大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・112『ノンコの頭の中』

2019-12-15 16:07:09 | 小説

魔法少女マヂカ・112  

 
『ノンコの頭の中』語り手:友里 

 

 

 頭の中っていうから、てっきり脳みそかと思った。

 まるで空の上にいるようだ。

 あちこちに雲が浮いていて、地上は見えない。

 

 実際には生身で空に浮かんだことが無いから分からないんだけど、少し空気が硬い。手足を動かすと地上よりも空気の抵抗が大きいように感じる。ほら、ブランコを思いっきり漕いだら、顔とか脚とかに空気の圧を感じるでしょ、あんな感じ。

「硬いのはね、ノンコが若いからよ。歳をとるとサラサラになるのよ。ほら、雲の合間に稲妻みたいなのが見えるでしょ」

 マヂカが指差した方を見ると、雲間がくれに静電気のようなのが走っているのが見える。

「ノンコの頭って、電気が走ってるのね」

 声の方を見ると、清美がホバリングしている。

「清美のコス、可愛い!」

 子供向きの魔女っ娘アニメのキャラみたく、フリフリのミニワンピはエメラルド色、手にはリコーダーくらいの長さのロッドを持って、せわし気に背中の羽を動かしている。

「ゆ、友里だって」

「え?」

 言われて見ると、自分も同じデザインのピンクのコスだ。

「ウワッ!」

 気づいたとたん、姿勢が不安定になって、コントロールを失った。

「行方不明にならないでよ、これからなんだから」

 マヂカが救けに来てくれる。マヂカはいつもの魔法少女のコスだ。わたしたちのよりカッコいい。

「友里と清美のはレンタルだからね、さ、掴まって」

「ありがと」

 マヂカの手に掴まって清美がいるところまで戻る。

「あっち、ブリンダとサムが……」

 ブリンダはいつもの、サムはプラグスーツみたいなコスで飛んできた。サムはカオスの魔法少女なのでコンセプトが違うようだ。

「偵察ご苦労さま、どうだった?」

「ああ、いろんなものが脈絡なく浮かんでいる。ここからでも分かるけど、シナプスが十分に形成されていない」

「それに、電気信号が鈍くて脳細胞の活性化が不十分みたいよ」

「シナプスとか電気信号とかって?」

「ああ、あの稲妻みたいなのが電気信号。きらめいてはいるけど、途中で消えてしまうだろ」

「あの電気信号が、きちんと届くと脳細胞の間でシナプスっていう回路ができるのよ。シナプスができない脳細胞は動きが鈍くなって、最後は死んでしまう」

「仕事は二つだ。脳細胞の間に浮いている余計なものを破壊して、勉強に関するものを刺激して定着させる」

「でもって、シナプスが形成されるようにするのよ。ま、グチャグチャの頭を掃除して整理してやる仕事よ」

「それじゃ、二班に分かれよう。オレと清美で右脳、左脳はサム、前頭葉はマヂカと友里」

 

 三班に分かれて、ノンコの脳みそクリーニング作戦が始まった。

 

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青春アリバイト物語・1《二つの事の始まり》

2019-12-15 06:46:12 | 小説6
青春アリバイト物語・1
《二つの事の始まり》 



 
「あたしチョー忙しいから!」

 反射的に、この言葉が出てきた。

 後で考えれば、いろんな言い訳ができたんだけど。言ったものは仕方がない。
「え、なにに忙しいの? オレ無理言わないから、会ってくれるのなんか、ごくタマでいいから。とにかく、数ある裕子のボーイフレンドの端っこでいいから。メールなんて二日に一遍くらい。で、返事なんか10回に1回くらいでいいからさ」
「ムリムリ、ってか、明日からバイトやることになってるしー。初めてのバイトだから、他のこと頭に入れる余裕なんてないの。知ってる? 脳みそって1500CCほどあるんだけど、あたしの頭1400CCはバイトのことで、頭いっぱい。見せられるもんなら見せてあげたいくらい!」

