大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベル・となりの宇宙人・6『世界旅行の日』

2019-12-22 06:19:42 | 小説4
となりの宇宙人・6
『世界旅行の日』    


 
 鈴木聖也は、あたし(渡辺愛華)のとなりの家に住んでいる幼馴染(?)の亡命宇宙人。
 
 秋のある日、駅で暴漢に襲われ、学校では食堂の工事現場の鉄骨に潰されそうになるけど、聖也が時間を止めて救けてくれた。
 犯人は、なんと、これまた幼馴染(?)の吉永紗耶香。紗耶香も宇宙人で、聖也を抹殺するために、あたしを殺そうとした。
 あたしは聖也の命の素になる宇宙エネルギーを、聖也に合うように変換できるから。
 そのために殺されそうになり、救けられもしたんだって……でも、それだけ?

 おはよう! と、思わず返事をしてしまった。

 それほど玄関から出てきた聖也は、明るくて元気だった。
「今日は、何の日か知ってる?」
 せめて、昨日の文句を言ってやろうと息を吸ったら、先を越された。
「え……今日から中間テスト」
「もっと夢のあることでさ」
「えと……」
「海外旅行の日さ」
「初めて聞いた、なんで?」
「10月19日で、トウくにイク日」
「なんだ、ダジャレ?」
「でも、ほんとうにそうなんだぜ。行きたいなあ、海外旅行」
「宇宙人なんだから、ヒョイヒョイと行けちゃえばいいじゃん」
「そうはいかないよ。愛華がいっしょじゃなきゃ」
「え……ああ、あたしが傍にいなきゃ、エネルギーの補給もできないんだ」
「そういう身も蓋もないことを言う」
 聖也は、つまらなさそうに道端の小石を蹴った。
 小石は、数メートル先の信号機のポールに当たり、カーンといい音がし、それがスイッチだったように青に変わった。

 一時間目のテストは、ヤマが当たって楽勝だった。
 黒板の上の時計を見ると、まだ二十分しかたっていない。秒針を見ているうちに目蓋が重くなった。

 目の下百メートルほど先に、不規則な段々畑みたいな遺跡が広がっている。

 目を向けると、遺跡の周囲は深い谷……というよりは、遺跡が高い山の上にあって、まるで空中都市。
「おーい、こっち!」
 その空中都市で、聖也が呼んでいる。
「うん、すぐに行く……」
 あたしは、壮大な景色と澄んだ空気に魅せられて、返事の割には動けなかった。
「……ここ、なんていうとこ!?」
「マチュピチュ遺跡! ペルーにあるインカ帝国の遺跡さ!」
「そうなんだ……すてき……」
 見上げた空には、コンドルがゆっくりと輪を描いていた。コンドルが三回輪を描くのを見てから遺跡に下って行った。
「気に入ったみたいだね」
「うん、教科書の写真で見ただけだったけど、実際に来てみると、百倍もいいとこだね」
「それはよかった。こっち来てくれる」
「うん」
 石組だけになった遺跡の路地をクネクネ曲がっていくと、小学校の校庭ほどの広場に出た。
「あの小高いとこに神殿の跡がる……こっち」
 急な石段を上がると、てっぺんは教室くらいの平場になっていて、中央に石のベッドのようなものがある。ベッドの真ん中にはまな板を縦にしたような石が立っている。
「これって?」
「インティワタナ(太陽をつなぐもの)、ちょっとそこに立ってくれる」
「……こう?」
「うん……あ、もうチャイムが鳴る……」
「え、なんて言った?」

「渡辺、テスト終わったぞ、答案をよこせ」
「あ……はい」
 答案を先生に渡して振り返ると、みんなに笑われた。

「愛華、ホッペに手の跡!」
 
 ヨッコが注意してくれた。どうやら組んだ手の上にホッペを載せて寝ていたようだ……。 
 
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ライトノベル・Regenerate(再生)・18≪詩織の擬態修行≫

2019-12-22 06:11:09 | 小説・2
Regenerate(再生)・18
≪詩織の擬態修行≫
        


 
「だめだ、それじゃマユユだべさ……」

 もう百回近く擬態した、見守るドロシーは後ろ手ついて足を投げ出して百何回目かの感想を述べた。
 詩織の擬態能力は向上したとは言え、そのレパートリーは幸子と、キャビンアテンダントのオネーサンと、AKBのマユユに限られていた。
 幸子では、すぐにベラスコに見破られるどころか、居場所を見つけられてしまう。キャビンアテンダントとマユユは実在している。やれば混乱するだけだ。
「やっぱり、強烈なインパクトで心に焼き付いたものでなきゃ、擬態できないみたいだよ」
「それがベラスコの狙いだべし。幸子に擬態させて現れたところを一気に叩こうって腹だ」

 詩織は焦っていた。

 ベラスコのサイボーグ集団は、連日強盗や集団暴行を繰り返している。もう死者が3人、重軽傷者が数十人になっている。彼らは十人程度の集団で現れては、手荒く犯行を終え、あちこちのカメラに幸子の顔を晒していった。
 このニュースは幸子の妹や姉も見ているにちがいない。詩織は大阪の団地で会った妹の良子の顔が忘れられなかった。

