大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

となりの宇宙人・10『恥じらい気味に本を差し出した』

2019-12-26 06:23:24 | 小説4
 となりの宇宙人・10
『恥じらい気味に本を差し出した』            


 
 鈴木聖也は、あたし(渡辺愛華)のとなりの家に住んでいる幼馴染(?)の亡命宇宙人。
 秋のある日、駅で暴漢に襲われ、学校では食堂の工事現場の鉄骨に潰されそうになるけど、聖也が時間を止めて救けてくれた。
 犯人は、なんと、これまた幼馴染(?)の吉永紗耶香。紗耶香も宇宙人で、聖也を抹殺するために、あたしを殺そうとした。
 あたしは聖也の命の素になる宇宙エネルギーを、聖也に合うように変換できるから。
 そのために殺されそうになり、救けられもしたんだって……でも、それだけ?


 テスト明け最初の日曜日。

 ハンパな朝昼兼用を食べ終わってボンヤリしていると玄関の方で声がした。
「……それなら上がってちょうだい、愛華も起きてボンヤリしてるから」
 お母さんの声に続いて「どうも……」と親し気と照れの混じった返事は、お隣りの宇宙人聖也。
「やば……!」
 慌てて口を押える。ボンヤリと個室に籠っていたのだ。
「愛華……あら、さっきまでリビングにいたんだけど」
 十秒ほど悩み、思い切って水を流した。
「愛華、お母さんたち出かけるから、セイちゃんにしっかり教えてもらうのよ。じゃ、セイちゃん、よろしく。お父さーん、出ますよ!」 
 
 お父さんの返事があって、すぐに家の気配は、聖也とあたしだけになった。
「愛華もえらいよな、日曜に率先してトイレ掃除やってんだもんな」
 こういうフォローはかえって傷つく。
「じゃ、さっさとやっちまおう」
「は……?」
「はじゃないよ、英語欠点だったから、課題みてくれって言ったの愛華だぞ」
 図書館の帰り道、グチったのを思い出す。でも家に来てくれって……?
「さ、おせーてやるから、課題出せよ」
 課題が出ていたのは事実なんで「うん」と返事して自分の部屋に取りに行く。さすがに自分の部屋には通せない。

「……ありがとう、一人でやってたら徹夜になるとこだった!」

 聖也の説明とアドバイスは先生より分かりやすかった。一時間ちょっとで課題はできてしまった。
「おれはヒント言っただけ、やりとげたのは愛華だから、自信もっていいよ」
 冷めた紅茶をすすりながら嬉しいことを言う。
「あ、冷めてるでしょ、入れ直すね」
「これはこれで美味しいけど、入れ直してくれるって言うんなら……」
 聖也の視線を感じながらキッチンへ。たかが紅茶だけど、起き抜けの朝昼兼用の十倍くらい神経を使って入れているのが癪。
「……『星の王子さま』よかったよ、ゆっくり三時間かけて読んじゃった」
「ハハ、おかげで課題できなかったんだ」
「それは言わないの。元はと言えば、聖也のせいで読むハメになったんだから」

 紅茶を入れ直してテーブルに戻ると、聖也はくたびれた『星の王子さま』を手にしていた。

「このくたびれた方で読んでくれないか」
「でも、あたしが借りたのと中身はいっしょなんでしょ」
「うん、でも読んでみてよ。最初の一章だけでいいから」
 めずらしく聖也は恥じらい気味に本を差し出した。
「うん……」

 あたしが読んだ『星の王子さま』の何倍も息が詰まり、ため息が出て、涙がこぼれた……なんで?