 このへんてこな会話の断片で分かると思うんだけど、本日、裕子は生まれて初めてコクられた。

 普段から、付き合ってる子やコクられた子を見てると、本心では羨ましいだけど、なんの準備もなし。それも期末テストの最終日で、気持ちがどっと抜けたとこ。そこにチョーホットに迫られると、とりあえず断ってしまう。
 断りながら、惜しいなあという気持ちもある。相手はこの秋まで在籍してた演劇部の同輩の須藤真一。まあ、中の上といったところ。クラブでは数少ない男子で、裏方から掛け持ちの役者までこなす偉い奴。演劇部にいたころから、所帯持ちのいい旦那タイプだろうと思っていた。

 よーく考えると断る理由なんか思い当たらない。

 急で激しいアプローチってかアタックにたじろいだことと、演劇部への、ある事情から、裕子は拒絶してしまった。
 ええと、場所も良くない。混雑し始めた下足室。周りには知ったのやら知らないのやがいっぱい。みんな知らん顔はしてるけど、興味津々なのは、ついさっきまでの自分の感覚からでも分かる。

「とにかく、バイト。それ終わんなきゃ、なんにも考えられないから。ごめん須藤クン!」

 そう言って下足室を出る。みんなの視線を背中に感じる。明日から気楽な短縮授業と、ノラクラな生活が満喫できると思っていたのに、本気でバイトを探すことになってきた。
「裕子、あんた、なんのバイトやるの?」
 駅のプラットホームで、早耳で、喋りたがりの留美につかまってしまった。
「あ、ちょっと言えないような……」
「あ、短縮授業サボってべったりのバイト? ちょっとオミズっぽかったり?」
「え、あ、その……」
 かくして、返事の出来ない裕子は、本気でバイトを探すことになった……。

「これで5人目だぜ……」

 裕一は、またチーフにため息をつかせてしまった。服部八重の付き人が、また辞めてしまったのである。
 八重は、この夏にAKPを卒業というかたちでお払い箱になった元アイドルの女優である。辞めたころは、事務所も気を使い、アイドル時代の付き人を、そのまま付けたが、元々はAKPシアターの人間なので、事務所の若い子にバトンタッチした。
 が、これが続かない。
 遅刻はするわ、台詞は入らないどころか台本を失ってしまうわ、年上だろうが、ADや付き人には無理難題。並の女優ならとっくに干されている。
 ところが八重の父親はKテレビの大株主。そこそこに売っておかなければ、裕一の事務所など、あっという間に倒産である。
「デビューしたころは、泣き虫で謙虚な子だったんです……」
 中学生だったころから手とり足とり育ててきた子なので、裕一としては情もある。結果として付き人が続かない。付き人とは業界用語で、表向きはマネージャーである。業界の人間なら、このギャップは承知しているが、八重は度を越していた。

「「ああ、どうしよう……」」

 兄の裕一と、妹の裕子は、期せずして同時にため息をついていた。そして、その夜兄妹の利害が一致していることに想いがいたった。

 こうやって、裕子のアリバイト(アリバイのアルバイト)が始まった。
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永遠女子高生・29《塔子の場合・4》

2019-12-15 06:34:43 | 時かける少女
永遠女子高生・29
《塔子の場合・4》
        


 焼き芋が再びのグラビアに繋がるとは思いもしなかった。

「あ、今日も停まってる」
 角を曲がったところで、交差点の向こうに、あの焼き芋屋さんの軽トラを見つけた。
「おじさん、今日も!」
 いちばんオッキイのを買って、ナオタンと半分ずつに。レギュラーサイズ二つ買うよりも安いのだ。
「ハハ、考えたね」
 気をよくしたおじさんは、軽トラック荷台からキャンパス地の庇を伸ばして、その下に折り畳みの椅子を置いてくれた。
 歩きながら食べるのは、やっぱ、どこか恥ずかしい。
 プラタナスと軽トラに挟まれて、程よく隠れているのでノビノビと焼き芋を楽しむことができる。

