大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・110『サムの自宅は千代田区』

2019-12-09 17:27:03 | 小説

魔法少女マヂカ・110  

 
『サムの自宅は千代田区』語り手:マヂカ 

 

 

 え……国会議事堂?

 

 変だなとは思った。

「わたしの家、千代田区だから」

 東京の地理を全部知っているわけではないから、千代田区にだって一般人が住めるところぐらいあるだろうと思った。

「階段上がってすぐだから」

 言われて、お上りさんよろしくメトロ有楽町線の四番出口に立った。そして、ヌケヌケとサムは指さしたのだ、国会議事堂を。

「「「「え、ええ?」」」」

「ほんとは、武蔵野の自然が残る皇居西の丸がよかったんだけど、さすがに許可が下りなくてね。ま、こっちも広いし(^▽^)/」

「広いだろうけど……議事堂のどこに」

「真っ直ぐ!」

 まったくリラックスして、はとバスのガイドのように歩き出した……ほんとにガイドっぽい旗持ってるし。

 ここを渡ったら正門という横断歩道まで来ると、サムは旗を高く放り上げた。

 人は動くものを目で追ってしまう。あ、魔法少女だって、つい見てしまうわよ。

 十メートルほどの高さでクルクル回るのを見ているものだから、空と旗しか見えなくなる。

 数秒回ってサムの手に収まると、周囲の風景が変わっていた!

 

 国会議事堂は、おおよそのフォルムを残したままお屋敷に変わり、右手の皇居は鬱蒼とした森の中に聳える西洋式の大城塞に変わっていた。

 

「魔法はナシだって言ったでしょ」

「魔法じゃないわよ、時空の狭間に作ったものだから、ノープロブレムよ」

 そういうのを魔法と言うんだけど。

 調理研の三人も驚いているが、竜神戦からこっち目覚めているので呑み込みが早い。

「大塚台公園の秘密基地よりもすごいねえ」

 ノンコが言って、友里と清美は「ヘー」「ホー」と感心はするが、すでに変異を呑み込んでいる。この三人は魔法少女であるわたしよりも順応性が高いのかもしれない。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

 門を入ったところで、総理大臣ソックリな執事が迎えてくれる。

「ただいま。安倍、ゲストのみなさんを案内してあげて。わたし、勉強会のプラン練るから」

「承知いたしました、では、みなさんこちらに。お荷物はメイドたちに持たせてください」

 安倍さんの指示で四人のメイドがやってくる……どうして、野党の女性議員の顔してんの?

「あ、申し訳ありません。リアルに引っ張られてしまいました」

 安倍さんが指を振ると、メイドさんたちは『この素晴らしい世界に祝福を!』系のアニメ顔になった。

「ああ、この方がポリゴン少なくてすむもんね」

 ノンコは、自分の知識の中で理解している。

 ま、いい、勉強ができればね。

 二泊三日の勉強会が始まった……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・102『電話の声が聞こえた』

2019-12-09 13:23:25 | ノベル

せやさかい・102

『電話の声が聞こえた』 

 

 

 自分の家がお寺で、本堂の裏に部室があるというのは、とっても具合がいい。

 

 下校時間のタイムリミットもあれへんし、収納もいっぱいあって、いろんなものが置ける。

 それで、思いついたが吉日。

 学校のジャージに着替え、文芸部の三人で自主持久走に出た。

 むろんコースは、学校の向こう側で紀香さんの家の前を通る。

 

 ファイト ファイト ファイト ファイト ファイト ファイト

 

 体育の授業やないんで、ゆっくり走ってええねんけど、自主的な目的があるせいか、力が入る。

 途中、本物の部活で走ってるテニス部やらサッカー部やらと出くわす。あいつらなんや? という顔をされるけど、ポーカーフェイスで走る。

 いーちにーいちに そーれ!  にーにーにに そーれ!  いちに そーれ! にーに そーれ! いちにさんしにーにさんし  ファイトー!ヨシ!

