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新聞配達は楽勝だった。
新聞屋のオジサンは店の自転車を使えと言ってくれたけど、新聞配達したいのはオレンジだから、オレンジを使わざるを得なかった。
で、本人てか自転車そのものがやりたがっているので、十分なアシスト機能で、見かけよりも沢山の新聞が積めたし、道順や配達先はオレンジが率先して覚えてくれたので、配達量や配達時間は三日もすると自転車組のトップになった。
「その気になれば、ゲンチャリの配達にだって負けないわよ!」
オレンジは、張り切って言うけど、遠慮した。目立ちすぎるからだ。
「夕刊の配達もやってもらうと助かるんだけどなあ」
オジサンは、そう言ってくれ、オレンジもやりたい感じだったけど、学校の時間帯と合わない。
「わたし一人でもやれるんだけど」
「よせよ、自転車だけで配達したらホラーだ」
「うそうそ、冗談よ。放課後は有意義に使ってちょうだい(^▽^)。チイコちゃんも三年生だから、二人で楽しむのもいいけど、進路決定の邪魔なんかしちゃダメよ」
「うん、分かってる!」
オレンジには見透かされていた。
チイコの家は経済的に豊かじゃない。だから進学は入学したころから諦めていた。ハナから就職に決まっているけど、うちの学校からじゃろくなところにはいけない。通り雨のあとに夏の気配を感じる頃には、少し捨て鉢になりかけていた。
オレたちは、時間とオジサンの部屋が空いていればセックスばかりしていた。
ある日、二回励んだあと、チイコが泣き出した。
「どうした、チイコ?」
「……こんなことばっか、ばっかやってたらダメになっちゃうよね。あたしの人生、まだ十八年にならないのにさ。どうしたら、どうしたらいいんだろ、ナオキ……」
かけてやる言葉が無かった。
なんとか、当たり前以上の高校生にはなったけど、チイコの人生にあれこれ言えるほどには知識も経験も無い。学校の勉強なんて、こういうときに役に立たないのは言うまでもない。
「おれも真剣に考えてやるから、な、チイコ一人悩むんじゃねえぞ」
そう言ってやるのが精一杯だった。だけど、人のことを、ここまで心配して言葉をかけたのは初めてだ。
「信じる、信じるよ、ナオキのこと!」
そう言ってチイコは裸のまま抱きついてきた。オレがダブったとき「ごめんね」をくり返していたときのようにチイコは真面目で懸命で、そして切なかった。
オレは、ただ抱きしめてやるしかなかった。
「展望の無い約束したのね……」
帰り道、乗っているオレンジに責められた。
「あれ以外に言葉がない。他のこと言ったら、その場しのぎの慰めにしかなんねえ」
「責めてるんじゃないのよ。あれがナオキの精一杯の気持ちだもの……」
そこまで言って、オレンジは黙ってしまった。
「……どうしたんだよ?」
「考えてるの、わたしなりにね……」
それっきり、オレもオレンジも黙ってしまった。
「ねえ、今度の日曜、チイコちゃんとサイクリングに行こう!」
明くる日の新聞配達のあと、突然オレンジが提案してきた。