「ハハ、焼き芋カフェテリアね」

 プラタナスの向こうから声がかかった。
「あ……瀬戸内さん!」
 そこには、ポッペティーンの瀬戸内美晴さんがカメラをぶら下げて立っていた。
「また、撮らせてくれるかなあ?」
「え、またグラビアに載るんですか!?」
 ナオタンの目が活き活きとする。
「あー、今は企画はないんだけどね、あたしのブログとかに使わせてもらおうかと思ってる。だめ?」
「「いいえ、いいえ」」
 焼き芋屋のおじさんや、御通行中のお婆さんとかも入って、数百枚の写真を撮った。

 そして、このブログの写真が雑誌のグラビアよりもヒットした。

 もちろん瀬戸内さんの腕なんだろうけど、あたしたちの写真は「見ていてホッとする」という評判で、あくる春には『ホッと女子高生』のタイトルで写真集になった。

『ホッと女子高生』は『ホッとうこ』の企画に発展していった。

 タイトルから分かると思うんだけど、漢字で書くと『ホッ塔子』になる。つまり、あたしの個人写真集。
 ナオタンも人気があったんだけど「ホッと直子じゃインパクトないもんね」と言って、いつの間にか自分が写ることよりも、マネジメントの方が面白くなってしまった。世話焼き上手なナオタンには向いていたのかもしれない。

 こうして、あたしはモデルと女子大生という二足の草鞋になり、大学卒業のころには女優になってしまっていた。

 正直、女優と言う意識は、さほどには持たなかった。なんというか、ありのままの自分でやってきたように思う。
 一世を風靡したというような女優人生じゃなかったけど、塔子が出ていると、なんだかホッとする……そんな役をもらってばかりだった。これは、マネージャーとしてのナオタンの腕だったと思う。

 97歳になった。

「いい人生だったわ……」
 病室の壁に掛けた写真に呟いた。写真は去年逝ってしまったナオタンのだ。
 あ……写真がぼやけて……また意識がなくなるんだろうか……この一週間、あたしの意識はおぼろになって来た。今度目をつぶったら、もう二度と開くことはないだろうよいう感じはしている。

 廊下の方から人の気配がした。

「……お待たせ」
 一人の女子高生が入って来た。
「……あ………凛子」
「憶えていたのね」
 憶えていたのではない……80年の時間の末に思い出したのだ。

 15分まで待って来なかったので放ってきたことを。

「遅かったじゃない、凛子」
「塔子も直子もがんばりすぎたから……」
「がんばったかなあ…………楽しかったわよ」
「よかった……」
 凛子は、穏やかだけども、とても安心した目になった。

 思い出した……凛子は、あの家に住んでいたんだ。

 あたしたちは戦っていたんだ、この時代に足場を置いて、時空を超えて戦っていた。
 3人のうち2人が犠牲になって踏みとどまらなければ、世界が滅んでいた。
「凛子が生き延びたら、どこかのパラレルで、あたしたちを生かしてくれたらいいからね……泣かないで凛子、じゃ、いくよ」

 凛子は約束を守って、17年に満たなかったあたしたちに人生の続きを見せてくれたんだ。

 ありがとう…………凛子。
 
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Regenerate(再生)・11≪幸子のセンチメンタルジャーニー・1≫

2019-12-15 06:22:51 | 小説・2
Regenerate(再生)・11
≪幸子のセンチメンタルジャーニー・1≫
  


「ハハ、また幸子に擬態してんのすか?」

 カーテンを閉めながら、ドロシーが笑う。
 帝都大の女子寮は夏休みになって、半数ほどが帰省。バイトや就活に忙しい上級生たちがわずかに残っている。部屋に残っている者たちは、暑さに耐えきれずエアコンをフル稼働させてしのいでいる。中には冷房代を節約するため、互いに部屋を行き来して、電気代の節約に努めている者もいた。詩織とドロシーは並の人間ではないのでエアコンなど点ける必要はないのだが、並の人間でいるためにエアコンを点けている。
 ベラスコたちは、ドロシーと詩織の存在には気が付いていない。存在を確信しているのは幸子のことだけだった。ただ、成田空港や帝都大など、不審な痕跡のあるところは、不定期なスキャニングを繰り返している。ベラスコの中にも慎重派がいるようだ。

