大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・107『二転三転』

2019-12-23 12:52:53 | ノベル

せやさかい・107

『二転三転』 

 

 

 頼子さんのお婆さんの来阪が突如中止になった!

 

 なんでも、緊急にヤマセンブルグ議会が臨時招集されることになって、議会は女王の開会宣言が無いと開けないかららしい。

「うん、イギリスがEUを離脱するんで、その緊急対策を審議するんだって」

 頼子さんは一人で堺に戻ってきて学校とうちのお寺にお詫びに回ってきて、時間を割いて、あたしと留美ちゃんにも説明してくれた。

「いやあ、いまのわたしはコタツでダミアをモフモフできたらいいよ~」

 ニャ~

 頼子さんは首までコタツに潜り込んで、ダミアをモフってるうちに寝てしもた。

 普段は大人びて見える頼子さんやけど、こうやって口を半開きにして寝てる姿は、やっと十五歳の少女や。

「諦一さんは?」

 留美ちゃんがイタズラっ子の表情で聞く。留美ちゃんは真面目一方の子ぉやから、こういう表情をするのんは珍しい。それだけ、うちらの文芸部に慣れてきたんや。ほんで、このゆる~い文芸部の雰囲気はいつにかかって頼子さんの人柄の現れ。

 その頼子さんが子どもっぽく見えて、留美ちゃんが大人びてるのは、嬉しいし、逆説めいて面白い。

 

「堺東の方の幼稚園でクリスマス会やるんで、今日と明日はお留守」

「お坊さんがクリスマスやるの?」

「うん、サンタのコス着て子どもらにプレゼント配って、いっしょにパーティーやったりするんよ」

「アハハ、そうなんだ」

「テイ兄ちゃん、若いし、イチビリやから、こういう仕事にはうってつけ。まあ、頼子さんも落ち着けるやろしね」

「そうね、知ったら悔しがるかもね(o^―^o)」

 今日の頼子さんは、そっとしといてあげたいから、テイ兄ちゃんは留守で正解。

「除夜の鐘とかは、突いたりするの?」

「それは無いわ。街の中のお寺やから、いろいろ騒音とかね」

「そうなんだ……除夜の鐘が騒音だなんて、ちょっと寂しいわね」

「坊主の孫やけど、ここの釣鐘が鳴ってるの聞いたことないよ」

「鳴らずの鐘なんだ」

「うん……」

 

 ゴーーーーーーーーーーーーン!

 

「「え!?」」

 ものごっつい近くで鐘の音がした。まちがいない、これは、うちの釣鐘の音や!

「ふぇ ふぇ?」

 頼子さんも目え覚ました。でもって、釣鐘堂に三人で向かった。

 いつもは本堂でコタツを囲んでる檀家のお婆ちゃんらも釣鐘堂の下に集まって見上げてる。

 で、伯父さんが作務衣姿で撞木を引いて、もう一発……

 

 ゴーーーーーーーーーーーーン!

 

 お婆ちゃんらが手を合わせてナマンダブを唱える。

「大丈夫ですね、ヒビとかは入っていないです」

 ヘッドホンして、なんやら機械を持った作業着の人が言った。

「ほんなら、大丈夫ですねんな」

 伯父さんが頷く。米田さんのお婆ちゃんに「なにしてるんですか?」と聞いてみる。

「釣鐘の健康チェックやねんて、安全のために二年に一回検査するんや」

 ああ、なるほど。

 これでしまいの話やねんけど、頼子さんの心に火が点いてしもた。

「除夜の鐘が撞きたい!」

 

 早手回しに、制服の袖をまくり上げる頼子さんであった!

 

 あのう、うちは除夜の鐘は撞かへんのんですけど……頼子さんの耳には入らないのであった!

