大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

乃木坂学院高校演劇部物語・59『ビデオチャットの開局式!』

2019-12-08 06:48:21 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・59   
『ビデオチャットの開局式!』  

 

 ジャジャジャーン!

 て、感じで、はるかちゃんのドアップが、モニターに大写しになった!
「ウフフ……」
「アハハ……」
 て、感じで、なかなか言葉 にならない。

 今日は、パソコンを使ったビデオチャットの開局式!
 ビデオチャットは、クリスマスイブの夜に、はるかちゃんと約束した。
 だけど、これって、カメラ買ってきて付けたらすぐにできるというものではなかった。
 わたしには、訳分かんないダウンロードとかいろいろあって、結局昨日でバイトが終わった兄貴に二時間あまりかけてやってもらった。
 
 で、ウフフとアハハになったわけ。

「あー、あー、こちらJO MADOKA聞こえますかどうぞ」
「こちら、JO HARUKA感度良好です。どうぞ」
「なんだか、そっち賑やかそうじゃないのよ」
 はるかちゃんの周りに人の気配……まわりのロケーションも、なんだか違う。
「こっちはね……」
 ガサガサと音がして、カメラがロングになった。
 なんだか、こぢんまりしたレストランみたい。右側のカウンター席で手を振っているのは、はるかちゃんのお母さんだ。
 で、カウンターの中には、チョンマゲにオヒゲの怪しきオッサンがシェフのナリしてニヤついている。
「こっちがね、お母さん!」
「おひさぁ。元気してるまどかちゃん!?」
「はあい、絶好調でーす!」
「ばか、そんなデカイ声出さなくても聞こえてるって」
 兄貴が割り込んできた。
「あ、健一君?」
「あ、どうもご無沙汰してます。今ボリュ-ム落としますんで」
「いいわよ、このままで。賑やかなほうがいいわよ」
「そっすか、じゃあ、このまんまで……」
「ちょっと見ないうちにイケメンに磨きがかかったわね」
「どもっす」
 兄貴は、ボリュ-ムの出力をこっそり落とした。確かに、はるかちゃんのお母さんの声はデカイ。
「で、奥のオジサンが、このお店のオーナーシェフの滝川さん」
 チョンマゲが少しズームアップした。
「タキさんて呼んでくれてええからな。まどかちゃん……ちょっと横顔見せてくれる?」
「え、あ、はい……」
 わたしってば、素直に横を向いた。横顔にはあんまし自信が無い。
「……ううん……ライザミネリよりも、ジュディーガーランドやな」
――やっぱ、そうでしょ――はるかちゃんの声がした。
「だれですか、そのジュディーなんとかってのは?」
「ちょっともめてたの。まどかちゃんの写メ見せたら、タキさんがジュディーガーランドに似てるって。ああ、昔のアメリカの女優さん『オズの魔法使い』なんかに出てるって」
 映画……滝川……一瞬で、この二つの言葉が一つになった。
「滝川さんて、門土社のネットマガジンで『押しつけ映画評』……やってません?」
「よう知ってんなあ、マイナーなマガジンやのに」

 わたしは、はるかちゃんに――映画を観なさいよ――と、言われてから、ネットでいろいろ検索してて、この滝川さんの『押しつけ映画評』に出くわした。いまロードショーに掛かって大評判のアメリカ映画を、『冷めたハンバーガーをチンして、ベッピンさんのオケツでペッタンコにしたような』と小気味よくこき下ろしていたので、印象に残っていた。ちなみにネットで予告編を観ると、いや、予告編を観ただけでその通りだった。
「本業はレストランなんですか?」
「そや、映画評論なんか、ハイリスクローリターンやさかいなあ。いちおうパスタ屋やけど、和洋中なんでもありや」
「あ、あの、すみません。ぼく、まどかの兄で健一と言います!」
 兄貴が割り込んできた。
「あの、あのですね。お見かけしたところ、かなりのベテランのように……」
 お見うけして、兄貴は、恋人同士がヨリを戻すには、どのような店で、どんなシュチュェーションがいいか真剣に聞き出した。もっとも――友だちが悩んでるんで――と見栄を張っていたけど、タキさんどころか、はるかちゃんにも、お母さんにもお見通しのようだった。

