大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベル・魔法少女マヂカ・114『みんなでアルバイト・1』

2019-12-21 16:10:37 | 小説

魔法少女マヂカ・114  

 
『みんなでアルバイト・1』語り手:マヂカ 

 

 

 無事に期末テストが終わった。

 

 サムのお屋敷でやった勉強会の甲斐もあって、ノンコも欠点を免れそうだ。

 ノンコの点数が気になるので、魔法少女の裏ワザで点数を調べてみたのだが、国語を始めいくつかの教科が読めない。

 というのは、配点や採点基準を決めていない先生が数名いるからだ。

 決めていないのは職務怠慢に思えるが、そうではない。

 テストの出来や生徒の頑張り、そこに収めなければならない平均点の枠などから、決めあぐねているのだ。

 わが担任の安倍先生もそのうちの一人だ。

 むろん、ノンコを除く四人は、少々辛めに点けられても欠点になることは無い。

 ノンコは、配点と採点基準を変えることで、当落いずれにでも偏る可能性がある。

 テスト終了二日目の今日になっても、安倍先生は決めかねている。

 下手に聞きに行ったら藪蛇と言うこともあるので、テストの事は話題にしないようにしている。

 とくにノンコには……。

 

「バイトしようぜ!」

 

 終礼が終わると、突然ノンコが言い出した。

「なによ、いきなり!?」

「わ、くっつくな!」

「アハハハ」

 清美が驚き、抱き付かれた友里が嫌がり、見ていたサムが笑った。

「テストも終わったんだから(もう合格してるという脳天気な響きがある)、冬の活動資金をさ……ほら、これこれ」

 スマホをワイパーのようにフリフリさせるノンコ。三人が覗き込んだ画面には――面接のお知らせ――の文字が浮かんでいた。

「こんなの申し込んでいたのか、あとから追いかけるから先に行って」

 掃除当番のわたしを置いて、四人はにっぽりせんい街に向かった。

 

 掃除が終わったことを報告に行くと、安倍先生は点数計算の真っ最中。苦労のほどが偲ばれ――ノンコをよろしく――思わず心で手を合わせる。

「あ、ちょうどいいところに渡辺真智香さん!」

 担任にフルネームのさん付けで呼ばれるとろくなことが無い。

 案の定、頼まれたノートや資料や先生の私物やらを国語準備室に持っていくハメになり、大荷物抱えて階段を上がる。

 ポトリ

 なにか小物を落とした。人気のない踊り場だったので禁じ手の魔法で拾い上げる。

 先生宛の手紙だ。それも未開封。

 学期末の忙しさに、つい開封するのも忘れていたんだ。魔法少女の悲しさ、開封しなくても中身が分かる。

「大事な手紙だ!」

 大荷物を踊り場に置いたまま職員室に戻った。

 

「こんなのが入ってました!」

 

 手紙を渡すと、安倍先生は正直に『しまった!』という顔をして封を切った。

「荷物オキッパだから片付けてきます」

 伏線を残して荷物運びに戻る。案の定、荷物を国語準備室に運ぶと「渡辺さん、安倍先生が、もう一度職員室に寄って欲しいって」と国語主任の先生。

 

「なんですか先生?」

 

 職員室に戻るとパソコンの手を休めて振り返った。

「あんたたちにお願いがあるの!」

 手紙の中身を知っていたので、お願いも分かっている。

 先生の義理が絡んだアルバイトの依頼なのだ。

 直後、あてにしていたバイトがキャンセルになったとノンコからメールが入った。

 

―― バイトダメになったあ! どーしようおお(;'∀') ――

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベル・となりの宇宙人・5『聖也は亡命者』

2019-12-21 06:54:41 | 小説4
となりの宇宙人・5
『聖也は亡命者』    


 
 事故の痕は生々しかった。

 鉄骨が突き出た改築中の食堂も、その向かいでグチャグチャになった中庭にも黄色い規制線が張られ、本館一階南側の廊下は、ガラスは割れたまま、壁や床には点々と血の跡が付いていて、一つ一つに現場検証用の番号札が付けられていた。

 鑑識のおじさんたちが、写真を撮ったりメモをとったりしている。先生も生徒たちも遠巻きに見る者と目を背けて足早に教室に向かう者に分かれた。なかには刑事さんから事情聴取を受けている者もいる。あたしは鉄骨が飛び出てきた、その場にいたので呼ばれるかな……。
 席に着いてショートホームルーム。
「午前中は現場検証が続きます。警察から事情を聞かれるかもしれないけど、そのときは協力するようにね」
 担任の美津子さんが、いつにない硬い表情で言った。
「まずは、荻野目さん。廊下で教頭先生がお待ちだから、いっしょに一階に行って」
「はい」
 瑠璃が立ち上がって後ろのドアに向かった……え……?

 窓側の席は七つ机があったはずなのに六つしかない……あの席は紗耶香の席。

「ね、紗耶香は?」
 ショートが終わって、隣の席のヨッコに聞いた。
「サヤカ……だれ?」
「吉永紗耶香よ、ヨッコも中学でいっしょだったじゃない」
「そんな子知らないわよ。それよりも、大変だったのよ昨日は。マナカ休んでてよかったわね、あんたオッチョコチョイだから、きっと巻き込まれてたわよ」
「え……あたし休んだ?」

「どういうこと、またなんか細工した!?」

 小学校裏のスポーツ公園で聖也を捕まえるなり、袖を掴んで問い詰めた。
「え、記憶、書き変わってない?」
「またやったんだ! 紗耶香はどうしたのよ、席も無くなってるし、みんなの記憶からも消えてた!」
「……紗耶香がボスだったんだよ。サラリーマンに包丁持たせたのも、鉄骨飛ばして愛華が危機一髪になったのも」
「え……紗耶香って、正真正銘の幼馴染だよ。聖也の記憶は昨日のショックで完全に消えちゃったけど、紗耶香の記憶は確かなままよ」
「あいつは、ボクが地球に来たときは、もう愛華の幼馴染ってことになってたけど、愛華と紗耶香の付き合いって、中三の冬からだよ」
「うそよ、そんなの!」
「ほんとうの幼馴染だったら、ボクだって、みんなの記憶を消すなんてことできない……消せるのはバーチャルな記憶だけだ」
「……いったいなんなのよ、聖也は?」
「……ちょっと触るよ」
 聖也の手がおでこに触れた。一瞬電気が走ったようになって、いろんなビジョンが頭の中でスパークした。

 ……聖也は亡命者……地球で生きていくためには宇宙エネルギー……エネルギー変換の適格者のあたし……先回りしていた監視者……それが吉永紗耶香……この一年は監視されていただけ……母星で政変……聖也は抹殺されることに……それが昨日の二つの事件……ボスの紗耶香を倒した……とうぶん命は狙われない……次の暗殺者……早くても三年さき……百年さきかも……。

「分かってくれたかい?」

「……分からないわよ、もう、なにがほんとで、なにがバーチャルなのか」
「もっとよく、ボクのビジョンを見てくれ、確かさがちがうから!」
 聖也の手が再びおでこに迫ってきた。
「もう、触んないで!」

 聖也の手を払いのけて、夢中で走った。
 どこをどう走ったのか、荒い息で家に着いたら、もうとっぷりと日が暮れていた。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベル・青春アリバイト物語・7《アリバイト飛躍!》

2019-12-21 06:45:56 | 小説6
アリバイト物語・7
《アリバイト飛躍!》 



 
「う~ん……」

 監督が唸った。スタッフ一同も同じ気持ちだ。
 スタジオのエントランスで捻挫した八重のアンダスタディーで裕子が入ったのだが……明らかに、八重よりうまい。そしてアップにすると、別人であることが分かってしまう。
「後日撮り直しって言われても、スケジュ-ルとれないわよ」
 八千草の御大が先手を打つ。
「こっちも、予算スケジュール共に、いっぱいいっぱいなんですよ……」
 ディレクターも半ば投槍に言いだした。
 八重は、アイドルだったころの人気と親の七光りで、なんとかここまで持ってきたが、だれが見ても限界だった。

「いっそ、八重下ろして、主役交代でやってみるか。どうせ数字とれなかったら、来月いっぱいで打ち切り。作品だけは仕上げたい」

 監督は、真剣な顔で言った。監督にしてみれば、作品そのものが一番大事なのだ。
 一時間休憩をとることになった。
 いつの間にか見学の常連になってしまった真一が、スタジオの隅で佇んでいた。裕子は、少し胸が痛んだ。
 もとはと言えば、真一の告白をかわすために始めたバイトである。そのバイトに真一はたびたび授業さえ抜けて観に来てくれている。
 裕子自身は「祖母の介護」という大義名分でやっているので、学校については問題ない。

 ここまでやってくれると、情にほだされる……方ではなかった。少々迷惑でさえあった。

 いつものように、無意識を装って目を合わさない。
 
 ちょっと真一の反応が違った。いつもならやるせなさそうに俯くのだが、今日の真一は、ニコニコしながら、スマホで写メなんか撮っている。
「もう、スタジオ内は、無許可の撮影は禁止なのに」
 そう思って注意しようと真一に寄って見ると別人だった。
「あ、どうも。ボク真一の従兄弟の純一です。私学なもんで、もう冬休みなんで、代わりに来ました。真一、今日は補講があって、どうしても抜けられないっていうんで、代わりに来ました。守衛さんに『許可されてるとはいえ、よく来るね』っていわれちゃいましたよ」

 この一言で、裕子はピンときた。

「ありがとう、とってもいいアイデアだった。いけるかもしれない!」
 裕子は、そのままスタッフのエライサンたちが集まっている会議室へ行った。
「……という線で、本に手を加えればどうでしょう!?」
「いいアイデアだよ。その線でいこう!」

 裕子のアイデアは、そのまま生かされた。もうアップだって撮れるし、八重の物まねをする必要も無かった。
 台本の設定を変えて、八重の役に姉妹がいることにしたのだ。

 この変更は当たった。
 
 制作側も考えていなかった設定である。視聴者は混乱すると同時に興味を持った。もともと女子高生探偵の話だったので、結果が分かれば違和感がない。「あ、そうだったのか!?」と、視聴率は上がった。
 復帰した八重も頑張り始めた。

 ただ、絵にしてみると裕子の方がしっかりして見えるので、姉という設定にされてしまった。実際は裕子の方が三つも年下であるのに。

 かくして、アリバイトは春には本職になってしまった。
 
 真一とは、仲のいいお友だち。所属事務所がそう決めてくれた。
「と、いう訳だから」
 
 真一に関しては気楽に、女優生活が始められた……。

 青春アリバイト物語:完
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベル・Regenerate(再生)・17≪あだしも、サイボーグだじゃ≫

2019-12-21 06:37:29 | 小説・2
Regenerate(再生)・17
≪あだしも、サイボーグだじゃ≫
       


 
「あだしも、サイボーグだじゃ」

 ドロシーは、運動会の競技がいっしょになったように無邪気な笑顔で言った。
 だが、その瞳の奥には、子猫のようなおののきと不安、そして、やっと出番が回ってきたリレーランナーの逸る心が葛藤していた。
「ドロシーもサイボーグ!?」
「んだ……」

 揺らめき逸る心が唇を震わせ、あとの言葉が続かなかった。

「ドロシーは二人分の人格が基になって作られたサイボーグなんだ。日本人の友子とアメリカ人のドロシーの人格だ。二人とも人間としては死んだことになっている、主人格はドロシー。10年前に我々の技術だけで作れた最初のサイボーグだ」
「それは……?」
「まだ詳しくは言えんが、サイボーグの技術はM機関を援助してくれる人類以外の者……その技術協力で、初めてできたことなんだよ。サイボーグ化し、起動させるのに10年から20年かかる。ドロシーは、プロトタイプだ。まだ不安定でね、他の特殊能力を持った仲間や幸子のサポーターとして実用試験中ということだよ」
「そっだなことだから、よろしく。な、詩織」
「敵のベラスコたちも、かつては同じ仲間だった。ただ、時間がたつにしたがって世界観が異なってしまってね……ベラスコたちは積極的に世界の誤った状況を変えようとしている。われわれM機関は、見守りながら大きく逸脱しないように小さなコントロールですましている。例えばソ連の崩壊は、ベラスコの動きを封じながら、我々が手を差し伸べた」
「……具体的には?」
「ゴルバチョフは、二度殺されかけたが、救ったのは私たちだ。ベラスコは、さらに手を出して、世界中の共産主義国を潰そうとした。わたしたちは反対し、互いに敵対するようになってしまった」
「じゃ、そのころからサイボーグが……」
「ああ、生き残って稼働している者は僅かだがね。サイボーグは優れたファイターだが、数が少ない。なんせ素材は人間だ、適合者を探し……むろん生きている人間は使えん。幸子のように死に瀕した人間から適合者を選ぶ。そしてサイボーグ化し、起動させるのには何十年もかかる。ベラスコたちは、我々の援助者からの技術提供は受けられなかった。だが、サイボーグほどの能力はないがアンドロイドやガイノイドを量産し、活発に活動し始めた。我々の当面の目的は自衛だ……それから先は……わたしにも分からん」

 言葉が無くなり、ラボのかすかな電子音だけが耳に着いた。詩織は一つの疑問に行き着いた。

「わたしは、いったい何者なんでしょうか?」
「詩織は……擬態能力が桁外れに優れた人間だよ。サイボーグにさえ擬態して、その能力さえコピーできるんだからね」
「そうなんだ……」

 そのころ都心の銀行に強盗が入った。鮮やかな手並みで10億円を強奪。警察が駆けつけたころには、姿をくらましていた。
 だが、首謀者は防犯カメラに不敵な笑顔を残していった。
「これ、幸子でねが!?」
 幸子は、渋谷での事件と合わせて全国指名手配になっていた……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベル・乃木坂学院高校演劇部物語・72『いい台本はあるんだけど問題は稽古場』

2019-12-21 06:25:47 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・72   
『いい台本はあるんだけど問題は稽古場』 


 
「へえ……こんな芝居があるんだ!」
「道具なんにも無し。照明も転がし(舞台に直に置くライト)一つだけ」
「ハハ……笑っちゃうね!」
 
 最初の、ト書きを読んだ夏鈴と里沙の反応。
 
 わたしたちはマッカッサーの机の端っこに座って、プリントアウトしたばかりの本を読んでいた。
 本が一冊だけってこともあるけど、わたしたちは机の端っこでやるという習慣から抜けきれずにいる。ペーペーのころのまんまと言うか、マッカッサーの机に位負けしてると言うか……で、とにかく驚いたり笑ったりしながら読み終えた。
「すごいね、効果音、役者が自分の口で言うんだね。戸を開けてガラガラガラ。夜が明けたらコケコッコー!」
 夏鈴が、さっそく演ってみる。
「この、三太っての、一人で四役も早変わりするんだ。大変だね……」
 と、言いながら、もう三太という役にハマリ始めている。
 わたしは、主役の都婆ちゃんに興味があった。憎まれ口をききながら、孤独……でも、台詞は元気で小気味いい。
 夕べパソコンのモニターで読んだときに、うちのおじいちゃんやおばあちゃん。薮先生やら理事長先生やら、TAKEYONAのマスターやら、知ってる年寄りの顔がポワポワ浮かんできた。

 あらすじ言っとくわね。
 
 埼京線の、とある駅の周囲が再開発されることになって、地上げ屋の三太が腕によりを掛けて土地を買いまくる。あらかた片づいた後に残ったのが都婆ちゃんのタバコ屋の十五坪。
 三太はあの手この手で脅したりすかしたり。そこに、土地を売ったお金目当てに、日ごろ寄り付きもしない二人の息子と一人の娘が猫なで声ですり寄ってくるわけ。で、三太と三人の兄妹四人分を一人の役者が早変わり。
 都婆ちゃんは、子どもたちを適当に相手して、最後は手厳しく、全部はねつけるんだ。
 婆ちゃんの唯一のお友だちが、なんと幽霊さん!
 この幽霊さん、ノブちゃんていって、生前は女学校時代の親友。昭和二十年三月の大空襲で死んじゃった。
 で、これが笑っちゃう。一度は避難するんだけど食べかけのお饅頭思い出して戻っちゃう。そこで、お饅頭の焼ける良い匂いを嗅いでいるうちに間に合わなかったってドジな子だってとこ。
 でも、それって、勤労動員で自分の分まで残業やってくれた都ちゃんに食べさせたかったからって、ホロっとさせるとこもあるんだ。
 でも、ドジはドジ。閻魔さんに、親友に十万回のお念仏唱えてもらわなければ成仏できないって言われるの。
 で、三太との駆け引きがあった晩が九万九千九百九十八・五ってわけ。
 なんで八・五なんて半端になるかって言うと、三太に邪魔されたから。
 明くる日は無事にお念仏唱えて、無事に、あと0・五回!
 ところが、その明くる日には、なんとノブちゃんに幽霊の恋人ができちゃった!
 で、ノブちゃんは、恋人と愛を育むため、嬉しそうに成仏することを止めちゃう。だって成仏したら、恋人と別れ別れなんだもんね。そんな、友だちのノブちゃんの恋を喜んであげる都婆ちゃん……泣けちゃう。
 ところが、ところが、地上げ屋の三太と体を張った最後の勝負!
 都婆ちゃんは、こう見えても柔道やら空手の有段者。あっさり三太は負けちゃって、最後は自分が持ってきたピストルを取り上げられ、銃口を頭に突きつけられちゃう。
「さあ、最後に、末期のお念仏でも唱えるんだね」
「おいら、お念仏なんて知らねえよ」
 で、都婆ちゃん、お念仏の見本を唱えるわけ。
 ウフフ、分かった?
 そう、それでノブちゃんは不本意にも成仏しちゃうわけ。
「ミヤちゃん、怨めしや……」
 で、都婆ちゃんはひとりぼっちに……という、おかしくも悲しい物語。

 これだけ長いあらすじ言ったってことは、それだけ、わたしたちが、この本に惚れ込んだってことなのよね。
 ちなみに作者は大橋むつお……どこかで聞いたような名前だ。

「ねえ、一つ問題」

 里沙が手を上げた。大勢部員がいたころのクセなんだけど、なんか虚しい。マッカーサーの机が苦笑したような気がした。
「なによ、もうキャストは決まったようなもんじゃない」
「それはいいんだけどね。稽古場よ、稽古場」
「「あ……」」
 夏鈴とわたしが同時に声をあげた。
「でしょ。この部室だって年度末までに部員一人増やさなきゃ出てかなきゃなんないのよ。今までの稽古場使えると思う?」
 わが乃木坂学院高校には立派なリハーサル室がある。年代物だけど、舞台と同じ間尺は使いでがよかった。
 ついこないだまでは演劇部が独占していたけど、演劇部がこんなになっちゃったので、今はダンス部が使っている。ダンス部は、去年の秋にも都大会で三位に入る健闘ぶりで、演劇部からも一年生が三人ばかり鞍替えしていった。
 いまの演劇部じゃ、入り込む余地がない……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする