魔法少女マヂカ・108
ポーーーン ポーーーン
千駄木女学院は正門から入って左側がテニスコートで、ボールを打つ軽快な音が響いている。
「あ、ブリンダだ」
今日のブリンダは、テニス部員に混じって元気にラケットを振っている。ネットを挟んで四人でやっているのでダブルスなんだろう。
セミプロのテニスプレイヤーとしてスパイしたこともあるわたしから見ても、ブリンダのプレーはなかなかのものだ。調理研の四人も惚れ惚れと見ている。特務師団隊員の自覚が持てて、初めて見るブリンダは彼女らの目には、かなりの高得点に映っている様子だ。
ラブ・フォーティー! マッチ ウォン バイ ブリンダ!
審判の子が興奮気味に試合の終了を宣言。あまりの興奮に、ブリンダのペアの名前を忘れている。ブリンダは、笑顔で指摘すると、審判は慌てて訂正。わたしたちには気づいていたようで、ラケットを振って近づいてきた。
「やあ、わざわざどうも。よく来てくれた、キャフェテリアにでも行こう。ガーゴ、あと頼んだよ!」
ブリンダが声をかけると、日焼けしたテニス部員が白い歯を見せて頷いた。
「えと……友里、清美、ノンコに、そちらがカオスのサマンサ・レーガンだね」
ラケットで指しながら、全員の名前を当てる。
「さすが、アメリカの魔法少女!」
ノンコが感心すると、チチチと指を振るブリンダ。
「戦う仲間としては当然さ。オレの方がポリ高に赴くべきだったんだが、ご覧の通りテニス部の指導をしてやる約束があったもんでな。しかし、きちんと意識を持って任務に付けるのは嬉しいよ。これからは、待機中やオフの時にも友として付き合ってくれ。そちらのスパイ君もな」
「テヘ、こちらこそね」
サムもブリッコでカマシテいる。
「ブリンダ先輩、用意は出来ています。こちらのお席に」
キャフェテリアに着くと、制服の女子が待ち受けていて窓際のテーブルを示した。
「ああ、ありがとう。何もないが、千駄木名物のチーズケーキとダージリンを用意した。くつろいでくれ」
厨房の方から、別の女子がケーキとお茶をワゴンに載せてサービスしてくれる。
「学校もすごいけど、ブリンダさんもすごい。みんなブリンダさんのことリスペクトしてるのが、よく分かる!」
「さん付けはよしてくれよ、友里。君たちがマヂカに接するようにしてくれればいいから」
「は、はい、いえ、うん」
「「「アハハ」」」
「竜神戦では、駆けつけるのが遅れて、ごめんなさい。なんか、余裕なさそうだったから、本当に申し訳なくて」
清美が、率先して頭を下げて、みんなも、それに倣う。
「いやいや、気にしないでくれ。結果的に、敵を排除できたんだから、ノープロブレムさ。アハハハハ」
ブリンダは、どこまでも上機嫌で鷹揚だ。
ニ十分ほど歓談して、千駄木女学院を後にした。
「あ、ごめん、忘れ物した。先に行ってて」
正門を出たところで、忘れ物に気づいた……ふりをして、校内に戻った。
ブリンダは、テニスコート脇のベンチでひっくり返っている。いま、飛び立ったんだろう、十数羽のカラスが西の空に消えていく。
「ウ……マヂカ!?」
「アハハ、こんなことだろうと思った」
「い、いや、ちょっとな、ベンチの温もりを楽しんでいたところだ」
「やっぱ、堪えてんでしょ。ほんと、ごめん。でも、あの子たちもオンオフが無くなるから、いいチームワークがとれると思うわ」
「ハハ、そうだな。これからも、よろしく頼むよ」
「エキストラは、ガーゴイルが手配したのね」
「あ、あいつも、カラスの仲間が増えたみたいだ」
「日暮里の駅から、カラスたちに見張らせて、わたしらが到着したら、ササッとお芝居したのね」
「ち、ちが……おもてなしの精神だ。それに、カラス以外にもな」
「ああ、給仕に出てくれたのは、公園の河童」
「企業秘密だ」
「よし、今日は、特別にマッサージしてやろう」
「お、おまえがか!?」
「ああ、せめてもの気持ちだ」
「す、すまん……ouch! o ouch !」
暮れなずんで、下校時間が迫るまで戦友のマッサージをして明日に備える魔法少女であった。