 延々十五分、兄貴に占領されて、順番が回ってきた。
 はるかちゃんのパソコンには携帯型のルーターってのが付いていて、どこにでも持ち運んで使えるらしい。
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Regenerate・4≪埋伏の時・3≫

2019-12-08 06:41:04 | 小説・2
Regenerate・4
≪埋伏の時・3≫ 



 

 電子黒板の上にサラサラと文字が書かれていく。

 味気のないパソコン文字でないところに好感が持たれた。

 記紀神話を比較神話学の立場から語る立花教授は、講義ではなるべくアナログな教え方をする。神話と言うものを血の通った叙事詩として学生たちに教えるために、なるべく前世期的なアプローチをしたいのだが、さすがに、電子黒板を古色蒼然たる黒板にすることまではできなかった。まあ、並の教授なら電子黒板さえ使わずに、学生個々のモニターを使って講義をしたであろう。
「……というわけで、天岩戸に集まった神々は、その後の貴族たちの祖先神になり、その記述は日本書紀においては、五十ほども異書があり、そのいずれもが残されているのは世界の神話の中でも奇観であります。ほのぼのとします。普通、こういう神話は権力を持ったものが書き換え、その原型にたどり着けないものもが多い。子供のようですが、みんな仲良くの精神が気に入っております。その中でも天宇受賣命(アメノウズメ)はどの異書でも共通した記述がなされていて、ま、こんな感じですな」
 電子黒板には、男性週刊誌の袋とじの動画グラビアのような女性が、ほとんどスッポンポンで踊っている。
「こればかりは動きが伴わんと魅力が分からんのでね。ね、このホトも露わにってとこがいいね。日本のエロチシズムってのは、元来こういうオオドカなものであったことを理解してもらいたい。だから昔の春画は笑い絵とも言った!」
 教授は、大真面目で天宇受賣命の動きに合わせて腰を振った。
 講義室は師弟共々笑いに満ちた。詩織は、この立花教授の講義が一番好きだ。

「詩織、M資金て知ってっか?」
「ああ、戦後日本で噂になった、旧陸軍の隠し財産のことね」
「正確には、占領軍のウイリアム・フレデリック・マートンESS部長が捜索した分のことだけどね」
「ESS……ああ、Economic and Scientific Sectionのことね」

 詩織は、講義の後、ピロッティーのベンチに腰掛けて、学食特製のチープなホットドッグを食べながらドロシーの話を聞いている。ドロシーは少しづつ詩織が置かれた状況を説明しようとしていた。
「それでさ……」
「え?」
 二人の話声は、ピロッティー裏の校舎改築の建設機械の音でかき消された。直接思念で会話もできたが、敵に知られてはいけないので詩織といっしょにホットドッグをパクついた。

 いきなりビジョンが飛び込んできた。

 詩織にもドロシーにも、数十秒後のビジョンが見える能力があった。むろんいつもというわけではなく、自分や人に大きなアクシデントが起こる時に限られ、探知範囲も、ほぼ半径50メートル以内であった。詩織の能力が、やや勝っている。
「動いちゃなんね。これは、成田の時と同じフェイクだ」
「だって、あの子……」
 ドロシーは必死で詩織の腕を掴んだ。詩織も必死で堪えた。震えがきそうだったが、震えれば感知される。詩織の目から涙がこぼれた。
「ああ、今日のマスタード効きすぎだすな」
 ドロシーも涙を流してごまかした。詩織の腕を掴んだドロシーの指は、詩織の生体組織まで食い込み血が滲みだした。

 やがて、大音響とともにショベルカーが、アームを伸ばしたまま転倒。工事用のシートを突き破りピロッティーに倒れこみ、鋭い爪のバケットが、そのまますぐ下にいた女学生の体を真っ二つにした。

「敵も無駄はしないず。あの子、K国の工作員だす」
「そんなの関係ない……!」

 詩織にとって、命の重さは敵も味方も工作員もなかった……。
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永遠女子高生・22・《京橋高校2年渡良瀬野乃・13・どないしょう!?》

2019-12-08 06:34:26 | 時かける少女
 永遠女子高生・22
《渡良瀬野乃・13・どないしょう!?》          




 京橋たこ焼きタイトルマッチ!!

