大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・108『ショッピングモール』

2019-12-27 15:30:39 | ノベル

せやさかい・108

『ショッピングモール』 

 

 

 除夜の鐘が撞きたい!

 

 頼子さんの発作的な希望は叶えられることになった!

 うちみたいな都会のお寺はあかんけど、地方に行くと事情は逆で、除夜の鐘を撞かならあかんのに撞き手がいてへんというお寺がある。

 お寺さん同士のネットワークみたいなんがあって、それを使って、あっという間に決まってしもた。

 

 お察しの通り、ネットワークを駆使して話をまとめたんはテイ兄ちゃん。

 

 テイ兄ちゃんは自ら運転主兼ツアーコンダクターの役割もかって出た。頼子さんといっしょに居りたいというスケベエ根性見え見えやねんけど、役に立つんやから、追及はしません。

 テイ兄ちゃんは、自分のヨコシマナ動機をちょっとでも隠すために詩(コトハ)ちゃんにも声をかけた。

「どや。コトハも行かへんか?」

「除夜の鐘?」

「コトハも吹部の部長になったんやろ、一発、吹部の発展と、来年の運を開くためにも、でや?」

「う~ん、いいかもね!」

 で、コトハちゃんもいっしょになって、あくる日、テイ兄ちゃんの運転で鐘撞旅行に必要なあれこれを五人で買い物に行った。

 

 おりしもショッピングモールはバーゲンの真っ最中。

 

 さすがのテイ兄ちゃんも女子五人の買い物にベタ付きするほどアホやない。男が一緒やったら買いにくいもんがいっぱいあるしね。

 テイ兄ちゃんとは一階のフードコートで待ち合わせることにして、五人でお買い物。

 一泊二日なんで、まずはおソロのパジャマをゲット!

 パジャマを買うと、除夜の鐘を撞くというイベントに負けへんくらいのパジャマパーティーという女子会が決まった。

 女の子いうのんは、おソロのもんがあると、もうそれだけでイベントになるんや。

 洗面用具にインナー、車中でやるかもしれへんゲームやらお菓子やらを買って、最後は泊めていただくお寺さんへのお土産。

「海老煎餅がええよ!」

 わたしは叫んだ。ほら、伯父さんの用事で天王寺のお寺に行った時、向こうの坊守さんに教えてもろたやん。お寺のお土産やったら海老煎餅がええよって、あれ。

「そうなんだ、わたし達だったら、お饅頭とか思っちゃうもんね」

「お寺は、そういうの持て余してるからね(^_^;)」

 海老煎を進物用にしてもらって、待ち合わせのフードコート。

 わたしらだけやったらドリンクバーになるねんけど、ここはテイ兄ちゃんが太っ腹。1200円のドリンク付きランチプレートを奢ってくれた。

 まあ、奢ってくれた分くらいはプレミアムにしたげなあかんので、頼子さんの横に座ることを許してやる。横と言うても、シートはL字型になってるんで、テイ兄ちゃんは右90度の角度で頼子さんが視界に入る。

 ちょっとサービスし過ぎ?

「頼子さん、進路はどうするん?」

 テイ兄ちゃんは、わたしらが聞きたくても聞かれへんことをのっけから聞いてきよった!

「ワッチャ、そ、それは……」

 留美ちゃんと両手をフリフリしてテイ兄ちゃんの質問を無効化しようとした。頼子さんはヤマセンブルグの王女様でもあるわけで、卒業後の進路は、そういう事情も反映されるんちゃうかと、恐ろしくて聞いてこーへんかった。

「……いい質問をしてもらったわ」

 頼子さんは、ナイフとフォークを静かに置いて、わたしらの顔を見渡した。

 

「卒業したらエディンバラの高校に行くように言われてます」

 

 ショックが、居並ぶ五人にサワサワと広がっていった……。

 

 

 

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となりの宇宙人・11『ずっと気になってた』

2019-12-27 06:36:20 | 小説4
となりの宇宙人・11
『ずっと気になってた』          

        