 いつのまにかテニス部の口調で掛け声。いよいよ角を曲がったら紀香さんの家というとこまで来た。

「元気よく! でも、ちょっとゆっくり目ね」

 頼子さんの注意で歩調を整え、心なし掛け声も大きくなる。

 いーちにーいちに そーれ!  にーにーにに そーれ!  いちに そーれ! にーに そーれ! いちにさんしにーにさんし  ファイトー!ヨシ!

 二階建ての紀香さんの家が近づいてくる。

 おや、家の前に見覚えのある原チャ、ボディーに『専念寺』のロゴ。

 あ、隣のお寺や。

 月参りに来てはるんやろか……と思たら、始めたばっかりのお経が聞こえてきた。

 坊主の孫やいうて、お経を知ってるわけやないねんけど『有縁の人々集まりて……』いうフレーズは一周忌以上の法事で使われる。月参りでは出てけえへん。

「あ、月参りですね」

 聞かれもせんのに言うた。

 頼子さんも留美ちゃんも勘のええ人なんで月参りいうのんが、毎月のお参りやいうニュアンスが通じた。

 そうなんだいう感じで、二階の窓を意識しながら通過する。

 いーちにーいちに そーれ!  にーにーにに そーれ!  いちに そーれ! にーに そーれ! いちにさんしにーにさんし  ファイトー!ヨシ!

 

「なんだか、二階から視線を感じました」

 部室に戻ると、留美ちゃんが真っ先に言う。

「うん、わたしも感じた。見えてるといいね」

「うん、きっと見えてましたよ。掛け声にも気合入ってたし(^▽^)/」

 ちょっとホッとして、ダージリンを頂いた。

 

 二人が帰ってから、テイ兄ちゃんに聞いた。

 

「専念寺さんのことやねんけど……」

 説明すると、テイ兄ちゃんは専念寺さんに電話して聞いてくれた。

『ああ、三谷さんとこなあ……』

 電話の声が聞こえた。

 ホトケさんは釋香恵、俗名三谷紀香……今日は一周忌の法要やったそうな。

 

 え……ほんなら、あの手紙は?

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベル・ライトノベルベスト[茶色のローファー]

2019-12-09 06:20:01 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
[茶色のローファー]
     


 

 

 あたし、茶色のローファーです。

 知ってるわよね、主に女子高生が履く真面目印の靴です。男性用もあるけど、あたしたち靴仲間からは、少し異端視されてる。
 あたしは、いまどき珍しい日本生まれ。そこらへんの外国製とは違うの。そこんとこ、よろしく。

 あたしの履き主は、通称スリッポン、荻野趣里。名前のシュリがスリになって、それにポンがついたもんだけど、この子が日ごろ履いてるのがスリッポンて、ルーズなズックなんかで出来てる紐無し靴。もう二十年ほど前に流行った遅れた靴なんだけど、この二年ほどでまたギャルの中で流行りだしてる。

 スリッポン……趣里は、お祖母ちゃんの超裏技で某有名女子高に、この春入学。で、制服から持ち物小物にいたるまで、セレブリティーで統一され、その足元を最後に決めたのが、このあたし。仲間に店ざらし仲間の黒のローファーもいたけど、学校の指定が黒または茶色のローファーってことになってたから、ささやかな彩りとして、あたしが選ばれたわけ。

 馬子にも衣裳で、最初の一週間は、真面目にやってくれた。

 無遅刻無欠席。一週間だけだったけど。
 ノートだって、誤字脱字だらけだけど、キチンととってた。あたしは下靴なんで、お仲間の上履きから聞いた話なんだけど、五日目からは授業中に居眠りし始め、まさかと思ったら、六日目には狭いロッカーの中に教科書やらノートが混ざりはじめた。
 そう、鞄は持ってくるけど、中身はソイジョイと日によって替わるペットボトルのお茶。あとギャル用のファッション雑誌とスマホ。