「きっと心を痛めてるんだろうな……」
 詩織自身の姿に戻ると、カーテンを開けて、積乱雲の密度を増した空を見上げた。
「一雨きそうね……」
 そう呟いて、冷蔵庫からスポーツドリンクを出した。擬態は、ひどく体力を使う。まずは水分補給。
「ドロシーも飲む?」
「ん、ちょうだい……」
「熱心になに見てんの?」
「これだす。昨夜偽幸子のグループと警官隊が新宿で撃ちあったんだす。その時の映像」
「かなりボケてるわね」
「解像度上げてみるべ」
 ドロシーはパソコンの端子に指をあてた。すると、ボケた画像が鮮明に拡大された。そこには幸子に擬態したサイボーグの頭部にライフルの銃弾が当たり、生体組織や外郭の破片が飛び散るのが分かった。
「警察も本気だべ。これ9・9ミリの狙撃用ライフルだ……このサイボーグ、本体はなんもないけんど、幸子の擬態はリペアに時間かかるべ」
「じゃ、今がチャンスね」
「んだ。もっと手っ取りばやぐ擬態の技術磨かねどな……あ、これだす!」
 ドロシーがネットで検索した中に、AKBのものまねユニット『AKBみ隊』というのがあった。近々AKBの本物のコンサートに出させてもらうので、メンバーを募集していた。
「これに入っても、マユユとタカミナにしかなれないわよ」
「ま、このドロシーの勘に狂いはないだす。やってみべ!」

 当然のごとく、詩織とドロシーはマユユとタカミナのソックリさんで採用された。擬態なので完璧にそっくり。そこでメイクや髪形を少し変えてオーディションを受けたのだ。
 詩織は『AKBみ隊』の子たちの並外れた憧れを肌で感じた。だが、これだけでは、他の人間には擬態できない。どうするんだろうと思ったが、ドロシーの完璧な自信に引っ張られて、AKBのコンサートに臨んだ。

「ウワー、そっくり!」
「鳥肌立っちゃう!」

 AKBのメンバーからも激賞されるほど、ドロシーも詩織もタカミナとマユユに似ていた。擬態なのだから当たり前だ。

――で、どうすんのよ!?――
――この熱気だす。この熱気のある視線。一番はAKBのメンバーだども、その熱気をしっかり受け止めんだす――

 効果は満点だった。寮に戻って鏡を見たら、コンサート会場にいたメンバーに次々に擬態できる自分を発見した。
「研究生も入れだら100人は超えっぺ。それを合成すんだ」
「え……あ、ああ!」
 
 鏡には、次々変わっていく自分の顔が映って行った。これなら何万通りの人間に擬態できるぞ!
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ライトノベル・乃木坂学院高校演劇部物語・73『施設一覧の図面を広げた』

2019-12-22 06:01:38 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・73   
『施設一覧の図面を広げた』  


 
 
 思いあまって、柚木先生に相談に行った。

「……わたしも、ペーペーだからね。普通教室じゃ、だめなのよね」
「ええ、机と椅子を全部出しても、舞台の半分もありませんから」


 里沙が、図面を出して説明した。手書きだけどセンチの単位まで書き込まれていて、さすがに里沙。
 事実上の部長であるわたしも負けているわけにはいかない。なじみの技能員のおじさんにコピーしてもらった学校の施設一覧をカバンから出そうとしてぶちまけてしまった。
「アチャー……」
 わたしのオッサンみたいな声に、夏鈴が手伝ってくれた。
「なにこれ……」
 夏鈴が袋からはみ出た胡蝶蘭の折り紙と自衛隊の体験入学のパンフを見つけた。
 わたしは手近に滑ってきたパンフの方をポケットにつっこんだが、胡蝶蘭は間に合わなかった。
「なんだか、ヘタッピーな折り方だね」
「どれどれ……これ折ったのは……男の人。とにらんだ」
 柚木先生まで覗き込んできた。
「こ、これは兄貴が折ったんです。お誕生祝いに。兄貴にはいろいろ貸しがあるから。アハハ、こんなもので誤魔化されちゃった」
 みんなの視線が集まる。
「そんなことより、稽古場、稽古場」
 わたしは、机の上に、施設一覧の図面を広げた。
「さすが、井上さん(技能員のおじさん)部屋毎の机の配置まで書いてある」
 先生が感心した。
「あ、ここ良いんじゃないかなあ!?」
 里沙が一点を指差した。そこには同窓会館談話室と書かれていて、ピアノと若干の椅子が書かれているだけ。広さも間尺もリハーサル室に近い。
「「「「ここだ!」」」」
 四人の師弟は声をあげた。

「……はあ、そうですか。いや、ありがとうございました。いいえ、交渉相手が分かっただけでも参考になりました」
「おじさん、なんて言ってました?」
「同窓会館の管理は。同窓会長の権限だって」
 柚木先生は、さっそく技能員のおじさんに内線電話をしてくれたのだ。
「同窓会長って……?」
「たしか、都議会議員のえらいさん……」
 先生は、パソコンを開いて確認してくれた。三人も仲良くモニターを見つめる。
「去年の春に亡くなってる……てことは……」
 先生は、同窓会の会則を調べ始めた。
「次年度の総会において、会長が選出されるまでは、理事長がこれを代行するものとする……」
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