せやさかい・100
『小悪魔マユの魔法日記』は、投稿サイトに載ってるだけ。
文庫とかの紙本にもなってないし、ぜんぜんメジャーやない。わたしが個人的に好きで、部活の雑談で、ちょこっと触れただけ。それで留美ちゃんの記憶に留まってて、登場人物の浅野拓美が助けてくれた。
不思議な話やけど、無事に音楽のテストも終わったんで、結果オーライ。
今日は頼子さんの機嫌が悪い。
キャットフードの食べ方が悪いと言ってはダミアを叱り、紅茶の香りが立っていないと呟いてはため息をつき、暑すぎるからとセーターを脱いでは髪の毛を逆立てる。
「髪の毛は静電気のせいだから!」
「「あ、そうですか」」
たいていは機嫌のええ人なんで、わたしも留美ちゃんも戸惑う。
「……お婆様のことですか?」
「それは、まだ十日あるからいいの」
「じゃあ?」
「持久走よ!」
「「あ、ああ」」
気持ちは分かる。グラウンドの200メートルトラックをひたすら走り続けるんやけど、朝礼台の上から先生が睨んでるんでサボりようがない。ないんやけど、走ってれば怒られへんし、特にタイムにうるさいわけでもない。ま、最初は寒いけど、直に暖まってくるし、個人のミスが得点につながるような球技よりは気楽やと思う。
「知ってる? 昔は学校の外走ってたんだよ」
「え、外走ってたんですか?」
「うん、学校の近所だけだけどね。一周か、せいぜい二周だよ。なんの代わり映えもしないグラウンドを十何周なんてさ、モルモットが輪っかの中をグルグル走ってるようなもんじゃない、つまんないよ」
「はあ、せやけど、頼子さん三年生やから、一二年の時も走ってはったんとちゃいますのん?」
「うん、だから頼んだのよ、三年になったら外を走らせてくださいって」
「「は、はあ……」」
外の方がおもしろいのは分からんでもないねんけど、そないにプンスカせなあかんほどのことやねんやろか……と思うと生返事になってしまう。
「ハハ、分かんないよね……わたし、約束したんだよ」
そう言って、頼子さんはコタツの上に二通の手紙を出した……。