マクベスの首が旗竿の先に括りつけられて現れたところだった。
「薮さんのとこまで行ってきてくれないか?」
頭の上から声が降ってきた……仰向けになって本を読んでいたわたしは、そのまま上目遣いに、二十センチほど開けられた襖の隙間に目をやった。
そこには、サンドイッチのパンみたく、端っこをちょん切った兄貴の顔が見えた。
アンニュイも、端っこをちょん切って逆さになると、ひどく間が抜けて見えるもんだなあ……と思った。
「入れば……」
間抜けの逆さ顔にそう言った。
逆さのまま、その顔が大きくなった。
つまり兄貴が部屋に入ってきて、しゃがみ込んで、わたしの顔を逆さに覗き込んだのよね……恋人同士なら、このシュチュエーション、フラグの一つも立つんだろうけど、兄貴じゃね。
「だからさ、薮さんのとこにさ……」
薮……バーナムの森なら、なんて妄想が頭に浮かぶ
「なんだ、まどか、シェ-クスピアなんか読んでんのか。大雪が降るわけだ」
「兄ちゃん……鼻毛伸びてるわよ」
わたしの逆襲に、兄貴は素直に鼻毛を抜いた……と、思ったら。
「……ハーックション!」
盛大なクシャミで反撃された。かろうじて身をかわして、鼻水とヨダレの実弾攻撃から逃れた。楯がわりになったシェークスピアに多少の被害。
起きあがって、まっすぐ見た兄貴の顔は、やっぱ間抜け……というよりタソガレていた。
事情を聞いたわたしは、兄貴への多少の同情と、我が家のシキタリのため角樽のお酒をぶら下げて、薮医院を目指した。
いつもなら、自転車で行くんだけど、わたしの頭の中にはシェークスピアの四大悲劇の断片が、ポワポワ浮かんで、なかば夢遊病。
危ないことと、この夢遊病状態でいたいため、あえて歩いて行くことにした。
なんでシェ-クスピアなんか読んでるかと言うと、はるかちゃんのアドバイス。
「薮さんのとこまで行ってきてくれないか?」
頭の上から声が降ってきた……仰向けになって本を読んでいたわたしは、そのまま上目遣いに、二十センチほど開けられた襖の隙間に目をやった。
そこには、サンドイッチのパンみたく、端っこをちょん切った兄貴の顔が見えた。
アンニュイも、端っこをちょん切って逆さになると、ひどく間が抜けて見えるもんだなあ……と思った。
「入れば……」
間抜けの逆さ顔にそう言った。
逆さのまま、その顔が大きくなった。
つまり兄貴が部屋に入ってきて、しゃがみ込んで、わたしの顔を逆さに覗き込んだのよね……恋人同士なら、このシュチュエーション、フラグの一つも立つんだろうけど、兄貴じゃね。
「だからさ、薮さんのとこにさ……」
薮……バーナムの森なら、なんて妄想が頭に浮かぶ
「なんだ、まどか、シェ-クスピアなんか読んでんのか。大雪が降るわけだ」
「兄ちゃん……鼻毛伸びてるわよ」
わたしの逆襲に、兄貴は素直に鼻毛を抜いた……と、思ったら。
「……ハーックション!」
盛大なクシャミで反撃された。かろうじて身をかわして、鼻水とヨダレの実弾攻撃から逃れた。楯がわりになったシェークスピアに多少の被害。
起きあがって、まっすぐ見た兄貴の顔は、やっぱ間抜け……というよりタソガレていた。
事情を聞いたわたしは、兄貴への多少の同情と、我が家のシキタリのため角樽のお酒をぶら下げて、薮医院を目指した。
いつもなら、自転車で行くんだけど、わたしの頭の中にはシェークスピアの四大悲劇の断片が、ポワポワ浮かんで、なかば夢遊病。
危ないことと、この夢遊病状態でいたいため、あえて歩いて行くことにした。
なんでシェ-クスピアなんか読んでるかと言うと、はるかちゃんのアドバイス。
観ること、読むことから始めてみれば。ということだったので、とりあえず千住の図書館に行って、シェ-クスピアの四大悲劇を借りてきた。
『ハムレット』から始め『リア王』『オセロー』そして、夕べからトドメの『マクベス』になったわけ。マクベスの首が出てくるのは、最後のページ。わたしは四日間で四大悲劇を読破したわけ。
しかしシェークスピアというのは、どの作品も、やたらに長くて、登場人物が多い。きちんと読もうと思ったら、登場人物の一覧片手に三回ぐらい読まなきゃ分からない。
ラノベに毛の生えた程度のものしか読まないわたしには、至難の業……で、とりあえず読み飛ばしたわけ。
だから、まとまったストーリーとしては頭に入らず、断片だけがポワポワ浮かんでいるというわけ。
しかし、さすがはシェークスピア。断片といっても、その煌めきが違う。
こうやって素直にお使いに出たというのは、ちょっぴり兄貴に同情したからばかりではない。
悪逆非道なマクベスは、魔女たちからこう言われる。
「バーナムの森が攻め寄せぬかぎり、そなたは死なぬ。女の腹から産み落とされた人間に、そなたを殺すことはできない!」
で、薮を森に見たててのお出かけ。
そんでもって、マクベスを討ち果たしたのは、月足らずで母親の腹から引きずり出されたマクダフ。わたしも未熟児で、八ヶ月ちょっとで帝王切開でお母さんのお腹から引きずり出された。これには、当時の我が家の状況が影響してんだけど、それは後ほどってことで……。
『ハムレット』から始め『リア王』『オセロー』そして、夕べからトドメの『マクベス』になったわけ。マクベスの首が出てくるのは、最後のページ。わたしは四日間で四大悲劇を読破したわけ。
しかしシェークスピアというのは、どの作品も、やたらに長くて、登場人物が多い。きちんと読もうと思ったら、登場人物の一覧片手に三回ぐらい読まなきゃ分からない。
ラノベに毛の生えた程度のものしか読まないわたしには、至難の業……で、とりあえず読み飛ばしたわけ。
だから、まとまったストーリーとしては頭に入らず、断片だけがポワポワ浮かんでいるというわけ。
しかし、さすがはシェークスピア。断片といっても、その煌めきが違う。
こうやって素直にお使いに出たというのは、ちょっぴり兄貴に同情したからばかりではない。
悪逆非道なマクベスは、魔女たちからこう言われる。
「バーナムの森が攻め寄せぬかぎり、そなたは死なぬ。女の腹から産み落とされた人間に、そなたを殺すことはできない!」
で、薮を森に見たててのお出かけ。
そんでもって、マクベスを討ち果たしたのは、月足らずで母親の腹から引きずり出されたマクダフ。わたしも未熟児で、八ヶ月ちょっとで帝王切開でお母さんのお腹から引きずり出された。これには、当時の我が家の状況が影響してんだけど、それは後ほどってことで……。