やみ申し上げる」とのコメントを発表した。「持ち前の明るい大きな声で陣頭指揮を執る姿に出会えることを心待ちにしていたが、東電の再生に向け共に働くことができず無念でならない」と述べた。
記事に関する記者への問い合わせ先:東京 岡田雄至
<引用終わり>
やはり署名入りの文責のしっかりした記事は気持が良い。
■ 食堂ガンは事故後2年では発症しない ■
ネットなどでは、吉田元所長の食道がんの原因を事故と結び付ける記述も少なくありません。
しかし、70mmシーベルトという被爆量が事実ならば、
たったそれだけの被曝で癌を発症する確率は非常に低い事は常識です。
CTスキャン一回で体幹部の被爆量は20~30ミリシーベルトに達します。
放射線は本当に危険か(3)・・・CTスキャンによる医療被曝
乳癌の放射線治療には、短時間に2シーベルト(2000ミリシーベルト)の線量を
1日おきに25回患部に照射します。
患部の受ける線量は、短期間に50シーベルト(50,000ミリシーベルト)です。
確かに乳癌の放射線治療由来の癌の発症は認められます。
しかし、その発生率が低いので、この治療は有効となります。
5万シーベルトを短期間で浴びても問題の無い人体が、
70mmシーベルトを被曝して癌になる確率を限りなくゼロに近い。
さらには、吉田元所長が食道がんと公表されたのは事故後1年程度でしたから、
福島原発事故で癌が発生した事は医学的には完全に否定されます。
吉田元所長の食道がんと事故との因果関係を示唆するブログを書かれている方は、
自分の無知を公開している様なものだと言えます。
■ 医療関係者でも間違えるケースがある ■
医療関係者のブログでこんな記述を見つけました。
http://blog.livedoor.jp/cliniclunaceo/archives/51697012.html
<引用開始>
私は、5年前に乳癌で50グレイの放射線治療を受けています。
シーベルト=グレイ×放射線荷重係数×組織荷重係数
で、乳房放射線治療では
放射線荷重係数 1
組織荷重係数 0.05
1ミリシーベルト(mSv)=0.001シーベルト(Sv)
なので、
私が乳癌の治療のために受けた放射線量は
50×1×0.05×1000=合計2500ミリシーベルトになります。
これは2500000マイクロシーベルトです。
福島原発の周囲30-50キロ圏内で問題になっているのは、
毎時5-10マイクロシーベルトという数字なので、
この地区に住むとすると 10マイクロシーベルト×24(時間)×360(日)=86400マイクロシーベルトくらいを1年で被爆とするということになります。私の被爆量2500000÷福島県北の被爆推定量86400=28年となり、現在の福島県北部の原発30-50キロ地点で、で30年くらい暮すのと、乳癌の放射線治療を受けることが、ほぼ同じくらい体に悪いということに、計算上はなります。
とても逆説的で批判を受けるからもしれませんが、放射線治療を受けた癌患者は、原発周囲に1年や2年いても、もはやあまり関係ないということでしょう。
<引用終わり>
これ、福島の方達を安心させようとして書かれていますが、
実は微妙に間違っていると思います。
乳房の組織に照射される総線量は50グレイです。
放射線荷重係数が1なので、組織は50シーベルトの線量を確実に受けます。
ところがこの方は、福島の全身線量と比較する為に
組織荷重係数 0.05を掛けてしまっています。
乳房の一部の組織に集中して照射される50グレイを
全身に分散して照射した換算値にワザワザ直してしまっています。
そうする事で、全身の照射線量を2500ミリシーベルトとしていますが、
これは大きな間違えで、乳房の組織の線量はあくまでも50シーベルトです。
ですから、この記事以上に、現在の福島の外部被曝などは、
放射線治療の線量からしたら、誤差に等しい線量であると主張されるべきなのです。
医療関係者ですら、こういった思い違いをされるのですから、
一般の方が「放射線は怖い」と思い込む事は仕方の無い事かも知れません。
この女性の医師の方は、福島の放射線の量は、
乳癌の放射線治療に比べたら大した事はありませんよと安心させたかったのでしょう。
それならば、照射時間も問題にするともっと効果的かも知れません。
乳がんの放射線治療は1回2シーベルトを5分程度で患部に照射し、
それを1日おきに25回行います。
これで照射部の細胞のDNAは健康な細胞も含めてほぼ100%損傷を受けます。
しかし、正常な細胞は、48時間でそのDNAの損傷をほぼ修復します。
癌細胞だけが正常なDNAの修復機能を持たないので、
DNAが細胞の生命維持の限界を超えて破壊されます。
要は、放射線治療は2シーベルトを48時間置きに照射しても
健康な細胞にほとんど影響が無い事で成り立つ治療法です。
細胞は短期間のうちに、DNAの損傷を完璧に補修します。
ですから、福島の原発周辺の線量なんて問題外と言えます。
こんなの、ジョギングで発生する活性酸素の方が数百倍もDNAを破壊します。
私達はジョギングをして健康にはなりますが、多分癌にはなりません。
■ 吉田所長の冥福をお祈りします ■
吉田元所長の事故対応の功績はもっと評価されるべきです。
海水注入の継続も、強制ベントも、それを行わなければどうなっていたか・・・。
現在福島を苦しめるのはLNT仮説による過剰な放射線による被害予測ですが、
LNT仮説に基づく放射線防護が覆らない限り、
吉田所長の決断が無ければ、東北の多くの地域は人の住めない地に成っていた可能性があります。
事故後時間が経ち、事故調査委員会の報告書でも正統に評価された事で、
一部の人達は、吉田元所長こそが、日本を救った英雄の一人である事を理解しています。
ですから、日本の報道各誌は、「英雄の死」をもっと正統に伝えるべきです。
「70mmシーベルトの被曝が癌の直接的原因では無い」と言い訳しても、
猜疑心の塊の人々は、「新聞が又嘘を付いている」と受け取ります。
本当に問題なのは、「英雄の死」を疑問視する一部の「無知」である事に
これらの人々は永遠に気付く事はありません。
そして、彼らの言動が、福島の現在と未来を不幸にしている事にも決して気付く事はありません。