『宙をわたる教室』がドラマ化されて評判になっている伊予原新の新作である。相変わらず科学がテーマになっているけど、当然お話自体が面白いから科学は苦手(化学はもう無理)だけど、ついつい手に取ってしまう。空、海、森という自然が背景になっているけど、そこに人もいる。僕は人の物語がいい。ここに描かれるものは人と自然の邂逅である。
今回は5つの短編集。最初の『夢化けの島』を読んで驚いた。科学と物語とが見事に . . . 本文を読む
このタイトルはインパクトある。もちろん『トイレの花子さん』と引っ掛けてある。介護職に就いた山田花、彼女は呑気であまり何も考えていない。明るいだけが取り柄の女の子。そんな22歳の奮闘記である。3Kと言われる介護の現場にたまたま入った花。大学を出たけれど就職先がなく、唯一採用された介護職。だけど親友や家族という周りは早く辞めて再就職先を探せばと言う。本人もこんな大変な仕事だとは思わなかったみたい。やは . . . 本文を読む
これは面白い。白石一文なのに今回も前回に引き続き短い。186ページである。しかも32章仕立てだから、各章5、6ページくらいのボリューム。どんどん話が進む。
まさかの展開が平然と描かれる。人口が爆発的に増えて出産制限が法制化された世界。昔の中国のように。持てる子どもはひとりだけ。(ひとりっ子政策だ)外国からの移民が50%を超えて、アンドロイドがさまざまな分野で仕事を受け持つようになったそんな時代。 . . . 本文を読む
「最高においしい小説」シリーズの第3作らしい。帯を見て知る。そんなこと知らなかったし、気にはならない。だいたいシリーズといっても独立した長編だし、内容が繋がった作品ではなく「おいしい」をテーマにしただけみたいだから前作は関係ない。これ自身も、4話からなる連作長編である。しかも主人公のさやかは最終話まで脇役でしかない。さやかが大将である夕凪寿司に12年振りにやって来たまひろの話から始まった。彼女は2 . . . 本文を読む
なんとこれは美しい物語だろうか。そしてこんなにも優しいし、哀しい。これは耳にまつわる5つの短編からなる小川洋子の最新作。ある補聴器販売員の死から始まる物語。耳鼻科医が父の骨壺から取り出した4つの耳の骨。カルテットのお話。一応これは補聴器販売員の娘が聴いた4つのこと、というスタイルになっている。基本的には父の仕事を描く。販売員として旅する中で彼が出会った人たちとのお話。缶に納められた4つの耳の骨。や . . . 本文を読む
久しぶりのあさのあつこによる現代劇。高校生が起業する話。自分たちの居場所を作ることで、同じように悩み苦しんでいる人たちを援護することが可能なのかに挑戦する4人組。
高校から始まって、大学生になり卒業するまでを背景にした青春小説。大人になるまでを描くのではない。何が大人で何が子どもなのか、そんなことわからないけど、17歳が起業して会社を作り、成功させてもいい。それは夢の話ではなく、ある . . . 本文を読む
なんと高齢者による読書会のお話である。高齢者ものは近年多いから驚かないけど、読書サークルである。そんな題材で書かれた小説なんてない。古民家カフェを借りて毎月開催される読書会。参加者は6人。会長はなんと92歳。最年少でも78歳。コロナ禍かは3年間開催が見送られていたが、ようやく再開する。カフェの新米店長28歳も新たにメンバー入りする。まるで介護の一環として参加したけど、そんな舐めた印象を吹き飛ばすよ . . . 本文を読む
冒頭からガツンと殴られた気にさせられる。こんな衝撃は久しぶりのことだ。演芸写真家なんて仕事があるとは知らなかった。繭生は舞台袖から写真を撮った。演者の許可を取っていないのに。
あの時はまだ20歳で、アシスタントの身分だった。夢中でシャッターを切ってしまった高座に立つ落語家の「一重の瞳は怒りに満ちていた」。彼女の落語を壊してしまった。そしてルールを破った。たった一枚の写真ですべてを失った。
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シリーズ完結編だけど、これまでの3作を読んでいないから、話になかなか入り込めない。シリーズ物とは知らないで借りてしまった。ポプラ社から出ているし、表紙のイラストもかわいいから軽く読めるかと思って。
弓、剣、茶の三道を伝える坂東巴流家元ジュニアを中心にした取り巻きの人たちのそれぞれのお話を描く連作。だけどこれはスピンオフで主人公の遊馬は最後のエピソードまででない。しかもまるで活躍しないまま終わ . . . 本文を読む
久々に軽くて楽しい小説を読んでいる。これは5話からなる連作だが、最初のタイトルにもなった『かもめジムの恋愛』がすべてを象徴する。これは75歳の西原さんの初恋を描いた短編である。かもめジムに通う西原さんは受付アルバイトの私(柏夢)に恋愛相談をする。58歳差のふたりはお互いの恋愛相談を通して友情を育む。このなんともいえない設定がいい。年齢差なんて関係ない。男女問わず。当たり前だけど特別。彼女にはそんな . . . 本文を読む
今までとはかなりタッチの違う小説にチャレンジした。映画化を視野に入れたプロデューサー目線はなく、一作家としての作品だ。と、最初は思った。
だけど川村元気はやはりエンタメ系で、これは充分「純文学」できる題材なのに、気がつくとエンタメになる。それが悪いわけではないけど、なんだか中途半端でつまらない。組合費の横領、気がつくと1億円。そこではなく、馬との話に絞り込むほうがいい。と思いながら読んでいたら、 . . . 本文を読む
ようやくホッとする小説を読む。だけどそれがなんと町田そのこだなんて、笑える。いつもキツいなと思う小説ばかりの彼女に今回ばかりは救われる。
『スピカ』は厳しかった。長くて苦しい小説で読んでいる間の3日間は気持ちが重かった。だけど途中で投げださなかったし、耐えた。もちろん悪い小説じゃない。それどころか、とてもいい作品だと思う。ただ、重い。さまざまな病気を抱えた人たちの痛みと向き合う。 . . . 本文を読む
これもまたキツい話だな、と思いつつ読み始める。病院を舞台にしてそこで働くDI犬,スピカの話。DI犬の存在をこの小説を読んで初めて知った。AAAとかAATなんてものの存在ももちろん知らなかった。医療に携わる介助犬スピカとバディを組む看護師、遙。ふたりが(ひとりと1匹、いや一頭だけど)出会う患者たちのそれぞれのドラマ(2023年から24年まで)がふたりが出会うまでの話(2012年から24年)と交互に描 . . . 本文を読む
これは歌物語だ。平安時代に書かれたあの『伊勢物語』のような。短い物語の最後にこのお話を締めくくる短歌が置かれている。18の短編集でもある。
そしてこれは優しい童話だ。すべての話は「誰々」の「何々」といスタイルのタイトルになっている。どの話も素敵だけど、1番気に入ったのは『ココさんの心臓』。赤いボタンの心臓を手にするまでの短いお話。
すべてが服飾にまつわる話。布、 . . . 本文を読む
凄い力作である。デビュー作『つきはぐ、さんかく』で注目した彼女の第2作だけど、若い作家がこんな作品に挑むなんて、驚きだ。DVを中心にして、ひとりの青年の老女ふたりとの出会いから始まり、彼女たちの死からこれまでの軌跡を追う長編小説。
思ったほどには作品世界は広がらない。82歳の老女とふたつ年下の妹。ふたりは大きな屋敷でふたりきりで暮らしている。そこに新しく役所の福祉課に入った男の子 . . . 本文を読む