大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・104『ミカンの皮を剥く』

2019-12-14 11:10:58 | ノベル

せやさかい・104

『ミカンの皮を剥く』 

 

 

 本堂の外陣(げじん)は教室一個半くらいの広さに畳が敷いてある。

 本堂は庇が深くて天井が高いので、夏場は涼しい。けど冬の寒さはひとしお。

 それでも、お年寄りの檀家さんが訪れては三十分とか一時間とか話し込んでいかはる。中には半日過ごすお婆ちゃんがいてたりするので、暖房は切らされへん。

 電気カーペット、こたつ、石油ストーブが、それぞれ二つづつ。

 こたつと電気カーペットはともかく、石油ストーブは危ないので、おばさんが時々様子を見に来る。

 それが、今日はテイ兄ちゃん。

「檀家周りには行かへんのん?」

「ああ、今日は午前中に二件あっただけやさかいなあ」

 と、お婆ちゃんらにミカン皮を剥いたってる。

「若ボンは、皮剥くのん上手やなあ、皮が切れんと上手に剥きやる」

「きれいに剥けてると、一日ええことがありそうな気になれるしい」

「いやあ、褒めてくれるんはおばあちゃんらくらいですわ」

「今日は土曜日で部活ないよ」

「え、あ、そうか(^_^;)」

 プツン

 明らかに動揺した様子で、剥きかけの皮が千切れてしもた。

「てんご言うたらあかんがな、さくらちゃん」

「知ってるよ、土曜の午前中は文芸部あるのんは」

 そうなんや、土曜の午前は部活やて決めた。せやけど、おばあちゃんらは、なんで知ってるんや、先週三人で決めたばっかりやのに。

「あんたら、声大きいし(⌒∇⌒)」

 アハハ……気を付けよう(;^_^A。

 

 言ってるうちに留美ちゃんと頼子さんがやってきた。

 

「「お早うございます」」

 プツン

 二人が挨拶すると、テイ兄ちゃんは、またミカンの皮を失敗する。

 頼子さんは出来た人で、お婆ちゃんらと二言三言会話してから部室に向かう。最初は青い目にブロンドの中学生にビックリしてたお婆ちゃんらやったけど、このごろは「よりちゃん」と呼んで、わたし同様町内の子どもとして接してくれる。お婆ちゃんらも頼子さんも、大したもんや。

 

「昨日はごめんね」

 

 部室のこたつに収まるなり、頭を下げる頼子さん。

 ダミアが心配そうな顔を向ける。わたしも留美ちゃんも一瞬かしこまって、そして膝を崩す。頼子さんはかしこまられるのが苦手。

 ダミアがニャーと首をかしげて、頼子さんは切り出した。

「紀香のお母さんに聞いたの」

 やっぱ、あの足で紀香さんとこへ行ったんや。

「最後の二通は、お母さんが書いた手紙だった……」

「そうなんですか」

 穏やかに言うてるけど、うちらもショック。

「字が書けなくなっても、紀香は手紙を書きたがってね、お母さんは代筆しようかと言うんだけど『良くなったら自分で書く』って……それで、どんなことを書きたいの? って聞くんだよ、お母さん。そういうこと話してれば、励みになるって考えたんだよね。じっさい、手紙の中身話してる時は、紀香、楽しそうだって……」

「それで……亡くなってから、お母さんが書いたんですね」

「字が崩れてたのは……」

「お母さん、左手で書いたんだよ」

 ちょっと嫌な気がした。気持ちは分かるけど、結果的に人を騙してる。

「違うんだよ、右手は早くにダメになって、動かせるのは左手の先だけになってたから」

「紀香さんを……その……宿らせて書いたんですね、お母さんは」

「そうなの、だから、書かれてる気持ちは紀香そのものだったのよ」

「いい話じゃないですか」

 留美ちゃんは、そっと、自然に頼子さんの手に自分の手を重ねた。こういうことを自然にできる留美ちゃんは偉いと思う。

「うん、そうだよね……あ、みかん食べようよ、みかん」

「はい!」

 元気よく返事したけど、こたつの脇の籠のミカンは一個しかない。

「ちょっともろてきます」

 本堂の外陣に行ってミカンをもらう。

 ミカンといっしょにテイ兄ちゃんが付いてくる。

 テイ兄ちゃん剥くミカンは、プツンプツンと切れてばっかり。アセアセのテイ兄ちゃんに頼子さんがコロコロと笑う。

 まあ、ええか。

 アセアセのテイ兄ちゃんに頼子さんがコロコロと笑てるし。

 

 

