大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

乃木坂学院高校演劇部物語・54『マクベスの首』

2019-12-03 06:46:07 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・54   

『マクベスの首』  

 
 
 
 マクベスの首が旗竿の先に括りつけられて現れたところだった。

「薮さんのとこまで行ってきてくれないか?」
 頭の上から声が降ってきた……仰向けになって本を読んでいたわたしは、そのまま上目遣いに、二十センチほど開けられた襖の隙間に目をやった。
 そこには、サンドイッチのパンみたく、端っこをちょん切った兄貴の顔が見えた。
 アンニュイも、端っこをちょん切って逆さになると、ひどく間が抜けて見えるもんだなあ……と思った。
「入れば……」
 間抜けの逆さ顔にそう言った。
 逆さのまま、その顔が大きくなった。
 つまり兄貴が部屋に入ってきて、しゃがみ込んで、わたしの顔を逆さに覗き込んだのよね……恋人同士なら、このシュチュエーション、フラグの一つも立つんだろうけど、兄貴じゃね。
「だからさ、薮さんのとこにさ……」
 薮……バーナムの森なら、なんて妄想が頭に浮かぶ
「なんだ、まどか、シェ-クスピアなんか読んでんのか。大雪が降るわけだ」
「兄ちゃん……鼻毛伸びてるわよ」
 わたしの逆襲に、兄貴は素直に鼻毛を抜いた……と、思ったら。
「……ハーックション!」
 盛大なクシャミで反撃された。かろうじて身をかわして、鼻水とヨダレの実弾攻撃から逃れた。楯がわりになったシェークスピアに多少の被害。
 起きあがって、まっすぐ見た兄貴の顔は、やっぱ間抜け……というよりタソガレていた。


 事情を聞いたわたしは、兄貴への多少の同情と、我が家のシキタリのため角樽のお酒をぶら下げて、薮医院を目指した。
 いつもなら、自転車で行くんだけど、わたしの頭の中にはシェークスピアの四大悲劇の断片が、ポワポワ浮かんで、なかば夢遊病。
 危ないことと、この夢遊病状態でいたいため、あえて歩いて行くことにした。

 なんでシェ-クスピアなんか読んでるかと言うと、はるかちゃんのアドバイス。
 
 観ること、読むことから始めてみれば。ということだったので、とりあえず千住の図書館に行って、シェ-クスピアの四大悲劇を借りてきた。
『ハムレット』から始め『リア王』『オセロー』そして、夕べからトドメの『マクベス』になったわけ。マクベスの首が出てくるのは、最後のページ。わたしは四日間で四大悲劇を読破したわけ。
 しかしシェークスピアというのは、どの作品も、やたらに長くて、登場人物が多い。きちんと読もうと思ったら、登場人物の一覧片手に三回ぐらい読まなきゃ分からない。
 ラノベに毛の生えた程度のものしか読まないわたしには、至難の業……で、とりあえず読み飛ばしたわけ。
 だから、まとまったストーリーとしては頭に入らず、断片だけがポワポワ浮かんでいるというわけ。
 しかし、さすがはシェークスピア。断片といっても、その煌めきが違う。
 こうやって素直にお使いに出たというのは、ちょっぴり兄貴に同情したからばかりではない。
 悪逆非道なマクベスは、魔女たちからこう言われる。
「バーナムの森が攻め寄せぬかぎり、そなたは死なぬ。女の腹から産み落とされた人間に、そなたを殺すことはできない!」
 で、薮を森に見たててのお出かけ。
 そんでもって、マクベスを討ち果たしたのは、月足らずで母親の腹から引きずり出されたマクダフ。わたしも未熟児で、八ヶ月ちょっとで帝王切開でお母さんのお腹から引きずり出された。これには、当時の我が家の状況が影響してんだけど、それは後ほどってことで……。
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永遠女子高生・17・《京橋高校2年渡良瀬野乃・8・若草色のワンピース》

2019-12-03 06:27:06 | 時かける少女
 永遠女子高生・17
《渡良瀬野乃・8・若草色のワンピース》           




 奈菜がビグビタを飲んだことは咎めなかった。

 咎めれば、秀一のことを言わねばならず、それて野乃の彼氏!? ぐらいのツッコミをされる。
 で、動揺した野乃を見て、奈菜は喜ぶに違いなく、下手をすれば学校やご近所に言いふらされてしまう。
「へんな姉ちゃん」
 とだけ言わせて、部屋に戻った。

 明くる朝も悶々としていた。

 授業を受けても上の空。もともと学年末テストを受けたあとの授業なんて身の入りようがないんやけど……もう、サイテー。
 ぼんやり窓の外を見ていたら、正門の方から私服たちが、キャピキャピ歩いてくるのが見えた。
 三年生やなあ……卒業式も終わって、完全リラックス……ん?
 キャピキャピの中に、すごく落ち着いた若草色のワンピースを見つけた。
 ほかのキャピキャピと違って、大人の風格。え……先生? 知っている限りの女の先生を思い浮かべる……あんな清楚で気品に溢れた女先生はいない。
「あ……」
 ふと、若草色の見上げた視線とボンヤリ眼のあたしの視線がぶつかってしまった。

