せやさかい・108
除夜の鐘が撞きたい!
頼子さんの発作的な希望は叶えられることになった!
うちみたいな都会のお寺はあかんけど、地方に行くと事情は逆で、除夜の鐘を撞かならあかんのに撞き手がいてへんというお寺がある。
お寺さん同士のネットワークみたいなんがあって、それを使って、あっという間に決まってしもた。
お察しの通り、ネットワークを駆使して話をまとめたんはテイ兄ちゃん。
テイ兄ちゃんは自ら運転主兼ツアーコンダクターの役割もかって出た。頼子さんといっしょに居りたいというスケベエ根性見え見えやねんけど、役に立つんやから、追及はしません。
テイ兄ちゃんは、自分のヨコシマナ動機をちょっとでも隠すために詩(コトハ)ちゃんにも声をかけた。
「どや。コトハも行かへんか?」
「除夜の鐘?」
「コトハも吹部の部長になったんやろ、一発、吹部の発展と、来年の運を開くためにも、でや?」
「う~ん、いいかもね!」
で、コトハちゃんもいっしょになって、あくる日、テイ兄ちゃんの運転で鐘撞旅行に必要なあれこれを五人で買い物に行った。
おりしもショッピングモールはバーゲンの真っ最中。
さすがのテイ兄ちゃんも女子五人の買い物にベタ付きするほどアホやない。男が一緒やったら買いにくいもんがいっぱいあるしね。
テイ兄ちゃんとは一階のフードコートで待ち合わせることにして、五人でお買い物。
一泊二日なんで、まずはおソロのパジャマをゲット!
パジャマを買うと、除夜の鐘を撞くというイベントに負けへんくらいのパジャマパーティーという女子会が決まった。
女の子いうのんは、おソロのもんがあると、もうそれだけでイベントになるんや。
洗面用具にインナー、車中でやるかもしれへんゲームやらお菓子やらを買って、最後は泊めていただくお寺さんへのお土産。
「海老煎餅がええよ!」
わたしは叫んだ。ほら、伯父さんの用事で天王寺のお寺に行った時、向こうの坊守さんに教えてもろたやん。お寺のお土産やったら海老煎餅がええよって、あれ。
「そうなんだ、わたし達だったら、お饅頭とか思っちゃうもんね」
「お寺は、そういうの持て余してるからね(^_^;)」
海老煎を進物用にしてもらって、待ち合わせのフードコート。
わたしらだけやったらドリンクバーになるねんけど、ここはテイ兄ちゃんが太っ腹。1200円のドリンク付きランチプレートを奢ってくれた。
まあ、奢ってくれた分くらいはプレミアムにしたげなあかんので、頼子さんの横に座ることを許してやる。横と言うても、シートはL字型になってるんで、テイ兄ちゃんは右90度の角度で頼子さんが視界に入る。
ちょっとサービスし過ぎ?
「頼子さん、進路はどうするん?」
テイ兄ちゃんは、わたしらが聞きたくても聞かれへんことをのっけから聞いてきよった!
「ワッチャ、そ、それは……」
留美ちゃんと両手をフリフリしてテイ兄ちゃんの質問を無効化しようとした。頼子さんはヤマセンブルグの王女様でもあるわけで、卒業後の進路は、そういう事情も反映されるんちゃうかと、恐ろしくて聞いてこーへんかった。
「……いい質問をしてもらったわ」
頼子さんは、ナイフとフォークを静かに置いて、わたしらの顔を見渡した。
「卒業したらエディンバラの高校に行くように言われてます」
ショックが、居並ぶ五人にサワサワと広がっていった……。