 

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ライトノベルセレクト『リベンジサンタ』

2019-12-23 06:42:35 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・143
『リベンジサンタ』         


 
――今夜オレの部屋に来い。来なきゃ、この写真を拡散させる!――

 メールをスクロールして、わたしは凍り付いた。やつにせがまれて、その場の雰囲気だけで撮ったシャメ。脚を開いてピースサインした、あたしのヌード。

 世界が真っ暗になったようなショック! 吸い込む空気が全てトゲになったような痛みが胸を走った!

 伸吾は、最初は優しかった。バレンタインデーのチョコを渡したら、手を震わせて喜んでくれた。ホワイトデーの週にはディズニーリゾートに連れて行ってくれて、チョコの二十倍ぐらいの値段のする指輪をくれた。多分二ヶ月分のバイト代を全てつぎ込んだくらいの……で、その夜泊まったホテルで、このシャメを撮らせてしまった。明くる朝には「これは、やりすぎだな」そう言って、あたしの目の前で消去したはずの写真。それで、あたしは安心してしまった。

 夏頃から、ベタベタの度合いがひどくなってきた。人に「オレの満里奈」から始まり、秋の始まり頃には「オレの女」と言い始め。人中でもキスを求めるようになってきた。
 そんな伸吾が疎ましくなるのに時間はかからなかった。
「今夜は……」
 と、伸吾が言い終わらないうちに、あたしは拒絶していた。
「今夜は帰る」
 お返しに平手が飛んできた。
 それから、伸吾の電話に出なくなった。メールも返さなくなった。先月はアドレスを変えた。

 そして、一カ月。新しいアドレスを調べた伸吾が、このメールを送りつけてきた。シャメは消去する前に自分のパソコンにでも転送していたんだろう。
――警察に言う――
 そう返した。
――警察が踏み込む前に送信ボタンを押してやる――
 無慈悲な返事が返ってきて、あたしは炬燵の上に頭を落とした。

「困っているようじゃのう」
 頭の先で声がした。
「ん……?」
 炬燵の上に、身長二十センチほどのサンタが立っていた……。


 ドアのノックがして、オレはギクリとした。

「だれ!?」
「……あたし」
 喉から心臓が飛び出しそうになった。まさか、満里奈が来るとは思っていなかった。
 クリスマスイブの今夜。十二時調度にシャメを投稿することにしていた。
 ドアスコープで覗くと、思い詰めた顔をした満里奈が立っていた。多分死角になったところに、私服の警官が四人はいるんだろう。
 覚悟はしている。その時はこのスマホの「投稿」にタッチするだけだ。あのシャメは、我ながらいけてる。削除される前にコピーされ、拡散するのに、そんなに時間はかからないだろう。それでリベンジは済む。
「入れよ」
 スマホを後ろ手にしてドアを開けると、そこには満里奈しか居なかった。
「キョロキョロしなくても、あたししか居ないから。寒いから早く中に入れて」
「ごめん、てっきり嫌われてると思った」
「メールで、伸吾の気持ちがよく分かった。そうでなきゃ来ないわよ」
「そうか……」
「カーテン閉めて。お願い……」
「う、うん」

 カーテンを閉める後ろで、マフラーとダッフルコートを脱ぐ衣ずれの音がした。振り返ると……裸の満里奈が震えていた。
 オレは、スマホで満里奈を連写した。浅ましいとは思ったが、止められなかった。
「お願い、早く暖めて……」
 オレの満里奈! オレの女!

 めくるめくクリスマスの一晩が過ぎた。

 満里奈の温もりで目が覚めた。まだ目は閉じたまま。ベッドの中で背中を預けた満里奈の胸に手を伸ばす……え、胸がない!?
 ゆっくりと振り返った満里奈は……潤んだ目をしたオレそのものだった!


「どうだい、こんなところでいいだろう」

 二十センチのサンタが言った。
「このシャメが拡散するわけ……ちょっとかわいそう」
「優しいのう、満里奈は」
「だって、これ別の意味で警察がくるわよ。素っ裸の伸吾のシャメなんて」
「心配せんでいい、見えているのは伸吾と満里奈のスマホだけじゃ。伸吾のスマホから満里奈のアドレスも消えて居る。もっとも、あいつも、これで満里奈にちょっかいは出さんじゃろうが……さあて……」
「もう行くの?」
「ああ、サンタが来るのも来年が最後じゃ。いい子でいて、最後にふさわしい願い事を考えておきなさい」

 サンタは、サッシのガラスをトナカイのソリに乗って素通しで抜けて消えていった……。


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となりの宇宙人・7『聖也の肩にもたれて』

2019-12-23 06:29:48 | 小説4
となりの宇宙人・6
『聖也の肩にもたれて』          


 鈴木聖也は、あたし(渡辺愛華)のとなりの家に住んでいる幼馴染(?)の亡命宇宙人。
 秋のある日、駅で暴漢に襲われ、学校では食堂の工事現場の鉄骨に潰されそうになるけど、聖也が時間を止めて救けてくれた。
 犯人は、なんと、これまた幼馴染(?)の吉永紗耶香。紗耶香も宇宙人で、聖也を抹殺するために、あたしを殺そうとした。
あたしは聖也の命の素になる宇宙エネルギーを、聖也に合うように変換できるから。
 そのために殺されそうになり、救けられもしたんだって……でも、それだけ?


 遅刻してしまうところだった。

 目が覚めたら8:20分、慌てて着替え、朝ごはんどころか、顔も洗わず、髪の寝癖もなおす時間が無い。
 なんで起こしてくれなかったの!? 
 言いたかったけど、お母さんの顔には「何度も起こした!」と書いてあるので、気まずく視線をそらし、棘のある「いってらっしゃい」を背中で聞いて家を出る。
 聖也は、あたしの学校より遠いので、とっくに電車に乗っている。

 この三日ほど、朝がいっしょだった。たった三日だけど、聖也が横にいないと忘れ物をしたような感じ。
 小学校の前までは小走りでいくが、もう限界。
 ハアハアハア……荒く息をつきながら、のろのろ歩く。これじゃ家から走った意味が無い。
 でも、いつも最低二回はひっかかる信号が全部青。で、なんとか一本早い電車に乗れて、ギリギリで間に合う。

 テストはさんざんだった。

 途中で寝てしまったことは昨日と同じ。昨日はヤマが当たって余裕だったけど、今日は七割ぐらい書いたところでダウン。
 あたしの正答率は70%ほどだから、50点もないだろう。
「ねえ、駅前のたこ焼き屋行かない? 新規開店で二割引きだよ」
 二時間目のテストが終わると、帰る気マンマンのヨッコが、ニマニマ笑顔で誘ってくる。
「ごめん、食欲ないんだ」
「あら、そういや顔色悪いよ。ちょっと見てみ」
 そう言って、ヨッコは手鏡を見せてくれた。
「ゲ、目の下にクマ二匹!」
 二晩徹夜マージャンやったお父さんの顔みたくなっていた。