 里中あやめ……さん。

 よりにもよって、秀一の彼女と目が合った。
 
 制服姿のあやめさんもすごいけど、私服のあやめさんは、もう大人の魅力。そのままワイドショーかなんかのお天気お姉さんが務まりそう。
 やっぱ、断ろう。秀一先輩は、あたしを珍しいイヌネコのレベルでモデルにしたんや。
 野乃はうつむいて、大きなため息をついた。ちょっと大きすぎるため息だったので、教室中の注目が集まった。
「渡良瀬、どうかしたんか?」
 板書の手を停めて、前田先生が声を掛けてきた。
「いえ、べつに……」
「ノノッチ……」
 すぐ横の愛華が、ハンカチを差し出した。
 
 野乃は、自分が泣いていることに、初めて気が付いた。 
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小悪魔マユの魔法日記・113『三つ葉のクローバー・2』

2019-12-03 06:21:16 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・112
『三つ葉のクローバー・2』    



 ここは、T大学情報工学部の実験室。三人は、司(つかさ)準教授が作った3Dのバーチャルアイドルのプロトタイプを見に来たところである。

「あの曲は歌えるようになってる?」
「ええ、ボ-カロイドとしては完成してます。なんとかミクの十倍はすごいですよ。どうぞ、ここをクリックすると歌います」
「じゃ、わたしが」
 仁和が笑顔でクリックした。

 《ハッピークローバー》

 もったいないほどの青空に誘われて アテもなく乗ったバスは岬めぐり
 白い灯台に心引かれて 降りたバス停 ぼんやり佇む三人娘

 ジュン チイコ モエ 訳もなく走り出した岬の先に白い灯台 その足もとに一面のクロ-バー
 これはシロツメクサって、チイコがしたり顔してご説明

 諸君、クローバーの花言葉は「希望」「信仰」「愛情」の印 
 茎は地面をはっていて所々から根を出し 高さおよそ20cmの茎が立つ草。茎や葉は無毛ですぞ

 なんで、そんなにくわしいの くわしいの

 いいえ 悔しいの だってあいつは それだけ教えて海の彼方よ

 ハッピー ハッピークローバー 四つ葉のクロ-バー
 その花言葉は 幸福 幸福 幸福よ ハッピークローバー

 四枚目のハッピー葉っぱは、傷つくことで生まれるの 
 踏まれて ひしゃげて 傷ついて ムチャクチャになって 生まれるの 生まれるの 生まれるの
  
 そうよ あいつはわたしを傷つけて わたしは生まれたの 生まれ変わったの もう一人のわたしに

 ハッピー ハッピークローバー、奇跡のクローバー 

「とてもいい声だ……元気で艶があって、チャーミングで……」
「それでいて、どこか大人で、奥行きの向こうにペーソスを感じさせる……」
 光会長と黒羽ディレクターは、ため息をついた。
「で、この子は、いつ発表したらいいのかい?」
「それは……まだ分からない。まずは48番目の子自身のことが、なんとかならなきゃ」


「拓美……マユさん、少し疲れてません」

「ハハ、病人に言われちゃ世話無いよね」
 拓美は、限界まで潤にエネルギーをやったこともあるけれど、実際疲れていた。紅白歌合戦への出場が決まったオモクロも神楽坂24もいっしょだ。少女グループの流行と言っても早すぎる。でも仁科香奈の姿をしたマユに言ったら、こう言われた。
――元は、拓美、あんたが頑張りすぎたから。でしょ、拓美が頑張らなきゃ仁科香奈なんて存在もしない。オモクロもあんなにヒットしなかっただろうし、神楽坂だってできてないわ。みんな、あんたのとばっちりよ。
 そのときのマユの鼻が膨らんだのを、拓美はおかしく思い出した。
「レコード大賞……新人賞はもらえますよ」
「さ、どうだろ。オモクロも神楽坂もがんばってるからね」

 そのとき、ドクターが病室に入ってきた。

「結果が出たよ、明後日退院してもいい。それにしても奇跡的な回復ぶりだなあ!」
「あ、ありがとうございます!」
「礼を言うなら、自分の体力と運だね」
 潤は、花が咲いたように明るい笑顔になった。拓美は花を咲かせた喜びを感じた。
――これでいいんだ。
「わたし、復帰したら《GACHI》がんばりますからね!」
「お、オヤジギャグ!」
「ちがいますよ。たまたま、新曲が《GACHI》だし、きもちもガチだし!」
「で、復帰したら、もう一つあるわよ」
「え、なんですか!?」
「それは、復帰してのお楽しみ」
「もう、先輩って意地悪!」
「ハハ、これくらいの楽しみがなきゃ、助けた意味がない!」

 退院間近の病室は、明るい笑い声に満ちた……。
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