大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

となりの宇宙人・3『迫る鉄骨!』

2019-12-19 06:26:00 | 小説4
となりの宇宙人・3
『迫る鉄骨!』          



 記憶が消えていなことは内緒にしておくことにした。

 聖也に知られたら面倒なことになりそうだし、となりの幼馴染(聖也が、そう設定した)とは言え、高校に入ってからは、学校がちがうこともあり、ほとんど付き合いもない。
 
 それよりも、来週からは中間テスト。三年になったら推薦で大学にいきたいので、一年のうちから成績を上げておくことは重要。

「愛華、つぎ自習だから図書館で試験対策しない?」
 聖也とちがって正真正銘の幼馴染で同級生の吉永紗耶香が声をかけてきた。
「うん、そうしよ」
 紗耶香とは、得意科目がちがう。あたしは文系、紗耶香は理系に強い。で、小学校のころから助け合っている。仁科高校を受けるにあたっても助け合って……というよりは、紗耶香に勧められ助けられて1・4倍の競争率を突破して受かった。
「だって、保育所から中学までいっしょなんだもん。高校も同じとこいきたいじゃない」
 お礼を言ったら、紗耶香は嬉しそうに、そう返してきた。
「大学も同じとこいけるといいね!」
 そう言って、定期考査の前にはいっしょに勉強することが習慣になった。

 仁科高校では図書室じゃなくて図書館。

 蔵書数も多く、別棟の立派な建物なので「室」ではなくて「館」が付いている。
 
 改築中の食堂の前を通っていく。
 食堂が開いていたころは、昼前は良い匂いがするので、図書館にいく前に、ここで挫折することが多かった。
「誘惑されなくて、よかったね」
「なによ、誘惑に負けてたのは愛華の方じゃん」
「そんなことないよ、紗耶香だって」
 そのとき、グ~っと、お腹が派手に鳴った。
「アハハ、パブロフの犬みたいなやつだ!」
「もう、そんなに笑うことないでしょ!」
「だって、正直ってか、大らかっていうか、アハハハ」
 紗耶香は身をよじって笑う。
「もう、紗耶香!」
「ごめん、アハハハ、おかしくって、アハハ……ウッ……!」
 笑い転げていた紗耶香が急に真顔でフリーズした。
「どうかした?」
「……笑いすぎて、ブラのホックが外れた」
「アハ……直したげようか?」
「いい、ちょっとおトイレで直してくる」
 紗耶香は、真っ赤な顔をして校舎にもどっていった。

 そのとき、ガシャン! バリン! と大きな音がして時間が停まった。

「また……!?」

 ビックリして音のした方を見ると、工事中の防音シートを突き破って、鉄骨が、あたしの頭の横数センチのところに迫っていた!
 
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青春アリバイト物語・5《弾着やだよ~!!》

2019-12-19 06:15:28 | 小説6
アリバイト物語・5
《弾着やだよ~!!》 



 こないだの台本忘れたのでも分かるけど、テレビ業界は一見優しい。

 スタッフ総出で工夫して、裕子が(なんと完璧に覚えた)プロンプターで収録をすませてくれた。
 だが、この業界、ジンワリと仕返しもされる。八重は、確かに放送局の大株主の娘であり、元AKPの選抜でもあった。表面は優しい。

 が、ここにきて仕返しがやってきた。

「え、あたし撃たれるの!?」
 台本を見た八重が絶叫した。
「大丈夫だよ、奇跡的に助かって、後半では犯人捕まえるアクションもあるし」
 ディレクターは平然と言った。裕子も弾着ごときで、なんで嫌がるのかと思った。

 ちなみに弾着とは、銃弾が当たって血しぶきが飛ぶこと。で、当然実際に撃たれるわけではなく、仕掛けがある。
 ゼリーの付いていないコンドームに血糊が仕込まれていて、服の裏に装着される。そこからリード線が延びていて、効果さんが演技に合わせてスイッチを入れると爆発し、服地が破れ血糊が飛び散るようになっている。服地を破るくらいなので多少の衝撃がある。たいていの役者は平気でやるが、八重は、これが嫌だった。
 子供の頃に、打ち上げ花火が爆発して、すぐそばに居た八重は軽傷を負った。それ以来、花火がダメなのである。花火がダメなので、身に着けた弾着が爆発するなんて、耐えられない。
「これ、見せ場なんだよ。『JK探偵・M』このごろ数字落ちてるからね。二ケタ取らないとワンクールで終わっちゃいそうなんだよ」