 のろくさ下足室までいくと、食欲どころか朝から用も足していないことに気づく。
 トイレに行くと、赤ワインみたいなオシッコ。ヤバイ、とにかく帰って寝よう。

 カタツムリみたいな歩調で駅に。電車に乗ると、吊革につかまったまま舟をこぐ。

「着いたぜ」
「ん……聖也」
「ちょっと話が……」
「だめ……」
 そのまま聖也の肩にもたれかかってしまった。

 気がつくと、駅のベンチ。

「これ飲めよ」
 聖也が栄養ドリンクを差し出している。こういうものは気休めにしかならないことは、お父さんを見ていて知っている。
「元気になるから、さ」
 軽い調子なんだけど、素直に手が出てしまう。あたし、聖也のこと好きなわけでもないのに……。
 ゴク、ゴク、ゴク……ん……!?
「なに、これ!」
 まるで電池を入れ替えたみたいにシャキっとした。
「これ、疲れが出てくるのを六時間ほど遅らせるだけだから、で、とりあえず、話……」
「うん、言ってみそ!」
 それまでの眠さも疲れもふっとんで、世界中のどんな難問でも聞いてあげられるよう気になった。
「昨日、マチュピチュ遺跡に行っただろう」
「あ、居眠りして、そんな夢見た」
「……夢じゃないんだ」
「ん……?」
「ほんとうに行ったんだよ、オレといっしょに……オレ、宇宙人だから」
「そうなんだ……でも、とても楽しかったよ」
「うん、最初は嫌がってたから、どうかなって思ったんだけどね……」
「ああいうのだったら、また行ってもいいよ」
「だめだ、愛華には大変な負担になる……オレも、想定外だった」
「……ひょっとして、あのひどい疲れ?」
「うん、言っておかないと、愛華、また行こうって言いだしかねない」
「うん……そうだろうね、楽しかったから」
「愛華が言ったら『よし行こう!』って言ってしまいそうだから……当分は、いっしょに旅行なんてNG。それ伝えたくて。分かった?」
「う、うん」
 笑顔なんだけど、マジな聖也の瞳に、わけも分からず返事した。

 家に帰ると、明日のテストの準備して、晩御飯を食べると、部屋着のままベッドにダウンしてしまった。
 
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Regenerate(再生)・19≪詩織の傾向と対策≫

2019-12-23 06:21:35 | 小説・2
Regenerate(再生)・19
≪詩織の傾向と対策≫
        


 全ての駒を倒したつもりだった。

 だが将棋の盤面には40の駒が残っていた。
「あれー?」
 アズキアイスを齧りながら詩織は首を捻った。
「さっきは、全部倒せたのに……」
 そばで、同じくアズキアイスを齧ったり舐めたりしながら、教授とドロシーが笑っている。

 身に着けたばかりのパルス攻撃をテストモードの最弱にして、将棋の盤面の駒を倒しているのである。

「二回目は、ドロシーがアナライズしていた」
「どういうことですか?」
「この駒は、それぞれ何種類かのパルスを発している。一回目はドロシーのアナライズは無かった。だから全ての駒が倒せた。二回目は特定のパルスに詩織の攻撃を無力にするように設定した。だから設定されたパルスの駒はビクともしない。もう一度やってごらん」

 詩織はアズキアイスの最後の一齧りを飲み込むと、盤面の駒をパルス攻撃した。

「あれ……一枚だけ残った」
「それは、あだしと同じパルス出してるんだす。詩織といっしょにいで、やられちゃたまんねえべ」
 ドロシーの整った見かけと東北弁は合わないと思っていたが、今は自然というかチャームポイントと感じるようになってきた。
「これで乱戦中でも、敵だけを倒すことができる。あとは慣れだな」

「なんで、アキバの街を散歩しなきゃいけないのよ。もうこのラジ館の前三度目だよ」
 ドロシーといっしょに、ごく普通の女の子に擬態して歩いている。で、嫌なことにドロシーだけに若い男が振り返る。
「まだわがんねが?」
「今日のアキバは、どうかしてるわよ」
「あだしがパルス変えてだった。気づかねがったが?」
「え……あ、いま変えたわね」
 とたんにドロシーを見向きする男がいなくなった。
「男にもてるパルスがあんのす。詩織も自分のパルス変えてみろ」
「できないよ。だいたいパルスってなんなのさ?」
「飲み込みの悪い女だなす。教授のとごで、さんざんやったべ」
「将棋の駒だったから。人間のは分かんないよ」
「パルスってのは、脳みそと心臓の波動がいっしょになったもんで、ひとりひとり違うんだわさ。あだしたちとベラスコだけが感じられる。パルス変換できんのは、あだしたちだけだけんど。詩織もやってみな……んだ、いま変わったず」
 三十分もすると、詩織もコントロールできるようになった。で、調子に乗りすぎた。

 キャー、すってきぃーーーーーーー!

