鈴木聖也は、あたし(渡辺愛華)のとなりの家に住んでいる幼馴染(?)の亡命宇宙人。
秋のある日、駅で暴漢に襲われ、学校では食堂の工事現場の鉄骨に潰されそうになるけど、聖也が時間を止めて救けてくれた。
犯人は、なんと、これまた幼馴染(?)の吉永紗耶香。紗耶香も宇宙人で、聖也を抹殺するために、あたしを殺そうとした。
あたしは聖也の命の素になる宇宙エネルギーを、聖也に合うように変換できるから。
そのために殺されそうになり、救けられもしたんだって……でも、それだけ?
秋のある日、駅で暴漢に襲われ、学校では食堂の工事現場の鉄骨に潰されそうになるけど、聖也が時間を止めて救けてくれた。
犯人は、なんと、これまた幼馴染(?)の吉永紗耶香。紗耶香も宇宙人で、聖也を抹殺するために、あたしを殺そうとした。
あたしは聖也の命の素になる宇宙エネルギーを、聖也に合うように変換できるから。
そのために殺されそうになり、救けられもしたんだって……でも、それだけ?
テスト明け最初の日曜日。
ハンパな朝昼兼用を食べ終わってボンヤリしていると玄関の方で声がした。
ハンパな朝昼兼用を食べ終わってボンヤリしていると玄関の方で声がした。
「……それなら上がってちょうだい、愛華も起きてボンヤリしてるから」
お母さんの声に続いて「どうも……」と親し気と照れの混じった返事は、お隣りの宇宙人聖也。
「やば……!」
慌てて口を押える。ボンヤリと個室に籠っていたのだ。
「愛華……あら、さっきまでリビングにいたんだけど」
十秒ほど悩み、思い切って水を流した。
「愛華、お母さんたち出かけるから、セイちゃんにしっかり教えてもらうのよ。じゃ、セイちゃん、よろしく。お父さーん、出ますよ!」
お母さんの声に続いて「どうも……」と親し気と照れの混じった返事は、お隣りの宇宙人聖也。
「やば……!」
慌てて口を押える。ボンヤリと個室に籠っていたのだ。
「愛華……あら、さっきまでリビングにいたんだけど」
十秒ほど悩み、思い切って水を流した。
「愛華、お母さんたち出かけるから、セイちゃんにしっかり教えてもらうのよ。じゃ、セイちゃん、よろしく。お父さーん、出ますよ!」
お父さんの返事があって、すぐに家の気配は、聖也とあたしだけになった。
「愛華もえらいよな、日曜に率先してトイレ掃除やってんだもんな」
こういうフォローはかえって傷つく。
「じゃ、さっさとやっちまおう」
「は……?」
「はじゃないよ、英語欠点だったから、課題みてくれって言ったの愛華だぞ」
図書館の帰り道、グチったのを思い出す。でも家に来てくれって……?
「さ、おせーてやるから、課題出せよ」
課題が出ていたのは事実なんで「うん」と返事して自分の部屋に取りに行く。さすがに自分の部屋には通せない。
「……ありがとう、一人でやってたら徹夜になるとこだった!」
聖也の説明とアドバイスは先生より分かりやすかった。一時間ちょっとで課題はできてしまった。
「おれはヒント言っただけ、やりとげたのは愛華だから、自信もっていいよ」
冷めた紅茶をすすりながら嬉しいことを言う。
「あ、冷めてるでしょ、入れ直すね」
「これはこれで美味しいけど、入れ直してくれるって言うんなら……」
聖也の視線を感じながらキッチンへ。たかが紅茶だけど、起き抜けの朝昼兼用の十倍くらい神経を使って入れているのが癪。
「……『星の王子さま』よかったよ、ゆっくり三時間かけて読んじゃった」
「ハハ、おかげで課題できなかったんだ」
「それは言わないの。元はと言えば、聖也のせいで読むハメになったんだから」
紅茶を入れ直してテーブルに戻ると、聖也はくたびれた『星の王子さま』を手にしていた。
「このくたびれた方で読んでくれないか」
「でも、あたしが借りたのと中身はいっしょなんでしょ」
「うん、でも読んでみてよ。最初の一章だけでいいから」
めずらしく聖也は恥じらい気味に本を差し出した。
「うん……」
あたしが読んだ『星の王子さま』の何倍も息が詰まり、ため息が出て、涙がこぼれた……なんで?
