rock_et_nothing

アートやねこ、本に映画に星と花たち、気の赴くままに日々書き連ねていきます。

マーク・ストランド「犬の人生」

2013-01-30 16:19:40 | 本たち
猫好きの自分にとって、犬に似ているといわれるのは心外だ。
犬にもいろいろあるが、シベリアンハスキーもしくは白の狼なのだそうだ。
つまり眼光鋭い大型犬。
そのせいではないけれど、「犬の人生」というタイトルに惹かれ手にとって見たら、翻訳者が村上春樹ということもあり読んでみることにした。

アメリカの詩人でもあり作家でもあるマーク・ストランドの初の短編集「犬の人生」。
物語は、ズレを生じながらスリップしていく心と出来事、不毛な渇望、美意識などが、シュールな手法で語られている。
どの短編も、読み終えたとき、心に自分の肩幅ほどの丸く冷たい水溜りができる。
ひとつ、またひとつと物語を読み終えるごとに、その水溜りは増えていく。
今、わたしの心には、14個の水溜りが相変わらず居場所を保っている。
これと似た感覚になったのは、ミヒャエル・エンデの「鏡の中の鏡ー迷宮」を読んだときだ。
エンデの場合は、水溜りではなく、鈍い銀色の光を宿すブリキのダクトが長さもまちまちに突き出てくる。
エンデは、厳しく重々しく教訓的な感じがした。
かたや、マーク・ストランドは、軽妙洒脱、でも確実になにかを残していくのだ。
誰しもが心の中に持っている狂気が水底からポワンと浮かびあがってくるさまを、さらりと表してしまう。
蒸留精製された狂気の水溜りは、今もわたしの心に場所を占め、いつでも水溜りを渡り歩くことができるのだ。

おやおや、猫は水溜りにわざわざ足を踏み入れたりはしないから、その点でも犬に似ているかもしれない。
でもやっぱり猫がいい。
水溜りに足を踏み入れてしまって、足をふって水を払う猫の愛らしい姿に憧れるから。