大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 18『野にあるごとく・4』

2021-07-17 18:27:45 | ノベル2

ら 信長転生記

18『野にあるごとく・4』   

 

 

 西の坂道から駆け戻った俺は、まっしぐらに校舎の屋上に駆けあがった。

 

 ここだ!

 

 西の坂で感動した光景が、何倍もの迫力になって広がっている!

 野にあるごとく、それは眼下に広がっている。

 御山を中心に、南に城山、西の方、御山の向こうには市の通う転生学園高校を抱くように街並みが広がっている。

 それらは、大輪の花の如く転生の街に位置を占め、その周囲を家々や街の緑が取り巻いて、薩摩焼の花器に活けられた名人の作のように静もっている。

 そうか、利休は門から出でて『野にある如く』を探せと言っていた。

 それはブラフだ。

 門を出て感動した光景が、どうやれば、さらに栄えるのか。その謎かけをしていたのだ。

 覇者の華道とは、一を見て、それに感動するだけではなく、それを十にも百にも輝かせる道を知らなければならない。

 それに気付かせたかったのだ。

 他に人影は無い。どうやら、このことに気付いたのは俺一人……。

 手すりが邪魔だ。

 スマホを構えて、立ち位置が不十分であると思い至る。

 俺は、さらに進み出て視界に屋上が入らないようにする。

 もう少し右か……

 スマホのブレを防ぐために左手は手すりに添えたまま右に寄る。

 よし、ここだ。

 この光景をファインダーに収めれば、もう他の被写体を探す必要もないだろう。それほど、ここからの転生の街は美しい。

 カシャ

 なるほど、そうか……。

 露出を変えて、さらに三枚撮ると、俺はスマホをしまって階段室に戻る。

 小気味よく踊り場まで下りると、俺は足音を忍ばせて階段を上がる。

「やはりな……」

 独り言ち、再び屋上に戻ると、予期していた者と予期せぬ者が居た。

 

「信玄が居ることは分かったが、謙信は気づかなかったな」

 

「ハハハ、どうして分かった?」

 信玄が嬉しそうに振り返る。

「手すりが暖かかった。直前まで信玄が写真を撮っていたとふんだ。給水タンクの陰にでも隠れていたのだろう」

「謙信もいたんだぞ」

「謙信は気づかなかった。手摺には触れていないのか?」

「ううん、わたしって体温低いから。指の先なんて夏でも冷たい」

「うひゃ、冷たいぞ、謙信(^_^;)!」

「ウフフ……」

 謙信が、後ろから信玄の頬を手で挟む。

 面白いんだが、そういうじゃれ合い的なところも美しく感じるのは俺の感性がおかしいのか?

「信長も坂道を下りて気が付いたの?」

「ああ、やはり、お互い戦国の覇者ではあるな」

「ん、誰か上がって来るぞ」

 信玄が嬉しそうに、階段室の方を示す。

 ドタドタドタ

「み、みなさんも気づいたんですね!?」

 上がってきたのは眼鏡っこの古田だ。

「く、悔しい……気づくのが遅れました!」

「悔しさは人を成長させるわよ」

「はい、謙信さん。で、でも、これで終わりじゃないですよ。師匠の要求は、もっと奥が深いです!」

「そうだな、日暮れにはまだ間がある。もう少し探してみることにしよう。いいな、謙信も信長も」

「はい」

「おう」

 今日は、もう学校には戻らないことを確認して、もう一度、それぞれの門から出ることにする。

 校門を出て、スマホを確認。

「え?」

 謙信の手で頬を挟まれてビックリしている……つまり、二人がじゃれ合っているところを無意識に撮っていたぞ(^_^;)。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田(こだ)      茶華道部の眼鏡っこ
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せやさかい・217『木村重成・3』

2021-07-17 10:16:00 | ノベル

・217

『木村重成・3』さくら      

 

 

 ブオオオオオ~ ブオオオオオ~   ジャーーーン ジャーーーン

 

 遠くで法螺貝と鐘を叩く音……

 うおおおおお……うおおおおお……

 それに雄たけびの声が潮騒のように轟いてる。

 でも……ちょっとくぐもって……る?

