大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・103『さくらは秘密が苦手』

2019-12-12 12:25:57 | ノベル

せやさかい・103

『さくらは秘密が苦手』 

 

 

 三谷紀香さんは一年も前に亡くなってる。

 

 え? ほんなら、あの持久走の事書いてた手紙は?

 ミステリーと言うか怪談めいてる(≧∇≦)やんか!

 思わず手を合わせて、ナマンダブナマンダブ……。

 頼子さんには言わんほうがええでえ……阿弥陀さんが言うたような気がした。

 はい、言わへん方がええと思います!

 

 阿弥陀さんに誓ったんやけど、不自然に視線がさまようわたしに、頼子さんも留美ちゃんも―― なにか隠してるやろう ――と疑われ、あくる日の部活で、たった五分で喋ってしもた(^_^;) 

 そうなんだ……。

 ダージリン一杯を飲む間は黙ってた頼子さんやったけど、最後の一口を飲んで宣言した。

「ちょっと行ってくる」

 そのまま、本堂を抜け、トトトっと小気味よく本堂前の階段を下りると、ローファーをつっかけて行ってしもた。

「かかと、踏んづけてたわよ」

 頼子さんは行儀のええ人で、かかとを踏んづけて靴を履くようなことはせえへん。

「なにかが滾って(たぎって)るんだよ、頼子さんの中で」

 留美ちゃんは的確に表現する、さすがは文芸部。

 わたしは、ただただ―― どないしょ ――が頭の中で渦巻いてる。

 

 部活は五時半までと決めてるんやけど、この日は六時になっても終わられへん。

 頼子さんが帰ってこーへんから。

 

「心配なこっちゃなあ」

 テイ兄ちゃんが豚まんを蒸かして持ってきてくれる。口ぶりから、頼子さんがローファーのかかと踏んですっ飛んで行ったことも知ってる感じ。

 いつもやったら「このロリコンがあ!」くらいカマシてやるんやけど、大人しく豚まんをいただく。

 剥いだ豚まんの紙が乾いてそっくり返ったころ、スマホに電話がかかってきた。

『ごめん、今日は、このまま帰るね。あなたたちにも話さなきゃいけないんだけど、ちょっと気分じゃないの、ごめん』

 こっちの返事も聞かんと電話は切れた。

 頼子さんに置いといた豚まん、包んでるラップの中に水滴がいっぱいついてる。

 ダミアが、ニャーと鳴いて気が付いた。頼子さん、カバンを残したままや。

 ラインで教えてあげよと思たら、逆に頼子さんのメールが入ってきた。カバンは明日の部活まで置いといてほしいとある。

「持ってってあげんでもええんか……」

 ダミアを抱っこしたテイ兄ちゃんは、ちょっと残念そうやった。

 

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Regenerate・8≪幸子の記憶≫

2019-12-12 06:55:04 | 小説・2
Regenerate・8
≪幸子の記憶≫  



 
 詩織は不思議だった。

 夜寝ているときや、お風呂に入っているとき、無意識に幸子に擬態している。でも、まだ擬態をうまくコントロールできていない。ただ人が居るところでは擬態はしない。無意識に敵のベラスコに発見されるのを警戒しているんだろうと思う。
 不思議は擬態のことではない。どうやら自分には特殊な能力と役割があるようで、その能力はM機関の目的のために使わなければならないこと。

 それは理解できた。

 不思議なのは、幸子には、この一年より以前の記憶がないことである。擬態すると幸子の記憶も思い出す……というよりはインストールという言葉の方がしっくりくる。
 幸子は、一年前新宿の西口で倒れているところを発見された。すぐに救急車で病院に運ばれたが、病院で気づいた時には記憶が無かった。
 言葉遣いから東京の人間であろうと思われた。幸子は「朝日新聞」を「あさししんぶん」と発音する。またら抜き言葉を使わないことなどから、しつけのしっかりした家庭で育ったように感じられた。
 しかし、そういう女の子の捜索願は出ていなかった。また、身に着けていた物や、持ち物からも身元や出身を特定されるものは何もなかった。
 で、三か月後、身元不明のまま児童施設に引き取られ、推定される年齢から都立高校に編入された。成績は抜群で、その秋の期末試験では主席になった。友達は少なかった。そつなく付き合ってはいたが、同学年の者とは話も趣味も合わなかった。
 幸子の古風と言ってもいい立ち居振る舞いや、学習意欲、意欲に伴った成績は教師たちからは好感が持たれた。