 商店街のポスターが目に留まった。
 早食いとフィギュアの二部門がある。早食いは規定の15分でどれだけたくさんたこ焼きが食べられるか。フィギュアは、いかに美しく面白く楽しくたこ焼きを食べられるか、それを芸術点や技術点で得点をつけるようだ。
「やあ、こないだあやめちゃんといっしょに食べに来てくれた子やんか!」
 ポスターを貼り終えたおばちゃんが声をかけてきた。
「あ、たこ焼屋のおばちゃん!」
「会長さん、この子、この子!」
 肉屋の前でポスターを貼っていたおっちゃんが振り返る。
「せや、あんたや。あんたのお蔭でアイデア浮かんでな。たこ焼きタイトルマッチにフィギュアを入れることになってん!」
「どないやろ、これもなんかの縁。タイトルマッチに出てくれへん?」
「え、あたし!?」
「うん、あんたやったら、別にエキシビジョンにしてもええよ」
 いつのまにか、商店会の役員やら子どもたちが集まり、買い物客のオバチャンたちも振り返り、なぜかカメラと音声さんを先頭にテレビクルーまでやってきた。
「京橋商店街街おこしイベントの取材に来ておりましたが、おりよく京橋たこ焼きタイトルマッチの出場者第一号決定の現場に出くわしました! ただ今から、そのホットなニュースをお伝えしたいと思います」
 アナウンサーが、人垣をかき分けて野乃に近づいてきた。

 どないしょう!?

 頭の中に秀一とあやめの姿が浮かんだ。きのう屋上のダクトから秀一とあやめがスキンシップしているのを聞いてしまった。
 二人はいとこ同士だけども、深い愛情で結ばれていることが分かった。いとこ同士は結婚もできる。もう、自分が割って入る隙間なんかない。そう感じた。
 いまさら少女像のモデルを辞めるわけにもいかないが、負けと分かりつつ続けるのは悲しかった。秀一の前で明るく振る舞うのも難しいように思う。

 そうや、元の自分にもどろ! マニッシュ野乃や! しおらしい女子高生なんかヤンペや!

「はい、たった今、京橋たこ焼きタイトルマッチ、ノミネート第一号になりました。京橋高校2年の渡良瀬野乃です。出場するかぎり、優勝はあたしです! 我と思わん人はかかってきなっさいー! そこのたこ焼き食べてる小学生、一個投げてくれる!?」
 京橋界隈は、大人も子供もノリがいい。野乃の意図を瞬時に理解して盛り上がった。
「おネーチャン、いくで!」
 小学生がランドセルを揺すりながら、たこ焼を日本女子バレーのようにサーブした。
「おー、まかしときいー!」

 野乃はフィギュアスケートのように空中三回転ジャンプし、見事にトトロのように口を開けてたこ焼きをキャッチした!

 商店街のオーディエンスからは盛大な拍手が起こり、そのさまはライブでテレビ中継されたのだった。
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小悪魔マユの魔法日記・118『消えゆく者・2』

2019-12-08 06:16:42 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・118
『消えゆく者・2』    



 四人目の子は、そっくりだった……浅野拓美に!

