大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・109『初めてのサービスエリア』

2019-12-30 14:01:29 | ノベル

せやさかい・109

『初めてのサービスエリア』 

 

 

 中学一年生のあたしは十三歳、ついこないだまでは小学生やった。

 

 普段の生活は、学校と家との往復で、世間が狭い。

 せやさかい、一歩学校や家を出ると初めての体験が多い。

 この夏にエディンバラに行った時は、それこそ初めてばっかりでビックリしたんやけど、テイ兄ちゃんの車を下りたばっかりのあたしは、エディンバラの空港に下りた時よりも感動してる!

 何に感動してるかと言うと、サービスエリア!

 学校のグラウンドよりも広いとこにたくさんの車が停まってる。駐車したとこからサービスエリアの建物に行くのに一苦労。

 ひっきりなしに車が通るとこを渡らならあかん。信号も横断歩道もない。

「年末の帰省ラッシュやからなあ、みんな、先にトイレ行っといでや」

 やっと渡り終えると、テイ兄ちゃんが注意した。

 行ってビックリ、四十個ほどの個室があるっちゅうのに、女子トイレは長蛇の列!

 あんまり切羽詰まってなかったんやけど、並んでると催してくる。

 あと一人で番が回って来るいうときには、ほんま、ちょっとヤバかった(;'∀')

 

「おー、いろいろあるよ!」

 

 フードコートを見つけた頼子さんが駆けだす。

 ショッピングモールのフードコートもすごかったけど、ここも負けてへん!

 おまけに人手がすごいから、もう天神祭りか祇園祭かいう賑わい!

「三十分しかないから、あんまりゆっくりでけへんで」

 テイ兄ちゃんが釘をさす。

 結果、女子四人で別々のを買って、みんなで、ちょっとずつ頂くことにする。

 焼きそば たこ焼き ラーメン イカ焼き フライドポテト 焼き立てメロンパン チーズケーキ ホットドッグ

「あんたら、大丈夫かあ?」

 コーヒーすするだけのテイ兄ちゃんは目ぇ剥いたけど、きっちり予定時間には完食!

 サービスエリアの看板の前で記念写真を撮って、再び車中の人になる。

 

 十三歳は世間が狭い続き。

 

 頼子さんが卒業後はエディンバラの高校に行かならあかん話の続き。

 詩(コトハ)ちゃんも留美ちゃんも、むろんあたしも、愕然として息をのんだ。

「けど、向こうの学校は九月からとちがうん?」

 鋭いツッコミはテイ兄ちゃん。

「はい、もともと決めかねてるんで、とりあえず、大阪の高校に入りたいとも思ってるんです……」

 頼子さんの返答に、一同は胸をなでおろしたんです。

 でも、年明けには担任の先生に返事をせんとあかんくて、そうそう余裕のある話でもないらしい。

「まあ、除夜の鐘を撞いて煩悩振り払って結論出します!」

 

 頼子さんの覚悟と、心配しいのわたしらを載せて、車は師走の名神高速を北上した。

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となりの宇宙人・14『ヘッポコ宇宙人!』

2019-12-30 06:33:00 | 小説4
となりの宇宙人・14
『ヘッポコ宇宙人!』     
 
 鈴木聖也は、あたし(渡辺愛華)のとなりの家に住んでいる幼馴染(?)の亡命宇宙人。
 秋のある日、駅で暴漢に襲われ、学校では食堂の工事現場の鉄骨に潰されそうになるけど、聖也が時間を止めて救けてくれた。
 犯人は、なんと、これまた幼馴染(?)の吉永紗耶香。紗耶香も宇宙人で、聖也を抹殺するために、あたしを殺そうとした。
 あたしは聖也の命の素になる宇宙エネルギーを、聖也に合うように変換できるから。
 そのために殺されそうになり、救けられもしたんだって……でも、それだけ?
 
 
 
 金縛りになった。
 
 目は動かせるんだけど、身体は指一本動かせない。
 ケイレンしそうなくらい目を動かすと、壁時計のLEDが二時を指している。
 午前二時って丑三つ時……。
 眠ろうと目をつぶるけど、頭の芯のとこが冴え冴えしてきて意識がとんがってくる。
 ミシ、ミシ、ミシ、ミシ……階段を登って何かが、あたしの部屋に来る気配。
 
 あ……聖也だ。
 
 姿は見えないけど、分かってしまう。あたしの感覚が鋭いのか、やつが宇宙人なせいか……。
 ドアも開けずに聖也が入ってくる……なにか疲れている様子……で、なにかためらっている……。
――エネルギー……足りないんだ……――
 想いが直接頭に飛び込んでくる。
――変換したエネルギー……足りないの?……――
――うん、足りないみたい……――
 