『JK探偵・M』は、八重の唯一のレギュラー、それも主役の番組であった。これがポシャッたら、八重の挽回はちょっと難しくなる。

「なんなら、ヒロちゃんに代役やってもらう?」
 ベテランの八千草瞳が、皮肉で言った。八千草は、スタッフの言葉を聞いていたのである「服のサイズ八重さんといっしょなんですね」 そして自分でも観察していた。メイクをやって髪を変えると、かなりカメラが寄ってきても分からない。先日のプロンプの見事さも裕子の力として認識していた。やってやれないことはない。しかし、この程度で代役を入れるのは、役者としては恥ずかしいことである。

「それ、いいかも!」

 なんと、八重は、八千草の皮肉にのってしまった。
 裕子にも、これが八重の恥になることは分かっていた。だから「わたしなんか、とても!」と断ったが、テレビの軽さから、あっさり決まってしまった。
「本編(映画)だったら、役者生命にかかわるとこよ」
 ベテランの八千草は、ポツリともらした。この独り言が聞こえたのは裕子だけだった。

 収録はロケだった。都内の大川の河川敷で犯人と対決。そこで撃たれることになっている。
――こんなに見物人がいるんだ――
 裕子はびっくりした。河川敷の土手の上には野次馬が鈴なりだった。

「そこの、少し高くなってるとこがいいなあ」
 演出が、現場を見て思いついた。河川敷の中に川の中に突出した、高さ二メートルほどの張り出た土手があった。
「弾着は吹き替えでやるから、落ちるの八重ちゃんがやってみない?」
 監督は、八重を助けるつもりで提案した。河川敷に並んだ野次馬の中には週刊誌やレポーターが混じっている。八重も(普通には)やるもんだというところを見せておきたかった。が、これも八重は断った。もう誰も何も言わない。弾着のあと、裕子が、そのまま飛び込むことになった。

「ヨーイ……ハイ!」

 懐かしい昭和の感じで、監督はきっかけを出した。裕子は打ち合わせの時から「ピストルは何口径の何ミリですか?」と聞いていた。そして動画サイトで、実銃の発射や、アメリカ映画の銃撃戦を見ていた。そして、その銃と発射距離に合わせた撃たれ方を研究していた。
「はい、OK!」
 監督には珍しく、一発でOKが出た。
「続いて、転落撮るぞ!」
 リード線を外して、撃たれた瞬間の配置、道具の有り場所をタイムキーパーがチェック、OKが出たところで、ぶっつけ本番である。
「ヨーイ……ハイ!」
 同時に銃声、撃たれた反動で裕子は一メートルほど後ろに跳ね飛び、そのまま真っ逆さまに二メートル下の川面に落ちた。

 で、そのまま裕子は気を失った……。
 
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Regenerate(再生)・15≪幸子のセンチメンタルジャーニー・5≫

2019-12-19 06:06:31 | 小説・2
Regenerate(再生)・15
≪幸子のセンチメンタルジャーニー・5≫
  


 

 地下鉄の駅を出ると詩織の感覚は鋭くなり、気を付けないと幸子に擬態してしまいそうだった。

 関目成育と言って分かる人は少ないだろう。ほぼ旭区と城東区の境目になる町工場や市営住宅、公団住宅が多い街である。
 幸子の感性が「ここが故郷」だと言っている。
 一号線を渡って旭区に入ると、その思いは、いっそう強くなった。

 幸子が出た小学校と高校が二車線の道路を挟んで向き合っていた。両方の思い出が湧き出してくる。小学校の若い担任の先生は、教師としても女性としても憧れの対象で、幸子は、その先生の出身である向かいのA高校に進学したのである。小首を傾げてニッコリしてみた。すぐに、それが先生が教室に入ってくるときの癖であることを思い出した。憧れて、いろんなことを真似していたんだ。
 夏休みなので、両方の学校共に閑散としていたが、A高校の方は部活などで、学校に出入りする生徒とすれ違う。