 事件としては、山手線M駅での痴漢騒ぎ。

「誰の手よ! 次の駅で降りな!」
 なんせ、お嬢様学校で知られてるA女学院だったもんだから、乗客も駅員さんも、その伝法な……今風に言えばギャル言葉でまくし立てるもんで、びっくり。でも、これは痴漢に対する毅然たる言動のひとつであろうと、世間も警察も、後から聞いた学校も好意的に解釈。
 ただ一人、呼ばれたお巡りさんの中に顔見知りがいたけど、あまりの外見的な変化に(希望も含めて)スリッポンではないと判断。

 あたしは、最初から違和感があった。

 立場上、あたしは、趣里のおパンツを毎日見て居る。A女学院らしい白を見たのは発育測定の日だけ。あとは色も柄も様々なものに変わってしまった。

 この連休に入ってからは、あたしは用無し。下駄箱……靴しか入ってないのに下駄箱とはいかに!? シャレでも飛ばしていなきゃ、これから先は語れない。

 連休前の金曜日に、趣里は真っ直ぐ家に帰るとさっさと私服に着替えて渋谷に、むろん足許は馴染みのスリッポン。
 そして中学時代のお仲間に再会。半月ちょっとぶりに趣里は自分のレーゾンデートルを発見。
 不覚にも涙が流れるところだったそうな。
 仲良く道玄坂を登って左に曲がったのが十一時過ぎ。ギャルのたまり場へのショートカットの途中、クラスで、ただ一人友だちがましく接してくれる美穂に出会った。
 美穂の家は、道玄坂では名の知れたラブホを経営している。だけど、美穂は、小さなころから両親の方針で当たり前以上の女の子として育てられてきた。しかし、親の会話や環境から、渋谷界隈や、そこに集まってくる人たちのことは感触で分かる。分かるということは、いいことも悪いことも分かるという意味である。だから、趣里に初めて接した時から分かっていた。そして、趣里を友達と感じ、なんとかA女学院に馴染めるように、なにくれとなく面倒を見てくれた。

 その美穂が二人のニイチャンに絡まれていた。

 こんな時間にA女学院の制服を着た女の子が歩いているのは、コスプレの一種だと思われたのだ。美穂は学校のレベルに着いていくために塾通いを始め、帰宅時間が遅れてしまったのである。
「あたしのダチに、なに絡んでんのよさ」
 これを第一声に、二分ほどで、二人をのしてしまった。

「趣里ちゃん、ありがとう」
「いいよ。あたしたち、こういうやつら嫌いだし。さ、もう行きなよ。あたしたちもずらかるからさ」

 美穂の後姿を見て、趣里は決心した。
「趣里なんか辞めてスリッポンにもどるか……」

 連休が明けたら、あたしは、しばらく履いてもらうことはないだろうけど、趣里のことは応援していくつもり。

 それまで、頼んだわよ、スリッポン!



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Regenerate・5≪埋伏の時・4≫

2019-12-09 06:02:41 | 小説・2
Regenerate・5
≪埋伏の時・4≫ 



 
 詩織はよく耐えた。

 大学のピロッティーで女子学生がパワーショベルのバケットで真っ二つにされてから、大きな事故と事件が続いた。

 事故は大学最寄りの駅のホームから高校生が転落、特急電車に跳ねられて死んだこと。歩きスマホが原因とされたが詩織には違和感があった。高校生は特急が来る寸前に、なにかに吸い寄せられるようにホームから落ちたからである。

