大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベル・せやさかい・105『女王陛下の来日』

2019-12-17 13:42:47 | ノベル

せやさかい・105

『女王陛下の来日』 

 

 

 マリア・アレクサンドラ・メアリー・ヤマセンというのがフルネーム。

 

 誰のかと言うと、頼子さんのお婆ちゃん。

 つまり、ヤマセンブルグ公国女王陛下の御名なんです。

 ヨリコ・スミス・メアリー・ヤマセンというのが頼子さんのフルネーム。

 日本の戸籍では、夕陽丘・スミス・頼子 と書く。

 夕陽丘はお母さんの姓。いろんな事情で使い分けてるらしい。

 

 ホーーー

 

 リビングのみんなが感心する。

 うちのみんなでテレビを見てる。

 テレビには、空港の特別ゲートからお出ましになるヤマセンブルグ公国の女王陛下が大写しになっていて、カメラが、ちょっと引きになって、お出迎えの人々がフレームに入ってきたとこ。

 外務大臣はじめ日本側の偉い人たちと、在日ヤマセンブルグの人たちが居並ぶところに女王陛下が、ニコニコとお出ましになる。陛下の後ろには、夏休みにお世話になったジョン・スミスとソフィアさんの姿も見える。

 そこに花束を抱えて現れたんが、我らが頼子さん。

 頼子さんは、なんと学校の制服姿!

 花束を渡して、女王陛下とハグし合う頼子さん。一斉にフラッシュが焚かれて、大雨のようなシャッターの音。

 頼子さんの姿に被って名前のテロップが被る。

 ヨリコ・スミス・メアリー・ヤマセン 

 で、リビングのみんなが「ホーーーー」となったわけ。

 

 頼子さんは女王陛下の孫であり、ヤマセンブルグ公国の王位第一継承者です。お父様が先年お亡くなりになったヘンリー皇太子、お母様はお名前は伏せられていますが大阪府在住の日本人女性であります。現在はお召し物でも明らかですが、堺市立安泰中学の三年生。日本国籍も持っていらっしゃって、二十一歳の誕生日までに国籍を選択され、ヤマセンブルグの国籍だけを選択された時に正式の王位継承者になられます。この夏にはヤマセンブルグを訪れ、女王陛下や国民の皆さんの歓待を受けられ、歴代の国王や王族の方々が葬られている国立墓地にも献花されています。公の場に姿を現されるのも、日本国内において女王陛下とお並びになられるのも今回が初めての事で、事前に知らされていた報道関係者は頼子さんが、どのような服装で現れるのか関心を寄せていたのですが、学校の制服であったことに、現在の頼子さんのお気持ちが伺えます。なお、女王陛下は……。

 

 リポーターは、女王の予定を言う前に頼子さんのことを一分近くもレポートした。

 先月「お婆ちゃんが来るのよおおお!」とアタフタしてたのは記憶にも新しいねんけど、あのアタフタは、こういう取り上げられ方をするのを見越してたからや。

 こんな大事なことを控えながら、紀香さんのことに気を配ってられたんは、すごいことやと思う。

「わたしも着ていた制服だけど、頼子ちゃんが着てると、なんか、すごくかっこいい制服に見えるわねえ」

「うんうん」

 コトハちゃんが言うと小母さんも頷く。みんなには見えてへんけど、同じ制服着た幽霊のノリちゃんもテレビの横で頷いてる。

 テイ兄ちゃんが惚れ直したいう感じでミカンの皮を剥く手を休めてる。

 本気ではないと思うねんけど、そういう目で頼子さんを見んといて欲しいんですけど。

 ロリコン……というには、画面の頼子さんは堂々として……いや、歳の差や!

 頼子さんは十五歳、テイ兄ちゃんは二十三歳やねんで。

 その歳の差八年!

 え、八年……? 

 これて、ありうる歳の差?

 あかんあかん、相手は将来、ヤマセンブルグの女王になるかもしれん人やで。

 だいいち、ヤマセンブルグ王家はカトリックや、浄土真宗は合わへんし。

 

 

 

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ライトノベル となりの宇宙人・1『五つの災厄』

2019-12-17 06:58:07 | 小説4
となりの宇宙人・1
『五つの災厄』  


 
 何の因果か五つの災厄に遭ってしまった!
 
