大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

Regenerate・6≪ブリーフィング&ファイティング・1≫

2019-12-10 06:26:03 | 小説・2
Regenerate・6
≪ブリーフィング&ファイティング・1≫ 



「山本先生」 
 
 そう呼んだドロシーの言葉は新鮮だった。

 瞬間、山本教授の名前を初めて聞いたような気がしたが、その思いはすぐに修正された――なんだ、あたしって度忘れしてたんだ――と思い直した。
 山本教授の新しいラボは、なんの迷いもなく来られたドロシーと詩織だったが、着くと、そこがどこなのか思い出せなくなっていた。

「ちょうどいい。わたしも君たちを呼ぼうと思っていたところなんだ」
「もう、詩織には言っですまっだ方がええど思ったんだす」
「わたしもだ、ドロシー。そのヘッドセットをつけてくれたまえ」
 教授は机の引き出しを軽く開け閉めした。すると、周囲の壁が一変した。様々なモニターや電子機器で埋め尽くされた。
 ヘッドセットのアイモニターは、どこか大きな工場の監視カメラとリンクしているようで何十台という監視カメラの映像に切り替わった……そして、あの子が映っているカメラに固定された。

「この子は、渋谷で大暴れした女子高生」
「ああ、君たちの仲間になるはずの子だった」
「だった……?」
 ドロシーがひっかかった。
「詩織のようには庇いきれなかった。アナログのカメラで撮ったやつがいた。これだ」
 モニターには、壮絶美といっていい顔が大写しになっていた。セミロングの髪が良く似合う、当たり前の表情をしていれば、すごくかわいい子だった。鼻先がちょっと上を向いたところなど、少し勝気な印象を与えた。
「この映像が出回ってしまった。むろんすぐにフィルターをかけたが、USBに取り込んだ奴がいて、アナログでプリントアウトされてしまった。明日の新聞に載ってしまう。
「新聞社のCPUをハッキングできないんですか?」
「やっても無駄さ。やつらに、この映像は出回っている。やつらは解析の真っ最中だ」
「映像が乱れてます」
「奴らも発見したようだな。互いのトレースが干渉しあってるんだ」
「あ、この子、溶鉱炉に向かってる!」
 その子は、製鉄所と知れた工場のキャッツウォークを溶鉱炉の口目がけて小走りに駆けだした。
「製鉄所の人間は気づいていないんですか!?」
「ステルスになってて、民生品のカメラには映らないんだす」
 詩織のヘッドセットのモニターには、その子の顔が3Dの大写しになった。その子の端正な二重の目にはライトの照り返しではない輝きが見えた。そして、次の瞬間、水泳の飛び込みの選手のようなフォームで、溶鉱炉の真っ赤な口にダイブしていった。一瞬数メートルの火柱が上がって、それで終わってしまった。

「ああ……」

 詩織は、それ以上の言葉にはならなかった。怒りとも悲しみともつかない思いが詩織の胸をいっぱいにした。

「全てを明かすわけにはいかないが、もう動き出さなければならない」
「んだども、詩織は、まだ擬態できねえんだす」
「詩織、擬態とは、こんな風にやるんだ。見ていなさい」
 教授の姿が、数秒でバーコードのメタボから、ロマンスグレーのベテラン俳優のようになった。詩織は少し驚いたが、自分にも出来そうな気がしてきた。
「……こんな感じでどうでしょう」
 詩織は、さっき溶鉱炉に飛び込んだ女子高生そっくりに擬態した。
「へー、たまげた!」
「擬態するのには、もう少し時間がかかると思ったが。上出来だ。その擬態のときは幸子と名乗りなさい。あの子のたった一つの遺産だ」
「はい……でも、なんで、あたし、こんなことができるんですか?」

 ようやく、自分が他人とは違うことに気づいた詩織だった……。
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永遠女子高生・24・《京橋高校2年渡良瀬野乃・15・野乃花》

2019-12-10 06:17:35 | 時かける少女
永遠女子高生・24
《渡良瀬野乃・15・野乃花》          




「ちょっと手を加えてみようと思うんだ」

 ほぼ完成している少女像。それを前に、秀一は腕を組んでいた。

「だめよ秀、もう完成しているんだから変になるわよ」
 レジ袋を置きながらあやめがさえぎる。
「でも、これじゃ綺麗なだけの少女像だ……野乃ちゃんの魅力は、もっと奥が深かったんだ」
 秀一は、腕まくりして少女像とにらめっこを始めた。
「秀一、昨日のテレビ観ちゃったのよ」
「あ……!」
「そう、たこ焼三回転ジャンプ」
 野乃は顔から火が出そうになった。
「あの、あたしはどうしていたらいいですか?」
 秀一が少女像に集中しだしたので手持ち無沙汰になってしまった。
「たこ焼三回転ジャンプできる?」
「えと……勘弁してください」
 あれは、商店街という環境でこそできたのだ、それも秀一のことを吹っ切ろうとして。その秀一を前にしてできるものではない。
「じゃ、いつものようにしてくれる?」
「はい」
 野乃は秀一の前でいつものポーズをとった。手を胸の前で組み、乙女の祈りという言葉がふさわしい清純なポーズ、その実はお日様に顔を向けてクシャミを誘発しようとする野乃の奇癖のポーズ。
「うーん……ちょっとキャッチボールをしにいこう!」
「「え!?」」
 野乃とあやめが同時に声を上げた。