 

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永遠女子高生・28《塔子の場合・3》

2019-12-14 06:26:29 | 時かける少女
永遠女子高生・28
塔子の場合・3》
        


 女子高生の朝の身支度は10分~20分だそうだ。

 あたしは計ったことは無いけど、2~3分。
 ざっとブラッシングして、前髪を整えるくらい。メイクはしない。唇が荒れているときにリップつけるくらい。
 スキンケアとか眉毛のお手入れなんか、一ぺんもやったことはない。

 言ってみりゃ生成りの女子高生。

 ビジュアル系だとかモテカワだとか意識したことはない。街を歩いていて、他人様に不快がられなきゃ、それでいいと思ってる。
 だから、教室の机につまづいてスネに傷ができてもへっちゃら。ナオタンとお揃いのバンソーコー貼って喜んでいる。

「塔子お、グラビアまるまる1ページだよー!」

 廊下の端からナオタンが突進してきた。
 ポッペティーン今月号の『日差しの中のナチュラル』というタイトルで、あたしとナオタンの写真が載っている。
 先日、マックを出たところで、ポッペティーンの瀬戸内さんが撮った写真だ。
「エー、うっそー!」
 目立つことはヤなんで、階段の踊り場に移動。
「こんなに、オッキク取り上げられるなんて思わなかったねーーー!」
「まるで、売れっ子ドクモじゃん!」
 8ページにわたる『街角ギャル 秋バージョン』特集で、瀬戸内さんたち4人のカメラマンの競作になっている。
 カメラマンそれぞれがキャプションを付けていて、瀬戸内さんのが『日差しの中のナチュラル』になっているわけ。
 
 嬉しかったけど舞い上がることは無かった。

 その日は「すごいじゃん!」「やったね!」とかクラスの子たちに言われたけど、三日もすると忘れられた。
 高校生にとって面白いことは、日替わり定食みたいに目まぐるしい。あたしら自身もテストや進路のことで忙しい秋の本番に突入していった。
 
「贅沢言わなきゃ、推薦入試ってのは無理じゃないけど、修学院女子なあ……」

 進路懇談でのグッスンは厳しかった。
 担任としてはいい加減だけど、進学指導では定評がある。グッスンがウンと言わなければ本当にむつかしい。
 修学院にこだわっているのはナオタンもそうで、理由は卒業後の進路保証がしっかりしているからだ。安定した一部上場企業のOLさんになって、普通の安定した人生を歩みたいという、手堅いと言うか地味と言うか、そういう路線なんだ。

 あたしもナオタンも、校門出たとこで親とは別れて2人でノラクラと下校する。

「安定した普通を得るためには、一ぺんは頑張らなきゃならないのかねぇ~」
「せめて学年の始めに言ってくれりゃ、頑張りようもあるんだけどねぇ~」
 もう2年生の成績は半分がとこ確定している。今から評定を上げようとしたら、4月の倍の努力が要る。
 そんな努力は自信が無いし、やりたくもない。

 あ、焼き芋屋!

 交差点の向こうに焼き芋の軽トラが停まっている。タイミングよく青になった信号を渡って直行。
「嬉しそうな顔して買ってくれるんだねえ、おじさんも嬉しいからオマケしとくよ」
 おじさんこそ商売がうまい、50円負けてくれたんだけど、調子に乗っておっきい方を買ったので、けっきょく50円高くついてしまった。とうぜん食べるのも大変なので、みっともないように裏の生活道路を通る。
「ん、どーかした?」
 焼き芋を齧りながら振り返ったので、ナオタンが「あれ?」っと思った。
「こっちがわさ……もう一軒家があったような気がするんだけど……」
 道の両側は似たような一軒家が続いているんだけど、南側と北側では家の数が違う。少ない南側に、もう一軒あったような気がして気持ちが悪い。
「このへん建売だからさ、業者が違ったら建坪とかビミョーに違うんじゃない?」
「……そっか」
 
 釈然としなかったけど、とりあえずは大きすぎる焼き芋を食べることに集中したのだった。

 秋はたけなわになろうとしている。

 
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Regenerate・10≪鈴木先生との再会・2≫

2019-12-14 06:19:08 | 小説・2
Regenerate・10
≪鈴木先生との再会・2≫
       


 違うと思った。

 鈴木先生を人間じゃないと確信した。スキャンの結果に反するが、詩織の頭脳の奥で、そうアラームが点滅した。
 確信と同時に行動していた。押し出されきる寸前に「鈴木先生」の襟首を掴み、そのままの勢いで車道の僅か3ミリの窪みで足を突っ張り、巴投げに「鈴木先生」を投げ飛ばした。投げ飛ばしつつ、膨大な量の思念を送った。「鈴木先生」からは未整理のままのビジョンが情報として反射してきた。本物の鈴木先生の居所が分かった。