 トイレのドアを開けたら、お父さんが座っていた。これが第一号

 制服を着ようとしたら、スカートの裾がほつれていた。直している暇が無いので、両面テープとホチキスで応急修理。
「イテ!」
 ホチキスで指を刺してしまう。これが第二号

 朝ごはんのトーストを焼く。スープをこさえ終わって、オーブントースターがチン。開けてみたら電源が入っていなかった。
 あきらめて生のままマヨネーズをかけてハムをのっける。
「……う!」
 マヨネーズが、マスタード入りの激辛! これが第三号

 むしゃくしゃして歯を磨こうとすると、右の奥歯を磨いている最中に歯ブラシがボキッと折れる。
「オエ!」
 危うく、歯ブラシの折れたので、喉の奥を貫いてしまうところ。これが第四号

 呪われているわけではないと思う。

 きのう帰り道で、黒猫にも口裂け女にも吸血鬼にも会わなかった。体育の日に神社でひいたお御籤は、平凡な中吉だった。
 変わったことと言えば、久しぶりに夢をみたぐらい。
 パソコンでネットサーフィンをしている夢。急に画面が切り替わってビックリした。
 なににビックリしたかは覚えていない。ま、夢って、そんなものだろう。

 たまたまが重なっただけだろう。運命論者ではないあたしは、そう思いなおして玄関へ。

「いってきまーす!」いつもより少しだけ元気な声で家を出る。
「忘れ物ないの?」お隣の玄関で声がする。「だいじょうぶ!」と聖也の声。
「オハ」「ウッス」といつもの挨拶して聖也は駅をめざしてすっ飛んでいった。
「また遅刻ですね」
「遅くまでボーっとしてたからね」
「またですか」
「我が子ながら、なに考えてんだか」
「聖也、宇宙人ですから」
「愛華ちゃんと保育所いってたころは普通の子だったんだけどね」
 お隣のおばさんは、ため息をついた。

 鈴木聖也はお隣で幼馴染。おばさんの言う通り、昔は普通の子だった。

 小学校の高学年ぐらいから、ちょっと変わった男の子になってしまった。

 ボーっとしていることが多く、声をかけてもトンチンカンな返事しか返ってこないことが多くなってきた。こういう子はイジメられたりするんだけど、ボーっとしている時以外は、よく気がついて愛想もよく、勉強もスポーツもできる。だから、友だちからは「宇宙人」というあだ名をいただいけど、わけは分からないけど、ちょっと偉いやつというふうに見られている。
 高校は、あたしと同じ仁科高校に行くはずだったけど、中三の三学期になって仁科高校の三倍は遠い帝都国際高校に志望を変えた。
 だから、あたしと同じ時間に家を出ていたら遅刻になってしまう。

「しょうのないやつ……」

 独り言いって、あたしはゆっくりと駅をめざした。
 三回角を曲がると小学校、それを横目に見ながら、もう一つ角曲がって駅にまっすぐの大通り。

 今朝が呪われたような朝だということは忘れていた。

 商店街のパン屋さんで昼食用の総菜パンを買う。おきまりのツナと野菜のサンド、あとは少し迷って、迷ったわりには焼きそばロールと卵サンドという男の子みたいなチョイス。これは聖也の影響。
 ま、食堂の改装がすむまでのことだからと自分を納得させる。
 
 駅前のロータリーまで行くと異変。

 バス停の方から悲鳴が聞こえたかと思うと、通行人やバス待ちの人たちが、パッと道を開けた。
「ウオー!」
 という叫びが聞こえたかと思うと、サラリーマン風が包丁を振り回している。
――ヤバイ!――
 そう思ったけど、急に体は動かない。
 やっと脳みそのアラームが筋肉に伝わったときには、サラリーマン風が、あたしに向かって突進してきた。
――こ、殺される!――
 災厄五号!

 サラリーマン風が、包丁を振りかぶった! この近さ、かわすことなんかできない! 十七年の人生が終わってしまう!

 そう思ったとき、何かが、あたしとサラリーマン風の間に割って入った。「ウオー!」「ウグ!」の声がした。
 割って入ってきたのは、とっくに先に行った宇宙人・鈴木聖也!