 最初は、よその高校の生徒が来ているのかと思ったが、持っているサブバッグにA高校のロゴが入っている。でも制服が、幸子が着ていたものとは異なる。ブラウスの襟がオシャレになり、スカートも気の利いたチェック柄である。
――あれ、向かいの本屋さんが無い――
 詩織は幸子の心で戸惑った。微妙に景色が記憶と異なっている。角を曲がって200メートルほど行くと、それは決定的になった。

 自分が住んでいる団地が無くなっていた……いや、立て替わっていた。

「いったいこれは……」

 団地は高層化して、行き交う人にも見覚えのある人はいなかった。団地の中庭で、若い奥さんたちが子供を遊ばせている。その奥さんたちも子供たちにも見覚えがない。
 団地の中を一周してエントランスに差し掛かったとき、買い物帰りのオバサンとすれ違い、愕然とした。

「良子……」

 そう言った時には、詩織は幸子に擬態していた。良子と呼ばれたオバサンが振り返って、口を開けたまま目を丸くした。

「お、お、お、お姉ちゃん……!!」

 オバサンになってしまった妹の言葉で、大半の記憶が蘇った……その記憶には大きな矛盾があった。

 ……幸子は29年前に死んでいたのである。
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乃木坂学院高校演劇部物語・70『誕生日おめでとう』

2019-12-19 05:58:30 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・70   
『誕生日おめでとう』 


 
 
 それからの潤香先輩は、少しずつ回復の兆し。

 病室は胡蝶蘭の造花と貴崎イエローの洗い観音さまを洗ったハンカチでいっぱいになった。


 その日の夕方、忠クンからメールが来た。
――誕生日おめでとう。誕生日のお祝いをしたいので、よかったら返事ください。

 で、わたしたちは定期で行けるTAKEYONAの一番奥の席に収まっております。
 テーブルの上には、とりあえず「海の幸ホワイトソ-スのパスタ」が載って、ジンジャエールで乾杯したところに、サラダとチーズのセットがやってきた。
「やっと同い年だな」
「うん。四捨五入したら二十歳だぞ!」
 自分で言ってドッキリした。二十歳って重くて嬉しい年齢……実際にはもう少しかかるけど、あっという間なんだろうなあ……忠クンの顔が眩しく見えた。
 十六歳というのもなかなかの歳だ。ゲンチャの免許もとれるし、その気になれば、ウフフ……結婚だってできちゃうぞ。目の前の糸の切れた凧は、まだ二年しなきゃ……ジンジャエールってノンアルコールだったわよね?
「これ、ささやかな誕生日のお祝い」
「え、こんなにご馳走になってんのに」
「大したもんじゃないから」
 ……大した物じゃなかったけど、心のこもったものだった。折り紙の胡蝶蘭。
「今日の誕生花なんだよな。本物は高くて手が出ないけど。オレ必死で折ったから」
「ううん……本物より、こっちがずっといい。だって、これだったら枯れることないもん」
「そか……そう言われると嬉しいな。なんだか、まどか十六になったとたん口が上手くなったな」
「心から、そう思ってるんだよ」
 クチバシッテしまった。目が潤んできた……いけません。フライングはしません!
 封筒に、まだなにか入っている……これは!?

 リングでもラブレターでもありません。念のため。

 それは自衛隊体験入隊のパンフレットだった。

「忠クン……これは?」
「高等少年工科学校は反対されてあきらめた。で、一回体験入隊だけでもって思って……あ、誘ってるわけじゃないんだぜ。一応知っておいてもらいたかったから」
「そうなんだ……」

 そのとき、観葉植物を挟んだカウンター席から、聞き覚えのある声がしてきた。
「え、マリちゃん、本気かよ……」
 この品のいいバリトンは、忘れもしないわ。

 コンクールで乃木坂を落とした高橋誠司……!
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