「山本先生」
そう呼んだドロシーの言葉は新鮮だった。
瞬間、山本教授の名前を初めて聞いたような気がしたが、その思いはすぐに修正された――なんだ、あたしって度忘れしてたんだ――と思い直した。
山本教授の新しいラボは、なんの迷いもなく来られたドロシーと詩織だったが、着くと、そこがどこなのか思い出せなくなっていた。
「ちょうどいい。わたしも君たちを呼ぼうと思っていたところなんだ」
「もう、詩織には言っですまっだ方がええど思ったんだす」
「わたしもだ、ドロシー。そのヘッドセットをつけてくれたまえ」
教授は机の引き出しを軽く開け閉めした。すると、周囲の壁が一変した。様々なモニターや電子機器で埋め尽くされた。
ヘッドセットのアイモニターは、どこか大きな工場の監視カメラとリンクしているようで何十台という監視カメラの映像に切り替わった……そして、あの子が映っているカメラに固定された。
「この子は、渋谷で大暴れした女子高生」
「ああ、君たちの仲間になるはずの子だった」
「だった……?」
ドロシーがひっかかった。
「詩織のようには庇いきれなかった。アナログのカメラで撮ったやつがいた。これだ」
モニターには、壮絶美といっていい顔が大写しになっていた。セミロングの髪が良く似合う、当たり前の表情をしていれば、すごくかわいい子だった。鼻先がちょっと上を向いたところなど、少し勝気な印象を与えた。
「この映像が出回ってしまった。むろんすぐにフィルターをかけたが、USBに取り込んだ奴がいて、アナログでプリントアウトされてしまった。明日の新聞に載ってしまう。
「新聞社のCPUをハッキングできないんですか?」
「やっても無駄さ。やつらに、この映像は出回っている。やつらは解析の真っ最中だ」
「映像が乱れてます」
「奴らも発見したようだな。互いのトレースが干渉しあってるんだ」
瞬間、山本教授の名前を初めて聞いたような気がしたが、その思いはすぐに修正された――なんだ、あたしって度忘れしてたんだ――と思い直した。
山本教授の新しいラボは、なんの迷いもなく来られたドロシーと詩織だったが、着くと、そこがどこなのか思い出せなくなっていた。
「ちょうどいい。わたしも君たちを呼ぼうと思っていたところなんだ」
「もう、詩織には言っですまっだ方がええど思ったんだす」
「わたしもだ、ドロシー。そのヘッドセットをつけてくれたまえ」
教授は机の引き出しを軽く開け閉めした。すると、周囲の壁が一変した。様々なモニターや電子機器で埋め尽くされた。
ヘッドセットのアイモニターは、どこか大きな工場の監視カメラとリンクしているようで何十台という監視カメラの映像に切り替わった……そして、あの子が映っているカメラに固定された。
「この子は、渋谷で大暴れした女子高生」
「ああ、君たちの仲間になるはずの子だった」
「だった……?」
ドロシーがひっかかった。
「詩織のようには庇いきれなかった。アナログのカメラで撮ったやつがいた。これだ」
モニターには、壮絶美といっていい顔が大写しになっていた。セミロングの髪が良く似合う、当たり前の表情をしていれば、すごくかわいい子だった。鼻先がちょっと上を向いたところなど、少し勝気な印象を与えた。
「この映像が出回ってしまった。むろんすぐにフィルターをかけたが、USBに取り込んだ奴がいて、アナログでプリントアウトされてしまった。明日の新聞に載ってしまう。
「新聞社のCPUをハッキングできないんですか?」
「やっても無駄さ。やつらに、この映像は出回っている。やつらは解析の真っ最中だ」
「映像が乱れてます」
「奴らも発見したようだな。互いのトレースが干渉しあってるんだ」
「あ、この子、溶鉱炉に向かってる!」
その子は、製鉄所と知れた工場のキャッツウォークを溶鉱炉の口目がけて小走りに駆けだした。
「製鉄所の人間は気づいていないんですか!?」
「ステルスになってて、民生品のカメラには映らないんだす」
詩織のヘッドセットのモニターには、その子の顔が3Dの大写しになった。その子の端正な二重の目にはライトの照り返しではない輝きが見えた。そして、次の瞬間、水泳の飛び込みの選手のようなフォームで、溶鉱炉の真っ赤な口にダイブしていった。一瞬数メートルの火柱が上がって、それで終わってしまった。
「ああ……」
詩織は、それ以上の言葉にはならなかった。怒りとも悲しみともつかない思いが詩織の胸をいっぱいにした。
「全てを明かすわけにはいかないが、もう動き出さなければならない」
「んだども、詩織は、まだ擬態できねえんだす」
「詩織、擬態とは、こんな風にやるんだ。見ていなさい」
教授の姿が、数秒でバーコードのメタボから、ロマンスグレーのベテラン俳優のようになった。詩織は少し驚いたが、自分にも出来そうな気がしてきた。
「……こんな感じでどうでしょう」
詩織は、さっき溶鉱炉に飛び込んだ女子高生そっくりに擬態した。
「へー、たまげた!」
「擬態するのには、もう少し時間がかかると思ったが。上出来だ。その擬態のときは幸子と名乗りなさい。あの子のたった一つの遺産だ」
「はい……でも、なんで、あたし、こんなことができるんですか?」
ようやく、自分が他人とは違うことに気づいた詩織だった……。
「製鉄所の人間は気づいていないんですか!?」
「ステルスになってて、民生品のカメラには映らないんだす」
詩織のヘッドセットのモニターには、その子の顔が3Dの大写しになった。その子の端正な二重の目にはライトの照り返しではない輝きが見えた。そして、次の瞬間、水泳の飛び込みの選手のようなフォームで、溶鉱炉の真っ赤な口にダイブしていった。一瞬数メートルの火柱が上がって、それで終わってしまった。
「ああ……」
詩織は、それ以上の言葉にはならなかった。怒りとも悲しみともつかない思いが詩織の胸をいっぱいにした。
「全てを明かすわけにはいかないが、もう動き出さなければならない」
「んだども、詩織は、まだ擬態できねえんだす」
「詩織、擬態とは、こんな風にやるんだ。見ていなさい」
教授の姿が、数秒でバーコードのメタボから、ロマンスグレーのベテラン俳優のようになった。詩織は少し驚いたが、自分にも出来そうな気がしてきた。
「……こんな感じでどうでしょう」
詩織は、さっき溶鉱炉に飛び込んだ女子高生そっくりに擬態した。
「へー、たまげた!」
「擬態するのには、もう少し時間がかかると思ったが。上出来だ。その擬態のときは幸子と名乗りなさい。あの子のたった一つの遺産だ」
「はい……でも、なんで、あたし、こんなことができるんですか?」
ようやく、自分が他人とは違うことに気づいた詩織だった……。