 半径100メートルの若い女の子が詩織を追い掛け回し始めた。
「ど、どうしたらいいのよ!?」
「自分で考えろ……」

 ドロシーは、ハチ公にもたれて呟いた。

 詩織が女の子軍団から逃げおおせたのは、その後40分後であった……。
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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・74『奥の院』 

2019-12-23 06:14:10 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・74   
『奥の院』  

 
 
 理事長先生は来客中なので、わたしたちは廊下で待っていた。

 通称奥の院。
 事務室、校長室、応接室と続いて左へポキッと廊下を曲がって奥の方。
 普通、生徒はこの廊下に立つこともなく卒業していく。
 待っているだけで緊張しまくり。

 やがて、廊下を曲がって、みごとな禿頭を神々しく光らせながら、とても九十歳とは思えない足どりで理事長先生がやってこられた。
「やあ、君たちか。待たせたね。さ、中に入り給え」
 マホガニーのドアを開けて、気安く招き入れてくださった。
 わたしってば、緊張と待ち時間が長かったせいで、部屋に入るとすぐにポケットから施設一覧を出した。
「あ……」
 声が出た。一覧といっしょに自衛隊のパンフ出して、落としてしまった!
 それを、理事長先生が拾ったのだった。
「ほう、君たち自衛隊の体験入隊をするのかい。なるほどね、こりゃ校長さんでも直ぐに返事をしかねるね。なんせ先生や保護者の人たちの中にはいろんなことを言う人がいるからね……そうか、君たちはここまで腰を据えて演劇部の再建に思いをいたしているんだね。こうまでして君たちは演劇部の神さまを待っているんだ……よろしい、わたしが許可をしよう。校長さんにはわたしから言っておく。校長さんや教頭さんが若ければ、一緒に行ってもらいたいとこだな。うん、しかしよく決心した。まずは誉めておくよ」
「エヘヘ……」
 夏鈴が頭を掻いたもので、引っ込みがつかなくなり、自衛隊の体験入隊が決まってしまった。
 世の中、どこで、なにが、どう転ぶか分からないもんだ。
「あのう、もう一つお願いがあるんですが……」
 里沙が、仕方なく続けた。

「構わんよ、どうぞ好きなように使いなさい」

 本編の方もあっさり許可が出た。
「ただ……あそこは、時々不思議なことがおこる。まあ、人体に悪影響を及ぼすようなことじゃないがね。一応言うだけは言っとくよ」
 それから理事長先生は、談話室の不思議なことについてレクチャーしてくださった。
 その間、お客さんが持ってこられたというケ-キまでご馳走になった。
 お茶とケーキを運んできた事務のオネエサンにも自衛隊の体験入隊を話しちゃうもんだからもう、わたしたちは腹をくくるしかなかった。
「あ、このケーキ下さったのは貴崎先生だよ。いや、女優貴崎マリとお呼びすべきか……」
 理事長先生は、わざわざ先生の名刺まで見せてくださった。そこには、こう書いてあった。
――(貴崎マリ NOZOMIプロ)そして、左半分にとびきり笑顔のドアップ。
 里沙と夏鈴は、ショックな様子だった。マリ先生のことは、まだ二人には言ってなかったのだ。
「鮮やかな転進。並はずれたジャンプ力が心にないとできることじゃない。だから、あえて君たちに見せたんだ……今は、ただ驚いていればいい。いつか貴崎先生の気持ちが、君たちの心の糧になると、わたしは信じている」

 東の窓には気の早いお月様が、良いのか悪いのか分からないわたしたちの運を予言するかのように昇っているのが見えた。フェリペで見たときと違って満月だ。
 覚えてる、夏鈴?
 狼男は満月の夜に……わたしたちも、ひょっとして変身するかもしれないわね。
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