聖也に知られたら面倒なことになりそうだし、となりの幼馴染(聖也が、そう設定した)とは言え、高校に入ってからは、学校がちがうこともあり、ほとんど付き合いもない。
それよりも、来週からは中間テスト。三年になったら推薦で大学にいきたいので、一年のうちから成績を上げておくことは重要。
「愛華、つぎ自習だから図書館で試験対策しない?」
聖也とちがって正真正銘の幼馴染で同級生の吉永紗耶香が声をかけてきた。
「うん、そうしよ」
紗耶香とは、得意科目がちがう。あたしは文系、紗耶香は理系に強い。で、小学校のころから助け合っている。仁科高校を受けるにあたっても助け合って……というよりは、紗耶香に勧められ助けられて1・4倍の競争率を突破して受かった。
「だって、保育所から中学までいっしょなんだもん。高校も同じとこいきたいじゃない」
お礼を言ったら、紗耶香は嬉しそうに、そう返してきた。
「大学も同じとこいけるといいね!」
そう言って、定期考査の前にはいっしょに勉強することが習慣になった。
仁科高校では図書室じゃなくて図書館。
蔵書数も多く、別棟の立派な建物なので「室」ではなくて「館」が付いている。
改築中の食堂の前を通っていく。
食堂が開いていたころは、昼前は良い匂いがするので、図書館にいく前に、ここで挫折することが多かった。
「誘惑されなくて、よかったね」
「なによ、誘惑に負けてたのは愛華の方じゃん」
「そんなことないよ、紗耶香だって」
そのとき、グ~っと、お腹が派手に鳴った。
「アハハ、パブロフの犬みたいなやつだ!」
「もう、そんなに笑うことないでしょ!」
「だって、正直ってか、大らかっていうか、アハハハ」
紗耶香は身をよじって笑う。
「もう、紗耶香!」
「ごめん、アハハハ、おかしくって、アハハ……ウッ……!」
笑い転げていた紗耶香が急に真顔でフリーズした。
「どうかした?」
「……笑いすぎて、ブラのホックが外れた」
「アハ……直したげようか?」
「いい、ちょっとおトイレで直してくる」
紗耶香は、真っ赤な顔をして校舎にもどっていった。
そのとき、ガシャン! バリン! と大きな音がして時間が停まった。
「また……!?」
ビックリして音のした方を見ると、工事中の防音シートを突き破って、鉄骨が、あたしの頭の横数センチのところに迫っていた!