 こないだ、紗耶香と争ったときエネルギーが足りなくなって、駅前の交差点でキスされた。
 
――キ、キスで急速補給する……?――
――……………………………………――
――交差点の真ん中じゃないから……してもいいよ――
――……キスなんかじゃ足りそうにないんだ――
――え……――
――愛華……金縛りにつけこむようで、ごめん……――
 
 かけ布団がまくられる……聖也の手がパジャマのボタンにかかる……。
 
――……いやだ、エネルギー補充のためでも、こんなこと……いやだ……――
 
 前のボタンが外され、聖也の手はパジャマの下にかかってくる。
 ヨッコの顔が浮かぶ、心の中で何かがはじける、気が遠くなってくる……。
 
「な、なんで、そんな目で見るんだよ?」
 ふりかえったあたしにドキッとして、聖也はたじろいだ。
「なんでヨッコといっしょじゃないのよさ」
「一本早い電車に乗ったみたい」
「ダメなやつ……夢に出てくるヒマあったら、メールの一本でもうちなさいよ」
「え、夢?」
「ほら、電車くるよ」
「うん……おい、なんで一つ向こうにいくんだよ?」
「ヘッポッコ宇宙人!」
 
 高校に入って初めて違う車両に乗った。あいつがダウンロードした記憶じゃなければ……。
 
 
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Regenerate(再生)・26≪詩織トップシークレット≫

2019-12-30 06:26:26 | 小説・2
Regenerate(再生)・26
≪詩織トップシークレット≫ 


 
「見つけた!」
 

「お姉ちゃん、やっとこれだけになった!」
 詩歩の髪の毛は男の子と見まごうばかりの短髪になり、引き取り手の無かった聖書を手にしていた。
「詩歩……」
 詩織は涙声になった。女学校でも自慢だった長く美しい髪と、大事にしていた文学書を売って、リュック一杯の食糧に替えたのである。
「本だけだったら、お芋一貫目にしかならないから、どうしようと思ったら、すいとん屋のオバサンが『あんたの髪の毛なら高く売れるよ』って、教えてくれたの」

 詩織は爆発しそうな気持ちを、なんとかなだめた。こんなところに女学校の二年生と四年生がうろついていては、ろくなことが無い。

「あ、お嬢ちゃん。十円少なく渡しちゃったから、取りにおいでよ」
 怪しげなカモジ屋のオヤジがえびす顔で言った。
「ほんと、十円あったら、お芋が、もう少し買える!」
 オヤジのあとを着いていきかけた詩歩の手を詩織が掴んだ。
「よしな。もう日が暮れかかってるし、あんな奥の道に行っちゃダメ!」
「お姉ちゃん……」
 オヤジは、路地の左右に目配せをした。怪しげな男たちが六人ほど現れ、ニヤニヤしながら二人に近づいてきた。

「詩歩、逃げるよ!」

 詩織は、詩歩が持っていたリュックを男たちに投げた。たちまち、通行人や浮浪者がたかって、男たちが駆け出すのに手間取った。

「お姉ちゃん……せっかくの、せっかくの……」
「髪の毛は、また伸びる。本だっていつか買えるようになる!」
 人ごみの中、姉妹はバラックの裏道を走った。目の付く表通りでは、すぐに追いつかれるからだ。
「とにかく逃げよう。捕まったら売り飛ばされる!」
 男たちの仲間は意外に多いようで、一本向こうの通りに出ても、それらしい男たちが目につく。あるいは恐怖心が、そのように見せているのかもしれなかった。二人は、ほとんどパニックになりかけていた。

 そして、広小路に出たとたん、眩しさに立ちすくんでしまった。

「シット!」という英語だけ聞こえて意識が無くなった。
 二人は米軍のトラックに跳ね飛ばされた。詩歩は跳ねられた上に後続のジープに轢かれ頭がザクロのように割れてしまった。トラックを降りた米兵が、呼吸の停まった詩織に人工呼吸をしている。
 トラックに乗っていた大尉の階級章をつけた米兵が、無線で連絡をとった。

「心肺停止だが、脳に損傷なし。Gに適応と考えられる。すぐに送る」
 詩歩の死体と、瀕死の詩織はトラックに乗せられ、いずくともなく連れ去られた。

 あくる日、首全体を白布で巻かれた詩歩と、まるで眠っているような詩織の遺体が、姉妹の家に運ばれた。
「突然飛び出してこられたので、どうしようもありませんでした」
 同乗していた日本の警察官が、気の毒そうに両親に伝えた。
 泣きの涙で二人の娘の骸を受け取った。詩織を持ち上げたとき、測量技師であった父は、わずかに詩織が軽くなったような気がした。

