大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 13『ジャングルジム』

2021-07-02 14:22:12 | ノベル2

ら 信長転生記

13『ジャングルジム』   

 

 

 反射的に投げ飛ばしてしまう。

 

 ブギョ!

 美少女の市には似つかわしくない悲鳴……といっては哀れだが。

 地面に胸を打ち付けた衝撃で肺が圧迫され、圧縮された空気が美少女の声帯の容量と処理速度を超えて吐き出されるものだから、単に革袋が破れたような音を発した。いわば、口から出た屁のようなモノだ。

 突然出てしまった屁というものは可笑しい。

 キャハハハハハハ

「ちょ……なんで投げ飛ばすかなあヽ(#`Д´#)ノ」

「許せ、武人の反射神経だ。飛びかかってきた者は、取りあえず投げ飛ばす。戦場で考えていては首をかかれるからな。それにしても、今の蛙が潰れるような声はおもしろかったぞ、キャハハハハハハ」

「その笑い声もムカつくんですけど!」

「生まれつきだ。宣教師のヴァアリニャーノも『信長は鳥のように高い声で笑う』と書いておるぞ」

「明智さんがあんたを嫌った理由の一つは、その笑い方だと思うよ」

「なんだと……いや、そういうものかも知れんな。俺も、やつの金柑アタマは、いかにも無駄な知恵が詰まっているようで嫌いだったからな」

「そ、そういう自覚は生きていた時に持ちなさいよね!」

「で、俺になんの用だ?」

「よ、用なんてないもん!」

「泣きそうな顔で飛びかかってきたではないか『おにいちゃーーん!』と」

「お、おにいちゃーん! なんて、ゆってないし!」

「いや、言った。市に『おにいちゃん』と泣きつかれるのは三十年ぶりだぞ」

「ゆってないもん!」

「そうか、まあいい。しかし、ジャングルジムの上で黄昏ていたのはなぜだ? 理由がないとは申すなよ。理由もなく高いところに上がるのは、バカと煙しかないからな」

「た、黄昏てたんじゃなくて……考えを整理していたのよ」

「言ってみろ」

「やだ」

「では、缶コーヒーでも飲め。せっかく買ってきてやったんだから」

「ありがと……でも、わざわざ買ったんじゃなくて、一個買ったら当たったんだよね。パンパカパーンって、自販機が鳴るの聞こえてたよ」

「まるまる一本だと多いからな……おまえと半分こにするつもりだった」

「え?」

「女同士だ、姉妹だ、気にすることもあるまい」

「そうだね……プ、あんた、女子高生なんだ……フフ」

「飲め」

「うん……どこ行くのよ?」

「ジャングルジム」

「ブランコにしようよ」

「そんな軟弱なものに乗れるか」

「もう、我がままなんだから」

「今の今まで、おまえも上っていたろ」

「……やっぱ、女なのは外見だけだ」

「俺は信長だ」

 返事を待たずにジャングルジムの天辺に上がる。

 この程度の高さでも、世界が広がる。

 宵の明星が上っている……が、市には教えてやらない。

「天下の信長が、自販機の当たりで喜んでるのは、なんだか、微笑ましいね」

「喜んでなんかおらん。コロンと出てきて『であるか』でしまいだ」

「フフ、小さくガッツポーズしたような気がしたんだけどな」

「いったいなにがあったのだ?」

「もういい」

「がんこなやつだ」

「ガッツポーズ言ったら、言わないでもない」

「勝手にしろ」

 

 ジャングルジムとブランコに分かれて缶コーヒーを飲む。

 まあいい、取りあえずは同じ公園の中に居るんだ。

 

 宵の明星が際立つのを待っていたら、すっかり暗くなった。

「市」

 見下ろすと、水銀灯が照らす公園に置き忘れられたような遊具たち。

 微かに揺れるブランコに妹の姿は無かった。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生

 

 

 

 

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かの世界この世界:194『桃太郎二号』

2021-07-02 09:15:30 | 小説5

かの世界この世界:194

『桃太郎二号』語り手:テル   

 

 

 なんともだらしない桃太郎だ。

 

 鎧は脱いでしまって籠手と脛当(すねあて)だけの小具足姿。

 直垂(ひたたれ)の前ははだけてしまって、汗みずくのTシャツが覗いている。

 Tシャツにはプリントされた文字の一部が覗いている。

 文字は……たぶん『働いたら負け』だ。

 この文字は二行に跨っているせいか、それぞれ右半分左半分しか見えなくても意味が分かる。

 アイマスの幼女キャラが、このTシャツを着ていたので憶えているわたしは……ちょっとオタク?