 おはようの挨拶に返事が返ってこなかった。

 からだが悪いわけでもないようだ、血色はいい。
 どうかした? と声をかけようとしたけど空気を吸っただけでやめた。瑠璃が「おはよう!」と声をかけてきたので、ヨッコのために吸った空気は瑠璃への「おはよう!」に代わった。
「今日の日直だれ? 黒板消えてないわよ」
 みっちゃんの言葉に何人かの視線がヨッコに集まる。
「……あ、すみません。すぐにやります!」
 ビクッとしてヨッコは教壇に。腕をワイパーのようにして黒板消しをぶんまわし、扇子のお化けみたいな消し跡を残したまま席に戻る。みっちゃんは一言言いたげだったけど、ため息ついただけでショートホームルームを始めた。

「昼ごはんいくよ!」

 ちょっと大きめの声でヨッコに宣告した。ヨッコに対しては「しっかりしろ」。いつものお昼仲間たちには「今日はヨッコと二人きりにして」のシグナル。ノンコやグッサンは察して、自分たちで机を組み始めた。ここでシカトされては、あたしのメンツがたたない。
「ヨッコ!」
 ちょっと乱暴に呼ぶと、ヨッコはノロノロとお弁当袋を取り出した。

 寒かったらどうしようかと思ったけど、お昼のグランドはポカポカ陽気だ。食堂が工事中、加えて先週の事故で中庭もグチャグチャなので、かなりの生徒がグラウンドと校舎の間にあるコンクリートのひな壇でお昼にし始めている。

「西高東低の気圧配置っていっても、まだ十月だもんね……空は高いし、絶好のお弁当日和だね……ハグハグ……」
 焼きそばロールにかじりつき、ホンワカ笑顔であたしは仕切り直した。ヨッコはお箸を持った手をお弁当の蓋に置いたまま。
「どうした、オータムジャンボが、また一等賞の組番違いだったり?」
「ううん、当たっちゃった」
「え……ゲホ!」
 危うく焼きそばロールを吹き出すところだった。
「でも、今ならあきらめられる。マナカがダメって言ったらあきらめられる」
「なによ、話が見えてこないんだけど」
 どうやら宝くじや中間テストの成績のことではないようだ。
「聖也って……その……マナカの幼馴染み……で……」
「え……なに?」
 ヨッコは、答えるかわりに、両の目からホロホロと涙をこぼした。
「ヨッコ、あんた……ひょっとして聖也のこと……」
「だから、マナカが好きなら、あたし……諦める!」
「あ、あいつは、そういうんじゃ……」
「マナカほどじゃないけど、聖也とは小学校からの……なにで……最近気づいたの、ずっと気になってたのは、好きだったってことに」

 幼馴染みなんかじゃない、あいつは、ほんの半年前にやってきた宇宙人なんだよ……。
 
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Regenerate(再生)・23≪詩織の秘密・1≫

2019-12-27 06:28:21 | 小説・2
Regenerate(再生)・23
≪詩織の秘密・1≫
       


 

 火事騒ぎのあと、詩織とドロシーは交代で警戒にあたった。

 詩織は自分は特殊能力の人間だと思っている。で、ドロシーはサイボーグ。人間と元人間なので極度な緊張は長続きしない。
「ここ読まれたかな?」
「んにゃ。寮から2キロのとこで気づいて撒いたから、絞り切れるもんじゃねず。それに分かってりゃ、もうなにがしてきてるはずだす」
「そっか、じゃあ、しばらく頼むわね」
 ベッドに横になると、スリープ状態だったパソコンが、かすかな起動音をさせて目覚めた。画面はスカイプになっていて、カンザスの詩織の家が映っていた……バグったゲーム画面のように、それはいびつだった。
「お姉ちゃん、起こし……ちゃ……たか……な」
 妹の詩歩がおかしい。短いフリーズが連続して起きているのかと思った。
 詩歩の姿は、だんだんぎこちなく、ドットが荒くなり、すぐにふた昔前のゲームのキャラのようにCG然としてきた。
「詩歩、どうしたのよ!?」
「あたし…あ・た・し……あた……」
 妹は、そこまで言うと人間の姿を失い、もっと荒いドットの集合体になった。
「詩歩!」
 呼びかけに応えて、ドットは、また人の形を取り戻した。