「鈴木先生」の体は、10トントレーラーの前5本のタイヤに轢かれ、人間の体とは思えないくらいに粉砕され、急ブレーキをかけたトレーラの下で無残に散らばった。血しぶきが押しつぶしたトマトケチャップのチューブから噴き出るように飛んできた。辛くも避けきったが、歩道を歩いていたオバサンにもろにかかり、オバサンは悲鳴を上げて、その場に尻餅をついた。

「大丈夫だっだすか!?」

 タカミナに擬態したまま、ドロシーが聞いた。
「本物の鈴木先生は閉じ込められてる。行こう!」
「わがっだ!」
 現場に背を向けたとたん、千切れた「鈴木先生」の右腕が飛んできて幸子に擬態した詩織の首を掴もうとした。
「あぶねえ!」
 振り向きざまに、ドロシーが叩き落とし足で踏みつぶした。

「先生、大丈夫ですか?」

 詩織は体育館の倉庫の中で、マットにグルグル巻きにされていた鈴木先生を助けた。鈴木先生は、脱水症状を起こし意識不明だった。
「体温が40度近いだす。緊急冷却せねば!」
 二人で先生の腋の下と股の付け根を手で押さえ冷却した。二人の手はマイナス10度になり、急速に鈴木先生の体温を下げた。下げながら詩織は鈴木先生の声で、保健室の先生に電話をかけた。
「すぐに保健室の先生が来る。見つかるとややこしいから、逃げよう」
「ええんが、やっと会えた先生だべさ」
「他の人に見られたら、手に負えなくなるから」
 体育館入り口の方で人の気配がした。二人は急いで体育館のギャラリーにジャンプし、駆けつけた先生たちに助けられる鈴木先生を確認して、学校を後にした。

「やっぱり、こいつらは義体だな」

 ラボに戻って、メモリーを見せると、教授が断定した。
「体表面は生体組織だが、中身はカーボン骨格のロボットだ。トレーラーで轢かれたぐらいでバラバラになるようなシロモノ。B級品だな。奴らも、そうそう最先端の義体は使えんようだな」
 教授がモニターを切り替えると、秋葉原高校横のトレーラー事故のテレビ放送をやっていた。
 運転手は、女性が空中を飛んできて、トレーラーで踏みつぶしたと証言しているが、その直後に都の清掃車がやってきて、現場をきれいに掃除していってしまった。警察が来て調べたが、洗い流された路面からも、歩道で血しぶきを浴びたオバサンからもルミノール反応は出てこなかった。オバサンに飛び散った液体は一見血液のようだが、成分がまるで違った。
 そして、車載カメラにも、この事件を撮影したという通行人のスマホからも映像は消えていた。
「やつらも、まだ万全の体制が組めているわけではないようだ。今のうちに我々も手を打たねばな……」
 教授は、ラボのモニターやコンピューターを見ながら、なにやら操作を始めた。
「なかなかハカがいかん。ドロシー手伝え」
 ドロシーは、頭脳を教授とシンクロさせながら、操作を手伝った。詩織は、その間幸子になって、回線を通さずに鈴木先生のスマホに電話を掛けた……そんな能力が今まで無かったことなど気にもならなかった。

 詩織の覚醒はさらに進んでいく……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・65『目付』

2019-12-14 06:09:15 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・65   
『目付』 


 

「……という訳で、ご両人がビデオを編集して理事会にかけ、貴崎先生のご決心が硬いと判断したわけなんです。理事の方に放送関係の方がおられましてな、編集の仕方が不自然だと申し出られ……むろん元のメモリーカードの情報は消去されておりましたが、パソコンにデータが残っておりました。このお二人がやったこととは言え、監督責任はわたしにあります。この通りです。この年寄りに免じて、許してやってもらえませんかな」
 理事長が頭を下げた。
「お二人には罪はありません。最初から罠……お考えは分かっていましたから」
「貴崎先生……」
 理事長は驚き、お祖父ちゃんは苦い顔。校長と教頭は鳩が豆鉄砲食らったような顔になった。