「幸子になっていると、おぼろげながら分かってくるの……幸子はガイノイド(女性型アンドロイド)じゃないみたい。幸子には人間だったころの記憶が残っている……擬態していると、外形だけじゃなく、心の中までがリジェネされていくみたい」
「んだか。すたども、もうそろそろ9時だす。出かけねばなんね」
「分かった」
 二人は帝都大の女学生らしくバイトにいそしんでいる……ように見せかけるために、週に五日、教授のラボに資料整理のバイトとして通っている。

「先生、幸子には人間としての記憶があるんです」
 教授は一瞬パソコンのキーを叩く手が止まった。
「ほう……では、幸子はガイノイドではないということかね?」
「ええ、サイボーグのようです。それもかなり高等な技術でサイボーグにされています」

 教授は正直に驚いた。幸子がサイボーグであることにではない。擬態しただけで幸子の内面まで再生してしまう詩織の能力の高さに。しかし、それはおくびにも出さない。

「それが不思議なんです……」
「なにがだね?」
 教授は平気な顔をしながら、幸子のプロフを呼び出し暗号化してドロシーのパソコンに送った。ドロシーは鼻歌を歌いながら暗号を解凍していく。二人とも詩織に対しては思念をブロックしている。
「幸子の記憶は1980年代なんです」
「ほう……その根拠は?」
「あたし、日本航空の123便に乗っていました」
「1985年(昭和60年)8 月12日月曜日18時56分に、御巣鷹山に墜ちたジャンボジェットかね?」
「はい。その時、すでにこの高校二年生の姿でした。他の記憶は断片になりすぎて復元に時間がかかりそうです」

 教授は、今の幸子に擬態した詩織の音声を分析。意志の固さを数値で感じた。

「よかろう。ここに幸子に関するデータがあるが、これは解凍しない。詩織自身が、幸子として記憶を取り戻してきなさい。ただむやみに幸子に擬態しないように。いいね」
「はい」
「それと、ドロシーは連れて行かないように。山形弁のアメリカ人なんて目立ってしかたがない」
「ムゥ……」

 ドロシーが、顔を赤くして言葉を飲み込んだ……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・66『雪が左から右に降っている』

2019-12-15 06:11:49 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・66   
『雪が左から右に降っている』 

 

「お互いに、ここまで言うてしもうたんだ。もうワシから言うことはない。彦君とお二人には申し訳ないが、今日のところは諦めてください。大雪の中、済まんことでした」

 お祖父ちゃんが頭を下げた。

「貴崎先生、この高山彦九郎、乃木高の門はいつでも開けておきますからな」
「校門は八時半閉門と決まっておりますが……」
 バーコードのトンチンカンにみんなが笑った。
「ありがとうございました……」
 わたしは、そう言って、その場で見送るのがやっとだった。

 雪が左から右に降っている。

 と……いうわけではなく。ただ単に、わたしが右を下にして寝っ転がっていただけ。

 ゆっくりと起きあがる……当たり前だけど、雪は上から下に降っている。
 ちょっと感覚をずらせると、自分が空に昇っていくようにも感じる。
 昼過ぎに潤香の病室でも同じように感じた。
 ほんの、三時間ほど前のことなのに、今は、それを痛みをもって感じる。
 夕闇が近く、庭灯に照らし出され、いっそうそれが際だつ。
 まるで無数のガラス片が落ちてきて、チクチクと心に刺さるよう。
 物の見え方というのは、自分の身の置き所だけでなく、心の有りようでこんなに違う。

