大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト・『チョイ借り・4』

2021-07-11 07:01:16 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『チョイ借り・4』  




 新聞配達は楽勝だった。

 新聞屋のオジサンは店の自転車を使えと言ってくれたけど、新聞配達したいのはオレンジだから、オレンジを使わざるを得なかった。

 で、本人てか自転車そのものがやりたがっているので、十分なアシスト機能で、見かけよりも沢山の新聞が積めたし、道順や配達先はオレンジが率先して覚えてくれたので、配達量や配達時間は三日もすると自転車組のトップになった。

「その気になれば、ゲンチャリの配達にだって負けないわよ!」

 オレンジは、張り切って言うけど、遠慮した。目立ちすぎるからだ。

「夕刊の配達もやってもらうと助かるんだけどなあ」

 オジサンは、そう言ってくれ、オレンジもやりたい感じだったけど、学校の時間帯と合わない。

「わたし一人でもやれるんだけど」

「よせよ、自転車だけで配達したらホラーだ」

「うそうそ、冗談よ。放課後は有意義に使ってちょうだい(^▽^)。チイコちゃんも三年生だから、二人で楽しむのもいいけど、進路決定の邪魔なんかしちゃダメよ」

「うん、分かってる!」

 オレンジには見透かされていた。

 チイコの家は経済的に豊かじゃない。だから進学は入学したころから諦めていた。ハナから就職に決まっているけど、うちの学校からじゃろくなところにはいけない。通り雨のあとに夏の気配を感じる頃には、少し捨て鉢になりかけていた。

 オレたちは、時間とオジサンの部屋が空いていればセックスばかりしていた。

 ある日、二回励んだあと、チイコが泣き出した。

「どうした、チイコ?」

「……こんなことばっか、ばっかやってたらダメになっちゃうよね。あたしの人生、まだ十八年にならないのにさ。どうしたら、どうしたらいいんだろ、ナオキ……」

 かけてやる言葉が無かった。

 なんとか、当たり前以上の高校生にはなったけど、チイコの人生にあれこれ言えるほどには知識も経験も無い。学校の勉強なんて、こういうときに役に立たないのは言うまでもない。

「おれも真剣に考えてやるから、な、チイコ一人悩むんじゃねえぞ」

 そう言ってやるのが精一杯だった。だけど、人のことを、ここまで心配して言葉をかけたのは初めてだ。

「信じる、信じるよ、ナオキのこと!」

 そう言ってチイコは裸のまま抱きついてきた。オレがダブったとき「ごめんね」をくり返していたときのようにチイコは真面目で懸命で、そして切なかった。

 オレは、ただ抱きしめてやるしかなかった。

「展望の無い約束したのね……」

 帰り道、乗っているオレンジに責められた。

「あれ以外に言葉がない。他のこと言ったら、その場しのぎの慰めにしかなんねえ」

「責めてるんじゃないのよ。あれがナオキの精一杯の気持ちだもの……」

 そこまで言って、オレンジは黙ってしまった。

「……どうしたんだよ?」

「考えてるの、わたしなりにね……」

 それっきり、オレもオレンジも黙ってしまった。

「ねえ、今度の日曜、チイコちゃんとサイクリングに行こう!」

 明くる日の新聞配達のあと、突然オレンジが提案してきた。

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ホリーウォー・1[いきなりフィナーレ!]

2021-07-11 06:48:38 | カントリーロード
リーォー・1
[いきなりフィナーレ!]   


 
 
 ズキューーン バシューーン 
 
 ピシッ! パシッ!
 
 跳弾を避けるのが精一杯だ。

 直撃弾を避けられないほどスペックは低くない。
 
 なんせオレはヒナタの最後のガードだ。並のアンドロイドとは出来が違う。
 
 スペックの落ちるガードはほとんど狩られてしまった。
 
 でも、そんなことに意味はない。

 オレの任務はヒナタをガードすることなのだから、オレ一人が生き残っただけでは意味が無い。
 
 ビシッ!
 
「無事な奴は応答しろ!」

 前の部屋の二体を倒した。一秒あまりの隙にゲル全体に残っている……かもしれないガードたちに呼びかける。
 
 アナライザーは9体の生存を示していたが、あてにはならない。敵はガードを倒したあとシリアルをコピーして味方に成りすましている。
 
 うっかり味方と思って動いたらハチの巣にされる。圧縮した暗号で信号を送る。直ぐに暗号化したアンサーが返ってきた。
 
――3号生存。ただし右腕を欠損――
 
 3号は、ヒナタのダミーで、レベル2のガイノイドだ。一世代前の敵ならかすりもしないだろう。敵のアビリティーの進歩がこれほどだとは思わなかった。見かけもモジュールパルスもオリジナルヒナタと同じであるが、ダミーであることは見抜いている。なぜなら3号にはすでに右腕が無い。オリジナルと分かっていたらヒナタに対しては半端な攻撃はしてこない。

 ヒナタは存在そのものが最終兵器だ。

 ヒナタに半端な攻撃を加えれば自爆スイッチが入る。
 
 前世紀的な表現をすれば広島型原爆の1600倍の威力で、地球の1/30を吹き飛ばしてしまう。
 
 それだけ吹き飛べば人類はおろか、全生物、いや地球そのものが無事でいられない。地球の一部が千切れて月がもう一つ増えるだろう。ヒナタを倒そうと思ったら、最低でも8発のパルスガ弾を撃ち込み起爆装置ごと破壊しなければならない。下手に損傷を加えれば起爆装置が起動する。無傷で捕獲しようとするに違いない。

――3号、時間を5分稼げ、ヒナタを連れてシェルターに隠れる――
 
――しかし、シェルターは20分も持ちません。それからあとは――
 
――入ってから考える。最後まで可能性に賭けてみる――
 
――了解、ただし3分が限界。たった今左腕もやられた――
 
――できるだけがんばれ。じゃあな――

 3号とは長い付き合いだった。ヒナタはただの最終兵器ではなくて、人々から救済の女神のようにあがめられ、あちこちに顔を出していた。そしてそのほとんどが影武者としての3号だった。ほんの0・5秒ほど3号との思い出がよぎった。
 
「ヒナタ、オレの腕に飛び込んで来い!」
 
 ビシビシビシビシビシ! 
 
 パルス銃を五連射。二体の敵を倒すとパルスシールドに隠れていたヒナタを抱きかかえて、ロッカーに飛び込んだ。
 
 なんの変哲もない個人ロッカーだが、これがシェルターへの入り口になっている。シェルターは外からは構造が分からないようにできている。出口は四か所ある。アナライズに成功したとしても、敵は四か所の出口に分散せざるを得ない、それだけ生存率が高くなる。
 
 20分たった。
 
 敵はシェルターの第四層まで剥がしてきた。最後の第五層は5分ともたないだろう。

 確率的に一番見つかりにくい出口から出たが、敵は、どういうわけか残存部隊のほとんどで待ち受けていた。

――早く逃げろ。オレが時間を稼ぐ!――

 30秒後、ヒナタは8発のパルスガ弾を受けて機能を停止……人間で言えば死んでしまった。

 そして、この物語は、この唐突なフィナーレから始まった。
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