「鈴木先生にだけは、お別れ言っておかなきゃ」

 幸子に擬態した時に、詩織は、そう思った。しかし幸子に擬態していては、直ぐにベラスコに発見されてしまう。

 で、詩織は、もう一人擬態できるように努力した。
「なに、はっちゃけてんのす?」
 ヘッドホンで、AKBの曲を聴いているといつのまにか、ノリノリになってしまって、ピロティーにいる他の学生もクスクス笑っている。
「あ、お勉強、お勉強。ちょっと来て、ドロシー」
「なにしたんだす?」
 おかしがるドロシーを、空いているゼミ教室の一つに連れ込んだ。
「好きなアイドルとかに絞ったら、擬態のレパートリーも増えるんじゃないかと思って」
 そう言うと、詩織はヘッドホンの片方をドロシーに渡して、AKBのヒット曲をかけた。
「あ、フォーチュンクッキーだ!」
 二人でノッテいるうちに、詩織は渡辺麻友に、ドロシーは高橋みなみに擬態してしまった!
「いけてるよ、これ。さっそくだけど付き合って」
 マユユの姿かたちで、タカミナそっくりのドロシーに頼んだ。

 二人は、野球帽を目深に被って、幸子が通っていた高校を目指した。しかし、最寄りの秋葉原に来たのがまずかった。

 くだんのフォーチュンクッキーが大音量で流れていた。

 二人は知らぬ間にリズムにノッテ歌って踊ってしまった。アキバでAKBの看板が踊っていれば集まるなと言う方が無理である。あっという間に若者たちが集まって集団路上パフォーマンスになってしまった。
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永遠女子高生・26《塔子の場合》

2019-12-12 06:44:32 | 時かける少女
永遠女子高生・26
塔子の場合・1》   


 
 15分まで待って来なければ放って行くことになっていた。

 だから放ってきたんだけど、こんなことは初めてだ。
 当たり前ならスマホでラインとか電話なんだろうけど、凛子とは、そーいうことはしないことにしている。

 だから朝礼の時間を過ぎても空席になっている凛子の席が気になってしようがない。

 ラインしようかと思ったけど、朝礼が長引いて、担任のグッスンが教室を出ると同時に1時間目の八重桜が入ってきて起立礼になってしまい、きっかけを失ってしまった。

 八重桜というのは凛子が付けたあだ名。鼻から上は美人なんだけど、鼻の下はサンマちゃん。だから「ハナの前にハが出る」とい意味で八重桜。こうゆー言葉の感覚とかは、凛子はとってもいかしている。で、ずっと八重桜と呼んでいるんで、八重桜センセのリアル名前は忘れてしまった。

 休み時間になって直ぐにライン、待ちきれなくて電話もしてみる。呼び出し音はするけど出てこない。

 理不尽てほどじゃないんだけど、こんなことは初めてなので、イラっとくる。
「ね、凛子来てないんだけど、知ってる?」
 隣の席のナオタンに聞いてみる。
「リンコ? だれ、それ?」
「えー、凛子よ吉川凛子、ほら、あの空席の」
 廊下から二列目の一番後ろに目をとばす。
「あそこ……?」
「うん、たまに教科書立てて早弁とか……」
「あそこって、最初から空席だよ。グッスンが間違えて余計に置いて、メンドイからオキッパになってる」
「え、だって……」

 かつがれているのかと思ってスマホを出す。

「うそ…………?」
 なんと、スマホから凛子に関する全てが消えていた。ついさっき電話したばかりなのに履歴も消えていた。
 ボー然とするあたし。
「塔子、急がないと、次ウメッチの体育だよ!」
 ナオタンが急き立てる。

 2年になって、体育が1年の時と同じウメッチだと分かって、あたしとナオタンは叫んだ。

 ギョエー!

 ウメッチの体育はオニだ! 持久走や水泳は規定の時間数をこなさなければ絶対に欠点にされる。だから、見学が溜まってしまい10月になっても補講で泳がされている子も居た。単にプールに漬かってるだけじゃなくて、課題の泳ぎ方で250メートルは完泳しないと許してくれない。

 だから、ナオタンとダッシュしてプールの更衣室へ。

 正味45分、プールでみっちり泳がされる。
「よ-し、上がれ!」
 ウメッチの声でプールから上がる。

 3時間目の授業に遅れそう! 

 慌てて教室に飛び込む。
「ブグ………イッテーーー!!」
 廊下側2列目一番後ろの机の脚にスネを打ち付けて行きが停まりそうになる。
「くっそー、こんな空き机、さっさと片付けろよな!」

 あたしは、そこが、学年の始めから空席だったと思っていた……。

 
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乃木坂学院高校演劇部物語・63『運転手の西田さん』

2019-12-12 06:19:39 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・63   
『運転手の西田さん』 

 
 
「せっかく雪だるまになりかけていたのに……!」

「ハハハ……お嬢さまのああいうお姿は、実に二十何年かぶりでございますなあ。降り始めた雪に大喜びされて、お庭で、おパンツ丸出しでクルクル旋回なさって、スカートひらりひらめかせられておられました。ハナさんが――お嬢さま、せめて毛糸のおパンツをお召しなさいまし――モコモコするからやだ。マリはこれから雪の王女さまになるんだから!――この西田、昨日のことのように思い出しますでございますよ」
「西田さん、運転中は運転に集中したほうがいいわよ。この大雪なんだし」
「いえいえ、この西田、ハンドル握って五十五年、無事故無違反。もっとも無違反のほうは、お巡りに見つかっていないという意味でありますがね。本日は、気象庁が発表する二時間前には、この大雪を予感いたしてスタッドレスタイヤに履きかえておきました(ここで急に黒のグラサンをかけて、マイクを握った)オラ! 前のポルシェ、なにチョロチョロ走ってやがんだ! 道空けろ、道を!」

 話しを少し巻き戻すわね。

 潤香のお見舞いの後、タクシーに乗って帰ろうとしたら、急にタヨリナ三人組の雪だるま姿を思い出し、ウサバラシにタクシー降りて自分も雪だるまになろうって思ったわけ。そしたら携帯が鳴って、うかつに出たら(なんたって、画面に出たアドレスはゴヒイキの飲み屋さんの、それだった!)お祖父ちゃん。
――黙って、横を向け――
 で、左を見たら、ショップのショ-ウィンドウに、雪だるまになりかけのハツラツ美人のわたしが映っていた。思わずニコッと微笑んだら、スマホが怒鳴った。
――ばか、右だ、右!――
 で、右の車道を見たら、黒塗りのセダンの運転席で西田さんがカワユクもオゾマシク、にこやかに手を振っていたってわけ。

 しばらくすると、さっきのポルシェがお尻を振りながら、猛スピ-ドでわたしたちの車を追い越し、前に回ったかと思うと二回スピンし、街路樹にノッシンって感じで当たって停車した。
 無視して行けばいいのに、西田さんは車を停めて降りていった。グラサンは外している。ひどく優しげな、人を食った顔になる。
 同時にポルシェから、革ジャンのアンちゃんと、フォックスファーのダウンジャケットのオネエチャンが、ガムを噛みながら降りてきた。
「オッサンよう……」
 アンちゃん、あとは言葉にならなかった。西田さんの左手で腕を捻り上げられ、右手で頬をつままれると、ポンと音がして、アンちゃんの口からガムが飛び出した。
「人と話をするときに、ガム噛んでちゃダメ。言っとくけどね、車線またいで走ると迷惑なんだよ、分かるボクちゃん……アレレ、ポルシェのノーズ凹んじゃったね……アハハ、このポルシェ、オートなんだ。車はマニュアルでなくっちゃ、遊園地のゴ-カートじゃないんだからさ。二回転スピンしたのはテクニックじゃなくて、単に滑っただけなんだね。チュ-ンもハンチクだね。スタビライザーがノーマルのままじゃね(片手でポルシェを左右に揺らした)グニャグニャ。いくらタイヤをスポーツに履きかえてもね。よし、これも何かの縁。オジサンが見本見せたげよう……お嬢さま、しっかり掴まっていてください」
 西田さんは車を五十メートルほどバックさせると、素早くシフトチェンジ。急発進させると、ポルシェの手前でハンドルを左にきって、サイドブレーキを引いた。
 見事に左回りにスピンさせると、ポルシェの手前一センチで停めた。同時に車の横腹は、道路脇に居たアンちゃんとオネエチャンの目の前三センチに位置していた。

「……かわいそうに、あのボクちゃん、チビっていたわよ」
「女の子も気絶させるつもりもなかったんですけどね。ヤワになりましたなあ、今時の若者は……あ、お嬢さまは別でございますよ」
「西田さんから見たら、まだガキンチョなんでしょうね。マリは……」
「いいえ。とんでもはっぷん、歩いて十分。車で三分……間もなくでございます」
 その三分の間に、西田さんは車載カメラ(これで、歩道を歩いていたわたしを見ていたんだ。もちろんお祖父ちゃんのパソコンに直結)を調整。どうやら、さっきのカースタントの時はオフにしていたようだ。むろん、わたしに口止めしたのは言うまでもない。
 わたしに三輪車から、ナナハン、GTの扱いまで教えてくれた師匠なので、黙っていることにする。
「だって、急にポルシェが前に飛び込んできて急ブレーキ。マリ怖くって覚えてな~い」
「……そのブリッコは、いささかご無理が……」
「やっぱし……で、和子ちゃんお元気?」
「はあ、やっと高校演劇のクセが抜けて、寂しいような嬉しいような顔をしておりますよ」
「ハハ、貴崎カラーは強烈だもんね」
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