 

「関りにならない方がいいようだね……」

 イザナギさんが、ソロリ、わき道に入って行こうとして、わたしたちも無言でそれに倣う。

「おい、そこのテメーら! 無視すんじゃねーよ!」

 声だけなら、それでも無視するんだけど、桃太郎はドタドタと駆け寄ってきて、ケイトのシャツの裾を掴んでしまった。

 

「おまえたち、オレのお供決定な!」

「なに?」「なんだ!?」「いやだ!」「断る!」「なんで?」「カサコソ!」

 五人五様プラス背嚢のタングリスが応えるが、桃太郎はかまっちゃいない。

「わき道には、センサーがしかけてあってよ。踏んだら『承諾』のサインが点くようになってんだよ!」

 足元を見ると『承諾』と書いてある。

「桃太郎くん、これじゃ、なんの承諾か分からないと思うんだが(^_^;)」

 イザナギさんが穏やかにたしなめる。

「よっく、見てみろよ」

「「「「ん?」」」」

 四人で見下ろすと『承諾』の文字はゆっくり流れてリピートしている。

 

 ……とみなす……ここを踏んだら 桃太郎のお供になることを承諾したものとみなす……ここを……

 

「さ、詐欺だ!」

 ケイトが唇を震わせながら抗議する。

「ふ、震えんじゃじゃ、ね、ねーよよよ……」

 ケイトの震えが伝染した震え声で桃太郎。

「仕方がない、とりあえず、話だけでも聞いてやりますか」

 イザナギさんが触れると震えは停まって、桃太郎が居た木陰まで行って話を聞くことにする。

「手短にな、わたしたちにも使命があるのでな」

 ヒルデが『使命』と言ったのでイザナギさんは、ちょと感動の様子。

「お、おう(-_-;)……えと……」

 ぞんざいに見えるが、話を手短にまとめようと焦っている。

「オレはな、桃太郎二号なんだ」

「「「「二号?」」」」

「一号はお婆さんに拾われて無事に桃太郎になった。よくできた奴なんで、爺さん婆さんが『蝶よ花よ(^▽^)/』て大事にしてな、鬼退治なんかには行かせねえ」

「おまえが二号っていうのは?」

「一号のあとに、もう一個桃が流れてきたと思え」

「あ、それが、おまえなのか?」

「婆さんは、二つも桃はいらねえ。無視しやがった」

 プ

「笑うな!」

「すまん、続けろ」

「それで、もっと川下の方に流されて、桃は腐りかけてきた。それを見て気の毒に思った別の婆さんが拾って、家に持って帰って、爺さんといっしょに桃を割って、出てきた瀕死の桃太郎がな……おれさま……ってわけよ」

「それでクサってたわけか……」

 プププ(* ´艸`)!!

 ケイトに悪気はないんだけど、二号桃太郎の本質を突いてるので、またも笑ってしまう。

 今度は、抗議する元気もなさそうだ。

「そのお前が、なんで鬼退治?」

「うちのジジババは真面目なんだ……真面目だから、腐りかけた桃も拾ってくれたし、この歳までニートしてんのも文句言わなかったし……世の中が桃太郎を望んでるのを無視することもできねえしな」

「それで……」

「でも、ずっとニートやってたし、二号だし……なかなか、お供のなり手がなくってよ……」

 

 そうか……

 

「よし、お供になってやろう!」

「姫!?」「ヒルデ殿!?」「ええ!?」「ヒルデ!?」「カサコソ!?」

 みんな驚いた。

「ただし、着いていくのは、わたしとテルの二人だ」

「え?」

「あのセンサーを踏み込んでいたのは、わたしとテルの二人。他の三人はわき道に踏み込んでさえいなかった。だから、わたしとテルの二人がついて行ってやる。文句はないだろ」

「姫!」

「タングニョースト、イザナギさんと先に進んでくれ。なあに、さっさと鬼退治を済ませて合流するさ」

「それじゃ、わたしたちも」

「だめだよ、イザナギさん。あなたの使命も重要だ。必ず、黄泉比良坂に着くまでには間に合わせる」

「ヒルデさん……」

 

 我々は、しばらく別行動をとることになった……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 
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ライトノベルベスト『タータンチェック・2』

2021-07-02 06:26:43 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『タータンチェック・2』 




 まさか、タータンチェックだとは思わなかった……!

 衣替えになって、生徒達の制服は、女子が上下赤を基調とした、男子は緑を基調としたタータンチェックの上下になった。ボトムをタータンチェックにしている学校は多いが、上から下までという学校は見たことがない。イメージとしては、アイドルユニットの制服を、ちょっとトラッドにした感じで、悪趣味の一歩手前でかっこいい。

 登下校のとき、男女入り交じっていると、秋色に染まった動く林という感じ。

 やっぱり講師というのはありがたい。

 事務職補助の二倍近い給料。離婚して、貯金の取り崩しも心細くなっていたわたしは、しみじみ有り難かった。講師、正確には常勤講師というのは、担任をさせられることは無く、授業さえやっていれば、それでいい。分掌も前任者の図書部を受け継ぎ、ラクチンこの上ない。

 で、タータンチェックは、静かに、確実に進んでいた。

 わたしは、自分でいうのもなんだけど、小顔の子どもっぽい感じで、制服なんか着ると、まだ生徒で通りそうだった。

 で、それをやらされてしまった。

 文化祭で、クラス対抗の合唱コンクールがあるのだけど、クラスの中に三つに一つぐらいの割で教師が制服姿で現れる。生徒は、それを見て、何年何組にはナントカ先生が混じっていると投票する。で、全問正解した生徒には、抽選で賞品がもらえる。

 今年は、PTAから、図書券二万円分の提供があったので、熱がこもっている。

 図書券は、本を買うだけでなく、金券ショップで換金が可能だ……というのは、穿ちすぎだろうか。

 で、結果は……正解者はゼロであった!

 なんと、あたしの存在に気づいた生徒が誰もいなかったのである。なんと開校以来初めてのことだそうで、会場の講堂はざわついた。そして、あたしがお下げに制服で現れるとどよめきがおこった。

「かわいい!」「うそだろ!」「わ、乃木坂のナントカみたい!」「こっち向いて!」「タータン!」などなど。

 生徒会長が気の利いた、竹下という子で、宙に浮いた賞品の図書券を持て余している会計の子を制して、こう言った。

「タータン先生が、生徒だったら、絶対コクってる!」

 ウワー、オレも、オレもという声が続く。

「今年は、そんなタータンに、賞品を捧げます!」

 竹下君は、うやうやしく跪いて、図書券を芝居っけたっぷりにわたしにくれた。

「みんな、聞いて!」

 あたしが、叫ぶと、一瞬で注目が集まった。

「これで、もっと面白いことやろう。近くに居る人と二人一組でジャンケンしてくれる! そいで、勝った人同士で、またジャンケン。それをくりかえして、最後に勝った人が、これをもらうの!」

 それで、ジャンケン大会が急遽始まった。

 なんと、最後に残ったのは、竹下君と校長先生だった! もう校長先生は宴会のノリで、頭にネクタイを結び、上着も脱いで腕まくり。

 で、校長先生が勝って、ヤンヤヤンヤの喝采。

「じゃ、わたしがもらったら金券ショップに行って、お金になって、飲み屋に行っちゃうので。これを図書部に寄贈したいと思います。タータン先生どうぞ!」

 ということで、再び図書券は、あたしのところに戻ってきた。

 そのあとは、ノリノリのまま、校長先生とツーショット。ズルイズルイの声が上がって、写真部の田中先生の提案で、全員が舞台や、その前に集まって、大集合写真になった。

 これは、畳二枚分ほどの大きさに引き伸ばされ、玄関ホールに貼り出された。

 そして、タータンチェックは、まだ続いていくことになる……。

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コッペリア・41『栞と颯太のゴールデンウィーク②』

2021-07-02 06:13:02 | 小説6

・41

『栞のゴールデンウィーク②』  




 ゴールデンウィークといっても、学校は暦どおり、今日と明日は授業がある。

 本格的な連休は、5月2日の土曜からである。なんとも邪魔くさく半端な授業が月、火、とんで木、金と続く。

 二年生は、どこか、まだギクシャクしている。やっぱり、こないだの学級改変問題が尾を引いている。
 すっかり学校不信になった者や、その便乗者たちが二割も休んでいる。そのリーダー的な存在が、PTA会長の娘、青木穂乃果だ。

「学校は、まだ正式に謝罪もしていないし、対策もとっていません。わたしたちは痛みを受け止めながら、クラス編成をもとに戻すことを要求します。なしくずしの現状変更は断固認めません。神楽坂のみなさん、いっしょに戦いましょう。保護者やマスコミ、そのほか応援してくださる方々に感謝するとともに、いっしょに戦ってくださることを期待します!」

 そんな檄文のようなメールを、学校関係者やマスコミに送っていた。

「青木さんて、どうなの。普段から、こんなに愛校精神とか持ってるような子だったの?」

 パソコンの画面を見ながら、栞は咲月に聞いた。

「……あんまり学校には関心のない子って感じ。こんな過激なこと言うの初めてだと思う」

「この上、元に戻したら、学校を撃沈できるかもしれないけど、あたしたち生徒が、一番迷惑こうむるよ」

 パソコンのスイッチを切ると、栞は立ち上がった。

「どうするつもりなの?」

「先生の組合は認めないけど、世論は完全にあたしたちの味方になってる。これ以上混乱させることは、かえってみんなの為にならない。直接青木さんに会って話をつけてみる。もうこの問題で、振り回されるのはごめんだし」

 振り回されている人間が、もう一人いた。AKPの矢頭萌絵である。

「萌絵ちゃん、どうして名古屋で収録の仕事やりながら、アキバのシアターにも出られたわけですか?」

「いや、それが……」

 AKPのスタジオで、マスコミから突っ込まれる萌絵であった。

 萌絵はAKPの総監督で、みんなの動向は常に把握している。昨日のお助け飛び入り出演のことも何度も映像で見なおしている。あれは、どう見ても自分自身だし、あの状況(堀部康子が交通事故の影響で本番に穴を開けたら、自分は映像通りのことをやったとも思う。みんなも「あれはソックリさんなんかではなく、矢頭萌絵本人であった」と口をそろえて証言している)

 そんな話を聞き、何度も映像を観て、みんなの話を聞いているうちに、本当に自分が超常現象を起こしたような気になってきた。

 二つの問題は、まだもう少し尾を引きそうな様子。

 刺激的な連休になりそうな予感がする栞であった(^_^;)。

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