魔法少女マヂカ・112
頭の中っていうから、てっきり脳みそかと思った。
まるで空の上にいるようだ。
あちこちに雲が浮いていて、地上は見えない。
実際には生身で空に浮かんだことが無いから分からないんだけど、少し空気が硬い。手足を動かすと地上よりも空気の抵抗が大きいように感じる。ほら、ブランコを思いっきり漕いだら、顔とか脚とかに空気の圧を感じるでしょ、あんな感じ。
「硬いのはね、ノンコが若いからよ。歳をとるとサラサラになるのよ。ほら、雲の合間に稲妻みたいなのが見えるでしょ」
マヂカが指差した方を見ると、雲間がくれに静電気のようなのが走っているのが見える。
「ノンコの頭って、電気が走ってるのね」
声の方を見ると、清美がホバリングしている。
「清美のコス、可愛い!」
子供向きの魔女っ娘アニメのキャラみたく、フリフリのミニワンピはエメラルド色、手にはリコーダーくらいの長さのロッドを持って、せわし気に背中の羽を動かしている。
「ゆ、友里だって」
「え?」
言われて見ると、自分も同じデザインのピンクのコスだ。
「ウワッ!」
気づいたとたん、姿勢が不安定になって、コントロールを失った。
「行方不明にならないでよ、これからなんだから」
マヂカが救けに来てくれる。マヂカはいつもの魔法少女のコスだ。わたしたちのよりカッコいい。
「友里と清美のはレンタルだからね、さ、掴まって」
「ありがと」
マヂカの手に掴まって清美がいるところまで戻る。
「あっち、ブリンダとサムが……」
ブリンダはいつもの、サムはプラグスーツみたいなコスで飛んできた。サムはカオスの魔法少女なのでコンセプトが違うようだ。
「偵察ご苦労さま、どうだった?」
「ああ、いろんなものが脈絡なく浮かんでいる。ここからでも分かるけど、シナプスが十分に形成されていない」
「それに、電気信号が鈍くて脳細胞の活性化が不十分みたいよ」
「シナプスとか電気信号とかって?」
「ああ、あの稲妻みたいなのが電気信号。きらめいてはいるけど、途中で消えてしまうだろ」
「あの電気信号が、きちんと届くと脳細胞の間でシナプスっていう回路ができるのよ。シナプスができない脳細胞は動きが鈍くなって、最後は死んでしまう」
「仕事は二つだ。脳細胞の間に浮いている余計なものを破壊して、勉強に関するものを刺激して定着させる」
「でもって、シナプスが形成されるようにするのよ。ま、グチャグチャの頭を掃除して整理してやる仕事よ」
「それじゃ、二班に分かれよう。オレと清美で右脳、左脳はサム、前頭葉はマヂカと友里」
三班に分かれて、ノンコの脳みそクリーニング作戦が始まった。