「その『星の王子さま』は、何十人何百人の人の感動がつまってるんだ……だから……」
「そうなんだ……」
象を飲み込んだうわばみも、羊の入った箱も、三つの火山も、一本だけのバラも、バオバブの木さえ生まれた時から知っているみたく懐かしかった。いままでこの本を読んだ人の感動が押し寄せてくるんだろうか。
「本が人を飼いならしたんだ」
聖也は『星の王子さま』のキーワードで感動を伝えた。
「星の王子さまは、最後は砂漠で倒れて……消えていくんだ」
「……聖也も?」
「……感動してくれる愛華が見たかったんだ、ありがとう」
聖也が光ったような気がして目をつぶってしまった。
「時間や記憶をいじるのは、しばらく止めるよ」
「うん……」
「あとで気づくだろうから、謝っておくよ」
玄関のドアを開けながら横顔で聖也が言った。
「なに?」
「課題を見て欲しいなんて、愛華は言ってない」
「あ……うん。もう驚かないよ」
「うん、じゃ、また明日」
宇宙人がとなりにいてもいいかなと、初めて思った。
こういうフォローはかえって傷つく。
「じゃ、さっさとやっちまおう」
「は……?」
「はじゃないよ、英語欠点だったから、課題みてくれって言ったの愛華だぞ」
図書館の帰り道、グチったのを思い出す。でも家に来てくれって……?
「さ、おせーてやるから、課題出せよ」
課題が出ていたのは事実なんで「うん」と返事して自分の部屋に取りに行く。さすがに自分の部屋には通せない。
「……ありがとう、一人でやってたら徹夜になるとこだった!」
聖也の説明とアドバイスは先生より分かりやすかった。一時間ちょっとで課題はできてしまった。
「おれはヒント言っただけ、やりとげたのは愛華だから、自信もっていいよ」
冷めた紅茶をすすりながら嬉しいことを言う。
「あ、冷めてるでしょ、入れ直すね」
「これはこれで美味しいけど、入れ直してくれるって言うんなら……」
聖也の視線を感じながらキッチンへ。たかが紅茶だけど、起き抜けの朝昼兼用の十倍くらい神経を使って入れているのが癪。
「……『星の王子さま』よかったよ、ゆっくり三時間かけて読んじゃった」
「ハハ、おかげで課題できなかったんだ」
「それは言わないの。元はと言えば、聖也のせいで読むハメになったんだから」
紅茶を入れ直してテーブルに戻ると、聖也はくたびれた『星の王子さま』を手にしていた。
「このくたびれた方で読んでくれないか」
「でも、あたしが借りたのと中身はいっしょなんでしょ」
「うん、でも読んでみてよ。最初の一章だけでいいから」
めずらしく聖也は恥じらい気味に本を差し出した。
「うん……」
あたしが読んだ『星の王子さま』の何倍も息が詰まり、ため息が出て、涙がこぼれた……なんで?
「その『星の王子さま』は、何十人何百人の人の感動がつまってるんだ……だから……」
「そうなんだ……」
象を飲み込んだうわばみも、羊の入った箱も、三つの火山も、一本だけのバラも、バオバブの木さえ生まれた時から知っているみたく懐かしかった。いままでこの本を読んだ人の感動が押し寄せてくるんだろうか。
「本が人を飼いならしたんだ」
聖也は『星の王子さま』のキーワードで感動を伝えた。
「星の王子さまは、最後は砂漠で倒れて……消えていくんだ」
「……聖也も?」
「……感動してくれる愛華が見たかったんだ、ありがとう」
聖也が光ったような気がして目をつぶってしまった。
「時間や記憶をいじるのは、しばらく止めるよ」
「うん……」
「あとで気づくだろうから、謝っておくよ」
玄関のドアを開けながら横顔で聖也が言った。
「なに?」
「課題を見て欲しいなんて、愛華は言ってない」
「あ……うん。もう驚かないよ」
「うん、じゃ、また明日」
宇宙人がとなりにいてもいいかなと、初めて思った。