 ほら、プールで泳いでて耳に水が入った時みたいな、現実感が希薄な、あの感じ。

 

 うっすらと目を開けると、周りは草っぱら。

 草は、横になったあたしを中心になぎ倒されて……あ、これてガシャポンのボール?

 子どものころに魔法少女のガシャポンに凝ってたことを思いだす。

 13人の魔法少女が居てるねんけど、うちは12人しか集められへんかった。

 

 あたしは、小さなってガシャポンのボールの中に入ってるみたい。

 

 サワ サワ サワ……草をなぎ倒すような音がする。

 見上げてみると新装開店のノボリみたいなんを背中に差した鎧武者が居てる。

 紫のグラデーションも美しい鎧を着た若武者で、槍を腰だめに構えて周囲を警戒してる。

 兜の下の顔はよう分からへんけど、鼻から顎にかけての線はエグザイルのなんとかさんみたいにかっこええ。

 

 え、木村重成さん?

 

 思たとたんに重成さんが振り返る。

 ガシャ

「……一寸法師か?」

 ガシャポンのうちは一寸法師に見えるらしい。

 そんな重成さんと見つめ合ってると、ガシャガシャと音をさせて大勢の鎧武者が走ってくる気配。

「南無三、これまでか……」

 槍を構え直す重成さん。

「重成さん、ここに隠れて!」

「え?」

 チラッと視線を落とす重成さん。

 

 シュポ

 

 マンガみたいな音がすると、小さなった重成さんが、うちの横に転送されてきた!

「こ、これは?」

「よかった、無事に入れた!」

「きみは何者だ?」

「うち、酒井さくらて言います。重成さんの……」

 そこまで言うて止まってしまう。墓参り……は、ちょっと言いにくい。なんせ、目の前の重成さんはまだ生きてるし。

「重成さんの……」

「わたしの?」

「味方です!」

「味方……」

「はい、遠い未来から重成さんを助けに来ました!」

 え、なにを言うてんねやろ。

 ガシャポンの中に入れたげても、連れて帰ることもでけへんし、ここに居っても見通しなんかあれへんのに。

「そうか、世の中には不思議なこともあるもんだ。これも、太閤殿下の御遺徳なのかもしれないね。殿下は、こういうお伽話めいたことがお好きだったからね」

「そうなんですか……あ、そう言うと、秀吉さんの周りには御伽衆いう人らが居てたて聞いた事があります」

「アハハ、その御伽とは意味が……いや、曾呂利新左衛門などは、そういう話もしておったな」

 

 ザザザザザザザザ

 

 頭の上を武者やら足軽やらが走ってきて、さすがに息を詰める。

「ここにおったら、うちらの姿は見えませんから(;'∀')」

 思わず寄り添ってしまって、ドキドキ。

 無意識やねんやろけど、重成さんはうちの肩を抱いて庇ってくれはる。

「きみの髪は、いい匂いがするね」

「あ、シャンプーの匂いです」

 

「シャンプ?」

「えと、髪を洗う時に使う……(説明がむつかしいので、頭を洗うジェスチャーをしてみる)」

「ああ、シャボンのことか。殿下もポルトガル人から献上されたシャボンを淀君さまに送られたことがあった……しかし、あれで髪を洗うとカサカサにならないか?」

「未来のシャボンですから(^▽^)/」

「そうか(o^―^o)」

 未来から来た言うて、ちょっと後悔。

 もし「この戦の結果はどうなる?」て聞かれたら「この大坂夏の陣で、討ち死にしはります」とは言われへんで(;'∀')