 聖也は、お腹に包丁を突きたてられたまま、ゆっくりと崩おれていった……。

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青春アリバイト物語・3《裕子が、こんなにがんばれる理由》

2019-12-17 06:38:01 | 小説6
青春アリバイト物語・3
《裕子が、こんなにがんばれる理由》 



 たった一日とは言え、裕子の頑張りには事務所のみんなが驚いた。

 正直、裕一は明日からは別の付き人を付けようと、あちこち連絡をしていた。付き人希望の子は結構いる。
 だが、八重の名前を出したとたんに、みんなしり込みしてしまう。八重の我がまま傍若無人ぶりは、業界では現在進行形の災厄と認識されている。だから、あくる日から裕子の代わりが務まるような、務めようというような者は一人もいなかった。

――裕子、明日も大丈夫か?――

 一日目の終わりには、そんなメールを裕子に打った裕一であった。
 むろん、裕子は、この程度では辞める気はなかった。予想以上の難物ではあるが、自分は、これを超えておかなければならないと思い定めていた。須藤真一がいきなりコクってきて、その条件反射で「バイトあるから!」と言った裕子ではあったけど、これをやり通さなければ、伊藤裕子は潰れそうではあった。

 原因は、こないだまで在籍していた演劇部である。

 裕子は、一年間温めてきた脚本を「絶対創作劇!」と言って譲らなかった顧問を説き伏せてやったのだ。
『すみれの花さくころ』という既成脚本で、一年の時、たまたまYouTubeで発見した。大学生のと高校生のとがあったが、出来はともかく人間の営みや想いへの温かいまなざしが感じられてほれ込んだ。へそを曲げた顧問は非協力的だったが、予選で見事に最優秀をとった。顧問は手のひらを返したように協力的になり「やっぱ、既成もいいもんです。ええ、最初からこれを勧めてましたから、オホホ」などと悦に入っていた。

 ところが本選でこけた。

 観客の反応は上々であった。気の早い後輩など「関東大会は金曜にしてくださいね。あたし土曜は検定があるから」などと言っていた。
 それが、上位三番にも入らなかった。
「作品に血が通っていない。思考回路、行動原理が高校生のそれではない」
 という、言語明瞭意味不明な講評で落とされた。頭に来た裕子は審査員に噛みついた。
「どこをもって、血が通っていないんですか!? 高校生の思考回路や行動原理ってなんですか!?」
 と、ごく正当に噛みついた。審査員はろくに答えられなかった。で、審査発表で落とされた。
 裕子は、同じ内容を内容証明付きの手紙で審査員に送った。一週間後の合同合評会で、裕子はたまげた。
 配られたレジメの講評の中から「作品に血が通っていない。思考回路、行動原理が高校生のそれではない」がスッポリ抜けているばかりでなく「帰りの電車の中で、ふと、この学校にもなんらかの賞を出すべきだったと思った」なんて後付のおためごかしまで書かれていた。

 裕子は高校演劇連盟に抗議文を書き、ブログでも書いた。アクセスは多く、みな関心は持ってくれるようだったが、反応は冷ややかであった。裕子はレジメを読み倒して、審査員が自分の好みで作品を選んでいることを突き止めた。
「こんなとこで誉める? こんなとこけなす?」
 そういうところが随所にあることを発見し、ブログを補強し、審査基準が無いことが大きな原因であることを見抜いた。

 顧問は再び手のひらを返した。

「あれは、伊藤裕子が勝手にやったんです。やっぱり、高校演劇は創作劇でなくちゃね」
 などと触れ回り、裕子は……言い放った。
 やってらんねえ!