 事件は、渋谷だった。
 
 渋谷は詩織たち東都大学のほかにもたくさんの大学や高校の生徒が通学途中のジャンクションとして賑わっている都内有数の繁華街だ。
 ここで、詩織はドロシーとともに一人の若者が無差別に人を刺殺していくビジョンを見た。ビジョンの通り、若者はシアターに入ろうとしていたアイドルグループの子を刺そうとした。一瞬詩織の体が意志にあらがって動こうとしたが、ドロシーが止める前に、女子高生が飛び出して若者に体当たりした。若者はいったんは路上に倒れこんだが、次の瞬間華奢な若者とは思えない跳躍力で、女子高生にとびかかりナイフを振り下ろしたが、セミロングの髪と制服の一部を切り裂いただけだった。女子高生は若者に負けないくらいの跳躍でかわしたあと、別の中年男に飛び蹴りをかけたが、中年男は鮮やかにかわした。数秒後には女子高生を囲んで10人ほどの男女が攻撃を仕掛けた。次の瞬間、人間とは思えない動きと速さで、取り囲んだ男女は倒されていった。群衆がどよめき始めたころには女子高生の姿は無かった。
「あたし見えた。あの子顔を隠すようにして道玄坂の方に走って行った。時速300キロは出ていた」
「あたしも、見だった……」
 その直後、救急車が五台も来て、倒れている10人の男女を連れ去っていってしまった。その後本物の救急車と警察がきたが、被害者も被疑者も居らず、オロオロするばかりだった。

「よく辛抱しだったな」
 ドロシーが詩織の肩を叩いた。

「……そういうわけで、今日の渋谷は凄かった。うん、大学にも慣れたよ。今度ひいばあちゃんが住んでたとこに行ってみようと思うの」
――それはいいわ。写メとか撮れたら、また送ってね――
「そろそろ、トウモロコシの収穫じゃないの?」
――うん、南の早稲はもう刈り取り。それより、今度ジミーがヘリコプターに乗せてくれるんだよ!――
「え、ジミー、もうライセンス取れる歳になったの!?」
――なに言ってんの、詩織も大学生のくせして。ジミーは詩織より一個上だよ――
「そうだったっけ。あいつ、いつまでもハナタレチキンのままのイメージだから――
――あ、渋谷の事件、こっちでもやってるよ。なんだか女子高生が大暴れ……あ、顔がドラえもんだ!――

 詩歩とのスカイプ会話は、そこで途切れた。姉妹ともどもビデチャどころではなくなったのだ。

「ねえ、ドロシー、これって成田のあたしとそっくりじゃない。この子の暴れ方と、顔が隠れているところなんかさ」
「んだす……もう隠しておけねえな。教授のとこさいくべ。車の中で話せるだけのことは話すから」

 ドロシーは、自分たちの存在がM資金と関係があるところまでは話した。その話をするドロシーの口が少しも動いていないことを不思議にも思わない詩織。

 詩織は覚醒してはいるが、まだ、その頭脳は揺籃期にあると言っていいだろう……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

永遠女子高生・23・《京橋高校2年渡良瀬野乃・14・あ、渡良瀬さん!》

2019-12-09 05:53:08 | 時かける少女
永遠女子高生・23
《渡良瀬野乃・14・あ、渡良瀬さん!》          




 春休みでよかった。

 たこ焼三回転ジャンプは、思いのほか広まってしまった。帰り道、家まで30秒というところで、タバコ屋のお婆ちゃんに捕まった。
「あたしらの子どものころにもイチビリはおったけどな、たこ焼を、あんなウルトラCで食べる子ぉはおらへんかった。あたしらのころのたこ焼きは……」
 たこ焼き談義を30分ほども聞かされ、その間、タバコ屋のお客さんや通行人の人たちからも「さっき、テレビに出てた!」「あんなことできる子おらへんなあ!」「オリンピックにたこ焼入れるべきやなあ!」などのエールを受けた。
 やっと家に帰ると、たこ焼の匂い。
「スーパー行ったら、前のたこ焼き屋さんに呼び止められてなあ、渡良瀬さんテレビ観てたよ! これで野乃ちゃんに稽古してもろて! いうてもろてきた」
 母がレジ袋一杯のたこ焼きを捧げ持った。
「え、これ全部!?」
「もらうだけやったら申し訳ないから、1000円で買うてきた!」
「3000円くらいはあるよ!」
 早くも口をモゴモゴさせながら奈菜が付け加える。晩ご飯はたこ焼きのフルコースになってしまった。