「あの……」

「うん?」

「え、きれいな鎧ですねえ(^_^;)」

 ゲームとかやってると黒っぽい鎧が多いので、とっさにふってしまう。

「紫裾濃(むらさきすそご)の胴丸だ。太閤殿下も『若いうちは華やかにせよ』とおっしゃった」

「そうなんですね(^_^;)」

「えと、えと……時代劇とか観てて気になったんですけど」

「なんだい?」

 うちは、話に間が空くのが怖くて、つい話題を探してしまう。

 こんな近くでイケメンの男の人と喋るのは初めてやし、それに、なんちゅうても、重成さんは、ここで討ち死にしはんねんさかいね(-_-;)。

「ごっつい鎧着てはって、トイレ、あ、お便所とかはどないしはるんですか?」

 あ、アホな質問(#'∀'#)。

「ハハハ、それはね……」

 重成さんは武者袴の股のとこを広げて見せてくれはる。

「え?」

 なんと、股のとこは左右が合わさってるだけで、中身のフンドシがチラ見えしてる。

 その純白に、目がクラっとする。

「フンドシの紐は、ここにあってね……」

 襟首をグイっと広げて見せはる。

 な、なんと、首の後ろにフンドシの紐!?

「用を足すときは、ここを緩めるんだ」

「な、なるほど!」

 ちょっと感動した。て、めっちゃアホなこと聞いてしもた……呆れられたかなあ(^_^;)。

「ハハ、おかげで敵をやり過ごせた。そろそろ行くよ」

 あかん、ここで行かせたら討ち死にや!

「あ、もうちょっと」

「ありがとう、でもね、ちょっと深入りしたけど、この戦は勝てる」

「せやけど」

「そろそろ冬だからね、あまりジッとしていると体が冷えて、戦いに差し支えるんだ」

「え、冬?」

「うん、もう十二月になるからね」

 十二月……あ、そう!?

 大坂の陣は、冬と夏があったんや。重成さんが討ち死にするんは夏の陣や!

「それじゃ、ありがとう」

 重成さんはニコッと白い歯を見せると、あっという間にガシャポンの外に出て、大きくなる。

 いつのまにか、馬が寄ってきていて、カッコよく打ち跨る重成さん。

 パシ

 小気味よく鞭を当てると、槍を小脇に旗指物を靡かせ、大坂城の方に向かって駆けて行った。

 

「ちょっと、だいじょうぶ?」

 

 頼子さんの声がして、気が付いた。

 頭の上は青い空に入道雲がモクモク湧き出して、どうやら、大阪の梅雨も明けてきたみたい……。

 

 

 

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ライトノベルベスト・〔死にぞこない・2〕

2021-07-17 06:44:21 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

〔死にぞこない・2〕 




 泰三が、そう言うと、体育館の外は闇につつまれ、サイレンの音と地響きがするような多数の爆音がし始めた……。

 貴様ら!  なにしとるか!  さっさと消灯非難しろ!

 体育館の扉を開けて、黒襟に鉄兜の警防団の男が三人入ってきて、口々に怒鳴った。

「みんな、頭から上着をかぶれ!」

 泰三は大声で怒鳴り、生徒の中に入って、かたっぱしから頭を叩き、上着を被らせた。

「え、これ、なんかのドッキリ?」

 一人の生徒がウケ狙いを言った直後、体育館の東側に焼夷弾が多数着弾。窓を真っ赤に染めたかと思うと、一発の焼夷弾がガラスを突き破り、バスケットゴールに突き刺さった。ウケ狙いの生徒が傍に寄ろうとした。

「「バカ者!」」

 警防団の男と、泰三の声が重なった。

「だって、これ不発……」

 そこまで言ったあと、大量に火のついた油脂が降り注ぎ、ウケ狙いは火だるまになった。

 ギャーーーーーー!