 その姿は……幸子の姿をしていた。

「見ーつけた」
「あ、あんたは!?」
「今、そっちにいくからね……」
 背後に、ドロシーではない気配を感じた。振り向くとドロシーが倒れ、幸子アンドロイドが立っていた。
「こんなところで、こんな姿でいるとはね……」
 詩織は直観で危険と感じると共に、今がチャンスだと思った。何のチャンスかは分からないけど、深層心理の中に隠れているものをキチンと知るためのチャンスのように思えた。
 で、近場の公園にテレポートした。予感はしていたけど、幸子アンドロイドも数秒遅れで現れた。不思議なことに、この幸子アンドロイドからは、攻撃の意思は感じられなかった。
「今日は争いに来たんじゃないの。キチンとお話をしておきたくて。いいかしら」

 詩織は、幸子アンドロイドといっしょに木陰のベンチに座った。人目には女子大生と女子高生の姉妹のように見えたかもしれない。

 幸子アンドロイドは、静かに、しかし驚くべきことを話し始めた……蝉がかしましく鳴き出した。
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乃木坂学院高校演劇部物語・78『旧制中学の制服』

2019-12-27 06:21:18 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・78   
『旧制中学の制服』  


 

 同窓会館の方に戻ると、理事長先生といっしょになった。

「さっきは、焼き芋の差し入れありがとうございました」
「なんのなんの、ちと多すぎやしなかったかね」
「いえ、先輩方も応援に来られたんで、ちょうどよかったと思います」
「そうか、そりゃよかった」
 そこへ、みんなが、ゾロゾロ同窓会館から出てきた。
「整理完了したから、お祝いの買い出しに……あ、理事長先生。先ほどはありがとうございました」
 一礼すると、里沙を先頭に、みんなで駅前のコンビニを目指して行った。

「ほう……綺麗になったね。いや、同窓生を代表して礼を言うよ」
「いいえ、とんでも。こちらこそ……」
 理事長先生は、懐かしそうに部屋を一周すると、ピアノに向かい、静かに撫でてから弾き始めた。
「……先生、この曲なんていうんですか!?」
「『埴生の宿』だよ……知っているのかい?」
「はい……ここで聞きました」
「……そうか、君にも聞こえたのか」
「人影も見えました……一瞬、シャンデリアが一瞬点いたときに、ほんの一瞬……」
「……旧制中学の制服を着ていなかったかい?」
「それっぽかった……ですけど。きっとバルコニーのガラス戸に映った自分の影を……」
「僕も、一瞬だけ見たことがある……このピアノに寄っかかってるところを刹那の間」
「先生……」
「そのときも、かすかに『埴生の宿』が聞こえた。そうか……君にも見えたんだね」
「その人って……」
「悪いやつじゃないと思うよ。時々物音をたてたり、椅子の場所が変わっていたり。そして、ごくたまにこの曲を聞かせてくれたり……それは、こないだ話したね……そうか、君にも見えたんだ」
 理事長先生は、また、ゆっくりと慈しむように『埴生の宿』を弾き始めた。

 それから、たった三人の稽古が始まった。

 ほんとは、少し期待があった、先輩の誰かが見に来てくれないかって。

 だって、演出も舞監も、わたしたち役者が兼務。出番の少ないノブちゃん役の夏鈴が、稽古ごとに立ち位置や、演技のきっかけをメモってくれる。それを基に三人で、ああでもない、こうでもない。
 部分的にはビデオを撮ってやってみたけど、やっぱ、演出がいないとね……やってらんねえ! なんてヤケッパチのグチなどは言いませんでした……思っていてもね。
 ただ、休憩時間に、役者以外誰もいない、道具も何にも無しの稽古場……これはコタエル。
 わたしだけ、もう一人分の気配を感じてたけど、それは言わなかった。理事長先生からも話しは聞いたけど。漠然としていて、二人に言うどころか、自分で思い出すのもはばかられた……だって、怖いんだもん!!

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