 あくる日は愛華に呼び出された。

「ノノッチ、女捨てたんやなあ」

 マックシェイクをすすると、ボソリと愛華が言う。手許のスマホはたこ焼き三回転半ジャンプの動画が、これでもかとループしている。
「あたしには似合えへんもん、乙女チックな女子高生なんか……」
「せやかて、一之宮先輩が……あれは、ちょっと本気ちゃうかと思うでえ」
「ないない、この半月モデルやってて、よう分かった。先輩は単に芸術的な興味で声かけてくれはったんや。先輩にはあやめさんがいてはるよって」
「そうかなあ」
「うん、あたしがモデルやってるときも、いっつも付いてはるし……二人はいとこ同士やけど、いとこ同士は……」
 結婚できるという言葉は飲み込んだ。屋上で聞いてしまった二人のスキンシップのことは言うまでもない。
「ノノッチ、あたしやからええけど、ジャージでうろつくのは止めとき。春やねんから、せめてスカートぐらいは穿きいや」
「ハハハ、スカートは内股擦れるからなあ」
「そんな下半身デブいうわけでもないやろに」

 家に帰って制服に着替える。もちろんスカート。

 今日はモデルの最終日。これが終われば新学期の始業式までスカートを穿くことはない。
 学園都市線S駅で降りる。
――帰りに乗ったら、ちょうどイコカもおしまい。キリがええこっちゃ!――
 器用にイコカを三回転半回してパスケースに収めると、野乃は大股で秀一の家を目指した。

 美容院の角を曲がると秀一の家。コホンと咳ひとつして女らしくする。美容院のガラス戸に今日を限りの制服姿が映る。
 美容院のマスターが「いらっしゃいませ」という顔でドアに手を掛けるのに「いえ、ごめんなさい」と手を振って角を曲がる。

「あ、渡良瀬さん!」

 曲がったところで、今まさに玄関を開けようとしているあやめさんと目が合う。
 あやめさんは、ピンクのエプロンして、スーパーのレジ袋。まるで新婚の奥さんというふうだった……。 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

乃木坂学院高校演劇部物語・60『元日の朝』

2019-12-09 05:36:29 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・60   
『元日の朝』 

 
 
「ねえ、テレビに出たって、なんで言ってくれなかったのよ!?」

 そこから話しは再開され、互いの近況やら、小規模演劇部の稽古の仕方などについてガールズトークは爆発した!

 兄貴は、その後タキさんのアドバイスを元に香里さんに連絡をとりイソイソと出かけていった。
 新宿にある名画座(料金が安いが選りすぐりの名作が観られる)で『結婚適齢期』を観たあと、同区内のあまり肩の凝らないフランス料理屋へ。コースも三種類ほど書かれている。あとは……十八禁の内容なので省略させていただきます。
 なんでこんなに詳しく分かっちゃったか言うと、兄貴は筆圧が高い(この時は、さらに気合いが入ってた)ので、メモ帳の下の紙にクッキリ残っちゃってんのよ。

 ジュディーガーランドが気になったので調べてみた。

 ライザミネリと親子だってことが分かった。『オズの魔法使い』の彼女、カワユイんだけど、一つ気になる……このツンとした鼻は、わたしの(数少ない)コンプレックスのひとつなのだ。
 ……で、思い出しちゃった。中学に入ったころ、髪をお下げにしてたら、はるかちゃんのお父さんが、こう言ったのよね。
「まどかちゃんて、ジュディー……いや、なんでもない」
 あれって、わたしのコンプレックスと知って言い淀んだ……まあ、あまり深く考えないことにいたします。
 そして、はるかちゃんに最後にお願いした。
「女子三人、照明、道具に凝らないお芝居ないかしら?」
『すみれの花さくころ』を紹介してくれたけど、このお芝居は歌芝居なので歌がね……上手じゃないと。
 里沙も、夏鈴もね……だれよ、おまえも人のこと言えないって!