 三番の曲が終わると、三人そろって決めポーズのあと、その四人目の子は消えた。
 
「みなさん、今、ここにいた子は、HIKARIプロの、わたし達の情熱。そして東京工科大学の司先生の手によって生み出された、わたしたち三つ葉のクローバー四枚目の葉っぱです。わたしたちとみなさんの情熱とか愛情とかがマックスになったときに現れる、バーチャルアイドルです」
 リーダーの萌が切り出した。
「みなさん、もう一度会いたいですかあ!?」
「うおー!」「ハーイ!」「会いたい、会いたい!」などの声が一斉にした。放送局のコンピューターにも、視聴者の「もう一度会いたい!」というメールが殺到。

 もう一回コールが高まる中、その子は現れた……。

「ありがとう、みなさん。みなさんの熱い思いで、もう一度、みなさんに会えることができました。三つ葉のクローバーへの、みなさんの愛情がマックスになったとき、それをエネルギーにして、わたしは現れることができます。わたしは四枚目のクロ-バーの葉っぱで、花言葉は『幸福』です。でも、まだ名前がありません。この《ハッピークローバー》のCDを買っていただくと、命名カードが付いています。どうか、それに素敵な名前を書いて送ってください。素敵な名前付けてもらえるの楽しみにしています。とりあえず四枚目の葉っぱ『幸福』からのお願いでした。じゃ、また皆さんの愛情で会えますように……」
 その子は、両手を胸にあて、優しい笑顔のまま消えていった。
「やっぱり、どう見ても拓美ちゃん……」
 ため息をつくマユに、密やかに声が掛かった。

 マユちゃん、わたしに付いてきて

 それは仁和さんだった。
 
 返事も待たずに仁和さんはスタジオを出て行った。マユは、引き寄せられるように、そのあとに付いた。
 着いた先は、大きなガラスがはまったロビー。そのロビーのガラスの外には、東京の夜景が眼下に広がっていた。この一年見慣れた東京の夜景が。ああ、あのあたりが学校……事務所はあのあたり……なにか、その夜景は、とても懐かしく、愛おしく思えた。

「さあ、こっちへ……」

 仁和さんのガラスの前には、いつの間にかガラスのドアができていた。ノブが付いているのでドアには見えるが、ガラスはガラス、素通しで夜景が見えている。
 仁和さんがドアを開けると……地上十二階の空中のはずが二十畳ほどの応接室のようになっていた。不思議なんだけど、マユは不思議には感じなかった。
「失礼します……」
 そう言って、部屋に入ろうとしたとき、思念が飛び込んできた。

――入っちゃダメ! そこは……。

 仁和さんがドアを閉めたので、その思念は消えてしまったが、それは、オチコボレ天使の雅部利恵のものだった。
「今のは……」
「そう、オチコボレ天使の雅部利恵よ。あの子は、立場を超えて、あなたに友情を感じ始めている」
「仁和さん……」
「まだ気づかない……あなたの担任よ」
「あ……サタン先生!」
「そう、この世界にいるんで、こんなナリしてるけど。はい、これ……」
 仁和……サタン先生は空中から、A4の紙を取りだし、マユに渡した。
「追認合格書……」
「そうよ、おめでとう。晴れて単位認定……」
「わたし……」
「愛情を持ちすぎてしまったわね、この世界に」
「わたし、まだやり残したことが……」
「もういい。マユ、あなたは十分に知った。人間は苦悩の果て、いろんなものを失って、試練を経てその精神を高めていくものだって。でしょ……いろんなことがあったわね、浅野拓美の救済も見事でした……」
「あのバーチャルアイドルは……」
「創ったのは人間よ。わたしはあの子のデテールに関して口を挟んだけ……」
「そうだったんですか、よかった……」
「さ、あっちのドアから、もとの魔界に戻りましょう」
「わたし、まだ、ここにも、フェアリーテールの世界にもやり残したことが」
「ダメ、これ以上関わっちゃ、マユは自分を見失ってしまう。マユはあくまでも悪魔なのよ」
「オヤジ……ギャグですか」
「そういうノリでオサラバしなさい……この期に及んで、そのカチューシャを締め上げたくはないわ」

「……分かりました」

「今度は、任務として、この世界に。そのときまでは……ね」
「はい」
 サタンがニコリと笑うと一瞬で、魔界と現世の狭間の部屋は消えてしまった。

「消えた……」

 美川エルの衣装を着た雅部利恵は、ガラスの前でため息をついた……。


 小悪魔マユの魔法日記・第一部……完
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