 そうして、詩織の脳は、60年以上保管され、義体に埋め込まれサイボーグとして蘇った。バーチャルな意識をダウンロ-ドされて。

 教授は、この情報を暗号化してアップロードした。暗号化してもベラスコたちには解読される。でも構わなかった。この情報はベラスコも知っている。その上で詩織に情報を与えパニックに陥らせた。教授は、一か八かで情報を流したのだ。

 詩織が正しく覚醒して、戻ってくることに期待しながら……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・81『桜幻想』

2019-12-30 06:17:46 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・81   
『桜幻想』  


「恋人……?」

「そんなんじゃないよ……でも、その子はね、死ぬときに――お母さん――と言って……でも、そう言いながら、僕のことも思ってくれたんだ。僕も同じころに死んだから。その思いは伝わったよ。生きてたころは……なにを言わせるんだよ、幽霊に!」
「ごめんなさい、立ち入ったこと聞いて」
「その子は、将門様のところへ行った。ほら、千代田区のビルの間にあるだろ」
「ああ、将門の首塚。小学校のとき社会見学で、ことのついでに寄ったわ」
「ハハ、将門様が、ことのついでか」
「ごめんなさい」
「いいよ、世の中が平和な証拠だ。将門様はね、そういう霊たちを集めて面倒を見てくださるんだ」
「その子は、まだ将門さんのところに?」
「ううん、十二年ほど前にね、僕とまどか君みたいに相性のいい女の子と出会ってね、その子がとっても心根のいい子だから、やっと元の姿を取り戻して……去年の暮れにやっと往ったよ」
「いく……?」
「あの世って言ったら分かるかな。往復の往と書く……で、往く前に挨拶に来てくれたんだ。六十何年かぶりの再会だった……」

 ひとしきり、桜の花びらが風に舞った。

 乃木坂さんがため息をついた……すると、乃木坂さんの後ろに、セーラー服にお下げの女の子の姿が浮かんだ。モンペに防災ずきんみたいなのぶらさげて、胸に大きな名札みたいなの縫いつけて、穏やかに乃木坂さんを見下ろしていた。わたしの視線に気がついて、乃木坂さんが振り返った。
「あ…………」
 乃木坂さんが棒立ちになった。女の子が寄り添って、潤んで、熱い眼差しになった!
「抱きしめてあげなさいよ。抱きしめて! 乃木坂さん! わたしに遠慮することなんかいらないんだからさ! こんな時にフライングしなきゃ男じゃないわよ!」
 乃木坂さんは切なそうに見つめるだけ……その子は、その間、しだいに影が薄くなっていく……あ、と思った。その子は急に桜の花びらの固まりになって、次の瞬間、花吹雪になり、粉みじんになって飛んでいってしまい、その花びらさえも雪が溶けるように消えていってしまった。
 でも、確かに人だった。温もりと、乃木坂さんへの愛おしさに溢れていた。
「せめて、せめて……名前ぐらい呼んであげればよかったのに!」
「あれは……あれは、桜が作った幻だよ。幻に……」
「想いがあってのことじゃないの……!」
 わたしの平手打ちは、虚しく空を切り、勢い余って、わたしは転んでしまった。
「意気地なし……あんなの、あんなのって無いよ……」
 泣いているわたしを、乃木坂さんが抱き起こしてくれた。
「わたしのことは触(さわ)れんの……?」
「焼き芋だって受け止められるただろ」
「わたしって、焼き芋並なの!?」
「その気にならなきゃ、なにも触れないけどね」
 椅子の背もたれを掴んだその手は、背もたれを突き抜けてしまった。まるでCGのバグだ。
「ほらね……でも、平手打ちしてくれてありがとう」
「ご、ごめんなさい。つ、ついね……」
「ううん、ああいう人間的な思いが僕たちの救いなんだよ。お礼を言うのは僕の方さ。あの……あの、もう少し、君達の側に居てもいいかなあ。今日こうやって君を呼んだのは、そのためなんだ。君の前で姿を隠しておくのが、だんだん難しくなってきて。でも、なんの前触れもなく現れたらびっくりするだろう」
「うん、心臓止まる」
「だよね」
「でも。里沙とか夏鈴とかには秘密にしとくから」
「じゃ、いいのかい!?」
「うん、三人じゃ寂しかったから。そうだ、見ていて気になることとか言ってくれる。演出とかいないから」
「任しとけ、これでも生きてる頃は演劇部……しまった」
「卒業者名簿見て、正体あばいちゃおうかな」
「そりゃ無理だよ。卒業前に死んじゃったから。それに学籍簿も空襲で焼けちゃってるしね」
「残念……あ!」

 わたしの中で、なにかが閃いた。
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