 このことがあったから、須藤にコクられた時も言下に断った。皮肉なことに須藤は、そういうキッパリとして自分を主張できる裕子が好きになってしまったのだから、ややこしい。

 須藤くんなんかと付き合ったら、傷の舐めあいと思われる。だから断った。
 で、アリバイに始めた服部八重のマネージャーという名の付き人も、辞められない。

 やっぱ、途中でケツ割ったんだ。そう思われるくらいなら死んだ方がましだと思った。

 この、裕子の決心が、わずか半月の間に、いろんなところに波紋をおこすのであった。
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Regenerate(再生)・13≪幸子のセンチメンタルジャーニー・3≫

2019-12-17 06:30:47 | 小説・2
Regenerate(再生)・13
≪幸子のセンチメンタルジャーニー・3≫
   


 飛行機のトイレから幸子に擬態して出てくると事態は一歩進んでいた。

「日本が行っている外国への制裁をいっさい止めさせろ。伊丹に着くまでに回答が無ければこの飛行機を爆破する!」
 華奢な方が意外に落ち着いた声で叫んだ。
 日本が、何らかの理由で経済制裁している国は数か国ある。全ての国というのはフェイクだろう。特定の国の名前を挙げれば、すぐ問題になり、短時間で対抗措置をうたれてしまう。
 詩織は、二人の思念を読んでみたが特定できない。こいつらは鉄砲玉だ、詳しいことは知らされていない。

「やり方はこうだ」

 中肉が静かに言って、名刺大の紙を放り上げた。名刺大は機内の天井近くで爆発し、焼け焦げを作った。機内に悲鳴が上がった。
「爆破するときは、この紙束でやる。瞬間で機体は真っ二つになる」
「僕らは体を張っている。死ぬことは怖くない」
 これはウソだった。二人は伊丹についたら迎えのヘリコプターでトンズラすることになっている。日本政府は人命に弱い。要求を呑むことを前提にやっている。鉄砲玉だが、そのへんの知識は豊富なプロのようだ。
 詩織は真っ青な顔になって、空いている席に座った。みんな女子高生が恐怖のあまり座り込んだとしか思っていない。犯人も含めて。

 詩織は幸子に擬態したままチャンスをうかがった。人間張りつめた緊張感は一時間も持たない。緊張が弛んだ瞬間に犯人の手から起爆装置を取り上げようと思った。

 しかし事態は意外な方向に展開した。

 中肉の方がCAと目が合った。
「そこのキャビンアテンダント、こっちに来い」
 この台詞で分かった。出てこない回答と自分たちの緊張の限界を秤にかけて思いついたのだ。たまたま目の合ったCAは、以前付き合っていて、手ひどくフラれた彼女に似ていた。で、瞬間的に思いついた。
「手を挙げたままじっとしてろ」
 中肉は、CAの首のスカーフに手帳大の紙の束を挟み込んだ。
「もう10分待つ。返事が無い場合は、この女の首を吹き飛ばす」
 中肉は、要求が通るまでCAを殴るだけにしようと思っていたが。すぐ間近で彼女を見てひらめいたのだ。
「おまえ……」
 現に、相棒の華奢がびっくりしている。飛びかかろうと思ったが、成功の確率は50%ほどでしかない。詩織は幸子のまま考えあぐねた。

「9分。あと1分だ!」

 瞬間詩織はカッとした。で、次の瞬間CAと入れ替わっていた。それもCAに擬態して。
――他の人間にも擬態できるんだ!――
 しかし、幸子ではない。ただ擬態しているだけで、幸子の能力はない。でも、意味があると思った。詩織は予測能力がシグナルを発するまま、自分のコアを胸に移した。外からは唾を飲み込んだぐらいにしか見えない。本物のCAは、それまで詩織が幸子の姿で座っていたシートにいたが、周りの者も気づかず、本人は恐怖と不思議のあまり夢だと思いこんだ。

「時間だ!」

 中肉は、起爆装置のボタンを押した……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・68『部活の帰り道 乃木坂にて』

2019-12-17 06:22:28 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・68   





『部活の帰り道 乃木坂にて』


 話しは前後しちゃうんだけど、『風と共に去りぬ』を観た部活の帰り道、乃木坂に立ったわたしは夕陽を浴びてスカーレットオハラみたいに背筋を伸ばして歩いていた。
 ヴィヴィアンリーがパン屋さんのウィンドウに映って……どう見てもジュディーガーランドの(それもガキンチョのころの)セーラー服。
 どうも、この鼻がね……と、凹みながら思い出した。