「こうでもしなきゃ、責任をとることもできませんでしたから……理事長先生が祖父の名前を口にされたときに予感はしたんです。祖父が介入してくると」
「そりゃ違うぞ、マリ。ワシは確かに乃木高の運営に関わってはおる。それは親友の高山が困っておったからじゃ」
「いや、恥を申すようですが。乃木高の経営は、いささか厳しいところにきておりました。文科省の指導に乗らんものですからなあ」
「いや、そこが彦君の偉いところだ。今の文科省の方針で学校を経営すれば、品数だけが多いコンビニのようになる。なんでも揃うが、本物が何一つない空疎な学校にな」
「しかし、貧すれば鈍す。倉庫の修繕一つできずに火事まで出してしまった」
「あれは、わたしの責任です。他にも責任をとらなければならないことが……これは、わたしの考えでやったことです。校長、教頭先生は、いわば逆にわたしが利用したんです」
「マリ、ワシはおまえが責任をとって辞めることに反対などせん。その点、彦君とは見解が違うがの」
「え……じゃあ、なんであんな見え透いたお目付つけたりしたの!?」

 その時、当のお目付がお茶を運んでやってきた。

「失礼します」
「史郎、ここに顔を出しちゃいかんと……」
 お祖父ちゃんがウロタエるのがおもしろかった。
「旦那さまには内緒にしてきましたが。お嬢さまは、とっくに気づいておいででした」
「マリ……」
 お祖父ちゃんは目を剥いた。校長とバーコードは訳が分かっていない。理事長は気づいたようだ。
「君は、演劇部の部長をやっていた……峰岸君だな」
「はい。本名は佐田と申します。入学に際しては母方の苗字を使いましたが」
「顔はお母さん似なんだろうけど、雰囲気はお父さんにそっくりなんだもん」
「入部して、三日で見抜かれてしまいました」
 峰崎クンのお父さんは、佐田さんといって、お祖父ちゃんの個人秘書。
 元警視庁の名刑事。ある事件で捜査の強引さをマスコミに叩かれて辞職。その人柄に惚れ込んで、お祖父ちゃんが頼み込んで個人秘書になってもらった。峰岸君は、そのジュニアだ。
 お祖父ちゃんの周囲は、こういう峰岸くんのお父さんのような変わり種が多い。
 あの運転手の西田さんも……ま、それは、これからのお楽しみということで。
「峰岸クンの前任者は、卒業まで分からなかったから。ちょっと警戒してたしね」
 ちなみに、前任者は運転手の西田さんのお孫さん。堂々と西田の苗字で入学、演劇部じゃ、いいバイプレイヤーだった。
 卒業式の前日に首都高を百キロの大人しいスピードで走っていたら、うしろからパッシングされてカーチェイス。レインボーブリッジの手前で、一般道に降りてご挨拶。
「あんた、なかなかやるわね……」
「あんたこそ……」
 サイドウィンドウを降ろして、こっちを向いたその顔が彼女……西田和子だった。

「なあマリ、こうして彦君も、校長教頭も来てくださったんだ。そろそろ曲げたヘソを戻しちゃくれんかね」
「乃木高に戻れってことですか……それをやったら、『明朗闊達、自主独立』乃木高建学の精神に反します」
「ごもっとも。しかし……」
 理事長の言葉をさえぎって、わたしは続けた。お祖父ちゃんがもっとも嫌がる言い方。
「校長先生、式日の度におっしゃいますね。『明朗闊達』であるためには後ろめたくあってはならない。『自主独立』であるためには、責任の持てる人間でなくてはならない。生徒に要求されるんです。教師には言わずもがなであると思います」
 校長と教頭はうなだれた。理事長は、じっと見つめている。お祖父ちゃんは顔が赤くなってきた。
「わたしは、これでもイッパシの教師なんです……」
「イッパシの教師だと。つけあがるなマリ!」
「なんだってのよ。お祖父ちゃんの知ったこっちゃないわよ!」
「今度の二乃丸高校も自分の才覚で入ったと思っとるだろ。この彦九郎が、八方手を尽くしてお膳立てをしてくれたからこそのことなんだぞ!」
 
 ……心臓が停まりそうになった。

「淳ちゃん……」
 理事長が、間に入ろうとした。
「ワシは、マリを木崎産業の三代目にしようとは思わん。社長の世襲は二代で十分だ。しかしマリにはイッパシの何かにはなって欲しい。その為に付けた目付じゃ……しかし、今のマリはイッパシという冠を付けるのには、何かが足らん」
「お祖父ちゃん、わたしだってね……」
「二乃丸じゃ、演劇部員を半分にしちまったってな。今は……」
「五人です。そのうち三人が年明けには辞めます」
 峰崎クンが答えた……わたしにはコタエた。
 しばらく問答が続いた。
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