「お嬢さま」

 驚いて振り返ると、峰岸クンが立っていた。
「なあに?」
「あの、お申し付けの年賀状です」
「あ、そうだったわね。ありがとう……あのね」
「はい、お嬢さま」
「その……お嬢さまって呼び方、なんとかなんない?」
「じゃあ……先生っていう呼び方になれるようにしていただけますか」
「ハハ、それは無理な相談だな……あ、年賀状こんなに要らないわ」
「書き損じ用の予備です」
「わたしが書き損じするわけ……あるかもね。ありがとう」

 わたしが、たった三枚の年賀状を書いているうちに、峰岸クンは暖炉の火を強くしてくれていた。温もりが心地よく伝わってくる。
「ひとつ聞いてもいいですか」
 温もった分、距離の近い言葉で聞いてきた。
「なあに……?」
 わたしは、三枚目まどかへのを……と、思って笑ってしまった。
「思い出し笑いですか?」
「ううん。三枚目がまどかなんで、自分でおかしくなっちゃって」
「え……ああ、確かにあいつは三枚目だ」
 少しの間、二人で笑った。
「で、質問て……?」
「どうして、苗字が貴崎と木崎なんですか?」
「ああ、それはね戦争で区役所が焼けちゃってね。新しく戸籍を作ることになって、お祖父ちゃん、書類の苗字のところを平仮名で書いたの」
「どうして、そんなことを?」
「当然、係の人に聞かれるでしょ。で、係の人がどう対応するか試したの」
「ハハ、オチャメだったんですね」
「で、キサキさん、このキサキはどんな字なんですか。と、聞くわけ」
「ハハハ、それで?」
 暖炉の火が頃合いになってきた。
「で、普通のキサキだよって答えたら木崎と書かれてそのまんま。あとで本籍と照合して区役所が気づいたんだけど、間違えたのは役所の方だって、係争中。だから、どっちでも構わないの」
「でも時効があるんじゃないですか?」
「時効が近くなると、訴訟をし直すの。まあ、お祖父ちゃんが生きてるうちは両方ね」
「ハハ、そういうところは血統ですね」
「で、キミのことはどっち。峰岸クン? 佐田クン?」
「峰岸でけっこうです。その方が呼びやすいでしょ」
「じゃ、それでいくわ。その代わり、お嬢さまは止してちょうだい」
「ううん……ま、成り行き次第ってことで」
「ま、いいでしょ。じゃ、わたし自分の家に戻るわ」
「では、お車を……」
「自分の足があるから……」
 で、玄関まで行くと、峰岸クンの先代の西田和子が車のキーをチャリチャリさせながら待っていた。
「ご無沙汰いたしておりました。マリお嬢さま」

 かくして、祖父と孫二代の車に乗るハメとなってしまった。

 なぜ西田さんの車でなかったか。
 答は簡単、「我が家」では、わたしよりお祖父ちゃんが偉いから。
 でもってお祖父ちゃんは、腰痛持ちのお婆ちゃんのために巣鴨のとげ抜き地蔵に、西田さんの車で行ったわけ。
 なんでとげ抜き地蔵……なんにも知らないのね。
 あそこの洗い観音さまを洗うとね、痛いの痛いのとんでけ~ってことになるの。
 ほんとは本人が行かなきゃだめなんだけど。これも愛情表現というか、お祖父ちゃんの気性。わたしにはコンチキショーだけどね。

 和子のドライビングテクニックはいっそうの磨きがかかっていた。
 でも、これなら宇宙飛行士のテストだって合格だろうという車の中でも、わたしの決心は揺るがなかった。

 貴崎マリは、学生時代までさかのぼって、歩き始めるの。
 自分の道を自分の足で。
 どんな道かって?
 まどかなら「ナイショ」って書くんだろうけど、わたしはヒントを書いておくわね。

 それは、三通の年賀状。理事長、まどか、小田先輩(高橋誠司)に宛てたもの。
 これは、わたしの過去と現在と未来に対しての年賀状でもあったわけ。

 もう一件、潤香……これは年賀状なんかじゃ済まされない。
 事と次第によっては、わたしが一生かかっても関わっていかなければならないことだから……ね。
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