 三人で近所の空き地に行ってキャッチボールを始めた。

「トワッ!」「ナイスピッチング!」
 バシッ!
 最初こそ大人しくボールを投げていたが、あやめのボールが意外に速く、5分もすると、野乃は本気になった。秀一はいつのまにか抜けて野乃のスケッチに集中している。
「よし、これでいける! 二人は、もう少し続けていてくれ。二人のパッションを感じながら一気に仕上げるから!」
 秀一は家まで走って帰ると、20分ほどで一気に仕上げた。
 秀一から完成のメールを受けた時には、野乃もあやめも体育会系の面構えになって汗をかいていた。

「わ……すごい!」

 完成した少女像は清楚な可憐さが、これから空に駆けあがって行ってしまいそうな予感をさせている。
「おめでとう! じゃ、これから完成記念パーティーにしよう! 野乃ちゃんも手伝ってくれる?」
「はい、喜んで!」
 野乃も手伝ったが、あやめの台所仕事は手際良く、秀一との呼吸もピッタリ合っている。
――なんだか若夫婦って感じだな――
 野乃はそう思ったが、おくびにも出さず明るくふるまった。

「少女像に良い名前を考えた!」

 ブタ鍋が二巡目になったころに、秀一は宣言した。
「え、どんな!?」
 野乃は自分に芸名が付けられるようにときめいた。
「野乃花……どうだ!」

「「すてき……!」」

 野乃とあやめの声がそろった。
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乃木坂学院高校演劇部物語・61『一人で初詣』

2019-12-10 06:08:34 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・61   
『一人で初詣』 


 深く考えるのはヤバイ気がしてきて、年賀状の返事を書くことにした。

 半分以上は、あらかじめ出した人なんで、十人程への後出し年賀。後出しの分だけ、心をこめて書かなきゃ。
 はんぱなデジタル人間のわたしは、アナログな返事を書くのに昼前までかかってしまった。

 お昼は、はるかちゃんのマネをして関西風のお雑煮をこさえた……と言っても、お歳暮にもらった高級インスタントみそ汁の中に、チンしたお餅を入れただけ。
「なに食ってるんだ。まるで昔の犬のえさみてえだな」
「なに、それ?」
「昔の犬は、残り物にみそ汁のブッカケって決まったもんだ」
「ちがうよ、これは関西風のお雑煮。おいしいよ。おじいちゃんもこさえたげようか」
「よせやい。いくら戌年の生まれだからって、犬マンマは願い下げだぜ」
「おいしいのになあ……」
 わたしの強がりを屁とも思わずに、おじいちゃんは行ってしまった。


 昼から、年賀状を出すついでに初詣に行った。
 忠クンも誘おうかとも思って、携帯を手にしたんだけど……やっぱ止めた。

――厚かましいのにもほどがあるぞ!

 と、神さまに叱られそうなくらいのお願いをした。
 でも、お賽銭はピカピカの百円玉。使うのが惜しくて、ずっとひっそりと机の中にしまっておいたんだ。
 この百円玉は、去年の五月ごろ、気がついたらお財布の中に入っていた。
 なんだか不思議だった。前の日に食堂でおソバを食べようとして、お財布の中に一枚だけあった百円玉を券売機の中に入れた。確かに最後の百円玉だった。
 で、明くる日、コンビニで雑誌を買おうとしてお財布を開けたら、この百円玉が入っていた。
 造幣局でできたばかりみたいにピカピカの百円玉。でも、なんだか、とても懐かしい気持ちにさせてくれる百円玉だ。
 それを使ったんだから、わたし的にはとても大事な願い事。
 どんな願い事だって?……それは、この物語を最初から読んでいるあなたなら分かるわよね。
 おみくじを引いてみた。
 大吉だった。

 ――新しきことに挑みて吉。目上からの引き立てあり。波乱多きも末広。意外のことあるも臆する無かれ。努力と忍耐が肝要なり。で、恋愛運は……気は未だ熟せずも、末吉。人の成長を気長に待たねば破綻の気配。と、あった。

 正月のおみくじってたいがい大吉なんだけど、良く読むと、良いことは多いけど、なんだか半分脅かしみたい。波乱多きもとか、臆する事なかれとか、破綻の気配とか。
 要するに、努力し忍耐しなきゃ保証無しってことで、不幸になれば、おまえの努力と忍耐が足りないからだってこと。
 幸せになれなければ自己責任。なれたら、神さまのお陰ってこと。いい加減っちゃ、いい加減なんだけど、これも神さまのご託宣。ありがたく持ち帰ります。
 よく、境内の木の枝に結んで帰る人がいるけど、あれは悪いくじを引いたときにやるもんで、神さまのご託宣であるので、ありがたく持ち帰るのがセオリーだとおじいちゃんに教えてもらった。

 ありがたくお財布の中に収めると、ポンと肩を叩かれた。
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