 もうい~くつ寝ると、お正月……は、とうに過ぎちゃったけど、わたしの誕生日!
 そいでもって、わたしの記憶に間違いがなければ……。
「ねえ、潤香先輩の誕生日って?」
 さっさと前を歩いている里沙に声をかけた。
「今月の十七日」
「やっぱし……」
「そうよ、まどかの誕生日と重なってんの」
 そのとき、坂の下の方から夏鈴が、携帯を握って走ってきた。
「ねえ、話しついたわよ!」
「夏鈴て、普通に歩くとトロイのに、携帯で話しながらだと速いんだね」
 里沙が冷やかした。夏鈴はおかまいなしに喋り続けた。
「半額でいいって、お父さんが話しつけてくれてさ。そんかわり、あさって、自分でとりに行かなきゃなんないんだけどね、部活終わってからにするね。お誕生日も大事だけど部活もね。なんたって三人ぽっきりなんだからさ」
「あ……なんだか、気を遣わせちゃって。ハハ、もうしわけないね」
「「なにが……?」」
 二人がそろって、言った。
「え……わたしのお誕生祝いのことじゃ……アハハ、ないんだよね」
「あたりまえでしょ、わたしも夏鈴も去年だったけど、なんにもしてもらってないわよ」
「だって、そんときゃ、まだ知らなかったんだからさ」
「そんなこと言う?」
「入部の自己紹介で言ったわよ」
「え、ええ……そうだっけ」
「ちゃんと記録してあるわよ。わたしってアドリブきかないからさ」
「夏鈴は覚えてないわよね?」
「そんなことないわよ。わたしって継続的な努力は苦手だけど、最初だけはきちんとしてんだから」
 この自慢だか自虐だか分からない夏鈴。こやつにさえ対抗できないまどかでありました。


 はるかちゃんは他にもいろいろ教えてくれた。

 基本的に、ウソつきになるテクニック……といっても、ドロボウさんの始まりではない。
 役者の基本。
 マリ先生は、型とイマジネーションを大事にしていた。だから、知らず知らずのうちに、貴崎流というか、乃木坂節というのが身に付いていく。
 良く言えば、それが乃木高の魅力だった。悪く言えばクセ。むろん悪く言う人なんてめったにいない。コンクールのときの高橋さんという審査員ぐらいのものだった。
 もっと後になって分かったことなんだけど、大学の演劇科にいった先輩たちは、そのクセから抜け出すのに苦労したみたい。
 いずれにせよ、その型を教えてくれる先生がいないのだから、自分たちでメソードを持たざるを得ない。
 で、その最初がウソつきになるテクニック。
 だれにウソをつくかというと、自分に対して。
 まあ百聞は一見にしかず。ということで、はるかちゃんが演ってくれたことを録画して再生。

 はるかちゃんが、針に糸を通しハンカチを縫った……ように見えた。
 でも不思議、アップにしてみると針も糸もない。マジック見てるみたい。
「簡単なことよ。両手の人差し指と親指をくっつけるの。で、じっとそこを見つめて、左手が針、右手が糸と思うわけ……するとこうなっちゃう」
 三人でやってみる……ナルホド、ナルホドと納得。
 こういうのを無対象演技というらしい。

 日を追う事にむつかしく、でも面白くなってくる。
 卵を割ったり、コーヒーを飲んでみたり。
 何日か目には、五人で集団縄跳びをやって見せてくれた。むろん縄は無対象。
 わたしたちは三人しかいないので、隣の文芸部を誘ってグラウンドで六人でやってみた。
 なんという不思議。簡単にできちゃった。
 みんな見えない縄を見ている。体でリズムをとって、回る縄に入るタイミングを計っている。
 縄が足にひっかかると「アチャー」 ぎりぎりセーフだと「オオー」ということになる。
 野球部やテニス部が、感心して見ているのが嬉しかったのよね。
 チャットでそれを言うと、はるかちゃんは我がことのように喜んでくれて、こう言った。
「それが演劇の基本なのよ。縄跳びが戯曲、演ったなゆたちゃんたちが役者、で、感心して見ていた野球部とテニス部が観客。この、戯曲、役者、観客のことを演劇の三要素っていうのよ」
「これ、やっぱり白羽さんのNOZOMIプロで習ったの?」
「ううん、クラブのコーチに教わったの」
「いいなあ」
 で、詳しくは、はるかちゃんの『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』を読んでくださいってことでした。
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