 大晦日は、シキタリ通りの年越し蕎麦をみんなで頂きました。香里さんもいっしょだったの、タキさんのアドバイスはすごい!


 元日は大晦日ほどにはシキタリにはうるさくない。
 昔は、家族そろって、荒川区で一番の神社に初詣に行ったものだけど、兄貴やわたしが年寄りの時間に合わせられなくなってから(つまり朝寝坊)は、各自の時間に合わせて初詣。
 だれが一番早いと思う?
 おじいちゃん……いいえ兄貴なのよね。紅白歌合戦の最終組のころに出かけちゃった。むろん香里さんといっしょ。朝は、この兄貴の大鼾で目が覚めた。
 茶の間に降りて、兄貴を除く家族でアケオメ。
 ガキンチョのころは、振り袖なんか着たこともあったけど、今はジーパンにセーター。お雑煮をおかわりして二階の自分の部屋へ、
 パソコンを開くと、すでにはるかちゃんが待機してくれていた。
「ごめん、待たせた?」
「ううん、わたしも今落ち着いたとこ」
 元日のはるかちゃんはリビングに居た。
 ここから、お雑煮の実況中継。はるかちゃんちはタキさんに習ったレシピで関西風にチャレンジ。
「へえ、白みそに丸餅なんだ……お餅焼いてないんだね」
「へへ、では、はるかの関西風お雑煮の初体験……」
 実においしそうに食べる……こっちも負けずにおいしそうにいただく。
 ……視線を感じる。
「何やってんだ、おまえら」
 兄貴がパジャマの寝癖頭のまま覗き込んでいる。
「これが元日の現実の(韻を踏んでます)兄ちゃんで~す!」
「や、やめろって!」
 カメラで追いかけ回すと居なくなっちゃった。
 中継のあと、はるかちゃんは嬉しい約束をしてくれた。
 何かって? それは、まだナイショ。

「年賀状が来てるわよ!」
 お母さんの声で茶の間に降りた。
 わたしたちって、たいがいメールでアケオメしちゃうんだけど、二十通ほどはやってくる。
 アナログだけど、手書きの年賀状っていいものね。メールのアケオメで一見して一斉送信だったりすると、ダイレクトメールよりガックリくる。
 年賀状は、たとえパソコンでプリントしたのでも――今年もよろしく!――なんて手書きで書いてあったりっしてね、
「これは、この人が、わたしのためだけに書いてくれたんだ」
 と思えて、ホンワカするんだ。
 何通かは、演劇部を辞めてった人たちのがあった。ほら、テニス部に行ったA子からも来てた。覚えてる? 倉庫跡の更地で発声練習してたら、テニス部のボ-ルが飛んできて、投げ返したら、ムスっとして、態度わる~って感じの子。
――クラブ逃げ出したみたいで、ごめんなさい。マリ先生のいないクラブが不安で……まどか達に押しつけたみたいだけど、陰ながら応援してます――という内容。
 少し救われた気持ちになった。
 潤香先輩のお姉さんからも来ていた。先輩は相変わらずの様子……新学期が始まったら、またお見舞いに行こう。
 マリ先生は、あいかわらず正体不明。
――クラブがんばってる? わたしは、わたしの道でがんばってます。乃木坂ダッシュの新記録はまだ?――

 忠クンからも来ていた。最初から気づいていたんだけど、一番最後にまわした。
――謹賀新年。まどかに負けないよう頑張ります。大久保忠友。
 と、カナクギ流で書いてあった……よく見ると、下の方に虫が並んだように追伸。
――薮先生のところで感銘を受けて出しました。元日に間に合わなかったらごめん。

 トキメキとガックリがいっぺんに来た……そして、しばらく眺めていたら、心配になってきた。去年の忠クンは、あの火事の中からわたしを助けてくれたことも含めてなんだか突飛すぎるような気がする。なんだかアンバランス……気のせいだろうか?
――まどかも人のこと言える?
 そんな声が、自分の中から聞こえてきて、うろたえた元日の朝。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする