大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 12『夕陽に映えて』

2021-07-01 09:18:00 | ノベル2

ら 信長転生記

12『夕陽に映えて』   

 

 

 部活を終えて昇降口に向かう。

 

 信玄も謙信も寄るところがあると言うので、茶道部の茶亭を出たところで分かれている。

 信玄は土木研、謙信は宗教研あたりに行ったのだろう。

 がっついた気配はないのだが、二人とも、なかなかにアグレッシブに高校生活を送っているようだ。

 

 我が転生学院高校は、ちょっとした高台の上にある。

 むろん、街の中央にある御山ほどの高さではないが、高層建築の少ない街ではランドマークになる程度に座りがいい。

 おお、瓦屋根だったのか。

 壁面が夕陽に荘厳されるように照らされ、屋根瓦は釉薬がかかっているのだろう、渋い山吹色に煌めいて美しい。

 規模的には清須城、美しさでは安土城、屹立する佇まいは岐阜城に通じるものがある。

 きっと、近所の住人たちからも街のシンボルとして愛されているに違いなく、百文ほどの入場料を取って見学させてやったら喜ぶだろう。この時代は円だから百円……ちと安いが、タダではありがたみが無い。やるだけの価値はあると思う。

 ドスン

 校舎に見惚れていたので、だれかにぶつかってしまった。

「す、すみません!」

 前世から、人に謝るという習慣がないので、ひっくり返った女生徒を見ていると、向こうから謝ってきた。

「うむ、気を付けよ」

 鷹揚に応えてから気づいた。茶道部の古田(こだ)だ。

「なんだ、古田(こだ)か」

 俺も急いで出てきたわけではないが、部活が終わったばかりなのに、ここにいるのは、ちょっと不思議だ。

「はい、この時間の学校は、一日でいちばん美しいので見逃せません」

 見れば、大事そうにデジカメを抱えている。写真ならスマホで間に合うだろうに、ひょっとして写真部と兼部しているのか?

「アハハ、やっぱり、写真はカメラで撮りませんと、被写体に失礼です」

「そうなのか?」

「はい、茶道と同じだと思います。ペットボトルや紙コップでお茶を淹れたら台無しなのと同じだと思います」

「であるか」

 分かる気がする。戦に行くときも、ダサい鎧兜ではやる気がそがれる。

「校舎の屋根瓦は、中国の紫禁城と同じ瑠璃瓦なんです。校舎の壁面もアンバーホワイトで、とても上品で、かつ温かみのある景色なんです。特に、この時間の姿は絶景で……すみません。まもなく日が陰りますので」

「うん、励め」

 ペコリと一礼すると、学校を乾の方角から望めるわき道に入っていった。

 いささか物狂いしたところが面白い奴だ。

 こういう奴を前世でも見たような気がするのだが……。

 おっと、夕飯の用意。

 冷蔵庫にあるものと、メニューのあれこれを比較……よし、今日はストックしたもので間に合うか。

 

 ウワアアアア!

 

 家の近くに差し掛かると、公園から悪ガキどもが逃げてくる。

 殺虫剤を掛けられたばかりのゴキブリのようで、面白くもおぞましい。

 ん?

 こいつら、この間、市とつるんでいた中坊どもだ。

 公園でなにかあったか?

 ちょっと予感がして、道端の自販機で缶コーヒーを買う。

 ピコピコピコピコ……パンパカパーン!

 電飾が煌めいて、ファンファーレとともに『大当たり!』の文字が点滅。

 よし!

 小さくガッツポーズして、もう一本同じ缶コーヒーをゲット。

 

 公園の入り口に差し掛かって、予感が当たった。

 

 ジャングルジムの天辺に、パンツが見えることも厭わずに屹立する妹の姿があった。

 元来が俺の妹、こういう孤高の姿もさまになる。

 ただ、西日に照らされた目には光るものがある。

 

「飲め」

 

 それだけ言って、缶コーヒーを投げてやる。

 あやまたず、缶コーヒーは妹の眼前で放物線の頂点に至る。

 そいつをハッシと馬手(右手のかっこいい言い方)で捉えると、壮絶な美人顔を俺に向けてきた。

 

 おにいちゃーーーーーーん!

 

 妹は缶コーヒーを持ったまま両手を広げ、俺に向かってムササビのように飛び降りてきた。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生

 

 

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ライトノベルベスト『タータンチェック・1』

2021-07-01 06:36:53 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『タータンチェック・1』 

 




 あれ?

 まさかと思って……そのまさかであった。

 ハローワークで、学校事務補助というのがあって、紹介状と履歴書を持って校門の前に立った。

 それは紛う方無き瑞穂女学院高校。つまりわたしの母校であった。

『フェアーイナッフ学園高校』と、求人票通りになっていた。

 十年ぶりの母校は、経営難で身売りしたというのは風の便りに聞いていたが、まさか自分が求人票を見て、ここに来るとは思わなかった。

「ほう、地歴公民の教員免許をお持ちなんですね?」

「一応教職はとっていましたので」

 教頭さんの質問に軽く返事した。

 あいつと離婚したお陰で、なんだか運命の輪が動き出した気配。

 最初は結婚前まで勤めていた会社に戻ろうかと思った。

「後輩が上司になるけどいいかい?」

 そう言われてパスした。人事課長の顔に「後輩=前崎=嫌なヤツ」と書いてあった。

「まあ、タータンぐらいのスキルがあれば、どこだっていけるだろうけど」

 で、ハローワークに通うハメになった。

 タータンてのは、あたしのニックネーム。

 

 田村妙子で、氏名にTが二個付くところからか、子どものころからタータンだ。お母さんは「お前がまわらない舌で、自分のことをタータンって呼んでたからだよ」と言う。ま、どっちでもいい。

 あたしはタータン。ターザンじゃりませんので、よろしく。

「田村さん、よろしければ、事務の補助じゃなくて、地歴公民の講師で来てもらえませんか?」

「え……?」

 というわけで、あたしは社会科(地歴公民なんて言い方は、よっぽどでなきゃ使わない)の先生として働き始めた。

 たまたま初日が全校集会の日にあたっていたので、全校生徒の前で挨拶するハメになった。

 生徒を見て、びっくりした。昨日調べた偏差値で、まあ並の共学校かと思っていたが。で、顔つき態度は偏差値以上で、生指なんかの指導が行き届いていることを感じさせた。でも、制服に驚いた。

 女子は白青ギンガムチェックのワンピ。男子はハナコンのパンツに白青ギンガムチェックのシャツ。

「かっこいいねえ……」

 と、挨拶の冒頭は正直な感想になってしまった。一瞬爆笑。あとは普通に挨拶できた。

 でも、そのとき、すでにタータンチェックのあれこれは始まっていたのだ……。

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コッペリア・40『栞のゴールデンウィーク①』

2021-07-01 06:16:36 | 小説6

・40

『栞のゴールデンウィーク①』  




 今日は、水分咲月のデビューの日だ。


 デビューといっても、ペーペーの研究生なので、最初の方にちょこっとだけ出ておしまい。

 だけど、晴れの初舞台。友だちとして観に行かないわけにはいかない。

 なによりも、先日の学級改編騒動のあと、栞たち生徒の「これ以上混乱したくない」という声で、予定通り二年生は一クラス増え。生徒たちは新しいクラスに入った。

 で、偶然なのか、ミッチャン(栞の担任)のクラスに栞と咲月はいっしょになったのである。学校への信頼は落ちたが、ことミッチャンのクラスはうまくいきそうである。

 今日は、チームPの公演なので、狭いAKPシアターは、それほど混まない。それでも天下のAKP、消防法で決められた定員は満たしていた。
 
「これで、咲月のひい爺ちゃんも喜んでるでしょうね」

「ああ、ひょっとしたら、そのへんで見てるかもな」

「アハ、このシアターの雰囲気には驚いてるでしょうね」

 たしかに、アキバはひい爺ちゃんが生きていたころの漢字の秋葉原とは、だいぶ雰囲気が変わっている。マニアックという点では同じだが、その主体は電気製品の専門家やマニアから、すっかり世界に冠たるオタク文化の聖地に変貌。外国人観光客のコースにも大概入っている。

 ちょっと神経を集中させれば、咲月のひい爺ちゃんの霊ぐらいは感じられそうだったが、栞は、あえて、そういう人間離れした能力は封印しておこうと思った。

 なによりも、ただ一人、栞の事が人形にしか見えていない颯太に、立ち居振る舞いだけでも人間と同じようになるようにしたかった。

――申し訳ございません、開演時間を20分遅らせていただきます――

 場内アナウンスが流れて「どうしたんだろう」と思うと、栞の封印した能力は一気に元にもどってしまった。

「ちょっと様子見てくる」

 栞は、混み始めた観客の間を縫うようにして、ロビーに出た。

 事情は分かっていた。今日の選抜チームの堀部康子が移動途中の交通事故で間に合わないのである。

「あ、萌絵!」

 スタッフが、関係者入り口に近づいてくる矢頭萌絵を見て救いの神を見つけたように駆け寄ってきた。

「分かってる。康子間に合わないから、あたしが代わりにやる!」

 むろん、この萌絵は栞の変身である。

「いい、こんなことでおたついちゃダメ。それだけAKPがビッグになったってことだからね。さあ、円陣組んでいくよ!」

 萌絵に化けた栞は、20分開演が遅れたことを詫びると、さっそくAKPのヒット曲5曲をメドレーでこなすと、研究生の紹介に入った。

「水分咲月! 一番年上だけど、二度目のチャレンジで合格。将来が期待される幹部候補か!?」

「あ、そんなたいしたもんじゃないですけど」

 萌絵がずっこける。むろん演出。

「あたし、誕生日が、AKPの幕開けと同じ4月7日なんです。萌絵先輩の後半の言葉にせまれるようにがんばります。よろしくお願いします!」

 咲月らしい生真面目なアピールだったが、会場は割れんばかりの拍手だった。

 咲月は感じていた。客席の隅の方に、姿はないけどひい爺ちゃんの気配がすることを。それは栞も感じていた。

 そして、その日の公演は無事に終わったが、大変なことが分かってしまった。

 矢頭萌絵は、この日は仕事で名古屋にいっていたのである。

 波乱はゴールデンウィークになっても続くようだった。
 

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