「消火器を! バカ!横になって転がるんだ!」

 周りの生徒たちが悲鳴を上げる中、ウケ狙いは転げまわった。飯島は消火器で素早くウケ狙いの火を消してやった。ウケ狙いはピンク色の消火剤まみれになってぐったりした。

「気絶しとるだけだ、水をかけてやりなさい。他の者は、隅田川方面に避難せよ!」

 警防団の班長が、メガホンの胴間声で怒鳴った。

「班長さん、隅田川は危険だ。浅草方面から東武伊勢崎線の方角に避難した方がいい!」

「バカ、浅草は火の海だ。川の方角がいい。みんな急いで!」

「とにかく、ここに居ちゃだめだ。体育館を出なさい! 上履きは履いたままで!」

 班長と、泰三はとりあえず共通する行動目標をみんなに伝えた。

 半分ほどが体育館を出たところで、数十発の焼夷弾が薄い屋根を突き破って、体育館の床に降り注いだ。

 一人の生徒は肩に焼夷弾が刺さり火の柱になると、二三秒のたうち回って昏倒した。

 ほかにも、三十人ほどの生徒が炎にまみれてもがいている。女性教諭が消火器を持って走ったが、泰三は抱き留めた。

「間に合わない、油脂が床を焼いている!」

「だって、生徒が!」

「逃がさなきゃならない生徒は他にいっぱいいる」

 出口は大混雑していたが、警防団の男たちが手際よく逃がしてくれていた。泰三はフロアを見渡した。ショックで腰の立たない生徒が何人かいた。泰三はその生徒たちの頬をシバキながら、出口に向かわせた。

「男のくせに泣くな! これが空襲だ、さっさと逃げろ!」

 その生徒は股間を濡らしていた。顔を見ると悪態をついた大沢だった。

「いいか、みんなに声を掛けて伊勢崎線沿いに逃げるんだ。警防団のオッサンのあとは着いていくな! 聞け! 一人でも多くの友達に声を掛けて逃げるんだ!」

 その時、焼かれた生徒の腹が弾けて内臓が引きずって飛んできた。大沢はそれをまともに被り白目をむいた。たちまち、泰三にはり倒された。

「さっさとしろ、この玉無し!」

 大沢は、尻を蹴飛ばされながら体育館を出た。

「しまった、みんな隅田川の方にいく……!」

 泰三は逃げる集団の最前列に駆けて、家の軒下に立てかけてあった梯子を振り回して生徒たちに投げた。二三人の生徒に当たり、一人の女生徒は額を切ってしまった。

「こっちはダメだ! 北に逃げろ! 伊勢崎線だ!!」

 泰三の迫力に額を切った女生徒のほか十数名が付いてきた。

「みんな、防火用水に上着を漬けてかぶれ!」

 目の前には、両側の家が燃えて炎を吹き出している。しかし、この道を抜けなければ伊勢崎線の方にはいけない。

「いいか、背を低くして、息をしないで突き抜けるんだ! 早く行け!」

 しり込みする生徒たち、泰三はバケツで水をかぶり、大沢にも浴びせると、腕を掴んで走り出した。やっと生徒たちが付いてきた。

「敦子!」

 火の通りを駆け抜けたところで、大沢は炎に包まれた道に向かって叫んだ。火明かりに照らされて何人かの生徒が倒れているのが分かった。

「逃げて……」かすかに女の子の声が聞こえた。

「オッサン、放せよ、敦子が、敦子が……」

「お前だけでも生き延びるんだ!」

 泰三は何度目かの鉄拳を食らわせた。

 気づくと、半分以下に減った生徒や先生たちが体育館のフロアに横になっていた。

「た……田中さん、いったい何が……いてて……」

 大沢は、初めて泰三をまともに呼んだ。

「僕にも訳が分からん……ただ70年前の大空襲を呼び戻してしまったことは確かなようだな……」

 肘から先のない左腕を押さえながら泰三は言った。

「みんなは……」

「死んだんだろう。ここにいる者だけが……死にぞこないだ」

「そ、そんな言い方……」

「背負って生きてきたんだ……おまえも背負って生きていけ……」

 そばに全身大やけどの敦子がいた。やけどで引きつった腕を伸ばしてくる。

「あ、敦子か……!?」

 大沢は、敦子を抱きしめようとした。敦子は急速に腕の中で虚しくなって消えてしまった。

「敦子……」

「いま、向こうの世界にいったんだ」

「……オレは……」

「おまえは……」

 泰三は、あとの言葉を飲み込んだ。もう十分分かっただろうから……。

 窓枠の形に降り注ぐ朝日が、とても愛おしかった。

 

 

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ホリーウォー・7[スグルのメモリーを集める・5]

2021-07-17 06:28:25 | カントリーロード
リーォー・7
[スグルのメモリーを集める・5]  


 
 
「あれは、極東戦争前の非合法な戦いだったからな……」

 里中元准尉は、猫車を押しながら話し始めた。
 
 猫車には朝堀大根がひしめいて、なんだかお伽話めいている。
 
 シンラは、まだ表立った組織にはなっていなかったが、相当な勢力が半島や大陸に浸透していた。そいつらが総選挙で舞い上がっていた日本に攻勢をかけてきた。俺たち特化部隊は……分かるよな、大昔の戦車隊のことじゃない。自衛隊の中に作られた特殊任務専門の部隊だ。規模や自衛隊の中での位置関係を知られないために「部隊」なんて半端な呼称で呼んでいたんだ。
 お前さんには釈迦に説法だろうが、あのころは並のセンサーで、人間とアンドロイドの区別が容易につく牧歌的な時代だった。戦闘用のアンドロイドなんかが入国すればGPSでマックやケンタを発見するぐらいの容易さで発見できた。
 俺たちは、人間、あるいはサイボーグが大挙入国して、総選挙のお祭り騒ぎに乗じて有力な与党議員を暗殺する情報を掴んでいた。

 俺たちは正式なルートで、警察や総理府に報告した。
 
 一応の注意は各候補に伝達されたが、反応は三つ。デマだと相手にしない野党議員。警戒の最終責任は特化部隊の仕事だろうと開き直る与党議員、ま、両方とも現状認識と太平楽な頭という点では共通していたがね。
 残りの、ごく一部の議員は本気に取り合ってくれて、命がけで、選挙運動に臨んだ。今の浦部内閣のブレーンになっていったやつらだ。

 最初は野党議員がやられた……フェイクだな。野党は、こぞって政府と俺たち特化を非難した。自分たちの無神経を棚に上げてな。
 俺たちは、監視カメラの解析をして実行犯を特定した。でも、特定したころには国外逃亡。そろって空港の監視カメラに写っていた。

 里中は、大根を他の野菜といっしょに軽トラックの荷台に積んだ。
 
 ブルン
 
 ヒナタが乗ると軽トラは身震い一つして動き出した。

 問題は、そのあとだ。やつらが浦部首相とその仲間を狙うことは確実だった。
 三件までは未然に防げた。スマホ型のパルスガン……見かけじゃ分からんが、発射の数秒前のエネルーギー充填で分かる。やつらは俺たちの感知能力を甘く見ていた。
 四件目が起こるのには少し時間がかかった。奴らもスマホガンでは見抜かれることを学習したんだ。
 
 四件目は一週間後の選挙の終盤戦で起こった。
 
 俺たちは、その一週間、国内で起こったあらゆる事件や問題を解析していた。特に失踪者に注意した。奴らに取り込まれマインドコントロールされて、人間爆弾にされることを恐れたからだ。
 
 そして、その子はリストから外れていた……子供だ。熱心に浦部首相の演説を聞いている女性のすぐそばに居た。何度かサーチしていたが、熱心な母親に我慢して付いている幼い娘だろうと思った。
 
 スグルだけが気づいた。
 
 その女の子がしょっている人形と、着ているコートに爆弾が仕込まれていることをな。
 
 やつは、応援者を装って女の子に近づいた。俺は、その時点でやっと気づいた。すぐに全ての電波、赤外線、高周波を遮断するジャミングのスイッチを入れた。遠隔装置で爆破されないためだ。
 人ごみをかき分けながら、女の子の人形を取ってコートを脱がせ、そのまま近くの川に飛び込みながら人形とコートを投げた。寸前に女の子は解放したがな。ジャミングの効かない距離だった。放り投げた瞬間に爆発した。

「……スグルが義体化したのは、そのときね」

 ああ、脳を生かしておくのが精一杯だった。すぐに技研に送って庄内教授に脳の中身を電脳に移植してもらった。
 
 女の子は、親の虐待を受けていた子で、当然捜索願なんか出されていなかった。事件後親に引き渡すわけにもいかず、絵里がしばらく預かって、回復したスグルが引き取った。今は戸籍も変えて安西みなみって名になって、防衛医大の附属病院で看護婦をやっとる。
 
「ああ、あのみなみちゃんが……」

 軽トラは青空市場に着いた。荷台がそのまま売り場になって、ヒナタは半日里中の売り子になった。

 ヒナタは、青空市場での野菜の売り方とスグルの瞬発力と優しさを理解した……。 

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