「その『星の王子さま』は、何十人何百人の人の感動がつまってるんだ……だから……」
「そうなんだ……」
 象を飲み込んだうわばみも、羊の入った箱も、三つの火山も、一本だけのバラも、バオバブの木さえ生まれた時から知っているみたく懐かしかった。いままでこの本を読んだ人の感動が押し寄せてくるんだろうか。
「本が人を飼いならしたんだ」
 聖也は『星の王子さま』のキーワードで感動を伝えた。
「星の王子さまは、最後は砂漠で倒れて……消えていくんだ」
「……聖也も?」
「……感動してくれる愛華が見たかったんだ、ありがとう」
 聖也が光ったような気がして目をつぶってしまった。
「時間や記憶をいじるのは、しばらく止めるよ」
「うん……」
「あとで気づくだろうから、謝っておくよ」
 玄関のドアを開けながら横顔で聖也が言った。
「なに?」
「課題を見て欲しいなんて、愛華は言ってない」
「あ……うん。もう驚かないよ」
「うん、じゃ、また明日」

 宇宙人がとなりにいてもいいかなと、初めて思った。 


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Regenerate(再生)・22≪神経戦・2≫

2019-12-26 06:10:56 | 小説・2
Regenerate(再生)・22
≪神経戦・2≫
          


 
 火事が起こる瞬間を初めて見た。

 何か小爆発があったかと思うと、マンションの5階から火が上がった。
 火災報知器が鳴って、あっという間に野次馬が集まる。
「人の不幸を写メるがね」
 ドロシーがぼやいた。
「この一週間で、7件目だよ不審火」
「7件目で、現場に出くわしたか」
 人が写メを撮ることに眉を顰めていたが、ドロシーも詩織も冷静というか、他人事であった。スキャニニングしても人が取り残されている気配はなかった。火元の人には気の毒だが、こういうマンションは各種の保険に入っていて、人死にが出ない限り、あまり損になることはない。

 消防車とパトカーは5分もしないうちに現れ、すぐに野次馬を整理しながら消火活動にかかった。瞬間、火元の部屋に人の気配を感じた。
「どげしたこんだ。今の今まで感じねがったのに!?」
「子供よ。助けに行かなくっちゃ!」
 詩織は、幸子に擬態すると、体温をマイナス10度に下げて、火事の現場に向かった。人目につかないように4件先のベランダに飛び上がり、ベランダの防護壁を破って火元に向かい。口から大量の炭酸ガスを吐いて、侵入経路を確保しながら進んだ。
 人の気配は風呂場からした、5歳ほどの女の子だ。
 知恵があるのか、追い詰められたはてか、その子は、湯船に浸かって熱から身を守っていた。詩織はバスタオルを水に浸すと、それで女の子の体をくるんだ。
 ベランダまで出ると、一刻を争う状況だったので、そのまま植え込みの木にジャンプして、無事に着地した。すぐに両親が駆けつけてきて、女の子を抱きしめた。
「ミヨちゃん、ごめんね」
 お母さんは、娘を奪い取るように詩織から受け取った。
「どなたかは存じませんが、ほんとうにありがとうございました」
 そして、野次馬が詩織を取り巻いた。野次馬の中から、いかついオッサンが四人寄ってきて、詩織を取り囲んだ。
「ちょっと、警察で話を聞かせてもらえないかな」
 一番目つきの悪い刑事が言う。刑事の心を読んで直ぐに分かった。
――連続放火犯だと思われている。ドロシーずらかるわよ――
 刑事たちには、詩織が消えたように見えた。

「あれ……?」

 詩織は寮までテレポートしたつもりだったが、現場から数百メートル離れた公園に出てしまった。
「やっと会えたわね」
 目の前には幸子アンドロイドがいた。
「あんたに会うまでに7件も放火しちゃった。今夜、やっとビ・ン・ゴ!」
 一瞬おかしいと思った。先日の新宿戦で、詩織には歯が立たないことが良く分かっているはずだ。それをたった一体で待ち伏せ。
 疑問を解析しきる前に、幸子アンドロイドは、パルスガンを取り出して、撃ち始めた。
 大半の弾は避けられるし、数発当たった弾も、幸子に擬態した詩織を傷つけることはできなかった。しかし、ここで面倒を起こすわけにはいかない。すぐそばには警察も野次馬もいる火事の現場だ。
 詩織は小テレポートを繰り返しながら、寮を目指した。

――詩織、後をつけられてっぞ!――

 ドロシーが知らせてきた。
――まさか、あたし、もう幸子の擬態はしてない。今は……――
 そこで気づいた。あのパルス弾は、詩織に当たると、特殊な信号を発し続ける。敵は、その信号をトレースしている。これでは、いくら擬態を繰り返してもキリが無い。詩織は、弾痕を処理、無効化しながら、ようやく寮にたどりついた。
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乃木坂学院高校演劇部物語・77『焼き芋』

2019-12-26 06:00:45 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・77   
『焼き芋』  

 

 里沙の目算通り、談話室の掃除と整備には三日かかってしまった。

 電球は、半分だけの交換……というか半分ですんだ。LEDの電球なので、少なくてすむ。むろんシャンデリアまでは直してもらえなかったけど、稽古場の明るさとしては十分だった。ヒーターは三台。べつにケチられたわけじゃない。電気容量が三台でいっぱいになるので仕方がない。でも、これでは少し寒い、今後の課題。

 不思議なことは、なにも起こらなかった。
 わたしを除いて……なーんちゃってね。

 あの男子生徒は、あれから現れない。やっぱ、なんかの見間違い……でも、ひょっとした拍子にに気配を感じる。ほんの瞬間なんだけど視線を感じる。寂しげだけど温もりのある視線。
 その日も、ピアノを拭いていて、それを感じた。おいしそうな匂いとともに……あれ?
 ふりかえったら、立っていた……夏鈴が焼き芋の入った袋を抱えて。
「フン。ヒヒヒョウヘンヘイハラ……」
「焼き芋くわえたままじゃ、分かんないでしょうが!」
「……だって、袋からこぼれ落ちそうなんだもん……あ、理事長先生の差し入れ。あとで様子見に来るって」
 それだけ言うと、夏鈴は本格的にパクつきだした。

 わたしも、一つ頂いて手を洗っていないことに気づき。手を洗いに廊下に出たところで出くわした。山埼先輩と峰岸先輩が石油ストーブを運んでくるのに。持つべきものは先輩、これで寒さ問題は解消。
 不幸なことに、わたしは夏鈴と同様に焼き芋を口にくわえたまま。それも、口の端っこからはヨダレを垂らしながら。
「まどか、おまえってほんと、三枚目なんだよな」
 峰岸先輩がしみじみ、ため息つきながら言った。
「フヒ、フハハハハ、ヘフ」
 我ながら情けない……で、ハンカチを出して焼き芋をくるんで手に持った。
「ここ、ガスは危なくて使えないから、石油ストーブ。技能員のおじさんから」
「ありがとうございます。あ、中に里沙がいます。食べきれないくらい焼き芋ありますから、先輩たちもどうぞ」
「そりゃあ、ゴチになるか」
 山埼先輩は行っちゃったけど、峰岸先輩が振り返った。
「まどか。おまえら自衛隊の体験入隊に行くんだって?」
「え、あ……はい」
「よかったら、オレも入れてくれないかなあ。学年末テストも終わっちゃったし、めったにできないことだから」
「はい、喜んで!」
 と……言ったものの、わたしは体験入隊のことすっかり忘れていたのだ。で、片手でスカートの中の携帯をまさぐっていたら、プツンと音がしてスカートのホックが外れた。
「ウ……!」
 焼き芋を放り出し、慌ててスカートを押さえた。
 すると、なんということ。焼き芋がハンカチにくるまれたまま空中で停まった……そして、ゆっくりと窓辺の窪んだところに着地した……。
 その時感じた温もりは、焼き芋のそれだけじゃなかった。

「……というわけで、四人追加でよろしく!」
 忠クンは、まだなにか言いたげだったけど、用件をすませ、さっさと携帯を切った。
 わたしは部室に戻り、スカートを繕いながら携帯をかけていたのだ。
 念のため、下はジャージを穿いております。
 ぬるくなった焼き芋を持ち上げると、マッカーサーの机がカタカタいった。
 なんだか笑われたような気がした。
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